この物語はヒューマンバグ大学様の二次創作であり、またフィクションです。
本作に登場する人物、企業、宗派、団体は実在のものとは一切関わりがありません。
苦手な方、違和感を覚えた方は無理をせずブラウザバックをお願いいたします。
「――よし、これで今日の『手術』は完了です」
カウンターの端で、ギルハーツが真剣な面持ちでピンセットを置いていた。
その視線の先にあったのは……患者ではなく、莉寿が大切にしているぬいぐるみのうさぎだった。
莉「……ありがとう、ギルくん。耳のほつれ、全然わからなくなった。かみしゃは慣れてるけど、この子はまだ慣れてないから助かったよ。」
ギル「ふふ、お安い御用ですよ。ボクの手にかかれば、綿の一本、糸の一縫いまで、元の位置以上に完璧に戻してみせます。かみしゃさんも、何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいね。」
ギルハーツは、ドイツで取得した医師免許に恥じぬ精密な手つきで、ぬいぐるみの「縫合」を終えていた。
彼にとって、命を救うことも、看板娘の宝物を直すことも、等しく「守るべき美学」なのだ。
ちなみに二人の言っている「かみしゃ」とは、莉寿が常に抱きかかえているくまのぬいぐるみのことだ。
かみしゃは莉寿の母親の…、いや両親の形見だ。
毎日のかみしゃのメンテナンスという身支度は欠かさずしているため、10歳にしては裁縫の腕はとてもいい。
だがまだ兎のように特別細く長いものなどの難しいものは変にならないようにと誰かに頼んでいる。
そしてその治す技術を見て自身の裁縫の腕を磨くという上等技を習得しているのだ。
星「そのうさぎの人形なんてもともと持ってたのか?今までに見たことねーぞ。」
莉「だってこの子最近貰った子だもん。タグとった時にほつれちゃって…」
ギル「日向さんが莉寿さんに贈ったお土産ですよ。イギリスに行っていた際に見つけたんだそうです。」
織姫一派武闘派の一人:【
刀工正宗の家系の人間であり、現在は秘密警察に所属している。
宝船では主に料理人を務めており、喫茶宝船の名物のオムライスは『食べたら一周回って虚無になる』ほど美味しいほどに腕がいい。
朝昼晩のご飯も作り家事もできる一派のお母さん的ポジションだが、実はギルハーツと同い年(23歳)であり、同期で同僚なのだ。
この一年ほどは海外各地の任務にあたっていて日本には居なかったが、こうして戻ってきたことにより宝船の通常メニューも解禁されたというわけだ。
星「で?その張本人は何処にいるんだ?」
ギル「日向さんなら先ほど料理のお届けに向かっていますよ。宝船では出前はやっていませんが、マスターさんの古い友人がどうしても食べたいというので特別に、ということです。マスターさんもご同行なされていましたよ。」
莉「宝船の店主はおじいちゃんだから。いくらオーナーの星彦さんでも手出しは無用。」
星「もともと喫茶店の経営方針は全任せだ。俺はただの資金援助としての役割でオーナーをしてるだけだ。」
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そんな何気ない会話の時だった。
急にお店のドアが勢いよくあいて、慌てた様子のご老人が息を切らしていた。
「天ちゃん!天ちゃんはいるか‼」
ギル「申し訳ありません。現在は留守にしておりまして、何かお急ぎの事情がおありですか?」
ギルハーツは即座に宝船の店員としての姿勢を見せる。
するとご老人は息を整えながらも星彦の姿が目に入ると途端に大きな声でまた話し出した。
「アンタ彦ちゃんかい⁉帰ってきたって聞いてはいてけど、まさかまたここで会えるとはな!」
星「そりゃあ、一応ここのオーナーだからな。で?どうしたんだよ、ドヤ街の長老。ここに駆け込んでるっつーことはなんかあったんだろ?」
ドヤ街の長老がなぜ警察である星彦と面識があり「彦ちゃん」と愛称で呼んでいるのか。
実は星彦は長年ドヤ街の立地問題やそこに住んでいるホームレスの人たちの援助していたのだ。
ここ二年間の不在時はその援助や庇護などが不安定だったが、戻ってきた後や二年以上前のドヤ街がそのままでいられたのは星彦のおかげだったのだ。
ドヤ街の方針は長老やそこに住む人々に任せ、自分はそれを実現するために援助する。
