秘密の坑道   作:N22b

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 某日、第69番坑道。ベスロディオ・ブナンザが主管を務める坑道の一つから、一つあたり15立方メートル・サイズのコンテナ群が発掘される。目立った損傷・腐食もなく、気密が保たれたその側面には神聖ユードラ帝国時代の古代神聖語でこう記されていた。

「FRAME ARMS - G」


話術士ムスタディオと「フレーム・アームズ」

 

【Case1 アグリアス・オークス】

 久々に滞在するゴーグでの待機時間、ムスタディオ・ブナンザは酒場へと向かう。予想どおり、「彼女」はそこに居た。これまた予想どおり、独りで。卓上には既に空になったワインの瓶が1本。

「やっばり、ここに居たね。アグリアスさん。」

呼びかけるムスタディオに彼女が投げかける視線はやや険しめ。どうやら、あまり良い飲み方をしてはいないように見受けられた。

「まるで、私が酒場に入り浸っているかのような物言いじゃないか・・・」

ムスタディオは軽く両肩をすくめる。

「まあ、そうは言わないけれど・・・でも、酒場に居ることは多くなった。」

そして、空になったワインの瓶をつまみ上げる。

「ついでに、お酒の量も・・・」

アグリアスは視線をムスタディオから逸らす。

「・・・迷惑は掛けないさ。」

暫しの沈黙の後、ムスタディオが意を決したかのように口を開く。

「オルランドゥ伯が来てからですよね。」

その名を聞いた途端にアグリアスの眉間にシワが寄る。

「嫌味でも言いに来たのか?」

「いいや、力になりたいんだ。」

ムスタディオは即座に返す。

「この際だから、ハッキリ言うぜ。確かにあの人は凄い。大概の荒事はあの人一人がいれば片付いてしまう。そして・・・」

一寸置いて続ける。

「俺達のこの部隊の中で、あの人が今居る所は、少し前まで貴女が居た場所だった・・・」

アグリアスは目を逸らしたまま、何も言わない。だが、その両目が一気に赤く腫れ、潤みを増していく。

「オレは知ってます。剣を握る貴女の両手、マメが幾重にも潰れて分厚くなったのを手袋で隠している。暇を見つけて・・・いや、何とか時間を作っては鍛錬しているんでしょう?朝だって、皆が起きるより前に、束ねた木枝に向かって何千回も木剣を打ち下ろして・・・」

アグリアスの瞳が一瞬、ムスタディオの方に向く。

「あまり、人に見られたい光景ではなかったんだが・・・」

「ごめんなさい。野営地での朝の水汲み当番の時、モンスターの絶叫の様な声が聞こえて、慌てて向かったら、貴女の「打ち込み稽古」の気合の声で・・・」

「だから、嫌だと言ったんだ。」

そう言うアグリアスの口角には少しばかりの笑み。

「・・・だが、それでもあの御仁の立つ「場所」は、余りに遠い・・・」

そう言って小さく首を横に振る。

ムスタディオはアグリアスの対面の空いた席に座り、給仕に麦酒を頼む。

「良かったら、もう少し聞かせて下さい。さっきも言ったけれど、オレは貴女の力になりたいんだ。」

 

 誕生日におっかなびっくりリップを寄越してきた時は打って変わって大胆な態度にアグリアスは目を丸くする。

 

そう、今、ムスタディオ・ブナンザは「機工士」ではない。「話術士」だった。装備は変わらないし、特技も主(狙撃)と副(話術)が入れ替わっただけで、傍目には誰も気付かない。話術士になったからといって、機工の知識が抜けるわけでもなかった。

 

 気が付けば、アグリアスは淡々と、思いのたけを吐き出していた。ムスタディオはそれを「傾聴」する。

そして、彼女の一言一句を反芻し、噛み砕くように聞かせる。彼女の思いを余す所なく「理解」したことを示すために・・・巧みに自らの「同意」を含ませながら。

「・・・なるほど。アルマが攫われて以降、ラムザの目はシビアになった。本人はそうは言わないけれど、態度にはありありと出ている・・・ええ、オレもそう思います。まあ、しょうがない。妹の命が掛かっているんだ。如何に早く彼女を救うか、そして戦に誰を使うか・・・今までのように悠長に錬成などしていられない。確実かつ強力な即戦力を・・・となれば、シドさんだ。彼を起点に戦術は練られる。彼と、彼を活かすための布陣だ。貴女は出られないか、良くて「討ち漏らし」の処理だ。貴女がどれだけ自らを鍛え上げようが、この先、剣士としてどれだけの伸び代があろうが、それが顧みられることはない。今、この場で発揮できるパフォーマンスが全て・・・それが今の「ラムザ軍団」だ。自らの「価値」を彼に示さなきゃならない。オレだって、焦りがないと言えばウソになる。」

