かっこよくなりたくて   作:なゆさん

1 / 2
思いつき。


カッコいい人に拾われて

幸せが消えるのは何時だって一瞬だ。特に、人が死ぬ時は。

父が死んだ日も、母が死んだ日も、弟達が死んだ日も、死の足音なんて聞こえなくて、不吉な気配なんてなくて、空はいつものように晴れていて、今と何ら変わらなかった。

 

――だから、私も今日死ぬのだろう。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「――よし、これで元通り。2人目ともなると慣れたものだね」

 

頭上からの声にずっと閉じていた瞼を開ける。目に映るのは傷一つない生まれたままの自分の身体。

 

「――戻った…?」

「そうとも。キミの身を蝕んでいた呪いは僕が治した」

 

再び声が聞こえた。見上げると、そこには自分と同じぐらいの男の子と、その傍に控える女の子がいた。

女の子は素肌の上からタオルを巻いているだけの中々寒そうな格好をしており、男の子は全身黒くて()()()()()()()()衣装に身を包んでいる。

 

「……察するに、そこの女の子も私と同じようにキミに治して貰ったってことかな?」

「そうよ。私も彼――【シャドウ】に治して貰ったの」

 

どうやら目の前の男の子はシャドウというらしい。

 

「シャドウ、シャドウか…。なんか、イイね。とてもイイ名前だ。キミによくあっているよ」

「どうもありがとう。あ~、キミは……獣人? それともエルフ?」

 

シャドウが尋ねる。疑問に思うのも無理はない。私にはエルフ特有の長い耳と、獣人特有の獣の尻尾がついている。

 

「私は異なる種の愛が交わり生まれし混沌――コホン、つまりエルフと獣人のハーフさ。」

「なるほど。そんな話は聞いたことがなかったから新鮮だな」

「私も、私と弟達以外会ったことがないからね。珍しいんだろう」

 

シャドウはともかく、横の女の子から嫌な顔でもされるかと思ったが、彼女は特に反応を示さない。前に会った純血主義のエルフ達とは違うらしい。

 

「――さて、突然だがキミにはこの世界の真実を知ってほしい。そして、僕の配下として共に世界と戦ってもらいたいんだ」

 

少し間をおいて、シャドウが話を切り出す。同時に、纏う雰囲気が明らかに変わった。まるで、何年も戦場を駆け抜けた老兵のような底しれない圧力だ。そんな人会ったことないけど。

 

「――世界の真実…? 世界と、戦うだって…?」

「あぁ。キミには知る権利がある。【悪魔憑き】の真実について、そして世界の闇【ディアボロス教団】について」

 

そこから彼が話した内容は、にわかには信じがたいような内容だった。御伽噺の魔人ディアボロス、英雄の子孫、ディアボロスの呪い、そしてそれらを隠蔽し、世界を裏から操るディアボロス教団。挙句、その教団の目的はその魔人の復活である、と。

 

「信じられない気持ちも分かる。だがこれは真実だ。我らは【シャドウガーデン】として、奴らと戦わなきゃならない」

「私も、彼から【アルファ】という新たな名を貰って、シャドウガーデンの一員として戦うと決めたわ」

 

私の心に、熱いものが宿る。腐りゆく身体と共に消えかかっていた炎が、再び灯った気がした。

 

「いいよ。キミ達に、シャドウについていく」

「――よく言った。ならばキミの名前は今日から【べ――」

「いや、名前を貰うのは遠慮するよ」

 

シャドウの言葉を遮り、私はきっぱりと拒否した。私の言葉に、シャドウは少しも動じていなかったが、傍らのアルファは私を少し睨むような表情をしている。気を悪くさせてしまったか。

 

「勘違いしないで欲しい。キミ達のことは信頼しているし、シャドウガーデンも凄くカッコいいと思う。キミ達についていくと言ったのは嘘じゃない。でも、私の名前は両親の遺してくれた【シルファ】ただ一つだ。そこだけは、どうしても譲れない」

 

この名は大事な遺産だ。あの日、家族を逃がす為に死んだ父との、別れも言えずに無残に殺された母との大切な繋がりだ。私は死ぬまで、この名だけは手放さない。

 

「大丈夫さ。表の世界に私を知る者なんていないし、私も未練なんてない。シャドウガーデンのシルファとして、キミ達と共に最期まで戦い抜くよ。両親に誓ったっていい」

「……いいだろう。ならばついて来い。まずは、2人には力をつけてもらう」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「我が主よ。コレを見てくれ」

