かっこよくなりたくて   作:なゆさん

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七陰列伝はまるまるパス。本編が一段落したタイミングでちょくちょく挟もうと思っています。


15歳になりまして

時が流れるのは早いもので、私は15歳になった。旅に出て2年間。実に多くの経験と鍛錬、そして出会いを経て私は成長した。私の目指す【カッコいい私】に大きく近づいたと自負している。

 

 

そんな私だが2カ月程前、偶然助けたミドガル王国の貴族である【シロデスヨ伯爵家】に養子として引き取られることになってしまった。

長年子宝に恵まれず、既に当主が子作りできる歳ではなくなってしまった為に、恩人である私に総ての財産を相続させたいということらしい。

流石に怪しく思い調べてみたが、この貴族はこのミドガル王国では珍しく、まったく教団との繋がりがないどころか違法行為やグレーゾーンな行動すらまったく行っていなかった。当主の人柄と強さだけで成り立っている貴族だったのだ。

とはいえ陰に潜む私にとって、貴族になるのは正直リスクが高すぎる。もちろん最初は断っていたが、私にも表の顔は必要だとアルファから言われ、その提案を受け入れた。

ただ、貴族の養子というだけでもとんでもなく目立ってしまうのに、それがエルフと獣人のハーフであるなど、いくらなんでも属性盛りすぎだ。だから、スライムメイクで顔を変えて耳を隠し、旅先で見つけた物を小さくする魔道具を使って尻尾を誤魔化すことで人族の外見に変えた。

もちろん家の者は私の素顔を知っているので、イータの魔道具でちょっと記憶をイジらせてもらった。

 

 

そして、今日から私は国内最高峰の魔剣士育成校、ミドガル魔剣士学園に通うことになった。

流石に学園で本気を出すわけにもいかず、さりとて平民の出である私の実力が低ければ、ナメられ、イジメられる原因になりかねない。それに、実力を示さねば合法的に学園の深部まで内部調査することは不可能だ。学園にわざわざ入学したのなら、それを最大限活かすべきだろう。

学生の範疇で、高い実力を発揮しなければならない。それも、本来の私の実力から乖離していればしているほどいい。

これも主――シャドウが教えてくれたことだ。

 

『実力を見せびらかすのは簡単だ。だが、そこに我やお前の目指す道はない。実力を抑えた表の顔があることにより、陰の実力者として動く時との【ギャップ】が我らの行動に()()をもたらすのだ』

 

確かに、シャドウは普段の平凡な顔があるからこそ本来のカッコよさが更に際立っている。ギャップこそが、カッコよさを深める為の重要なピースなのだ。

私もこの学園生活で、ギャップを手に入れてみせる。

 

「――なんて、思ってたんだけどね」

 

「ルーシーさん、今日のご予定は!? もしよければ私とお食事を――」

「ご一緒にミツゴシへお買い物はいかがでしょう?」

「ルーシーさん」

「ルーシーさん」

 

入学してしばらく、いつの間にか私の派閥ができてしまっていた。

 

 

 

こうなった要因はいくつかある。

同世代ではトップレベル程度の実力を見せていた事。思ったより貴族内での【シロデスヨ伯爵家】の力が大きかった事。そして、適当に作ったスライムメイクの顔が人気を博してしまったこと。いつの間にかこうなっていた為にどうすることもできず、私の学園での地位は異常に上がってしまっていた。

 

「あわよくば主と学生生活を、と思ってたんだけどね」

 

私が15歳ということは当然、シャドウも15歳ということになる。そしてシャドウの表の顔であるシド・カゲノーは男爵家であり魔剣士。つまり、彼もまた今年からこのミドガル魔剣士学園に通っている。

だが、彼は表の世界で目立たぬ為、平均より少し下あたりの平凡な魔剣士を演じている。私の立場で彼との接点などできようはずもなく、授業が同じ時も周りが邪魔で挨拶しかできない。他に会える場合も、廊下で挨拶したり図書館で挨拶したり食堂で挨拶したりしかできない。つまり挨拶しかできない。

 

「今はまだ交われぬ。これも運命の導き、か……」

 

いい感じに浮かんだ意味深なセリフを呟きつつ授業へ向かう。

 

「こんにちは、ルーシー君」

 

ふと背後から声をかけられた。

 

「こんにちは。ゼノン先生」

 

