機械兵と少女たちの記録(アーカイブ)と記録(メモリー) 作:KUS
「落ちな!」
ハウの駆るマリーネ・ライターが肉薄してきたダガーLを撃墜する。
彼女含めた海兵隊は、まだ撃墜された者はいないが、他はそうでもない。
戦局は、ゲヘナが押していた。
パクス軍は良くも悪くもモビルスーツが全てのドクトリンの中枢にいる。
海軍とて例外ではない。
その為、モビルスーツ以外の従来兵器に関しては「性能は良いが扱う人間が微妙」という状態となっている。
つまり、MSなしでの押し合いはパクスが不利となる。
それを補って余りあるほどパクスのモビルスーツ部隊は精強なのだが……
それがモビルスーツ依存を止められないのだろう。
今回の戦闘では、水中のモビルスーツ部隊はディープフォビドゥンに何もできず殲滅され、
艦載部隊や揚陸部隊も、カラミティ・フォビドゥン・レイダーの3機に蹂躙されている。
つまり、純粋な艦隊戦を強要されている形だ。
『姐さん、どうします?』
「やれるとこまでやるよ!狙うは大将首だ!」
『りょうか──』
了解。
そう言おうとしたパイロットのゲルググMがビームに貫かれた。
周囲の複数機も巻き込まれている。
そのビームは曲線を描いていた。
『アハハ!一杯いるよ!』
「ガンダム!」
『落ちろよハエども!』
ビームの出所はフォビドゥンガンダムの誘導プラズマ砲「フレスベルグ」だ。
砲身の誘導装置の磁場干渉によってビームの軌道を捻じ曲げるというトンデモ兵装である。
「くらいな!」
マリーネ・ライターがフォビドゥンにビームライフルを発射する。
だがゲシュマイディッヒ・パンツァーによって防がれてしまった。
「!?」
『お前も同じように墜としてやるよ!』
フォビドゥンは近接武器であるニーズヘッグを構えながらマリーネ・ライターに襲い掛かった。
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フォビドゥンのパイロット──安藤シアは苛立っていた。
「ああもう!うざいんだよいい加減墜ちろ!」
目の前のゲルググMを撃墜できないからである。
周りをハエのように飛んでいる雑魚はドンドン墜とせる。
なのに目の前のゲルググはいつまで経っても墜ちない。
シアは今回が初陣だ。
これでここまでの戦果を上げているのだから機体性能もあるが、本人の技量も充分。
だが、対エース経験は当然ない。
この艦隊がパクスの主力艦隊ではないことで、出てくるエースが少ないのも拍車をかけている。
ようはゲームでチートキャラを使って敵相手に無双してたら雑魚の色違いに苦戦し始めたイメージだ。
その色違いはよりにもよってボス敵なのだが……
『シア、まだ落とせないんですか?』
「うるさい!」
『お前ら喧嘩するな!』
通信越しにシアを煽るレイダーのパイロット──増田クロ
それに言い返すシアを見て止めに入るサブナ
サブナからすれば戦闘中に何やってるんだ案件である。
一方のハウも、苛立ちを覚え始めていた。
ビームは効かない。
実弾も無効化。
残りの勝ち筋は接近戦だ。
だが鎌を持っているフォビドゥンに対し、ゲルググの近接武器はビームナギナタである。
明らかに相手のほうがリーチは上。
「やるしかないか」
それでもやるしかない。
ここで墜とさなければ味方の損害が無駄に増える。
それに、ガンダムを落とせば士気高揚くらいにはなるだろう。
そんなことを考えながらビームナギナタを抜く。
「覚悟しな!」
『!?』
仲間との言い合いに夢中だったシアは、完全に不意を突かれた形だった……が、
ドォーン!