一般の警察には非協力だが、こうして一部の治安維持のためには手を貸してくれるというWin-Winな関係を築いている。
そんな長老がここに駆け込んでくるということはただモノではない。
まだ星彦が海外にいた頃に一度ドヤ街にボヤ騒ぎと土地の売買の話があったという情報が入ったことはあるが、その原因である外道を拷問ソムリエである伊集院茂夫が対処したという情報も入ってきている。
それ以外のトラブルなのだろうか…、と星彦は身構える。
「そうなんだ!ワシらの仲間が、かつての仲間がどこにもいないんだ!連絡もつかんし、住んでた場所にもこのところ帰ってないと聞いた!」
星「いなくなった人物の名は?警察には行方不明届は出せたのか?」
「そいつの名は『天辻 郎太』。かつてはドヤ街で苦楽を共にした仲間だったが、数年前に安定した職を見つけられた今は55歳の男だ。警察にも事情は話したが、「家族でない人物からの証言」として取り合ってくれんかった…。」
星彦の頭痛が一段と強くなる。
こういった『マニュアルに逃げ、弱者を切り捨てる司法の怠慢』が警察にあるからこそ司法は腐る一方で平和も守れなくなる。
その弊害がまた身近で起きてしまった。
星「後でその警察所の名前は聞くとして、アンタなら情報はあらかた掴んでるんだろ」
「あぁ。だがこれはまだ断定して言えない情報で天ちゃんに聞こうとここまで来たんだが…、彦ちゃんも頼めるかい?」
星「アンタやマスターにゃー敵わねーが、俺も情報を見る目は長年培ってるからな。裏取りもこっちで出来るから、話してくれや」
そう言って星彦は目線でギルハーツに椅子を用意させて長老を座らせた。
莉寿が一杯の水を長老に渡すと、一気に飲んだ長老は情報を話し出した。
「朗太の就職した会社は『ラクラク』という製薬会社だ。」
星「結構大手じゃねーか。」
「だろう?ワシらも自分のことのように喜んださ。朗太は元々介護士を目指してたからなぁ。潰れちまって浮浪者にはなっちまってたが、ワシらみたいな老体の介護施設の職員だった。その時に飲みやすい錠剤の案をずっと考えていたらしい。人柄もよく、浮浪者になっても腐らず諦めなかった根性のあるやつだ。だからこそ気に入られたんだろう。悪い噂も聞かない会社だったんだがなあ…。」
星「…それで?」
「ラクラクは治験を積極的に行わないときいた。いくら治験で同意の元でも、やはり一歩間違えてからではという考えでらしい。」
長老は、震える手で空になったコップを握りしめた。
「……だがな、彦ちゃん。その『ラクラク』の裏で、泥を啜るような真似をしている連中がいる。『ギフト』とかいう、治験の仲介を請け負う会社だ。」
長老の言葉に、星彦はキセルを持つ手を止めた。
星「ギフト……? 表向きは治験会場や医師を完備した、医療支援のベンチャー企業じゃねえか。」
「あぁ。だが実態はまるで違う。あいつらは、ラクラク製薬の社員や、身寄りのないホームレスの人間を拉致・監禁し、無理矢理『治験への同意書』にサインを書かせているんだ。朗太も……恐らくそこに連れ去られた。」
長老の拳が、怒りで震える。
「あいつらはラクラク製薬の幹部を脅し、治験の依頼を強引に引き出している。だが、それは氷山の一角に過ぎん。治験としての依頼は最小限に抑えつつ、その裏では……国の認可すら降りない新薬の『人体実験』を繰り返しているんだ。」
――人体実験。 その悍ましい響きに、店内の温度が数度下がったような錯覚を覚える。
同意も安全も無視され、人間がただの「検体」として使い捨てられる地獄。
莉「ドヤ街は大丈夫なんだね。星彦さんが帰ってきたから」
「あぁ、彦ちゃんが帰ってきたからなのかギフトって名乗るやつはドヤ街には出たことはない。だが、浮浪者の情報網で聞いたところ、ドヤ街以外の路上のホームレスは餌食になっているらしい。」
重苦しい空気が宝船内に漂う。
天蔵がいない今、宝船が臨時休業でよかったと心の底で思う星彦は、煙管をふかしながらなりやまない頭痛に顔をしかめるしかなかった。
星「おい、ギルハーツ。叶恵は何処だ」
ギル「叶恵さんなら、現在の時刻ですと学校で授業中かと」
星「連絡でこのことについての裏取りと情報を一時間以内に掴んどけ、って連絡しといてくれ」
