機械兵と少女たちの記録(アーカイブ)と記録(メモリー) 作:KUS
「副会長、攻撃してきたトリニティ部隊を撃滅したそうです」
「捕虜は?」
「いません。自力で帰るでしょ」
「そう……」
「それから亡命希望者が」
「ゲヘナの?受け入れると伝えて。会長ならそうする」
「わかりました」
戦闘終了後、生徒会は後始末に追われていた。
戦闘は圧勝したが、MSは数機撃墜され、戦車隊にも損害が出た。
トリニティのMS部隊は明らかに練度不足だったが、戦車隊が意地を見せたのだろう。
そんな中で、ゲヘナから亡命してきた雷帝派の生徒会役員や正規軍の受け入れ。
やる事はいっぱいだった。
「会長は?」
「先ほど到着しました。今は医務室に」
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないです。意識が戻りません」
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ここは……どこだろう……
何があったんだっけ……
「会長!目が覚めたんですか!?」
確か会場で……ソルちゃん?が叫んだら衝撃が来て……
「会長!」
「あれ……」
「やっと……起きた……」
「ソル……ちゃん?」
「待っててください、委員長と副会長呼んできますから」
そう言ってソルちゃんは部屋から出ていった。
よく見れば……ここ医務室だ……
しばらくして、ソルちゃんが2人を連れてきた。
「……脈に問題はありません。この言葉を言うことになるとは思ってもいませんでしたよ」
「ほっ、良かった」
「委員長、会長の怪我は?」
「酷いものですよ。しばらくは絶対安静。公務もお控えください」
そう言ってイアちゃんは部屋を出た。
「ねえ、何が……あったの」
「……」
「会長……」
一番気になっていたこと。
あの場で何があったのか。
それが知りたかった。
「……」
「どうか……したの?」
「会長……落ち着いて聞いて下さい」
「?」
深刻そうな顔で……話し始めた。
「まず会談はご破算です。当たり前ですが。なのですが……
フィリウスとサンクトゥスがテロの黒幕をこちらだと断定して攻撃を仕掛けてきました」
「えっ……」
「それに加え、トリニティはMSの配備を開始しています。宣伝に力を入れているようで、テロの件も加わって……」
「あっ、えっ?」
「それとトリニティから資金がミレニアムに流れているのを確認しました。恐らく連中が関与しています。それからゲヘナでもクーデターが発生……親トリニティ派が……」
「もういい!いいから!」
私は反射的に耳を塞いでうずくまった。
「会長……」
「副会長……俺が見てますので、公務に戻ってください」
「ええ……お願い」
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なんでこんなことになったんだろう。
何か……間違えたのかな……
戦わなくても……手を取り合える。
そう思ってたのに……
ライちゃんだって……ユウさんだって……
手を取り合えたのに……
なんで?
保険とはいえ力を持ったから?
下僕風情が独立を目指したから?
それとも……
私がいたから?
そうだ……
私がいたから……
私がいなければ……パクスは戦争に巻き込まれなかったかもしれない。
私が
わたしがいなくなれば……
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「会長?」
先ほどまでベッドから顔を出さなかったアマネ会長が急に起き上がった。
会長は、ベッドから降りると、窓に向かって歩き出した。
風景が見たいのか……そう思ったが、何か様子が変だった。
「会長?何やって……」
次の瞬間……
会長は窓から身を乗り出していた。
「会長!?」
俺は直ぐにダッシュして、落下し始めた会長の腕を掴んだ。
「ソル……ちゃん?」
「何……やってるんですか……!」
「だって……わたしがいたから……」
「何が!」
「わたしがいたからソルちゃんだって、怪我をした!ライちゃんが追い落とされた!ユウさんだって……あんなことになった!」
会長の目からは、涙が溢れていた。
「そんなこと……!」
俺は腕に精一杯の力を込める。
「あるわけがないだろ!」
そして、思いっきり会長を引っ張り上げた。
「あるわけがない?じゃあなんでこんなことになってるの!」
「知るか!少なくとも会長のせいじゃない!」
「そんなことない!全部……全部私が……」
「何がいなくなればだ!会長に感謝こそすれど、恨んでる人間なんかこの自治区のどこにもいない!」
「あんたがいなければ!まともな金もなく!その日を乗り越えるので精一杯!……」
「会長がいたから……漸く……希望が見えたんだ」
「例え戦争中でも……搾取される人生よりよっぽどマシだ!母校の……恩人の為に戦えるんだから……」
一回息継ぎをするべく……言葉を切った。
会長はただただ呆然としていた。
いきなりタメ口で捲し立てられたんだから当たり前か……
「そんなの……」
「あるから……言ってるんだ!それに……あんたが始めたんだろ!