「お前にはその頭脳がある。他には代えられない。私は・・・改めて、自分が女に産まれたことが、恨めしいよ・・・オヴェリア様に大啖呵を切って出てきたというのに、このザマでは・・・」

 アグリアスは自嘲の笑みを浮かべながら杯に残ったワインを飲み干す。杯を置き、目線を上げた先のムスタディオは何故か満面の笑み。

「いや、貴女が「女性」だから良いんです。良かった。やっぱりオレは、貴女の役に立てる。」

 

 1時間後、二人の姿はブナンザ家の工房にあった。アグリアスがここに足を運ぶのは、クラウドの一件以来。転送機が鎮座していた場所には、展開されたコンテナが置かれ、その中には一見して古代文明の遺物だと判る「ソレ」が据付けられていた。ただ、全く用途不明というわけではなく、外観上の特徴をよく見れば素人目にもある程度の想像は出来る形状をしていた。

 

「コレは・・・具足、か?」

 

アグリアスは頭を捻る。額当てに胸甲、手甲に脛当てのような「装具」。そして並の人間ではとても扱えなさそうな長大な「武器」の数々・・・

 

「コレは、何と書いてあるんだ?」

そう言って彼女が指差す先には、不可思議な絵のようにも見える未知の文字。

 

「古代の異邦の文字で・・・親父に言わせると「迅雷(じんらい)」と読むらしい。大体、1200年前の代物で・・・」

 

「・・・アジョラの時代か・・・文明の頂点、その時代の「武具」だと・・・」

そう言いながらアグリアスは長大な「槍」に手を沿わせる。

 

「オレも先ずは「武器」の方に目が行ったんだ。でも、ソイツは単体では使えない。その鎧みたいな装具と一式で可動するみたいなんだ。」

 

 ムスタディオはこれまで得てきた知識と併せて説明する。かつて、イヴァリースには「人間(ヒュム)」以外にも幾つもの知的種族が居て、その中でもやはり「ヒュム」の女性は体力的には劣った部類にあったこと。いきおい魔道士になる者が多かった中、それでも身一つでの戦を望む「女性戦士」達がいた事、神聖ユードラ帝国に於いては、その要望は「フレーム・アームズ」という「外装式装甲を兼ねた運動機能強化スーツ並びに付属する武装体系」による戦闘力の底上げという形で具現化されたと推察される、ということ。それを証明するかのように、この装具は何れも人間工学上「ヒュムの女性に適合させること」を念頭に設計されているらしい、ということ。

 

「一通り回路の点検をした限りでは、奇跡的に全てが正常だったんだ。上手くいけば、貴女の能力を何倍にも引き上げられるかも知れない。」

 

 果たしてアグリアスの目は、本人も意識してはいなかったのかもしれないが、強く輝いていた。少なくとも「コレ」は人の業(わざ)によるもので、「聖石」の様な得体の知れない邪な代物ではない。機械の力に頼ることに葛藤が無いわけではなかったが、これで再び騎士としての自らの価値を示すことが出来るのであれば、少なくとも拒む理由は無い。早速、試用を申し出る。

 

 だが、数十分の後、その顔は落胆が占めていた。

 

「ダメだムスタディオ・・・コイツは、手足が重たいだけだ。動きづらいし・・・何の力を得ている気もしない。」

 設えられた一式の内、いかにも頑強そうな装具の部分を「いつもの具足の様に」纏ったアグリアスはそう言って肩を落とす。

 

 ムスタディオは頭を捻りながら「具足」の内側を注意深く観察する素振りをみせると、何かに気付いたかのように叫んだ。

「判った!そういうことか・・・アグリアスさん!」

「?」

「服、全部脱いで!」

 

 次の瞬間、ムスタディオの顔面にアグリアスの拳がめり込んだ。

 

 5分ほど後、ムスタディオは氷嚢を鼻っ柱に当てながら「解説」する。

「良いですか?この「具足」の内側には、電気信号を感じ取る為の「センサー」が組み込まれている。それらは多分、人間の筋肉が動こうとする時に出てくる、とても微弱な電流を感知して、装具の動きに連動させる様に設計されている。だから、服の上から装着してもダメだったんだ・・・分かります!?」