 

あれから約2年と少し。私達は12歳となり、シャドウガーデンとしての活動を続けていた。

仲間は元悪魔憑きが6人増えて合計9人になり、シャドウの教えを受けて、それぞれがシャドウの技や知識を会得した。

ディアボロス教団の末端組織を襲撃したり、近くの魔獣を倒したりして実戦経験も積み、全員が世間での上積みの魔剣士とも遜色ない実力を手にした。中でも、私とアルファは裏の実力者に対しても負けないと言い切れるだけの力を得た。

そしてもう一つ、私は成長を遂げた。

 

「なに?」

「敵から奪った上質なミスリルの刀にスライムで改造を加え、我とイータで作り上げた、持ち主や斬った相手から魔力を吸い上げて貯蓄する刀だ」

「魔力を? 面白いね」

「コレと、前回作った常時魔力の流れを乱す眼帯をつけることで、私は3段階の変身を可能にした! どう? カッコよくない!? ……あ、コホン、いいだろう?」

 

あの日からずっと、私はシャドウに憧れている。あのカッコいい出で立ち、セリフの言い回し、そして戦い方。センスが抜群だ。

だから私も私なりにカッコいいキャラ付けをしてみることにした。まずは口調、そして無駄のない戦い方、ファッション、そして今完成した装備。

今の私は、追い詰められれば眼帯を外して魔力の精度を上げ、更に追い詰められれば魔剣の持ち主に対する魔力吸収を止めて本来の魔力を解放し、さらにさらに今まで貯めた分の魔力を解放して戦うという、3段階の強化形態を残している。凄くカッコいい!

 

「ごめんなさいシャドウ。自分の力を故意に封じて生活するなんて危険だと言っているのだけれど、シルファったら聞かなくて。変な喋り方も辞めないし」

 

アルファが余計なことを言ってくる。いい友達だし、頼りになる仲間だし大好きだが、アルファはロマンが分かってない。カッコよさを理解してくれない。そこだけは不満だった。会議とかで喋り方を変えたら凄い顔で怒ってくるし。

 

「良い」

 

シャドウがあのカッコいいモードに入って一言。それだけで場の空気が変わるのだからシャドウはやっぱりカッコいい。

 

「お前の信じる道を往けば良い。シルファ、お前ならば、いつかは辿り着くだろう」

「分かってくれるか、我が主よ」

 

流石はシャドウ。セリフがいちいちキマっている。私も精進しなくては。

 

「我が妖刀が血に飢えている…。今日の狩場は何処だ?」

「はぁ……。今日は森を南東に抜けた先にあるディアボロス教団の支部を襲うわ」

「我を満足させてくれればよいがな」

「皆を呼んでくるから、任務はしっかりこなして頂戴ね」

 

無論だ。こんなカッコいい言動で末端の教団員に負けていては恥ずかしくて死んでも死にきれない。

 

「我が名はシルファ。陰に潜み陰を狩る者。そして、主の道を開く者だ」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

時の流れは早いものだ。あっという間に約1年が過ぎ、私達は13歳となった。シャドウの姉君クレアが攫われる事件はあったが、その他想定外の事態もなく、教団との小競り合いや魔獣退治で個々の力を高めてきた。

 

「シャドウ。私達は、貴方の元を離れる時が来たわ」

 

そして今、私達は主の元を離れる。

 

「……お別れよ」

 

シャドウは何も言わなかった。私達の真意を察し、後ろ髪を引かれぬように、余計な言葉は口にしなかったのだろう。

教団は予想よりも巨大だ。戦う上では個々の力以上に、組織力や情報が大事になってくる。このままでは限界がある。組織として広がらなければならない。この別れは、必要だった。

この日、私達はシャドウの庇護下という安全地帯ではなく、本当の意味で教団と戦うことになったのだ。

 

 

 

「それじゃあ今から、私達の今後を決める会議を始めるわ」

「その前に、少しいい?」

 

いつもの隠れ家にてアルファの口上を遮り、私は手を挙げた。真剣な話だから、いつものキャラ付けもナシだ。

 

「何かしら?」

「私、シャドウガーデンを抜けようと思う」

 

瞬間、金属音が響いた。アルファの剣と私の剣が鍔迫り合う音だ。

 

