3羽の
こうした日は
三烏共に凡輝なれども、元より数日前から金烏が弱っていたことを考えれば、
「
雲一つない乾いた空の下、
「船で2日ほど南に行けば
夏の言う府は
「釣れた」
乗っているのは
「乗るか?」
「南に行くでしょう?」
「支流には行かねえぜ」
「いいよ。府に出たい」
「なら乗りな。二百
日雇い労働2日分の、
乳河沿いには河川舟運によって栄えた街がうんとあるので、船さえ手配できれば旅路に苦労はない。川沿いを陸路を行くよりも遥かに楽ができる。
船には火鉢が置かれていて、夏はありがたくそれにあたった。先客の商人が火鉢の側で
「茶はいかがか、お嬢さん」
粉を茶碗に入れて、湯を注ぐ。湯気と共に豊かな香りが立ち昇った。
「いいのかい?」
「売り物だが、まあ商人たるもの売り物の味を知っておかなきゃな。アンタは幸運だったのさ」
折角なので茶をもらった。まるい味の茶だった。遅れてキリリとした苦味が広がり、鼻から抜ける香りは濃厚だ。
「イケてるね」
「役人が競い合うための名茶だ」
役人間ではもてなす茶が
「いくらで売れると思う?」
「さあ。50文かな」
「馬鹿言え。仕入れで600文だぞ。1
1000文が1貫、つまり
猫は夏の飲みかけの茶をちゃぷちゃぷと舐めた。風雅な猫であるから気に入ったらしく、飽きることなく舐め続けている。
そうしている内に川霧が出て、辺りが白く
「ひどい霧だな。オヤジ、無事に府に着けるんだろうか」
「俺を信じろ。この道25年だ」
「ん……?」
商人が眉を
「1、2、3……。驢馬が一頭足りないぞ」
「そんなわけあるか。数え間違えたんじゃねえか」
「いいや、確かだ。そうだろ、お嬢さん」
問われて夏も指折り数えてみたが、確かに7頭いた驢馬が6頭になっているようだった。
「ああ? もう一頭減ったぞ」
「この霧で見えてねえ驢馬でもいるんだろう」
「船の中くらいはばっちり見えてらぁ」
再び夏も数えてみたが、やはり商人の言う通りもう一頭減っている。
「
ぼそりと呟くと、商人も艄公もぎょっと顔を引き
馬腹とは川辺に生息する獣である。人面の
商人が小声で言う。
「お、おい、ビビらせるんじゃない。こんな霧の中で馬腹なんかに
僅かの沈黙があって、霧の
そして艄公が声を荒げる。
「船の中央に寄れっ!」
しかし商人は、
「これ以上驢馬を食われてたまるかっ! これも大事な財産だ!」
「驢馬なんてどうにでもなるだろう! 惜しけりゃ原っぱで
夏は
「お嬢ちゃん、座れ、座れ! 危ねぇぞ!」
「まあでも、どこに隠れているか、大体の見当はついたよ」
そして夏は腰に下げた
「まさか戦う気かっ!」
「馬腹は狙った獲物を逃がさない。もちろん話が通じる相手でもないから、撃退する他ないのさ。誰でも彼でも気持ちが通じ合えば良いのだけれどね」
次いでその場でヒュンと刀を振るうと、まるで豆腐でも切るかのように川の先まで霧が真っ二つ、文字通り霧散した。視界が開けた。
夏は
顔部は人面というよりかは、どちらかと言うと猿、たとえば
「正面から来た。
そして猫がその大口に釣られて
カツンと硬く鋭い音がして
夏は立ち上がると、念のため馬腹の首に刀を差し込んだ。真っ黒な血が
商人が呆然として呟いた。
「で、でけぇー……。本当に人面虎だ……」
目算およそ八
「馬腹の肉を食べると
戦避けとは
夏はひゅんと曲芸のように刀を振るって血を払う。見事な装飾の入った鞘にそれを押し込むと、しゃきんと小気味良い音が鳴った。
その剣捌きを見て、艄公は言った。
「アンタ、武人なのか? まだ幼いように見えるが……、何度か戦争に出ているのか?」
「どうかな。戦はたくさん見たけれど、人に向かって剣を振るったことは無いよ」
「いいや、そんなわけがねぇ。俺も若い頃は軍にいたが、バケモノ相手に落ち着き払っているような人間は、見たことがねえ。それに、人殺しの目をしていた」
夏は猫を見る。
「戦いで言うと君の方がよっぽど人を殺しているよね」
猫は二度目の大欠伸。
「さあ馬腹を解体しようか。このままだと血が臭って他の獣を呼び寄せる」
天を見上げる。怖いくらいに群青に色づく空に、太陽が高くへばりついている。時間は十分にありそうだった。暗くなるまでに解体を終わらせたい。
「小狸、肉を食うといい。戦避けになるよ」
猫はぷいと顔を背けた。戦は人生──いや、猫生の華だと思っているので。