機械兵と少女たちの記録(アーカイブ)と記録(メモリー) 作:KUS
「面倒なことになった……」
執務室で、私は頭を抱えていた。
先程通達された、フィリウスとサンクトゥスの首長交代。
サンクトゥスは予想していた通りだが、フィリウス……カナまで交代するのは予想外だ。
「はぁ……どうするか」
後釜に座るのは次期首長の予定だった二年の行政官。
カナよりかはやり合う上ではマシ。
だが過激派過ぎて突拍子もないことをしそうだ……
「くそっ!憎悪が先立って大局が見えてねぇのかよ!」
首長をこのタイミングで交代。
名目は先の敗北だろうが……
本音は独立が許せねえだろう。
もしこのタイミングで仕掛ければ、トリニティは約束を簡単に反故にする学園として信用を無くしかねない。
「どうする……」
私が長考していると、行政官が扉を強く開けて入ってきた。
「ユウ様!」
「なんだ!騒々しい!」
「直ぐに来て下さい大至急!」
「うおい!?引っ張るな!?」
私は行政官に腕を引っ張られながら部屋を出た。
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行政官に連れてこられたのは、トリニティ郊外の遺跡だった。
ここはパテル分派がまだ学園を設立する前。
トリニティが成立するよりもずっと前に、学園の設立を宣言した場所だ。
トリニティ成立後も、旧パテル自治区に佇んでおり、首長となる者はここで宣誓をするのが習わしとなっていた。
「ここがなんなんだ」
「いえ、重要なのは地下です」
「地下?」
「はい」
行政官によると、パテルの中でも大きい力を持つ聖園家のご令嬢が、幼馴染のフィリウスの桐藤のご令嬢と遊んでてここに迷い込んだらしい。
そしたら地面が崩れ落ちた。
幸いにも大きな怪我はなかったが、そこは外側の石造りではなく、金属で出来た機械的な通路があったらしい。
「はぁ……その2人は?」
「まだおられます。なんでも見てみたいだとか」
「私は一回会ってくるから、何かあったら呼べ」
そう言って私は2人がいる仮設テントに向かった。
「だ~か~ら~、見せてくれたっていいじゃないですか!」
「だから無理なんですよナギサ様」
「相変わらず元気なことで……」
私がテントに入ると、そこでは調査員と言い争う桐藤のご令嬢──桐藤ナギサがいた。
因みに横でオロオロしているのが聖園家のご令嬢、聖園ミカ様だ。
「相変わらずですねナギサ嬢」
「あっ、ユウお姉ちゃん」
「ユウさん聞いて下さい。この人、私を遺跡に入れてくれないんです」
「はぁ……私が対応するから、お前は仕事に戻れ」
「は、はい!」
調査員に指示を出して、2人の前に座る。
「ユウさんも、入っちゃだめって言うんですか?」
「私としては、ナギサ個人は信用してるがな……フィリウスの人間がパテルの遺跡に入るのが気に入らない人間もいる」
「わかってます」
「わかってるならいい」
「ねえユウお姉ちゃん」
「なんだミカ?」
ナギサを説得していると、ミカが横から話しかけてきた。
「ナギちゃん、連れてっちゃダメ?」
「ミカちゃん……」
「う~ん……」
ミカの若干うるうるした目に、連れてっても大丈夫かな?と揺らぎかける。
流石に耐えさせてもらうが。
「うう~」
「……ナギサ」
「何ですか?」
「ここで見たことは誰にも、家族にも言わないって約束出来るか?」
「……はい!」
「元気のいい返事だ。だけど、今回は本当に特例だからな?」
そういった感じで、私は2人を伴って遺跡に入っていった。
ユハからは当然、大目玉を食らったが。
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「ここで、行き止まりです」
「あるのは扉が一つ。この先に何かあるっぽいな」
「ドアのロックは生体認証付きのようです」
「へぇ……」
私はそれを聞いて扉の傍にあった端末に手を触れる。
ビー!
『認証対象、資格なし』
「当たり前か……」
私は由緒正しい家の生まれじゃない。
れっきとした庶民出だ。
パテル首長に上がれたのも、実力があったから。
「はいはい!私がやる!」
「おっ、やってみるか?」
そして名乗りを上げたのはミカだ。
ミカは端末に手を触れる。
ピー!