 アグリアスは申し訳なさそうに頷く。

「正直、よく分からんが・・・私が早合点をしたということだけは理解した・・・済まない。」

「で、やるんですか?やめるんですか?」

やや憮然とした表情で問うムスタディオにアグリアスは答える。

「やるさ・・・だが、部屋を一つ、用立ててくれ。もしくは暫く、部屋から出ていてくれ。流石にお前の前で着替えるわけにはいかない。」

 

 10分程して、工房のドア越しに歓喜の声がムスタディオの耳に入る。

 

「コレは凄い!まるで百人力になったかのような・・・装具もまるで羽根のようで重さを感じない!」

「良かったじゃないか!もう入っても?」

「いや、待て!」

「?」

「欠品だ・・・」

「ケッピン?」

ムスタディオは首を捻りながらドア越しに説明を求める。

「恐らくだが・・・具足の一部が足りない。具体的には、下腹部、鼠径部と臀部当たりの防護に充てる装具が無い。掌大の頼りない又当てが有るだけだ・・・把握していたか?」

 

ムスタディオは答える。

「いえ、アグリアスさん。欠品じゃあない。それで「全て」です。貴女を連れてくる前、親父と技術資料を確認したけれど、コンテナの中に、あるべきものは全て入っていた。何一つ欠けることなく。」

「だが、これでは・・・」

ドア越しに、一転して困惑した声色がかえってくる。

「とにかく、見てみないことには分からない。入りますよ!」

 

「いや、頼む!まって・・・」

 

 問答無用でドアを空けたムスタディオの眼に「フレームアーム・迅雷」を「正しく」装着したアグリアスの姿が映る。ムスタディオは心の中で満面の笑みを浮かべながら(ほう・・・)と呟くが、そんな様子はおくびにも出さない。なぜなら、彼は今、「話術士」だからだ。自らの腹の内を決して見せず、気取らせず、口八丁で望む結果を手に入れる。それこそがこの職能の真骨頂であり、その意味において今のムスタディオは話術士の鑑とも言えた。

 

「オレは騎士じゃあないからよく分からないけれど・・・」

真面目そのものの目でそう切り出しなながら、ムスタディオは続ける。

「鎧の防御と機動性、あと装着者への負担のバランスは永遠の課題だ、って聞いたことがある。関節部をあくまで守るのか、それとも動きやすさに振るのか・・・高温多湿環境下での負荷は・・・その辺までの考慮、検証を経たうえでのそのデザインなんじゃあないかな?恐らくそれは今の甲冑師も、あの時代の技術者も変わらないと思う。オレも機工士の端くれだから分かる。少なくとも、ソイツにはエンジニアの「誇り」が詰まっている。装着者の力を最大限に引き出すために、一切の不足も、余分も無く作られた。そこは否定させないよ。」

 

「誇り」と言われては、アグリアスも口をつぐむしかなかった。軽々に非難して良いものではない。

 

「そう、なのか・・・にしても、くっ・・・股と尻が心許ない・・・」

 

顔を真っ赤にするアグリアスの様子に「満足」しつつ、ムスタディオは促す。

「使うにせよ、止めるにせよ、一度、実戦で試してみてくれよ。ソイツは飾りじゃなくて戦闘装具なんだから!貴女は戦士なんだろう?鎧の見た目が気に入らないと言って剣を置くのかい?」

 

羞恥に困惑していたアグリアスの目に一転して闘志の炎が灯る。

「何!?お前にそんな事を言われるほど落ちぶれたつもりは無いッ!」

 

 

後日:フィナス河上流

 

「迅雷」に身を包んだアグリアスは歓びを噛みしめる。

 その日、部隊が遭遇したのは「チョコボ軍団」。初めてこの河を渡ろうとした時のトラウマが全員の眼前に幻影のように蘇った。色とりどりのチョコボ達が「ルカヴィ」や「デーモン」達よりも恐るべき存在と化し、危うく全滅しかけた。足場の悪い急流の中、仮死状態となってうつ伏せに流されていくラムザの首根っこを引っ掴んで必死に川岸まで引き揚げた記憶が、昨日のことのようにアグリアスの脳裏に浮かぶ。