「!? 撤退信号!?」
陸の方から、撤退の信号弾が上がった。
「頃合いか。各艦とモビルスーツに通達しろ。撤退だ。救助作業を行いつつ下がるぞ」
「はっ」
旗艦でも艦隊司令官が撤退の命令を下していた。
「それにしても……雷帝派がいないながらあれほどのモビルスーツを……」
「ゲヘナの底力を見た気分です」
「ああ、まったくだ」
司令官と副官の……率直な内心だった。
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『くそぉ!』
「迂闊に近付くな!」
俺達は突然出てきたハンブラビ隊に苦戦中だった。
こいつら……ヤザン隊の化身かと思うくらい連携が上手い?!
『くらえ!』
「避けろタマ!」
『うおおお!?』
タマのジム・キャノンIIが間一髪で海ヘビを回避する。
あれが一番厄介なんだよ……
『(何なんだあの男……まるでこちらの手札を知っているみたいだ)』
「まず1機墜とすぞ!連携を崩す」
俺はそう全員に言った。
まずは1機。
じゃないと進展しない。
そう思って突貫しようとしたところ……
ドォーン!
「!?」
『隊長!』
『ちっ、もう撤退か。下がるぞ!』
あれは信号弾……撤退する気か!?
『副会長、周辺の敵性反応が撤退していきます!』
『追撃しますか?』
「いや……味方の損害を確認しよう。このまま追っても要塞の射程圏内に入る。
この数じゃ自殺行為だ」
ここはある程度開けてるから、周りの様子が分かりやすい。
見回すだけでも、パクス軍もこちらもモビルスーツや戦車の損害が見て取れる。
それだけ残骸の山が出来ている。
「シキ、全軍に進軍停止を──」
『は、はい。全軍、戦闘を停止。繰り返す……』
次は要塞線の攻略だが……
現状の残存戦力で行けるか?
まずは足並みを揃えないと話にすらならんが……
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『撤退命令!?まだあたしらはいけるぞ!?』
『でも……撤退ってことは……』
『2人とも、余裕がある私達で撤退する味方の援護しながら下がろう』
『それなら大歓迎だ』
『わかった!』
AGE-1と交戦していた3機は周囲を警戒しながら撤退していく。
ミクルと交戦していたシオンも、部下達に撤退を命令していた。
「さて……」
『……』
「再開と行こうか」
『撤退しなくていいの?』
「わざわざ貴様と一騎討ちを行っていた理由がわからないのか?」
『でも、命令を無視するほどあんたは身勝手じゃない』
「……そうだな。では、この続きはまた今度としよう」
『……』
「お前のために、私は場を整えているのだ。何時でも待っているぞミクル」
そう言って、メッサーラは撤退していった。
それを見ながらミクルも、Mk.IIの中でホッと息を吐いた。
『そっちも敵は下がったか』
「あんたも?」
『ああ。こちらも損害が大きい。一度ガンダムさんと合流しないと』
「ガンダムさん?」
『ん?あ、ああ。九条アキ副会長のことだ。あの人の機体がガンダムだろ?』
「ああ、そういう」
ミクルの声に柔らかさが生まれていた。
AGE-1に、心を開いているのだろう。
その時、AGE-1に通信が入った。
別行動をしていた5号機からだ。
『5号機、どうした?』
『え、AGE-1、大変だ!』
『どうしたそんなに慌てて』
『レジスタンスの連中がパクスを追撃し始めた。戦闘停止命令は出てるのに!』
『なに!?』
「ちっ!あの馬鹿どもが!」
ミクルは悪態を吐きながらMk.IIをパクス軍が撤退していった方向に走らせた。
『待て!クソッ!』
『AGE-1?!』