声の主はゼノン・グリフィー侯爵。王都ブシン流の上級クラスの剣術指南役である。イケメンで人柄もよく、生徒人気も高いいわゆる完璧人間だ。

私はにこやかに返事をして、軽く頭を下げる。内心では睨みを利かせているが、それは悟らせない。

この男は、周辺に怪しい金の動きがあり、本人にも不審な動きがよく見られる要注意人物である。本来なら取っ捕まえて情報を全て吐かせたいところだが、確実な証拠もない上、相手の立場を考えると中々手を出せる相手ではない。今は我慢するしかないのだ。

 

「教室まで一緒に行ってもいいかな?」

「構いませんよ」

 

笑顔の仮面を貼り付けたまま、私はゼノンと共に教室に向かう。コイツが私を欲しがっているのは知っている。私をというより、シロデスヨ伯爵家の跡取りのみが持つことを許される魔道具を、であるが。

アレには魔力暴走に似た状態を意図的に作り出し、使用者の魔力を著しく高める効果と、身体の魔力の流れを補助してコントロールしやすくする効果がある。教団がどこまで魔道具の情報を持っているかは知らないが、強力な魔道具が手元にない時点で奴らも容認し難いと思っているだろう。もしコイツが教団と繋がっているのなら、確保しておきたい筈だ。

シロデスヨ伯爵家の現在の当主は一度ブシン祭を優勝している程の達人である上、政治的駆け引きもできる御仁であるため手は出しづらい。

だから養子であり、跡取りである私を狙っているのだ。最近よく絡んでくるのは情報収拾兼警戒心を解くためだと思われる。

 

「今クラスでアイリス王女に並んで最も成績のいいキミからして、今の生徒たちの中に自分を超えられそうな子はいるかな?」

「そうですね……。同世代でしたら、アレクシア王女でしょうか」

 

アレクシア王女。長女のアイリス王女と違って大きな話題になることはないが、学園では男女共に人気が高く、剣の腕もある。

しかし、姉のような圧倒的な才能はなく、凡人の剣と蔑まれることもある。

彼女があまり近づいてこないため会話することはないが、私個人としては彼女は嫌いではないし、彼女の剣も筋がいいと思っている。

 

「アレクシアか。確かに彼女は腕が立つね。しかし意外だな。彼女はキミやアイリス王女に比べて才能で劣っている。私から見れば、キミに追いつけるとは到底思えないが?」

「先生がおっしゃることも否定はしませんよ。才能があるに越したことはない。でも、私はあの方の剣が好きですし、あの剣がいつか実を結ぶと確信していますよ」

 

私の憧憬(シャドウの剣)と似ているから。

 

 

 

―――数日後

 

「あのアマ(王女)……ぶっ殺してやる!!」

 

夜、私は自室にて1人スライムサンドバッグを殴りつつ叫んでいた。

遡るは今日の昼休み。いつものように散歩を装ってシャドウの姿を探していた時、私は見た。

 

『――あら嬉しいわ。よろしくお願いします』

 

そう言って、差し出されたシド・カゲノーの手を握るアレクシア王女(ク○女)の姿を。

あまりの衝撃にスライムメイクが外れそうになった。

聞き間違いだと信じたかったが、その後その話は学校中に広まり、あり得ない事実が確定した。

シド・カゲノーとアレクシア王女が恋人になったという事実が。

 

「何もかも中途半端な癖に、男を見る目だけはあったというのか…!」

 

それまでのアレクシア王女への評価は何処へやら。私はいつかこの手であの強欲な悪女に裁きを下すことを誓ったのだった。

 

――ちなみにその後、シャドウを犬扱いするアレクシアを目撃し、妖刀を全開して襲いかかる寸前までキレて、シャドウガーデンの監視係に全力で止められるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

あの悪夢のような日から数日。シャドウガーデンから連絡が来た。

 

『今宵、王都にて大規模作戦を決行する。参加するように』

 

恐らく、アレクシア王女が誘拐された件だろう。主が騎士団に拘束されたと聞いた時は王都に血の雨を降らせてやろうと思ったが、どうやら全ては彼の計画通りだったらしい。彼はこの王都に潜む教団の影を、完全に把握していたようだ。

アレクシア王女とに・せ・の!恋人になっていたのも王女に近づいて何らかの準備を整えるためだったのだろう。

今夜の作戦、主も参加される。気合を入れなければ。

 

「フフフ…! 今宵は久々に血沸く戦になりそうだ…! 右目が疼く…!」

 

 

 

 

――作戦決行時間

 

「シャドウ様からの伝言です。『デルタには悪いが、前奏曲(プレリュード)は僕が奏でよう』とのこと」

 

ベータからの知らせを受け、シャドウの開戦まで様子を見ていたのだが、デルタがシャドウの戦いの気配を感じ取り突っ込んで行ってしまった。

 