ギル「かしこまりました」
ギルハーツはすぐさま自身のスマホで叶恵に連絡事項を打って送信した。
莉「後十分後に叶恵君の授業が終わって、さらに十分後に情報と裏取りはこのままいくと届くよ。それまでの二十分間に、ギル君は出動の仕度した方がいいんじゃない?」
ギル「そうですね。僕の武器の準備や喫茶店の店員さんの服装から正装に着替えるのも時間がかかりますし、この間に整えてまいります。それでは失礼します、
莉寿の予知のように正確で断定した言葉に疑いも持たずギルハーツは裏へと行ってしまった。
普通なら異様な出来事だろうが、これが一派の普通なのだ。
星「時間は惜しいが、仕方ねぇな。莉寿もむやみにそんなことを口にすんなよ。長老は知らねーんだから」
莉「長老さんは大丈夫でしょ。だって悪い人じゃないもん」
莉寿はそう言うとかみしゃをぎゅっと抱きしめる。
星「長老、安心してくれや。アンタの情報は信じるし、この件は俺たち一派が解決する。アンタは仲間の無事を祈っときな」
「…ありがとう、彦ちゃん。ワシらの仲間を頼む…」
そうお礼を言って長老はドヤ街へと帰っていった。
__二十分後。
星彦のスマホに叶恵からの連絡が入った。
『【ギフト】のトップは八角 式見。元解剖医だったらしいけど、変色する体に性的興奮を抱いて今の組織を作り出した男性。
人体実験に失敗しても人身売買で海外に売り、成功すれば元請けに結果を報告して金を貰う外道。
対象者の天辻 郎太さんは現在はまだ実験対象名だけで薬は投与されていないもよう。
場所は朱雀町5丁目4番地の白い大きなビル【写真付き】。
監視カメラの映像から拉致の瞬間などの証拠は保存済み。
【ギフト】の社員という名の武闘派には外国人の力自慢がいるみたいだよ。
だからこの事情を知っている人は生かしておけないとかで殺されてるか拉致監禁の被害者になってる。
あと拷問ソムリエの伊集院さんが依頼を受けて今情報を掴んでるみたいだけど、今からなら接触はしなさそうだね。』
と証拠写真や近況情報が送られてきた。
莉「外国人の武闘派ならギル君だって負けないよ。そろそろ準備が終わりそうだね。」
星「拷問ソムリエがいるんなら、後始末も楽でいいな。ま、終わったら日向にこの件の後処理を任せるとするかな。莉寿、ちょっとお前一人にさすがすぐ戻る。先に行ってるってギルハーツに言っとけ」
莉「は~い。行ってらっしゃい」
そう言って星彦は扉を開けて例の場所へと足を進めた。
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しばらく歩いていると、後ろから星彦を追う足音が聞こえてくる。
ギル「お待たせしてしまい申し訳ございません。久しぶりの正装に身を包むことに感激してしまい、仕度に遅れが生じてしまいました。」
ギルハーツの格好は先ほどまでの清楚な喫茶店店員のものではなく、まるで騎士の服のような格好をしていた。
細身の体に沿う装備を整え、肩から流れるマントがその立ち姿を際立たせていた。
胸元にあるは家紋である薔薇だろうか。
腰に携えている西洋の剣は、アーサー王伝説でアーサー王が所持したといわれる魔法の剣のエクスカリバーを思わせるような煌びやかさと強さがうかがえる。
星「今回はまだ事前に仕度する時間があったからいいが、次はないからな。時間は命だ。もっと簡単なのでいいんじゃないのか?」
ギル「流石星彦さん。心が広くそれでいてスマートですね。ですが、正装で戦ってこそが戦うものの礼儀というでしょう。」
星「外道に騎士道なんて立派なもんは勿体ねーだろうが」
ギル「流石星彦さんです。外道の方々の身の程を理解してのボクへの助言をしてくださるとは感激でございます。ご安心ください。このギルハーツ。我が騎士道に誓い、正々堂々手加減なしで挑ませていただきます。」
呆れる星彦に対し、ギルハーツは喜びを感じていた。
しばらく歩いていると、例のビルが目の前に嫌に不気味にたたずんでいる。
警備員を装っている正面玄関の二人の人物は明らかに日本人ではない外国人だ。
星「おいギルハーツ。騎士道では敵陣にどうやって入るのが礼儀だ?」
星彦は正面玄関前でニヤニヤと揶揄うようにギルハーツを見る。
それに対してギルハーツは丁寧に対応した。