「「アルファ様!?」」

「いきなり斬り掛かってくるとはね」

「冗談にしてはタチが悪いわよ、シルファ…! あの日の誓いを、シャドウに救ってもらった恩を忘れたの!?」

 

アルファの口ぶりにいつもの余裕はなく、顔には複雑な表情が浮かんでいる。

 

「忘れちゃいない。一度だって忘れるもんか。私の両親に誓ったものだ」

「じゃあどうしてそんな言葉が出るの!」

「私は私なりにシャドウに報いたい。だけど、シャドウが示してくれた道も追いかけていたい。――だから、旅に出たいんだ。これは私のワガママだ。ワガママを通すには、通さなければならない筋がある。組織に入ったまま夢を追うなんて、そんなことはできない」

 

私の目指す【カッコいい私】には、今の私では到底追いつけない。もちろん、シャドウの為ならその夢を捨てる覚悟だってある。でも、他ならぬ彼のお陰で夢を描けたし、他ならぬ彼が『信じる道を行け』と言ってくれた。

ならば、例え捨てるモノが多かろうとも、私はこの道に殉じたい。それ故の旅だ。

 

「もちろん教団とは戦う。けど、シャドウガーデンとしてではなく、シルファという個人として戦うことにしたんだ」

「……そう。決心は硬いのね」

「そうだね」

「分かったわ。――なら、決闘よ」

「…決闘?」

 

アルファから出た予想外の発言に、私は少し驚きつつ問い返す。

 

「真剣勝負よ。私が勝ったら貴方は残る。貴方が勝ったら、私も諦めるわ」

「意外だね。アルファなら私の理由と決心を聞けば、快くとはいかなくとも素直に見送ってくれるものだと思っていたけど」

「……そうね。本人が望んだことを阻むなんて、本来あまりやりたいことではないわ。――だけど、私だって貴方が大事で、貴方と一緒に戦いたいのよ。だからこれは、私の私情と貴方の私情のぶつかり合い。どちらかのワガママを通す為の戦いよ」

「――イイね。凄くイイ。じゃあやろうか」

 

そういえば、アルファとは訓練などで戦った時も、いつも引き分けで決着はつかなかったっけ。白黒つけるいい機会だ。

 

「ベータ。審判をお願い」

「は、ハイ!」

「他の皆も、見ていてくれる?」

「アルファ様とシルファが戦うのですか? 見たいのです!」

「分かりました」

「分かりました! ――ほら、イータ起きて!」

「ム〜、分かった」

「分かったよ、アルファ様」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「二人とも、準備はいいですか?」

 

審判役のベータが二人に問いかける。二人は極限まで集中した様子で、小さく頷くのみだ。

 

「では――はじめ!」

 

――ザッ

 

先に仕掛けたのはシルファ。間合いを詰め、居合の一刀で仕留めにかかる。

 

「甘い!」

 

対するアルファは最小限の動きでそれを回避、からのカウンター。

 

「シッ――」

 

シルファは体幹を活かして回るように身体をねじりカウンターを回避、身体の回転を利用してアルファに斬りかかる。

その太刀筋、数えて4本。

 

アルファは4つの斬撃を剣で受け止め、()()()()()()()()()を身をよじって躱す。

 

「【飛ぶ斬撃】。結構虎の子だったんだけどなぁ」

「器用ね。でも、私には通じないわ」

 

お返しとばかりにアルファが距離を詰める。

互いの剣が交差し、火花を散らす。

技量の総合はほぼ互角。素の膂力はシルファに分があり、逆に魔力はアルファに分がある。ただ、膂力の差よりも魔力の差の方が大きい。

 

――現状では、アルファが優位に経っていた。

 

「そこ!」

「――クッ!」

 

アルファの一閃がシルファの防御を崩す。

 

(獲った!)

 

体勢が崩れたシルファに、アルファのトドメが迫り――

 

「――ふぅ。危ない危ない」

 

難なく躱された。

 

「何時ぶりかな? この眼帯を外すのは」

 

シルファのいつもつけていた眼帯が外れ、左目が顕になっている。髪色と同じ緑色の右目とは違い、その左目は青白い光を放っていた。

 

「それは――」

「眼帯を起点に魔力を乱しているわけだから、最も乱されるのは左目。そしてその中で魔力操作を行っていく内に、左目に魔力が溜まりすぎちゃってね。左目が変質してしまったのさ。この眼は魔力の流れを精確に捉えることができる。左目に魔力を込めれば込めるほど、より微細な魔力の動きを見ることも可能だ。図らずもだけど、この眼帯はロマン以外にもしっかりと効果があったわけだ」

