Knife Master《完結》   作:ひわたり

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覚醒

どうして。

どうして褒めた。

どうして殺らせた。

どうして死なせた。

僕を、僕達を、どうして。

ああ、そうか、知らないのか。

皆も知らないのか。

僕と同じように知らなかったのか。

殺しの意味を。

死の意味を。

なら、教えてあげる。

知らないなら、教えてやろう。

殺してやる。

嫌だ。

苦しめはしない。

殺してやる。

嫌だ。

楽に死なせてやる。

殺してやる。

やめて。

私が教育してやろう。

僕はもう。

殺しの意味を。

死の意味を。

その身を以て、知るが良い。

 

 

それが手を離す。

神の刃がお母さんと慕っていた者の首を、ぞんざいに離す。首が地面にゴトリと、鈍い音を立てて落ちた。それにとって必要のない存在。故に、それは簡単に首を捨てる。それがやる事はただ一つの目的のみ。

「ん?誰かいるのか?」

廃棄場に男の声が響いた。開けっ放しにしていたドアから、一人の研究員が顔を覗かせる。頭が落ちた音を聞いて、廃棄場へと目を向ければ、それが居る。

「どうした?」

研究員はそれに歩み寄り、肩に手を置いた。

置こうとした手は、捻り切れていた。

「え?」

間抜けな言葉が出た首は、捻り切れていた。

切れた手が地面に落ち、数瞬後に首が落ちる。首から血が噴水のように吹き出した。人肌に暖かい血が死体に降り注ぐ。力の無くなった体が崩れ落ちる。死体の山に、一つの死体が加わった。

そこには既に誰もいなかった。

 

 

ある一室。

ガラスケースの中で液体に浸かった双剣が存在した。

異様なまでに輝きを見せる刃が、入ってきた存在を反射する。白銀の髪を宿した少年。その眼は、赤ではなく、白に染まっていた。

それが双剣の前へ来ると、ガラスケースの中へと両手を突き刺す。薄い氷を割るように、簡単に分厚いガラスを破ると、双剣を引き抜いた。液体が溢れ出し、床を濡らしていく。

そこには既に誰も居なかった。

 

 

 

それが通る。廊下を疾走する。

弾丸よりも早く、暴風のように駆け巡る。

それが通っただけで研究員達の体が引き裂かれ、神化人間達が吹き飛ばされた。

「神の刃……⁉︎」

驚いた研究員の首が消し飛ぶ。

向かってきた神化人間達の胴を真っ二つに斬り裂いた。

それは止まらない。

神化人間。

神と化ける人間。

死神か、破壊神か。

それはただ、殺して壊す為に動き続ける。

「早く逃げろ!」

激しい混乱と怒号が轟く。

それが一振り、線を刻む。廊下の端まで綺麗な一文字が刻まれ、その線上にいた者は皆等しく半分に分かれた。

「なんなんだ……」

研究員が呆然と呟く。

神化人間達がそれに襲いかかる。四方から囲み、雪崩のように来る神化人間達を、一瞥することなく一蹴していく。攻撃の一振りすら許さずに、宙に浮いたまま血を撒き散らし、内臓を吐き出して地に落ちる。一般人の見た光景では、それに近付いただけで人が次々に引き裂かれていく。まるで悪夢のような光景だった。

強いと信じた神化人間達が散っていく。

手塩に掛けてきた人造兵器達が無残に殺されていく。

「なんなんだこれは!」

そう叫んだ口から上が吹き飛んだ。

それが進む。

時に素早く、時にはゆっくりと。

幻のように姿を見せながら動いて行く。

大きな鋼鉄の扉。研究員の一人がその扉に辿り着く直前、研究員は縦に分かれた。

そして、彼は最も簡単にその扉を崩壊させた。この扉に向かっていた者達が足を止め、恐怖に足を竦める。瞬間、目の前を、刃の軌跡が通り過ぎた。

 

 

 