『5号機、お前は4号機と一緒にガンダムさんと合流しろ!追撃をしていない連中も下がらせておけ!俺はMk.IIを追う!』
『わ、わかった!』
AGE-1は通信を切ると、即座にMk.IIの後を追った。
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撤退を始めているパクス軍を追撃するレジスタンス。
『追えー!1機残らず墜としてやれ!』
彼女達の中にあったのはパクスへの憎悪や怒り。
そして、(レジスタンス視点)自分達の力でパクスを撤退させたという優越感。
それがこの追撃戦の要因だった。
それがパクス側の狙いとも知らずに。
「敵軍右翼、突出してきました!」
「よーし、全砲門を開け!」
夜闇に紛れていたその機影が、レジスタンス側が視認できるほどの低空に現れた。
『ははは!逃げろ、逃げ惑え!』
レジスタンスのネモが撤退するハイザックの背を撃ち抜く。
そんな彼女も、上空に何かがいるのには気付いた。
『な、なに、あれ?』
『空を、飛んでる、戦艦?』
上空にいる機影──プルウェア級空中駆逐艦は、地上のレジスタンスに対して対地射撃を開始した。
『不味い!?にげ──』
瞬時に勝ち目がないことを悟った1機のリック・ディアスが他のレジスタンスに逃げるよう叫ぼうとしたが……
その前に砲撃が直撃して爆散した。
『きゃあああ!?』
『逃げろ!逃げるんだ!』
次々と砲火に晒される、爆炎を上げるレジスタンスMS部隊。
ミクルが現場に到着した時には、大多数が物言わぬ残骸と化していた。
「クソッ!もう完成してたのか!」
ミクルはMk.IIを近場のジムIIの前に滑り込ませ、シールドでハイザックの攻撃を防ぐ。
『あっ……ミクル……』
「今のうちに逃げろ!」
ビームサーベルを抜いてハイザックを斬り裂く。
そして他の機体を助けに行こうとしたが……
デュエルを筆頭としたMS部隊により残党狩りが行なわれていた。
「それ以上はされるか!」
ミクルはバルカンでデュエルを牽制しながら、斬りかかる。
『新手か!』
「そんな手負いより上等な獲物だぞ!来い!」
デュエルもビームサーベルを抜き、Mk.IIと斬り結ぶ。
デュエルのコックピットの中で、イザは笑っていた。
一度斬り結んだだけで分かる。
エース……しかもその中でも化け物に分類される上澄みだと。
だが……孤軍奮闘中のミクルと違って、イザの周りには僚機だらけ。
しかも、部下は殆どいない。
損害が少ないので撤退中の味方を援護すべく殿となった有志達だ。
つまり、どういうことかというと……
『イザ!』
「!?」
横やりが入る。
攻撃を行ったのはデュエルダガーだ。
ビームライフルの射撃を避けるべく、Mk.IIはブースターを吹かして後退した。
『大丈夫?』
『ちっ……』
『あっ……邪魔しちゃったみたい……』
『大丈夫だ。別に間違ってないし』
イザは不満そうだが、援護されただけなのでグッと不満を飲み込む。
一方ミクルは、周囲にモビルスーツが集結しつつあることに冷や汗をかいていた。
「はは……私ってばモテすぎね」
精一杯強がるが、状況は変わらない。
包囲網の中から、1機のガルバルディαが突撃してきた。
『Mk.IIを返してもらうぞ!』
「悪いけど……答えはNoよ!」
ガルバルディαのビームサーベルを受け止め、バルカンでカメラを破壊する。
それでもサーベルを押し込んできたので、足で蹴り飛ばして斬り裂いた。
更に突撃してきたマラサイを斬る。
その後も次々と攻撃してくるモビルスーツを相手にするミクル。
だが、一人で消耗戦はいくら何でも無謀だ。
「!?」
ドガーン!
