ヘンゼルとゲレーテル(プリン訳版)   作:プリムラ・プリメーラ

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めでたし、めでたし……?
いえいえ、とんでもない。本当に恐ろしいお話は、いつも「めでたし」のすぐ裏側に隠れているものです。
さて、ここからは「諸説」など存在しない、血とカラメルに塗れた残酷な真実のお話をいたしましょう。


第二話 絶望

 

おばあさんを焼き殺し――失礼、極上なめらかプリンおばあさんに生まれ変わらせたあの日を境に、ヘンゼルとグレーテルの住む町には恐ろしい魔女の呪いが降り注ぎました。

 

空は煮詰まったカラメルのように赤黒く淀み、石畳の隙間からはどろどろと甘ったるい腐臭を放つ謎の粘液が湧き出しました。町を取り囲むように見えない「結界」が張られ、外に出ようとした者は、まるで熱したオーブンに触れたかのように全身の皮膚がドロドロに溶け落ちてしまうのです。

 

さらに恐ろしいことに、町そのものが意志を持ったかのようにぐにゃぐにゃと変質し、無数の罠と魔物がうごめく「異界のダンジョン」へと姿を変えてしまいました。

路地裏には、人間をすり潰して甘い蜜をすする巨大な歯の化け物が這いずり回り、かつての美しい広場は、肉片と砂糖が入り混じる魔物の巣穴と化しました。

 

逃げ場を失った市民たちは狂乱しました。恐怖と飢えは人間の心を簡単に悪魔に変えます。

 

「あの家から甘い匂いがしたぞ! 魔女の手先に違いない!」

「こいつを魔物に喰わせれば、私だけは助かるかもしれない!」

人々は結束するどころか、互いを裏切り、蹴落とし合いました。そして「お菓子職人」や「美食家」たちを次々と魔女のレッテルを貼って狩り出し、生け贄として魔物の巣穴へ突き落としていったのです。

 

悲鳴と咀嚼音が響く地獄の町で、ヘンゼルとグレーテルは冷たい瞳でその惨状を見下ろしていました。

 

「お兄ちゃん、みんなバカみたい。あんなことしても、結界は消えないのに」

 

「ああ、そうだねグレーテル。僕たちが終わらせるしかない。あの時おばあさんから奪った『呪い』は、僕たちでケリをつけよう」

 

二人は魔女狩りを終わらせ、結界を破壊して町を脱出するための準備を整えました。

彼らの手元にあるのは、以下の3つです。

 

一つ、魔物と戦うための武器。

ヘンゼルが握りしめているのは、魔女の家から持ち帰った「黒焦げの巨大スプーン」です。ただのスプーンではありません。魔物の頭蓋骨を「ぷりんっ!」と軽快に叩き割り、脳漿をすくい取るための、身の丈ほどもあるおぞましい鉄塊です。

一方のグレーテルは、熱で溶かした鉛と煮え滾るカラメルを混合したものを射出する「特製・高圧火炎しぼり袋」を背負っていました。

 

二つ、生き延びるための食料。

ダンジョン化した町では、普通の食べ物はすぐに腐るか、魔物に寄生されてしまいます。二人のリュックには、魔女狩りで処刑された者たちから奪い取ったカチカチの干し肉と、石のように硬い黒パンが詰め込まれていました。味気なく、血の匂いが染み付いた劣悪な食料。しかし、生き抜くためにはこれを胃袋にねじ込むしかありません。

 

三つ、正気を保つためのプリン。

――これが、最も重要なアイテムです。

肉片が飛び散り、かつての隣人が化け物に貪られる地獄の光景。そんなものを見続ければ、いかに屈強な戦士でもすぐに発狂してしまうでしょう。

しかし、二人には「絶対に失敗しない魔法のプリンレシピ」で作った至高のプリンがありました。

小さなガラス瓶に詰められた、黄金色に輝くプリン。魔物の返り血を浴びて心が壊れそうになるたび、二人はこのプリンを一口すするのです。

 

「いただきまーす! ぬんぬんぬーん。ぬん?」

 

甘く優しいバニラの香りが脳髄を麻痺させ、狂気を甘美な多幸感で上書きします。

一口食べるたびに、二人の虚ろな瞳にハイライトが戻り、血に濡れた口元がニチャァ……と三日月型に歪みます。

 

「あはっ、お兄ちゃん! プリンを食べたら、魔物の内臓がイチゴジャムに見えてきたわ!」

 

「大丈夫さ、グレーテル! 僕たちのほっぺは『プリン熟成中』だからね! どんな攻撃もぷにぷに弾き返せるさ!」

 

(※魔女の呪いの影響で、二人の精神と肉体もすでに人間とは別の“何か”に変異しつつあるという説があります。あ、もちろん諸説ありますよ!)

 

「グガァァァァッ!!」

 

路地裏から、無数の目玉とただれた口を持つ肉塊の魔物が襲いかかってきました。

しかし、プリンを食べて極限のトランス状態にある二人にとって、それはただの「お菓子作りの障害物」でしかありませんでした。

 

「あっ、お兄ちゃん! そんな一番下のところを殴ったら、魔物が崩れちゃうー! ぐしゃー!」

 

「そぉれ、ぷりんっ、ぷりんっ、ぐしゃーっ!!」

 

鈍い破砕音とともに、巨大スプーンが魔物の肉体をミンチに変えます。

グレーテルが笑いながら絞り袋のトリガーを引くと、超高温のカラメルが噴射され、魔物は甘ったるい焦げ臭さを漂わせながら黒炭へと変わっていきました。

 

「もう、溶けちゃう~くらい楽しいわね!」

 

「さあ、急ごう。結界の核は、きっとこのダンジョンの一番奥深く……『大かまど』の底にあるはずだ」

 

二人は血とカラメルでベタベタになったブーツを鳴らしながら、狂気の町を奥へ奥へと進んでいきます。

背後には、彼らが惨殺した魔物たちの残骸と、恐怖に顔を引きつらせて隠れる人間たちの息遣いが残されていました。

 

ヘンゼルとグレーテルの脱出劇は、まだ始まったばかり。

果たして二人は、結界を破壊し、正気を保ったまま外の世界へ出ることができるのでしょうか?

 

それとも、結界の奥底で待つ「何か」の、極上のトッピングにされてしまうのでしょうか?

 

それは神にも、いや、魔女にさえわからないことです。

静寂の落ちた血まみれの路地裏に、ただ一つ、どこからともなく不気味なへんてこな音が響き続けていました。

 

ぬんぬんぬーん。ぬん?

 

ぬんぬんぬーん。ぬん?

 

――さあ、次はお前がプリンになる番だ。

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