機械兵と少女たちの記録(アーカイブ)と記録(メモリー) 作:KUS
トリニティ総合学園・旧パクス・トリニティ間自治区境界線エリア
アマネの会談が終わりに差し掛かっていた頃、境界線付近にいた哨戒部隊がいた。
彼女らは正義実現委員会のパクス支隊のメンバーだった者達だ。
独立運動が活発化する中で、アマネによって密かにパクス防衛隊として再編成された。
隊員も旧パクス自治区出身者が多かった為、反発は起きなかった。
そんな彼女達が旧境界線付近を哨戒していたのは、"もしも"の時に備えるためだった。
「暇だなぁ……」
「良いことじゃん。私らが暇ってことは、平和だってことだし」
「まあそうだけどよぉ……」
「お前たち、気を抜くなよ」
「「了解」」
隊員は10名弱。
他にも多数の哨戒部隊がおり、5部隊ずつのローテーションで動いていた。
そんな中、隊員の一人があるものを見つけた。
「隊長!あれを見てください!」
「なんだ……影?」
彼女たちの目線の先には、無数の影がいた。
その影は段々と大きくなっており、近付いて来ているのが分かった。
「隊長……」
「念のため、基地に報告しておk「隊長あれは!?」今度はなんだ!」
隊長が通信兵に指示を飛ばそうとした瞬間、
双眼鏡を手にした隊員が大声を上げた。
その声は僅かだが震えている。
「どうした!」
「あ、あの影は……戦車です!」
「何!?車種は!」
「ま、マチルダです!トリニティの部隊だ!」
「何!?貸せ!」
隊長が双眼鏡を奪い取って覗く。
そこには、多数の戦車と歩兵の姿があった。
「マチルダIIに……クルセイダー型だと?!」
「噓でしょ!?それって新型じゃない!?」
「3.7インチ高射砲もある……ティーパーティーの親衛隊だ」
「正義実現委員会もいる……なんで!?」
隊長の声を皮切りに、隊員たちは一斉に混乱の渦に巻き込まれた。
「狼狽えるな!ハヤテ、今すぐに基地と他の哨戒隊に連絡!我々も下がるぞ!」
「下がるんですか?」
「この人数で正規軍を相手にする気か!?」
隊長の怒鳴り声の下、部隊は基地に後退を始めた。
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一方トリニティ側は、旧境界線の一歩手前まで来ていた。
彼女らの目的はパクス分校にいるトリニティ本校の生徒の回収。
正義実現委員会の部員たちは、何故正規軍が同行するのかがわからなかったが、
軍と同程度の装備のゲリラに襲われた時の保険と言われて納得していた。
それでも過剰戦力だし、なぜ親衛隊までいるのかは理解できなかったが。
そんな彼女たちは前方に集結を始める武装集団を見つけた。
パクス防衛隊だ。
「前方に武装集団を発見」
「テロリストか?」
「それにしては統率が取れています。
それにテロリストならとっくに攻撃されている筈……」
「取り敢えず様子を見るぞ。我々の目的は戦闘ではないのだからな」
正規軍の指揮官はそう言い、全軍に待機を命じた。
相手は歩兵のみで戦車はおらず、居ても火砲程度。
先制するほどの相手ではないと判断したのだ。
だが……
「待機ですか?」
「はい。指揮官はそう……」
(何をやってるの?相手はどうせテロリスト……なぜそんなに悠長なの?)
親衛隊の指揮官である少女は、既に防衛隊をテロリストと断じていた。
パクス系のテロリストは、トリニティに対する憎悪が深く軍民関わらず襲い掛かってくる。
なのにまだ襲われていない以上、テロリストではない可能性もあるのだが……
(そうよ……悠長な指揮官に代わって私が攻撃を命じれば、もしかしたらティーパーティーの幹部に……)
彼女の中で冷徹な計算が立てられる。
親衛隊の幹部だが、ティーパーティーの幹部ではない彼女にとって、
目の前の状況は出世のチャンスにしか見えなかった。
「相手はテロリスト……高射砲の照準をテロリストへ!」
「えっ!?いいのですか?!」
「構いません。相手はテロリスト。やらなければこちらがやられる」
実際に彼女の言うことは正しい。
本当に相手がテロリストなら。という但し書きが付くが。
だが、上官であり、それなりに権威のある家の出の彼女に、
意見出来る者はこの場にいなかった。
一発の砲弾の発射を皮切りに、装填されていた砲弾が雨あられのように防衛隊を襲った。
「!?何をやっている!」
突然の自陣からの攻撃に指揮官は驚き、
「砲撃だ!」
「本部に連絡を!」
砲撃された防衛隊は即座に戦闘態勢を整え始めた。
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「旧境界線付近で戦闘発生!」
「防衛隊より連絡!敵勢力はトリニティ総合学園正規軍並びに正義実現委員会及びティーパーティー親衛隊!」
「直ぐに増援を向かわせろ!」
パクス防衛隊本部の指揮所。
トリニティとの戦闘発生により、慌ただしくなってきていた。
そんな中、オペレーターの一人がある場所に通信を繋いでいた。
「ニアちゃん聞こえる?」
『聞こえるよ~、慌ただしいけどどしたの』
「トリニティが攻めてきたの。例の兵器は?」
『そいつは大変だね~ザクは発進準備OK。だけど5機動かないないよ』
「了解、ありがと」
通信先は本部内にいた技術者だ。
彼女は新しく生徒会長になったアマネが連れてきた。
始めて見るロボットと一緒に。