 

常人では捉えられない微細な魔力の動き、人体を伝わる魔力の流れなどを視覚情報として視る。それこそが、左目を開眼したシルファの新たな能力だった。

 

「ハァ!」

「視えてるよ!」

 

魔力操作の精度が格段に上がった上に、アルファが動くより早く、彼女の動きを封じるように身体を動かすシルファ。結果、先程と打って変わってアルファが劣勢に陥った。

 

「ッ…!」

「流石だね。動きを読まれても即座に行動を変えて対応してくる。だけど、そんな無茶が何時まで持つかな?」

 

何とか致命的な攻撃はカバーできている。しかし、動きを読まれていることを前提に、カウンターに対処できるよう動かなければならないアルファは肉体精神共に消耗が激しい。いつもの繊細な剣技も粗さが目立ってきた。刀傷も増えていく。

 

そして――

 

「そろそろ、決めさせてもら――」

「――ハッ!」

 

防戦一方だったアルファの反撃が、シルファの肩を斬り裂いた。

 

(魔力の流れが視えなかった…!)

「私だって、ただやられていたわけじゃないのよ。魔力をより細く、より最小限に、より効率的に運用すれば、貴方の眼も誤魔化せる」

「……流石、だね。でも、そんな芸当そう何度もできないでしょ?」

「……ええ、そうよ。だから、この一撃にかける」

 

アルファが魔力を高める。

 

「イイね! その勝負付き合おう!」

 

シルファも自らの刀の魔力吸収を解き、本来の魔力を解放した。

 

「凄まじいわね。けれど、負けるつもりはない!」

「今の私自身の最高の技で勝たせてもらうよ。【居合・――」

 

(昔、シャドウに教わったことだ。

『居合とは鞘から剣を抜いて斬るだけの技ではない。鞘の中で極限まで加速させた刀を、全身を使い更に加速させる神速の刃だ。極まれば、それはまさに(いかずち)。誰にも止めることはできない』

ならば、私の目指すモノは究極の速さ。即ち――)

 

「――雷閃】!!」

「ハァ――!!」

 

瞬間、魔力が爆ぜて土煙があたりを包んだ。

 

「アルファ様! シルファ!」

 

慌てて駆け寄るベータ。土煙が晴れてきて、2つの人影が見えた。

 

「これは…!」

 

二人は鏡合わせのように互いに剣を喉元に突きつけていた。シルファの足元だけ地面が抉れており、アルファの魔力が残留していた。

 

「そ、そこまで! 引き分けです!」

 

ベータが叫ぶ。それと同時に、二人は糸が切れたように倒れ込んだ。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、決着付かず、か」

「……そう、ね」

 

両者息も絶え絶えといった様子で、立ち上がることすらままならない様子だ。

観戦していた他の面々も集まってくる。

 

「アルファ様。最後どうなったの? 速すぎて見えなかったけど……」

「シルファの最後の一撃は私じゃ受け止められなかった。避けることもできそうになかったわ。だから、足場を狙ったのよ」

 

足場を崩されたシルファは技を中断。咄嗟に地を蹴り突きを放った。アルファもまたすぐさま魔力を練り直し、それを迎え撃った。その結果、あのような決着となったのだ。

 

「で? この場合、どうする?」

 

息を整えたシルファがアルファに尋ねる。

 

「――貴方には、まだその刀に溜められた魔力を使う余裕があった。結果自体は引き分けでも……」

「それは私個人の力じゃないからね。魔道具に頼って決闘に勝っても、それはフェアじゃない。この勝負は引き分けだよ。キミも私もフェアに、全力で戦った」

 

シルファはそう言うと、朗らかに笑った。

 

「なら、私は旅に出る。だけど、シャドウガーデンには席を置こう。旅に出ている最中でも手紙は出す。もしどうしても私の力が必要になれば、協力もする。これでいいかい?」

「……いいの?」

「むしろこっちが聞きたいくらいだよ。組織にいる人間が組織より自分磨きを優先するなんていう自分勝手を許されるってのは、本来あってはならないことだ。だからこそ、組織を抜けようとしたんだからね」

「貴方は居てくれるだけで、共に戦ってくれるだけでいいの。私は、それだけで十分だわ」

 

そうして、二人は堅く握手して笑い合った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。