ギル「よくある騎士道の”美学”では『正門から堂々と 名乗りを上げて 剣を携え進む』と言われています。しかし、勝つためなら手段を択ばずというのもまた騎士としての役割でもあります。」
星「知ってるか?日本の礼儀は正面玄関からが基本なんだぞ。ヤれ」
ギル「仰せのままに」
ギルハーツが静かに、だが確かな殺意を孕んで一歩前へ踏み出す。 正面玄関を固めていた巨漢の外国人たちが、異様な格好の男に気づき、腰の銃に手をかけようとした――その瞬間だった。
「――薔薇の
閃光が走る。
ギルハーツの腰から抜かれた西洋剣が、朝の光を反射して銀色の軌跡を描いた。
常人には到底視認できない速度。
重々しい金属音すら鳴らさず、剣先は外国人たちの手首と膝の急所を、正確無比に弾いた。
「ガッ……!?」 「ア……ッ!?」
巨漢たちが声を上げる間もなく、その巨体が吸い込まれるように膝を突く。
驚くべきは、その鮮やかな手並みだった。
切り伏せられたはずの彼らの服には、一滴の返り血すら付着していない。
剣で斬ったのではない。
峰打ちに近い超高速の打撃と、神経を一時的に遮断する特殊な「刺突」によって、命を奪わずに意識だけを刈り取ったのだ。
ふわり、と。 どこからともなく、甘い香りと共に赤い薔薇の花弁が風に舞った。
倒れ伏す外道たちの醜い姿を隠すように舞い落ちるその花びらは、まるで死神が贈る手向けの花のようでもあり、あるいはギルハーツの放つ凄まじい気功が具現化した幻影のようでもあった。
「日本の礼儀というのも、なかなか趣深い。主君、どうぞ。道は拓けました。」
ギルハーツは一礼し、自動ドアを剣で切り開いて星彦のために道を作る。
星彦は一切歩調を変えることなく、煙管をくゆらせながらその横を通り抜けた。
「ハッ。相変わらず派手な
ビルの中に入ると、異常事態を察知した武闘派の社員たちが、怒号を上げながら次々と廊下へ飛び出してきた。
鉄パイプ、ナイフ、そして改造された拳銃。
死を恐れぬ狂信的な目をした男たちが、星彦の進む道を塞ごうと襲いかかる。
だが、彼らが星彦の影にすら触れることは叶わなかった。
シュンッ!
マントを翻し、ギルハーツが星彦の背後から「飛んだ」。
空中で身体を捻りながら放たれる剣戟は、もはや洗練された芸術の域。
襲いかかる鈍器を剣の腹で受け流し、そのまま相手の顎を柄頭で打ち抜く。
死角から迫る銃口に対しては、一瞬で距離を詰め、引き金を引く指を剣の先で「眠らせた」。
「失礼。主君の歩みを止めること、それはこの世で最も重い『不敬罪』に当たりしますので、どうかお許しを。」
流麗なステップを踏むたびに、また花弁が舞う。
ギルハーツの剣は、まさに魔法の杖。
襲いかかる敵は、まるで操り人形の糸を切られたかのように、次々と床に沈んでいく。
骨を砕き、意識を飛ばすが、決して命は散らさない。
それが「正義の騎士」を自称する男の、残酷なまでのこだわり。
星彦は、そんな背後の喧騒など存在しないかのように、真っ直ぐにエレベーターへと向かう。
一歩、また一歩。
星彦の足元には、ギルハーツによって掃き清められた、障害物一つない「王道」が出来上がっていた。
「八角の野郎は、最上階だったな。ギルハーツ、あまり散らかしすぎるなよ。」
「心得ました、
倒れ伏す敵の山を背に、ギルハーツは優雅に剣を振り、付着してもいない塵を払う。
その瞳の先には、既にターゲットである八角の首が見えていた。
___最上階。
そこは最新鋭の医療機器と、悍ましい狂気が同居する「屠殺場」であった。
部屋の中央、手術用ベッドの上には、保護対象である天辻郎太が太い皮ベルトで四肢を拘束されていた。
その傍らで、八角式見が薄汚い期待に目を血走らせながら、蛍光色に光る薬品の入った注射器を構える。
「……ふふ、実に良い。君のような『希望を知った人間』が絶望に染まって死んでいく。その時の皮膚の変色こそ、医学が到達すべき究極の美だ。さあ、始めようか。」
郎太の首筋に、冷たい針先が触れようとした____その瞬間だった。
チンッ――。
静まり返ったフロアに、不釣り合いなほど軽やかなエレベーターの到着音が鳴り響いた。
「……あ? 何だ。この時間は誰も来ないように命じておいたはずだが……」
八角が苛立ちとともに音の方へ顔を向けた、その刹那。
ドォォォォンッ!!