まだ11歳ながらも、その腕は本物だった。
「機甲部隊出撃!MS部隊は、出撃次第前線に直行せよ!」
そんな声が、指揮所に響いた。
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『敵はトリニティ、フィリウス麾下の砲兵部隊もいる。手強いぞ』
「多くないっすか相手?!」
『過剰戦力ぎみですね』
『我々MS部隊は、機動力を活かしての遊撃に回る。
いいか、数で負けている現状をどうにかするのが我々の仕事だ』
「無茶っすよ!?」
『ゲヘナには連絡を取った。それまで持ちこたえろ!』
『ザク、発進どうぞ』
5機のザクがそれぞれ、急ごしらえのカタパルトに乗る。
「これ……動くんっすよね?」
『動作テストは問題なかったらしい。動かなかったら自力で出てこい』
「そんな無茶苦茶な……」
その後、カタパルトは問題なく動作したらしく、5機の機影が本部から飛び出した。
一方で、戦況は当然の如くパクス側が押されていた。
数も練度も、トリニティ側が上なのだ。
「第5小隊壊滅!撤退するようです!」
「くそっ!増援は!」
「機甲部隊が全力で向かってきています!」
「アクセルを壊れるくらい踏み込めと伝えろ!」
「砲撃だ!?」
「うわぁ!?」
「こんなことなら塹壕掘れば良かったじゃない!」
「上に言ってください!」
数でも質でも負けている防衛隊は混乱の渦中にあった。
それでも、もう二度と故郷を荒らさせないという想い下、負けじと喰らいついていた。
「こちら第1装甲部隊、現着した」
『敵の戦車を優先的に、親衛隊には気を付けて』
「了解。さて、クルセイダーは奇襲・強襲でいけ!短期決戦だ!マチルダは撃破されないように心掛けろ!同型だからな!」
防衛隊の機甲部隊も、戦場に到着し始めていた。
機甲部隊の主力は正義実現委員会の支隊に配備されていたマチルダ。
治安維持用の為リミッター付きだったが、再編成の際にリミッターを外されたものだ。
一方で、MS部隊も戦場に現着し始めていた。
「な、なんだあれは!?」
「こ、こちら第15装甲部隊!全高約4~5mの巨大なオートマタが出現!交戦します!」
「なっ?!ジャンプしやがった!?」
「不味い……射角が!?」
MSの三次元機動に翻弄される形で、第15装甲部隊は壊滅した。
「MS部隊が装甲部隊を一つ壊滅させたぞ!」
「私たちも乗じるぞ!」
MSによる機甲部隊の撃破は、パクス側の士気を大いに高めた。
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暇だ……アオは学校の時間だし……
アマネは上手くやれてるだろうか。
そこが心配だ。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
誰だ?ってアオ?!
『アオ?!学校はどうしたんだ!?』
「臨時休校です!そんなことよりアキさん!トリニティが!」
『!?』
トリニティが?
攻めてきたのか?
でも……
『心配ないだろ。こっちにはザクがあるんだから』
俺は楽観視していた。
俺の中での図式は通常兵器<MSだ。
実際にMSを撃破したことのある通常兵器も未来の高性能品。
第二次大戦期の兵器が主力の現代キヴォトスなら問題ないと思っていた。
「そんなことはないです!もう一機落とされました!」
『はぁ!?なんで!?』
「最初は優位だったんですけど……段々と戦車に囲まれ始めて……」
俺は前提から間違えていたかもしれない。
俺のボディであるガンダムは、なまじ原作とそう変わらないスペックだったせいもあるか。
この世界に誕生したザクは……皮だけの別物だ。
そもそも大きさからして違うし……
ここで俺は……MSの仕様や武装は教えたが……原作のサイズを教えていないのに気付いた。
「アキさん!」
『………』
ふと……部屋のテーブルに置いてある写真立てに目が行った。
映っているのは俺とアクアにサクラ、他の軍閥の仲間、そして……
『アキ?』
ワカナ。
あいつの子孫が、ようやく止まっていた時間を動かそうとしている。
邪魔されて……
「アキさん?」
『アオ、どいてくれ』
「は、はい!」
俺は機体の動作確認を行う。
フレームは特に錆びついていない。
アクア様々だな。
武装は……後でザクマシンガンを借りればいい。
『システム、ハッチ開放』
「アキさん!」
『アオ……』
俺は入り口に立っているアオを見た。
「お願いします。アマネちゃんの夢を……」
『了解』
『システムオールグリーン。RX-78-2 ガンダム、発進どうぞ』
『ガンダム、出るぞ!』
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『こなくそ!』
「ちっ!数だけは一丁前に!」
1機のザクが、近場にいたクルセイダーを蹴り飛ばす。
横転したクルセイダーから乗組員が脱出するのを見ながら、隊長は周りに目を向けていた。
最初こそは戦車なんか敵ではなかった。
だが、蚊でも集まったら脅威なんだと、嫌でも身に沁みさせてきた。
「他の戦線は?」
『分かりません……ああもううざいんだよ!』
隊長の質問に、高射砲を踏み潰しながら部下は答えた。
「不味いな……このままじゃ」
『隊長!高熱源体が出現!こっちに向かってきています!』
「なに!?」
まさかMSを持っているのは我々だけじゃないのか?