「あっ……」
「その時まで……俺が傍にいるから……」
俺はそこで切った。
……よくよく考えたら何言ってんだ??俺??
「か、会長……」
「……」
「なんか……今のは……」
「う、ひぐ……」
会長は俺の胸に顔を埋めると、そのまま泣き始めてしまった。
俺はそれに対して、抱擁で返すしか出来なかった。
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「落ち着きました?」
「……うん」
「あの……タメ口使ってすいません」
「別に……同い年だし……」
そう言えばそうだった。
学年的には先輩だが……アマネ会長は飛び級組だったな。
「会長……その……」
「アマネ……」
「はい?」
「会長じゃなくてアマネ名前で呼んで」
「アマネ?」
「うん……そう……」
ええっと……
「アマネ」
「そう呼んで……」
「わかりまし──」
「タメ口でいい……」
しばし沈黙が続いた。
抵抗感というより……慣れない。
「アマネ!怒号が聞こえたけど!」
「ニアちゃん?」
技術部のニアが急ぎながら医務室に入ってきた。
そりゃ……あんな大声出したらな……
「ねえニアちゃん……」
「色々物申したいがなんだ?」
「アメリアに連絡を取って」
「アメリアに?それまたなんで?」
アメリア……パクス連邦学園の分校の一つだ。
連邦の中では飛び抜けた技術力を持っている。
「亡命してきた雷帝派に、技術者いるでしょ?」
「いるな」
「その人たちと技術部、アメリアも加えて作ってほしいものがあるの」
「なんだ?世界を強制的に平和にする装置でも作りたいのか?」
「うん、そんなもの」
ニアが固まった。
冗談で言ったら肯定されたんだ。
そりゃそうなる。
「設計図は後で送るから」
「はぁ……わかった。連絡はしてみるよ」
「ありがと」
ニアはそのまま連絡を取りに部屋を出た。
俺はアマネに質問をする。
「アマネ、何する気だ」
「ソルちゃんが言ったんじゃん。最後まで責任取れって」
「言ったな」
アマネは意地悪く笑いながら……言った。
「だったら最後まで取るよ。"どんな手を使っても”、ね」
その時のアマネの笑顔は、まるで憑き物が落ちたみたいだった。
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爆破テロから数ヶ月後
連邦生徒会では、とんでもないスピードでトップまで上り詰めたアオと、その補佐的な立場になった俺が書類に追われていた。
「多すぎない?」
「黙ってやって下さい」
「やってるよ」
愚痴を口にした俺に苦言を呈したのは行政官のリンだ。
「リンちゃ~ん、こっちも手伝って~」
「会長は一人でできるでしょう。あとリンちゃんはやめてください」
「アキさ~ん」
「悪い、俺も手一杯」
アオはというと……俺が知っている原作での性格に完全にチェンジしていた。
二人っきりの時は昔の固い口調だが……
まあ固いのはリンだけで充分だと思ってるが。
「そもそもなんでこんなに書類があるんだ?」
純粋な疑問だ。
原作でも相当な書類量だったが……原作前でこれなら一体…どうなるんだ。
という考えが頭を支配していた。
「書類終わらないよー」
「なあリン、一回休憩にしないか?多いだけで余裕がないわけじゃないし」
「そうですね……一度休憩を挟みますか」
「わぁい……テレビで何かやってないかな」
「それニュース用じゃないっけ」
「ニュース用です」
アオはお構いなしにテレビを点けた。
ちょうどこの時間はクロノスがニュース番組をやっている。
特集……パクスのことが組まれていた。
相変わらず偏向報道が過ぎる。
そんな事を思っていると……唐突に画面にノイズが走った。
「あれ?おかしいな」
「故障か?」
「最新式ですよそれ」
アオは何度かチャンネルを変えるが、どれもノイズが走って画面は暗転したままだ。
マジで故障したか?