「我ももう堪える必要はないな。主に続き、美しい遁走曲(フーガ)を奏でてみせよう…!」

 

アルファ達を待たず、私も戦線に飛び込む。

落下途中に飛ぶ斬撃で眼下の教団員を斬り裂き、血しぶきの中にフワリと着地。

 

「我が妖刀も高ぶっている……」

 

銀色の刀身を月明かりに翳し、そのまま眼前の敵目掛けて駆け出す。

 

「コイツ、速――」

「がッ――」

「何だコイ――」

「やめ――」

「許して――」

「助け――」

 

「――遅い」

 

刀を鞘に戻した瞬間に斬られた肉塊が倒れ伏す。

 

「化け物か…!?」

「狼狽えるな! 相手は1人だ! 殺れ!」

 

わらわらと湧いて出る教団員。

 

「【居合・鎌鼬】」

 

そのすべての首を落す。

 

『ズガァッ』

 

そこかしこで轟音が響いている。デルタも今日は存分に暴れているのだろう。建物を叩き切るのは止めてほしいものだが、デルタは止められない。そういう性分なのだ。

デルタの破壊音に紛れ、遠くから騎士団らしき足音や叫び声も聞こえる。

 

「……観客に見せるには、オマエ達は役不足だ」

 

目についた教団員を片っ端から斬り裂きつつ、騎士団とは逆方向に向かっていく。

 

「顔を変えているとはいえ、会わずに済むならそれに越したことはないからね」

 

表の私はアイリス王女とも面識がある上、騎士団にも広く名が知られている。ルーシーとシルファを結ぶリスクは最小限にしておきたい。

 

「……ん?」

 

ふと、気配を感じた。気配からして強者ではない。その上二人だけで突っ立っているところを見るに、恐らく教団員ではない。

 

「な、何が起こってるんだ!?」

「せっかく寮の門限を過ぎてまで探しに来たのに、何の騒ぎですか!?」

 

気配の正体は主とよく共にいるヒョロとジャガの二人組だった。もう寮の消灯時間も過ぎている筈だが、何故こんなところに?

 

「どうします? もう帰りますか?」

「バカ野郎! 苦労して寮を抜け出してきたんだぞ。今戻ってもどうせバレる。何の成果もなしに退散なんかできるか! シドの告白が成功するくらいだ。誘拐されてピンチの王女様を、俺が華麗に救出すれば……惚れられるのはまず間違いない! それに、うまく行けば国から褒美を貰えるかもしれねぇ」

「確かに…! こんなチャンスは中々ありませんね」

 

理由もぺちゃくちゃと喋ってくれた。だけど、流石に危ないな。止めないと。

 

「――招かれざる客がいるようだな」

 

彼らの背後に降り立ち、魔力で少しだけ威圧する。

 

「な、なな、にゃにものだ!」

「ぼ、ぼくは……あっ」

 

おっと、この程度でも魔力が強すぎたか。ヒョロは足が子鹿のようにガタガタ震えているし、ジャガは股座に染みを作っている。

 

「すぐにでも立ち去るがいい」

 

『ザッ』

 

魔力に反応して飛び出してきた教団員数名を斬り伏せる。

 

「我らはシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者」

 

バッチリ決め台詞を決め、腰が抜けて動けない様子の二人に向き直る。

 

「今宵は危険だ。早く帰るといい」

 

表の顔とはいえ、主のご学友だ。死なせるわけにはいかないだろう。ここはさっさと帰ってもらうが吉だ。

 

「「は、ハイ……」」

 

何だか呆けた様子で生返事して帰っていく彼らの背中を見届けた。

 

「……ここら一帯の掃除は済んだか」

 

アルファ達のところに戻ろうと歩み始めた時、覚えのある魔力が王都中を包んだ。

 

「これは…! フフフ、久々に我が主の御業を拝めるとは」

 

すぐさま高台へ登る。アレを少しでもしっかりと目に焼き付けておきたい。私の憧れ、その力の全てを。

 

主の魔力は急速に高まり、膨れ上がり、そして――すべてを飲み込む閃光となる。

 

「――来る!」

 

 

 

 【アイ・アム・アトミック】

 

 

 

主の奥義にして究極の破壊。行く手を阻む全てを飲み込み、圧倒的力で蒸発させる。シンプル故に最強の一撃。その上無差別な破壊ではなく、有り余る破壊力を自在に操れるのだから凄まじい。正に神業だ。

 

「陰を裂く紫電。我が道を照らす紫光。あいも変わらず美しい」

 

自分も完璧なポーズとセリフを決めた私は、満足して自らの寮に戻るのであった。

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