隊長の背に冷たい汗が流れる。
そして、その熱源体は戦場に降り立った。
「あらは……MS?」
そこにいたのは1機のMSだった。
トリコロールカラーのそれは、自分たちが乗っているザクとは違い複眼だ。
敵なのか味方なのか……
隊長にはそれが分からなかった。
一方トリニティ側も、現れた別のロボットに困惑が広がっていた。
「なんだよあれ……」
「撃て!味方なら識別信号くらいあるだろ!それがないってことは!」
運転手の叫びを聞いて、砲手は即座に照準を合わせる。
そして、同じ考えだったのかその戦車以外からもロボット──ガンダムに砲撃が浴びせられた。
だが……
「う、噓だろ……直撃だぞ……」
黒煙が晴れた先にいたのは、無傷のガンダムだった。
ガンダムは戦車に顔を向けると……頭部のバルカン砲を斉射した。
「しまっ……」
「退避!」
戦車は遅れて回避行動を取るが……
間に合わずに蜂の巣となり爆炎を上げる。
その光景を見ていた別の戦車の乗員たちは、恐怖するしかなかった。
「ひっ!?う、撃て!」
恐怖から考えもなく砲撃を命じる者。
「無理よ!勝ってっこない!」
恐怖から敵前逃亡を果たす者もいた。
『掛かってこい。全員相手にしてやる』
ガンダムことアキは、自身に向かってくる敵部隊に対して拾ったザクマシンガンを構えた。
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「しょ、所属不明機によって第6装甲部隊壊滅!」
「第10装甲部隊!逃走しました!」
「くそっ!」
正規軍の指揮官は苛立ちを隠せていなかった。
相手が投入してきた謎の新兵器。
そこまではいい。
強いが、戦車で倒せない相手じゃなかった。
現に1機撃破している。
問題はその後。
突然現れた6機目。
しかも戦車の砲撃に耐えるどころか無傷。
そのせいで戦車隊は恐怖で逃げ惑う始末。
野砲隊や残りの戦車隊も破竹の勢いでアンノウンに撃破されている。
途中までは勝っていた。
数でも質でもこちらが勝っていた。
新兵器も脅威だったが、それでも大局を動かすほどではなかった。
なのに誰とも分からないアンノウンにひっくり返されている。
そもそも、勝手に砲撃した生徒会の連中が悪いのだ。
その癖後ろで撃ってるだけで、新兵器が現れた途端にいなくなった。
その新兵器を追い詰め始めた瞬間、まるでいましたよな雰囲気を出しながら戻ってきたのだ。
そして、アンノウンが蹂躙を始めた瞬間またいなくなった。
「くそっ!無責任な連中め!」
「ど、どうしましょう」
「報告です!」
「今度はなんだ!」
もう嫌な報告は聞きたくない。
そんな願いは届かなかった。
一応、ある意味では胸が空く報告だったが。
「撤退中の親衛隊が砲撃で壊滅!」
「敵は!」
「わ、分かりません……ただ、砲撃はFlak18!III戦車も確認しました!」
「なっ!」
その陣容は……トリニティの宿敵たるゲヘナのものだ。
(不味いぞ……このままでは挟み撃ちだ)
「ど、どうします?」
「全軍に通達しろ!撤退だ!」
「は、はい!」
もう既に敗色が濃厚なこの状況で、異を唱える者はいなかった。
ちょこっと解説
ニア
アマネが言ってたロボオタ友達。
エンジニア志望で、ミレニアムに入学する気だったが、アマネにMSを見せられてミレニアムのことが頭から飛んだ。
マチルダII
トリニティの主力戦車。
モデルは第二次世界大戦のイギリスの歩兵戦車。
クルセイダー
原作でもトリニティが運用していた巡航戦車。
現在の時系列だとまだ新型。
3.7インチ高射砲
当時のティーパーティー砲兵隊が運用していた高射砲。
モデルはイギリスの高射砲。
Flak18
通称アハトアハトとも呼ばれたドイツの高射砲の一つ。
III号戦車
ドイツの中戦車。
ザク
ザクIIではなくザクIの方。
皮や武装は原作と同じ。
だが、スペックは全然違う。
現行のMSは戦車よりも強いが別に撃破出来ないわけじゃない。