『認証対象……軍閥長、聖園ミホ氏の血縁と確認。ロック解除します』
「やったね!」
ミカはロックを解除出来た。
わかってたことだが……
扉が開く。
そこにいたのは……
「こ、これは……」
「こいつは……」
そこにいたのは、前の武力衝突でトリニティを蹂躙したパクスの人型と似たロボットだった。
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「すごい……」
「これがロボットってやつ?」
「ユハ、端末は?」
「今調べています」
大きさは、4~5m。
青い胴体に、白い翼が目を引く。
どうしてパテルに……
ピピ……
「!?起動します!」
「ミカ!ナギサ!私の後ろに!」
ロボットが起動し、頭を上げる。
周りを見渡すように首を動かすと、こちらを見下ろした。
『何者だ?』
「喋った!?」
「落ち着け、喋るロボットはキヴォトスじゃ珍しくないだろ」
「そ、そうでした」
目の前のロボットは黙ったままだ。
そして、全員が落ち着いた所でようやく喋り始めた。
『あの時から、何年たった?』
「あの時?」
『俺が封印された時、平和となり学校が設立し始めた時だ』
学校の設立。
もしかして……
「パテル学園が設立されてから、1000年は経ってるよ」
『1000年か……永く眠っていたみたいだな』
「お前……古代のオーパーツか?」
『1000年前に作られた兵器という意味なら肯定する』
「こいつは大物だな」
遺跡で見つかったのは自我のある巨大ロボット。
おまけにパクスが投入したのと似ている。
火種かこれ?
『今更だが、お前は何者だ?』
「桐谷ユウ、パテル分派首長」
『お前が今のリーダーか……待て、分派?』
「ああ、数百年前、パテルはフィリウスやサンクトゥス、他多数の分派と一つの学園になった」
『そうか……ならアリウスも……』
「アリウスはいねえよ」
『何?』
「トリニティ……連合が出来る時に反対して弾圧された。今はどこにいるのかも分からない」
『……なんだと?』
「軽蔑するか?」
『ああするとも。同胞を容赦なく弾圧した貴様らをな!』
分かりやすく語気が荒くなるロボット。
こいつにとって、同胞を弾圧することは許せないことだったんだろうな。
『かつてのパテルは、アリウスの最友好の相手。それを裏切るとは……』
「……言い訳する気はねえよ」
『ならばパクスはどうだ。俺の創造主達が設立した学園』
「……」
『まさか、それすらも貴様らは踏みにじったのか?』
「……つい最近、ようやく独立した」
『踏み潰したのだな。堕天使どもが……』
「……」
『堕ちたものだ。予てより血の気は多い印象ではあったが、平和を謳う者達を踏み躙る蛮族だとは考えもしなかった』
完全にブチ切れているな。
まあ……無理もないか。
言い訳はする気はない。
パテルだって、100年も見て見ぬふりをしてきたんだ。
『帰れ、二度と来るな』
「……気持ちはわかる。だが、帰る訳にはいかない」
『何?』
「パクスは独立した。だがそれが気に入らない連中がいる」
『……』
「あんたを見つけちまった以上、他の連中に利用されないようにする義務が私たちにはある」
『……』
「故郷を燃やす手伝いは……ごめんだろう?」
『……桐谷ユウ、だったか?』
「なんだ」
『お前が願う物はなんだ?』
願う物……か。
後ろにいるユハ、ミカ、ナギサ……他にも大勢の部下達。
私の願い……
「平和……じゃありきたりか?」
『……』
「お前、名前は?」
『型式番号、XXXG-00W0 ウィングガンダムゼロ』
「ゼロ……私と契約だ。いつか、あの少女がキヴォトスに大きな波を起こす」
『少女?』
「高原アマネ、今のパクスのトップ。そしてお前の創造主の末裔」
『……』
「あいつは波を起こす。それが良いものか悪いものか知らんがな」
『何が言いたい』
「その波が起きるまで、パテル首長に仕えろ。代わりに私たちは目指してみるさ。お前の創造主や、あの子が目指したものをな。気に入らなければ好きにすればいい」
『なるほどな……』
「手始めに私を乗せろ」
『何?』
「ユウ?!」
私の発言にユハが驚きの声を上げた。
ミカとナギサも心配そうに私を見ている。
「乗ってもいいよな?」
『覚悟はあるのか?』
「当たり前だ。乗って大丈夫か、私が判断する」
『良いだろう、乗せてやる。貴様の覚悟に免じて』
ゼロの胸部が開く。
あそこがコックピットか。
「ユウお姉ちゃん?」
「ユウさん……」
「大丈夫……死にはしねえよ」
そう言って私は、ゼロに乗り込んだ。
「乗ったはいいが……何をするか」
『少し待て、シミュレーターを起動する』
そうすると……目の前のディスプレイが光った。
正面には敵機らしきものが2機。
「あれを倒せば良いのか?」
『ああ』
それを聞いた私は操縦桿を握り、動かした。
ゆっくりと、シミュレーターの中のゼロが歩いているのが分かる。
敵はまだ動かない。
