中心地では至る所で火が焚かれている。赤、青、黄、橙……、様々な色の
夜には通りを屋台が埋め尽くすのはもちろん、木造都市のありとあらゆる場所が飯屋に変貌して、馬や
まず夏は肉汁したたる羊肉串を食べた。
それから羊肉で
中でも一番気に入ったのは、
「君は葱を食べたら死ぬんじゃないのかな。猫は葱を食べたらいけないって聞いたよ」
夏は
そして店主が言った。
「さあ、次は何を食べる。作ったことのあるものなら何でも出してやる」
「もうお腹いっぱいだよ。十分食べた。串が10本、
小狸は『まだ食べられるぞ!』と、夏の座る椅子を掻いた。
「そうか。なら甘味はどうだ?」
夏は頬杖をついて、純朴な感じに
「何か焦っているのかな。入り用かい?」
店主はぎくりと体を
「たまに店の裏を気にしている様子だったけど、誰かいるの?」
そして店主はため息を1つ吐いて、頭を掻きながら言った。
「まあ、なんだ。あと饂飩を40杯ほど食べてくれたら、必要な薬を買えるだけの稼ぎを得られる……、ってやつだ」
「あと40杯を僕1人で
言って夏は店の裏、
そっと顔を覗いてみる。まったく動かないから寝ているものと思ったが、実のところ起きていて、しかし目は
夏は彼女の足を見た。
「
都会で流行し始めている施術で、足に布を強く巻いて成長を阻害する。すると足だけがくしゃくしゃに折り畳まれたようになり、役人好みのする可愛らしい小さな足に仕上がるのだった。3寸(10センチメートル)程度に収めるのが良いとされた。
夏が見るに、左足の小指と薬指が壊死して取れかけている。
「俺みたいに貧乏をしない娘にしようと思ったんだ」
「それは成功した?」
「まあ、途中まではな──」
娘の名前は
小さい頃からこの辺りでは玉娘として有名だったものだから、数え五つとなった時に
その後はめでたく
以降は父親である店の主人が看病しているが、どうにも回復する気配がない。工面して薬を手に入れても、徐々に弱っていくばかりだった。
「そうかぁ。小狸、君は足の小さな女の子は可愛いと思うかい?」
猫はにゃあと答えた。どうやら嫌いではないらしかった。
「僕は天からの授かりものを大切にするのをおすすめするけどね。足があれば自分の意思で色んなところに行ける。自由だ」
「しかし、女が丈夫な足を持っていれば
「女はツラいね」
夏は背負袋から小さな巾着袋を取り出すと、その中身の一粒を取り出した。赤色の小さな
「これを飲ませてみよう。きっと、毒も消えるよ」
人差し指に丸薬を乗せて、娘の口の中にくいっと突っ込む。
「な、なんだそれは。妙なものじゃないだろうな……?」
「妙なものと問われると妙なものなのだけれど……。言ってしまえば、
店主は眉根を寄せてしばらく黙り込むと、突然閃いたようにハッと目を見開いた。
「まさか、
丹薬とは、世の凡ゆる病を退けるとされる薬である。材料は生命の証である赤の辰砂、龍の
「何でそんなものを持っているんだ? アンタ、もしかして、仙人なのか?」
「あんまりその籍に
夏は
「安静にしていれば良くなるよ。残念ながら足の形は治らないと思うけれど、人間、割り切って生きていくしかない」
出て行こうとする夏の腕を、店主がぱしと掴んだ。
「な、なあ。もっと飲ませてやってはくれないか!? 3つ飲めば仙人になるのだろう!? 仙人になれば寿命がなくなるんだろう!? 天地の理がわかるようになるんだろう……? 俺は娘に楽をさせてやりたいんだ」
「仙人になったって、いいことばかりでもないよ。友人も家族も、僕の側からいなくなってしまうものだ。『孤独』は死よりも辛いものかもよ」
そして夏はそっと店主の手に触れてやった。思うよりもひやりとしていて、驚いて店主は手を引っ込めた。まるで死人の体に触れたようだった。
「ごちそうさま。とても美味しかったよ」
言って夏はそのまま店を出ていった。
「お前は僕より先に死ぬなよ。実はもう死んでもいい年だろう?」
「にゃあ」
「何? 次は
路地裏の先、色とりどりの夜市に人の影が揺らめく。どこかの屋台が、新しい