突如、Mk.IIのシールドが粉砕され、機体が衝撃で吹き飛ばされる。
「ザメル……不味い!?」
Mk.IIの頭上に、プルウィアが移動してきた。
砲門も開いている。
「はは……万事休すか……」
Mk.IIを動かそうにも、ブースターがイカれたのかうんともすんとも言わない。
手足で起き上がろうにも、逃げるより砲撃の方が早い。
砲口がこちらを向いた瞬間、ミクルは目を瞑った。
砲撃音が辺りに響いた。
だが……いつまで経っても気絶どころか衝撃すら来ない。
目を開けると、モニターに映っていたのは……
「AGE-1……」
『大丈夫か?』
シールドを構え、Mk.IIの前に立っていたAGE-1だった。
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間一髪だったな。
にしても空中戦艦とは……
そう云えば……サクラ博士のアーカイブにあんなものあったな。
掘り出したのか。
『一先ず……この場を切り抜けるぞ』
『他のレジスタンスはどうするんだ?』
『そんな余裕はない。あと俺は命令違反が嫌いだ』
本音である。
幾ら正規軍ではないとはいえ、正規軍と一緒に軍事行動を取っている以上従うべきだ。
にしても多い。
こんなことなら何かウェアを装備するべきだったな。
ドッズライフルを構え、背後のMk.IIを見る。
ブースターが損傷しているみたいだが……戦闘行動に支障はなしか。
『Mk.II、市街地の方へ一点突破するぞ』
『了解』
『じゃあ、』
行くぞ、そう言おうとしたら、包囲網の奥で爆発が起きた。
そのままこちらに向かって……来てる!?
『うおおおおおお!大丈夫かAGE-1!』
『ブルー!?』
『だ、誰だ?』
とっこんできたのはブルーだった。
いや、なんでここにいるんだよ!?
『お前……何やってんの?』
『いやー、EXAMの機体を追っかけてたらこんなとこに……』
『まあ……いい。突破するぞ!』
気を取り直して俺達は包囲網を破るべく突撃を始める。
『ザメルの砲撃だ!』
『ブルー!』
『任せろ!』
Mk.IIのパイロットの叫びに反応して、ブルーがシールドで砲撃を防ぐ。
周りのモビルスーツは無視だ。
今は包囲網を突破しなければ……
『ブルーにAGE-1!貴様ら、俺を無視するなぁ!』
『デュエル!?』
ちっ、他の連中はともかく、こいつの相手をしている暇は……
『邪魔だよデュエル』『EXAM system stand by』
『はぁ!?』
対処法を考えようとしたら……ブルーがシステムを起動してデュエルの両足を斬っていた。
かませの如く処理されたデュエルめ……哀れ。
その後、何とか俺達は包囲網を脱出できた。
これ以上の追撃は無意味と判断したのか、パクス軍も撤退していった。
ちょこっと解説
安藤シア
ゲヘナ学園正規軍所属の2年生。
敵機をハエと呼んでいる。それに合わせてウザイが口癖。
増田クロ
ゲヘナ学園正規軍所属の2年生。
丁寧語だが、妙に煽り口調。
シアとは犬猿の仲。
ネモ
連邦生徒会がレジスタンス用に開発したモビルスーツ。
高い汎用性と拡張性を有している優秀な機体。
リック・ディアス
こちらも連邦生徒会製。
連邦生徒会製MSでは珍しくモノアイ機となっている。
これはレジスタンス側の要望で、パクス側が味方と誤認するような機体をオーダーしたため。
ガルバルディα
パクスが開発した量産型MS。
ゲルググとギャンの2機の特性を併せ持った高性能機。
だが、高性能故に、扱えるパイロットが少ない。
ザメル
パクスの長距離支援用重MS。
中・長距離の支援砲撃がコンセプト。
そのコンセプトを体現する背部のカノン砲が最大の特徴。
プルウェア級空中駆逐艦
パクスが開発した空中戦艦。
対地攻撃に主眼が置かれており、船体下部に無数の大型砲をぶら下げている。
元々はサクラが設計した空中戦艦だったが、ガンダムが封印されていた遺跡からニアがサルベージし、建造した。
プルウェアはラテン語で雨の意。
砲弾を雨の如く降らせるのが由来。