「ミレニアムに連絡取るか?」
「そんな簡単に故障する筈はないと思いますが」
「まぁ……見るだけで見てもらおう」
そんな事を話していると、不意に画面が点く。
どこかの議事堂か?
って……あの校章は?!
「ここって……」
「パクス?なんでまた……」
「アマネちゃんに何かあったのかな」
三者三葉に不安を口にする。
画面に映る議事堂は、大勢の将校や行政官と思わしき生徒達により埋め尽くされていた。
台の後方には黒い軍服を纏った生徒達。
よく見ると副会長もいる。
すると……舞台袖から一人の人物が歩いてきた。
「えっ……」
「アマネ?」
桃色の長髪に、黒い制服を身に纏っている彼女は……
間違いなくアマネだった。
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アマネちゃんが壇上に立つ。
その顔に笑顔はない。
そして、アマネちゃんは一度微笑むと、喋り始めた。
『初めまして。知っている方はこんにちは。パクス連邦学園生徒会長、高原アマネです』
初めは落ち着いた自己紹介。
それだけならいい。
でも……嫌な汗が拭えなかった。
『今日は皆さんに大事なお話があって、このように電波をジャックさせてもらっています』
『皆さん、平和とは何でしょうか』
『争いのない世界なのか……戦争のない世界なのか』
『ゲヘナのように毎日が爆発祭りな自治区もあれば、レッドウィンターのように革命が日常茶飯事な自治区もあります』
『一見、混沌とした状況ですが、彼女たちにとってはこれが平和、日常です』
『ミレニアムのように実験の失敗で研究室が吹き飛ぶのも』
『トリニティのように蹴落とし合いが常態化しているのも』
『彼女たちにとっては日常、平和なのでしょう』
『このように、平和と言うのは、学園によって異なります』
『では我々、パクスはどうでしょうか』
アマネちゃんがそこで言葉を一旦切る。
不安を口にしたかったけど、アキさんもリンちゃんも真剣に見ていた。
だから口にする空気ではないと思った。
『嘗てパクスが表明した平和は、誰もが笑顔で、普通に暮らせる、そんな社会です』
『争いに関与せず、ただ大人しく。それだけです』
『しかし、それは踏み躙られました』
『それでも先人達は諦めませんでした』
『テロに走った者達を私は肯定しません。ですが、平和的に独立を目指した人達もいました』
『そして2年前、遂に、我々は悲願を成し遂げました』
『しかし……それでも争いは終わりません』
アマネちゃんが悲痛な表情を浮かべる。
でも、微かに憐れみを感じた。
『突然の友好派に対するテロ。彼女たちは、我々を犯人と断定して攻撃しました』
『少し考えればわかります。証拠もない上にメリットがない』
『なのに我々が犯人と断定しました』
『同じことは数ヶ月前にもありました』
アマネちゃんが言っているのは、間違いなく爆破テロのことだ。
『同じような事件が二度も、しかも調べたらびっくりしました』
『どこかで見たことのある白い制服の生徒が、爆弾を仕掛けているのですから』
映像に出てきたのは、監視カメラの映像だろうか。
そこには紙袋を置くティーパーティーの生徒。
画面の向こう側では、生徒たちの怒りの声が聞えてくる。
『少し調べたらこれが出てきました』
『これくらい、学園の情報部、三大校クラスなら簡単に調べられます』
『なのに……トリニティは戦争を選択し、無理矢理政権を奪ったゲヘナはそれに同調するかのように動いている』
『ミレニアムはそれに協力するかのように技術を貸した』
『私はこれを受けて、一つの結論に至りました』
嫌な予感が大きくなっていく。
当たらないでお願い……
『そこまで戦争が好きなら……応えるだけです』
『連邦生徒会も、静観するばかり』