爆発音にも似た衝撃と共に、エレベーターの重厚な扉が内側から「弾け飛んだ」。
ひしゃげた鉄の塊が高速で旋回し、八角のすぐ横の壁に突き刺さる。その際、鋭利な扉の破片が八角の頬を容赦なく切り裂いた。
「ぐっ、あああああッ!? 血が……私の顔から血が……!」
八角が頬を抑えてよろめく。
破れた皮膚から流れる鮮血が、彼の自慢の白衣を汚していく。
「……誰だ! 貴様、何者だ! 衛兵! 武闘派どもは何をしている!」
煙が立ち込めるエレベーターホールから、ゆっくりと一人の男が歩み出る。
紫煙を吐き出し、黄金のキセルを指で弄ぶその姿は、死神というよりは、地獄の番人のようであった。
星「悪いな。俺んとこの騎士様によって今お前んとこのは夢の中でおねんねだ。安心しろよ。俺は騎士様みたいに、綺麗に寝かせてやることが出来ねーんだわ。」
不敵なまでの笑みがより不気味さを増す。
八角は怯えながらも星彦のくたびれている服から見える旭日章が目に映った。
「な……警察か!? 貴様、単身でここへ乗り込んでくるとは正気か! ここで何が行われているか知ってのことか! これは国家の未来を担う尊い犠牲なんだぞ…!」
星「国家の未来……? 尊い犠牲……?」
八角の言葉を聞いた瞬間、星彦はこらえきれないといった様子で吹き出した。
星「ハハハッ! 傑作だな。他人の人生を『検体』としか見てねえ男が、よくもまあそんな綺麗な言葉を吐けたもんだ。」
星彦は笑いながら現像した写真の数々を取り出し、八角の方へぶちまける。
そこには叶恵が掴んだ「ギフト」の裏帳簿、そして拉致の瞬間を捉えた鮮明な証拠写真が映し出されていた。
星「国家の未来ねえ……。性的興奮のために実験を繰り返している変態の言葉にしちゃ、随分と説教臭いじゃねえか。その国家の未来のための金を裏の金へと変えやがる野郎どもがよぉ。」
「なっ……なぜそれを!? 貴様、どこでその情報を!」
八角が驚愕に目を見開く。その矛盾と罪を突きつけられ、顔面はもはや恐怖で土気色に変わっていた。
星「知る必要ねーだろ?それにまさかと思うが、知られていない、知られても調べられないって思ってたか?馬鹿も休み休みにしとけよ。いつだって真実は頑張って生きてきた人間に振り向く。汚ねーもんで塗り固められても、輝き続ける光なんだよ。」
星彦は足元に転がっていた、先ほど大破したエレベーターの扉の破片――鋭利に尖った鉄の杭のような破片――を無造作に拾い上げた。
「ひ、ひぃぃっ! 来るな、来るなあああッ!」
八角が狂乱し、隠し持っていたメスを振り回して突っ込んでくる。
だが、星彦は微動だにしない。 一瞬。 星彦の身体が残像を残して沈み込んだ。
ドシュッ!