警報が施設に鳴り響く。

「神の刃が暴走した」

神の杖が呟く。

「神の刃だったもの、だろ。あれは明らかに別人だ」

彼の隣で、神殺しが頭を掻きながらボヤいた。

二人の前に置かれた小さなモニター。監視カメラで一瞬だけ見えた映像が、彼の姿を捉えていた。

白い瞳。

恐ろしく何も感じない無表情。

気配すら感じない雰囲気。

人形が動いていると言われても信じてしまいそうな程、人間味のない存在。

神化人間。

神に化ける人間。

だが、アレを神と呼べるのか。

「破壊神とでも呼ぶかい?」

神の杖の言葉に、神殺しは苦笑いで答えた。

「白いからな。死神よりは合ってると思うぞ」

あと、と言葉を続ける。

「アレは暴走じゃない。殺人よりも出口を優先して潰した。明らかに意思のある行動だ」

「なら、奴の目的は何だと?」

「殺戮と破壊。研究員も神化人間も。この施設に居る者の皆殺しかな」

予想でしかないが、おおよそ合っているだろうと、当たりをつける。

この施設の出入り口は二箇所のみとなっている。この構造は、万が一の為に神化人間が外へ行けないような仕組みを作っている為だ。現状ではこの構造が仇となっている。

破壊神は既に一つの出入り口を壊していた。そして、もう一つの出入り口に移動している。

神の杖と神殺しは、もう一つの出入り口である、扉の前に立っていた。

奥まで見える廊下が、イヤに不気味だった。

「アレが神化人間の最高傑作なら……。神化人間の辿り着く先なら、俺は失敗作で良い」

「同感だね」

人間であることに誇りはなくとも、人形のようにはなりたくない。自分を死なせてまで、昇り詰めようとは到底思えなかった。

「それで、神殺し。君は奴に勝てるかい?」

神殺し。

彼の名の由来は、神の欠片である神化人間を殺したことによるものだ。

大量に神化人間を生成しようと、なかなか作れない神の欠片は貴重な存在である。その中で、神の欠片でもより強い神化人間を育てる試みが行われた。

その殺し合いの中で生き残り続けたのが、神殺し。

その神殺しが言う。

「無理だろ」

簡単に、そう言った。

「無理かい?」

「奴は自身の放つ衝撃を自在に操れる。鎌鼬とか跳躍力とか、それの応用なワケだが、つまり肉体の力を全て無駄なく使えるんだ。おまけに、今の奴は明らかに神の刃以上の力と速さを備えてる。どう考えたって勝つなんて不可能だ。ありゃ、どういうことだ?」

「恐らく、脳のリミッターを外しているんだろう。神化人間、人間に関わらず、人は脳で肉体の制御をしている。本来なら一般人だって数トンの物を持ち上げるくらい出来るのさ。常にその状態では肉体が保たないかは、無意識下でリミッターを掛けているのだがね」

「じゃあ、奴の肉体は壊れると思うか?」

「いや、思えない」

「素直な意見ありがとうよ」

神の杖の冷静な意見に、神殺しは大きく溜息を吐いた。

ここの門番をしろ、というのは命令だ。それ以降、二人に連絡は来ていない。数人の研究員と神化人間がここから出て行ったが、結局それ以外の人の姿はない。既にここまでの道を塞がれているのかもしれない。

「そもそも、何で俺達だけなんだ。神の眼と神の盾はどうした」

「神の盾は性格的に、どうやっても戦闘タイプじゃないしね。神の眼からは伝言を預かってるよ」

「へえ、何て?」

「彼曰く『ここで滅びた方が世間の為だ』だとさ。その後、どこに行ったかは知らないけれど」

「……成程」

神の杖も神殺しも、自分の受けてきた教育が正しいかどうかくらいの考えは持っている。脳と思考能力が発達したからこそ、教育という洗脳に支配されずに今を生きている。

そして、神の眼の『世間の為』という言葉。

「……外では、殺人なんて必要とされてないわけだ」

外の世の中全てがそうとは思わないが、大半は殺人の技術は役に立たないのだろう。その発言からも、神の眼は外の世界へ足を踏み入れていることが分かるし、その言葉の真実味も増す。

「何で、殺人なんて教えられてきたのかねぇ……」

「さあ、分からない。私は少なくとも、生産性の無い殺人が良いとは思わなかったよ」

「それが、その理解が神の刃にもあれば、こんなことにはならなかったのかもな」

それとも、これは必然か。

神殺しが双剣を構える。神の杖が自身の身長の3倍はある銀色に染まった棒を組み立てた。双方の武器は、何処までも綺麗に透き通っている。

「帰りたいな」

「何処にだね?」

「ああ、言われりゃ確かに。帰る場所なんざ無いわな」

廊下の向こう。

それが姿を見せる。

あれだけ人を殺したのに、返り血一つ浴びていないその姿。本当に返り血を浴びなかったのか。それとも、自身の速さで血だけを置いてきたのか。どちらにせよ、彼の姿は、ただ不気味だった。どこまでも綺麗なその白が、ひたすらに恐ろしい。

破壊神の姿が消える。

直感で動いた二人は、激しい衝撃に宙へ吹き飛ばされた。

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