『果たして、今のキヴォトスに必要な存在なのでしょうか』
やめて……それ以上行っちゃっ……
『ですので……
我々パクス連邦学園は、連邦生徒会、並びにキヴォトスに対して宣戦布告を行います』
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「合図が出ました!」
「よおし、全艦砲撃開始!」
トリニティ自治区付近の海上。
近場に沿岸基地がある海域に待機していた艦隊が、
駐留していたトリニティ艦隊に対して砲撃を開始した。
突然の奇襲攻撃にトリニティ艦隊は成す術もなく轟沈していく。
一方で、トリニティ同盟校のラクロア学園自治区上空
「宣戦布告が終わりました」
「各機、爆撃を開始しろ。焼き払え」
上空にいた爆撃機──B-29の大群が夥しい数の爆弾を投下していく。
B-29は戦略爆撃機と呼ばれるタイプの爆撃機だ。
目標は工場や資源採掘施設……
更には住宅地やインフラなどの民間区域。
「きゃあ!」
「逃げろ!」
突然上空から爆弾を投下され、市街地はパニックに陥る。
航空戦力が乏しいキヴォトスに於いては、対空砲も少ない。
あっても対空訓練は殆どなされてない。
そんな中で、空へ反撃など出来るわけもなかった。
そしてゲヘナ学園自治区郊外
「パクスのMS部隊です!」
「迎撃しろ!」
ゲヘナ正規軍のMS部隊がパクス軍を迎え撃っていた。
ゲヘナ側はストライクダガーやロングダガーが中心。
パクス側はザクやグフ、ドムもいる中……
雷帝派に持ち去られた105ダガーやデュエルダガーもいた。
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パクス議事堂のスクリーンに、その惨状がリアルタイムで映されていた。
『これで、我々が本気だとわかって頂けましたか?』
『来るものは拒みません。ですが、刃を向けるのならあなた方の自治区がこうなります』
『最後に……オール・ハイル』
『オール・ハイル パクス! オール・ハイル パクス!』
議事堂だけでなく、攻撃中の部隊や自治区全体で、その斉唱が鳴り響いた。
ちょこっと解説
イア
パクスの保健委員長。
出番は今回限り
ストライクダガー
機動戦士ガンダムSEEDに登場した地球連合軍の主力MS。
ストライクの名を冠しているが、別にストライクガンダムの量産型というわけではない。
今作ではゲヘナの主力MSという設定。
パクスと雷帝の共同でストライク含めたGAT-Xシリーズが発見されたため、開発に至った。
ロングダガー
機動戦士ガンダムSEED MSVが初出。
デュエルガンダムの量産型。
こちらはコーディネイターや強化人間専用機の高性能機となっている。
デュエルの名を冠していないのは、ザフトに強奪された機体の名前を使うのに抵抗があったかららしい。
今作でもデュエルの量産型。だがコーディネイターが存在しないので、ただの高性能機となっている。
デュエルダガー
機動戦士ガンダムSEED MSVが初出。
ロングダガーのナチュラル仕様。
なんでか抵抗感のあったはずのデュエルの名前が使われている。
今作ではロングダガーのデチューン版という設定。
105ダガー
機動戦士ガンダムSEED MSVが初出。
ストライクの量産型で、ストライカーパックを装着している。
機体名の105も、ストライクの型番であるGAT-X105から来ている。
今作ではストライクの正式量産を目指した機体という設定。
なお、全機が雷帝派に持ち逃げされた。
B-29
アメリカが第二次世界大戦で運用した戦略爆撃機。
開発は飛行機で有名なボーイング社。
アメリア分校
パクスの分校の一つ。
技術力が桁外れらしく、雷帝派や本校技術部とともにパクスの短期間軍拡計画に寄与した。