「あ……が……っ!?」
星彦が手に持った鉄の破片が、八角の右肩を深々と貫き、そのまま背後の壁に彼を縫い付けた。
星「死なねえ程度に急所は外してやった。お前が大好きな『変色していく体』。まずは自分の腕でじっくり観察してろ。」
冷徹な宣告が響く中、星彦は拘束されていた天辻郎太のベルトを一本ずつ引きちぎっていく。
星 「遅くなっちまって悪かったな。アンタの仲間からの申請を受けた、正義の執行人だぜ。」
________________
一方、その頃。 ビルの下層階では、もう一人の怪物が「救済の[[rb:円舞曲 > ワルツ]]」を奏でていた。
「失礼。我が主君からの命により、貴方方の制圧を行います。」
ギルハーツは一階一階、階段を駆け上がりながら、各フロアに潜む武装社員たちを次々と制圧していた。
彼の進む先には、返り血一つない通路と、急所を的確に打たれて眠る外道たちの山ができる。
だが、彼の目的は制裁だけではない。
「 .」
ギルハーツは実験室として偽装された各部屋の扉を、鍵ごと剣先で弾き飛ばしていく。
中には郎太と同じように、絶望の淵に立たされていた被験者たちがいた。
「もう安心ですよ。ボクは貴方がたを向かいに来た騎士です。この
怯える被験者たちの手首の拘束を、髪の毛一本切るような繊細な剣技で解いていく。
ギルハーツは、彼らを安全な場所へ誘導しながら、同時にその健康状態を瞬時に診断し、必要な応急処置を施していく。
「一階に仲間を向かわせています。そこへ向かってください。主君を待たせるわけにはいきませんので、ボクは先に行かせていただきますね。」
優雅に一礼し、ギルハーツは再び上階へと跳んだ。 背後で被験者たちが「ありがとうございます……!」と涙ながらに叫ぶ声を聞きながら、彼の瞳には冷たく鋭い「騎士の誇り」が宿っていた。
八角のいる最上階まで、残るフロアはあとわずか――。
最上階の扉を開け、ギルハーツが足を踏み入れた瞬間、そこには既に決着の二文字が刻まれていた。
壁に縫い付けられ、自身の腕を見つめて絶望に震える八角。
そして、拘束から解かれ、安堵に肩を震わせる郎太の傍らに立つ、愛煙をくゆらす主君の姿。
ギル「……流石は我が主君。ボクが駆け上がるまでもなく、既にこの『屠殺場』は浄化されていたのですね。」
ギルハーツは一瞬、眩いものを見るかのように目を細めたが、すぐさまその場に跪き、深く頭を垂れた。
ギル「……申し訳ございません。下の階層の掃除に手間取り、主君自らに手を煩わせてしまったこと、このギルハーツ、一生の不覚にございます。本来であれば、このような不潔な輩に触れることすら、ボクが代わるべきでしたのに。」
星「ハッ、気にするな。おかげでこの『杭』の強度テストもできたしな。それより、下の連中は片付いたのか?」
ギル「はい。全員、心地よい眠りについていただきました。救出した方々も、一階の日向さんの元へ誘導済みです。」
ギルハーツは立ち上がると、まだ状況が飲み込めず呆然としている天辻郎太の元へ、優雅な足取りで歩み寄った。
その瞳からは先ほどまでの冷徹な剣気は消え、聖職者のような慈愛が宿っている。
ギル「天辻郎太さん。もう、大丈夫ですよ。貴方の勇気ある歩みが、今日ここで途絶えることはありません。勇気ある街の皆様が、貴方の帰りを心待ちにしておられます。」
郎太「あ……ああ……。ありがとう、ございます……。助けて、くれたんですね……」
ギルハーツは郎太の脈をとり、瞳孔を確認すると、満足げに微笑んだ。
ギル「ええ。体調も、ボクが診る限りでは深刻な異常はありません。少しお疲れのようですから、帰ったらゆっくり休んでください。さあ、主君。これ以上、この美しくない場所に留まるのは、ボクの美学に反します。速やかな撤退を。」
星「そうだな。……おい、八角。せいぜいその景色を楽しんどけ。すぐに『別の意味での掃除屋』が来るからよ。」
星彦はキセルを仕舞うと、郎太の肩を支えながら、ギルハーツと共に反転した。
背後で八角が上げる情けない叫び声は、エレベーターホールの闇へと消えていく。
ギル「主君、帰りましたらお店でマスターさんの特製ドリンクを淹れてもらいましょう。この勝利の余韻には、あれが一番ですから。」
星「ふん、贅沢なことだ。だが、今日はそれくらいの報酬があってもいいだろうな。」
薔薇の花弁が、まるで主君の凱旋を祝うかのように、血に汚れた床を隠しながら静かに舞い落ちていた。