「待ってくれるのか?」
『初心者どころか赤ん坊の状態で判断も何もあるわけないだろう?』
「それはそうだな」
それから機体の動きに慣れていく。
歩く、走る、飛ぶ、跳躍、ブースト、射撃、近接武装の取り出し……
「そろそろいいか」
『なら動かすぞ』
敵機に対してブースト(バーニアと言うらしい)を吹かし、突撃する。
次の瞬間、私はコックピットごと貫かれていた。
「!?」
はっとなり、体に触れた。
生きている。
その後も、戦闘を行っている中で自分の死を何度も幻視した。
「はぁ……はぁ……」
『驚いたな。現代のヘイロー持ちは自分の死に耐性がないと思っていたんだが……』
「どっから持ってきたその情報……」
『お前が慣らしをしている間に調べた』
「そうかい……」
ちゃっかりしてやがる。
「これは……なんだよ……?」
『俺に搭載された特殊システム、ゼロシステムによるものだ』
「ゼロシステム……」
『ゼロは演算によるあらゆる予測結果をパイロットの脳に直接伝達するシステム。簡単に言えば未来予知システム』
「なるほどなぁ……」
大体理解した。
さっきから死のイメージばっかなのは、それだけ死ぬパターンが多いってこと。
だが生きる可能性ゼロってわけではない。
「乗りこなしてやるさ……このじゃじゃ馬をな!」
そこから数時間、私はゼロシステムと格闘しながら操縦を行った。
時折ゼロの驚きの声が聞こえた。
聞いてみたら、かつてのパイロットと同じくらい動かせているらしい。
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ゼロと出会ってから数か月。
ユウはあの後も時間が空くたびにゼロの下へ足を運んでいた。
ミカとナギサも定期的に訪れていた。
きつそうな性格だが、実際は結構面倒見がよかったのだ。
「そろそろうちにホストが回ってくる時期か」
「そうですね」
「なんか機嫌悪くないか?」
「そこまでです」
ユウとユハが話しているのは、ホストの件だ。
ユウはこのタイミングでパクスとの関係を固めておきたいと考えていた。
フィリウスとサンクトゥスが暴走する前にだ。
「さてと、書類書類……」
パリーン!
ユウが書類を片付けようとした瞬間。
部屋に一つの爆弾が投げ込まれた。
ティーパーティーの執務室に爆弾を投げ込む。
これだけでも大問題なのだが、ユウが疑問に思ったのはそこではなかった。
キヴォトス人は、銃撃や爆発に異様な耐性がある。
例え爆弾を投げ込んだとしても、嫌がらせにしかならない。
じゃあ嫌がらせか……窓が割れてからの一瞬の間でユウは思考を完結させる。
だが、嫌な予感が拭い切れず、爆弾の方を向いたら……
そこにあったのは見たこともない形状の爆弾だった。
ユウの動きは早かった。
「ユハ!」
「!?」
次の瞬間、部屋は閃光に包まれた。
「つぅぅ……なんなんですか一体……ユウ、大丈夫──」
ユハがユウを起こそうと体を揺さぶると、手にべったりと赤い液体が付着していた。
「えっ……」
「ゆ、ユハ……」
「ユウ……なんで……びょういんに……」
「大丈夫……そうで……よかった……」
その言葉と共に、ユウから力が抜ける。
「ユウ……ユウ!起きて!お願い!」
ユハの叫びは虚しく宙を切った。
その後、駆け付けたパテル派の職員によってユウは救護騎士団に担ぎ込まれた。
初めての状態に騎士団は戸惑いながらも、彼女らによる懸命な処置でユウは一命を取り留めた。
その後、代理でホストに着いたサンクトゥス分派がフィリウス分派と共に声明を発表。
テロの黒幕はパクス連邦学園と断定した。
パテル以外の多くの生徒がその声明を信じ、トリニティ内で反パクス感情が激化。
トリニティはパクスに対する宣戦布告を行った。
連邦生徒会も、この動きを支持。
それから二年間。
トリニティによるパクス攻撃が度々行われるが、
増産されたMSやパクス側の練度向上などが要因となり、敗北を重ねることになる。
そして、二年後。
アオの連邦生徒会への入学が近付いていた。
ちょこっと解説
ユハ
苗字は仙寿。
ユウとは幼馴染で、入学してからずっと付き従っている。
周囲からは腰巾着扱いだったが、ユウと共に頭角を現していった。
襲撃事件後、卒業するがユウの看病の為にキヴォトスに残った。
ミカ
この時はまだナギサに振り回され気味。
将来的には振り回す側になる。
ユウとは社交界で初めて会った。
彼女の妹と仲が良く、ユウのことも姉のように慕っていた。
ナギサ
まだやんちゃ。
ゼロとユウの対話をきっかけに平和を志すようになり、後のエデン条約推進に繋がる。
ユウとは派閥が違うもののミカ経由で知り合って以来、仲良くなっている。
ウィングガンダムゼロ
型式番号はXXXG-00W0。
新機動戦記ガンダムWに登場したガンダム。
今作ではアクアが作ったガンダムの一機という設定。
後にパテル軍閥に譲られ、戦争終結後に封印された。
割と面倒見がいい。