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『――続いてのニュースです。今朝、『株式会社ギフト』の副社長、および幹部社員を含む数十名が、警視庁へ一斉に自首するという前代未聞の事態が起きました。 自首した社員らは、関連企業を隠れ蓑にした非人道的な人体実験、および組織的な拉致・監禁への関与を全面的に認めているとのことです。 なお、同社の社長については現在も行方がわかっておらず、警察は事件の主犯格とみて行方を追っています――』
星「ハッ。行方不明ねえ……。まあ、あの拷問ソムリエに目をつけられたんだ。今頃は法律じゃ裁ききれねえ地獄の底で、じっくりと自分の罪を噛み締めてる頃だろうさ。」
喫茶『宝船』のカウンターで、星彦は新聞を広げながら鼻で笑った。
隣では、天蔵の特製の紅茶を一口飲んだギルハーツが、心底満足そうに目を細めている。
ギル「日向さんがボクたちの介入の証拠をすべてなくして、それでいて副社長およびその他の皆さんに”お話”をして自首までさせたようですよ。社長の八角という方はそのまま伊集院様にお渡ししたようです。」
天「日向さんには無理言ってそちらに向かってもらいましたが、間に合ったようで安心しました。必要な時にお店に居らず、申し訳ございません。皆さんの無事を心から祝福いたします。おかえりなさい。」
そう言って莉寿の持つお盆に珈琲を置いた。
莉寿はそのお盆をテーブルに運ぶ。
そのテーブルには無事に帰還した天辻郎太が、長老たちに囲まれながら『当たり前の日常』を噛み締めるように深々と頭を下げていた。
星「そういやギルハーツ。お前、例の会社を聞いた時から顔が険しかったろ。なんでだ?」
ギル「あぁ。英語のGiftは【贈り物】という素晴らしい意味ですからね。同じスペルですが、ドイツ語でのGiftは【毒】という意味ですので。」
星彦は煙管の灰を落とし、窓の外の青空を仰いだ。
星「毒、ね。だがこの街にゃあ、毒を喰らってでも正義を貫く、護衛騎士たちが揃ってるからな」
その言葉に、ギルハーツは優雅に微笑む。
悪を「毒」で制し、弱者に「贈り物」を届ける。
それが、法の外側で輝く彼らの――『織姫一派』の日常。
星「さて、飯にするか。……マスター、おかわりを頼む」
穏やかな珈琲の香りが、戦いを終えた彼らの休息を優しく包み込んでいった。
名前:ギルハーツ・フォン・ローゼンクロイツ
誕生日:6月2日
身長:185cm
年齢:23歳
好物:塩鮭と紅茶とタルト
イギリス出身。ドイツ人の父とフランス人の母、さらに母はフランス人と日本人のハーフという四カ国の血が混ざり合っている。日本永住権取得済み。
10歳の頃に強盗に襲われていた時に星彦に助けられ、その正義に憧れて修行を積み二十歳の時に正式に織姫一派に加入。父の母国であるドイツで医師免許を取得するべく大学に通いながら、学期休暇や必須実習で日本に戻る際には織姫一派の任務をこなすという過酷な二重生活を送っていた。海外では情報提供やドイツ国内の治安解決任務にもあたっていた。現在は厚生労働省による外国医師免許審査の精査中であり、正式に日本国内で医師として活動するにはまだ時間がかかる見込み。
出身のイギリスで英国紳士の所作が身に染み、ドイツ人の父の教えで軍人の心持ちを持ち、フランス人の母からレディーファーストの極意を学び、日本人の祖母から礼儀作法を叩き込まれたという四カ国ハイブリッド。ただし礼儀などは完全に体に染みついてしまっているため本人に特別な意識はない。
物腰柔らかで誰にでも優しく温かく接する英国紳士。まるで絵本の中の王子様であり騎士でもあるような佇まいを持つ。騎士道を重んじており、誰に対しても誠実で礼節を欠かさない。
趣味は園芸でフラワーアレンジメントも得意。薔薇を中心に季節の花を育てており、宝船の外観の花飾りも彼が担当している。なぜか登場時に薔薇の花弁が舞う。星彦への全肯定が著しく「星彦さん流石ですbot」と一派から言われている。
織姫一派武闘派の中でも前線を張る武闘派の武闘派。裏社会では「薔薇の騎士」として知られているが、本人は「シュバリエ」と呼んでいる。ただし一派以外には「シュバリエ」では通じない。武器はエクスカリバーを模した西洋剣。「治す技術」と「壊す技術」の両方を極めた存在であり、それこそがローゼンクロイツ(薔薇十字)の名を冠する所以でもある。