 だが、この日は違った。「迅雷」を装着したアグリアスは完全に戦場を支配し、ものの10分足らずで「悪魔の怪鳥軍団」を焼き鳥の具材に変えてのけた。

 達成感もさることながら、何より嬉しかったのは手放しの称賛。ラムザは当初、「迅雷」の性能に驚嘆したが、ムスタディオが割って入り、「装着者の基礎体力と技量あってのものだ。これはそういう装具なのだ。」とアグリアスを持ち上げた。

 初めて聖剣技を放ってみせた時の、ラムザの敬意に満ちた眼差しが返ってきたのだ。

 

 戦の余韻に浸るアグリアスの脇にムスタディオが立つ。

「・・・で、どうします?」

アグリアスは言葉少なに、

「続けさせてくれ」とただ一言。

「じゃあ、しっかりメンテナンスしておかないとね!」

ムスタディオは笑みを浮かべながら、その答えを受け止める。その目は既に「次」へと移っていたが、それに気付くものは居なかった。

 

【Case2 メリアドール・ティンジェル】

 ゴーグの酒場、ムスタディオの座る卓の対面に、深緑のローブが腰掛ける。

「ごめんなさい。折角の待機時間に呼び出したりして・・・」

ムスタディオは対面のメリアドールに屈託のない笑顔で答える。

「そんな!水くさいこと言わないでよ。正直、貴女がオレを頼ってくれるなんて思っていなかったから、嬉しいくらいさ!」

給仕に麦酒を頼み、視線をメリアドールに戻す。

「それで、どういう相談なのかな?」

ムスタディオの問いに、メリアドールは顔をズイと寄せる。

「単刀直入に聞くわ・・・貴方がアグリアスに寄越した「アレ」・・・他には無いの?」

 

ムスタディオは、狙った通りに「次」が食いついた事に内心ほくそ笑みながらも、それを表に出すことはしない。彼は今、免許皆伝の話術士だ。

そして「安売り」もしない。

 

「無いわけではないけれども、そうおいそれと出せるものでもない。マトモに動く機械ってだけでもここじゃあ第1級のブツなんだ。それが古代文明の戦闘力もそのままに・・・ってなると、その価値たるや・・・奇しくもあの「迅雷」の能力はアグリアスさんが証明してしまったわけで・・・」

 

ムスタディオが言い終わる前に、メリアドールは卓に両手と頭を付ける。

 

「私には、あとがないんだ!」

 

一寸の沈黙の後、ムスタディオは優しく語りかける。

「頭を、上げてください。分かってるよ。貴女の事、しっかり見てたから・・・」

そしてメリアドールの「悩み」を見事に言い当てる。

「ディバインナイトの「剛剣」・・・ベルベニアで初めて目にした時は、なんて恐ろしい技なんだ、と舌を巻いたよ。神に仕える騎士の剣、それ故、人を殺めるよりも、彼らが頼みとする武具を破壊することでその戦意を挫く事に重きを置いている・・・オレ達みたいな人間の部隊相手だと、凄まじい効果を発揮する。銃がなければ、オレなんて戦場じゃあ木偶の坊だからね。でも、神に仇なすのはいつだって人間だ。つまり、オレたちが相手にしている大概のモンスターには大して効果がない。」

「・・・・・」

「しかも、装備を「壊してしまう」という特性だ。貴女は、このあいだ、ラムザに叱責された。久々の対人戦に舞い上がって破壊した敵の装具が、実はとても希少なものだった事が判ったからだ。「盗むか、勧誘してから身ぐるみ剥げば良かったのに」と・・・」

メリアドールは泣き出す。

「確かに悪いのは私の父よ!ラムザの妹君を攫って・・・でも、だからといって追い剥ぎのような真似を私は出来ない・・・ッ!」

ムスタディオは頷く。

「わかってます。貴女は誇り高い女(ひと)だ。オレはそんな貴女を尊敬している。」

「ムスタディオ・・・」

鼻をすするメリアドールに、ムスタディオは勿体ぶるように頷く。

「わかった・・・用意するよ。とっておきのを!」

 

 

1時間後、ブナンザ家工房

 

二人の眼前には、アグリアスの時と同じように、展開されたコンテナが鎮座する。

 

「コレが、「フレーム・アームズ」・・・」

見入るメリアドールは気付く。

「アグリアスのとは、また違うのね?コレはなんて書いてあるのかしら?」

指差す先には、古代異邦の言葉で「轟雷(ごうらい )」の二文字。

「コレなら、色合いも今の貴女に合っている。あまり派手なのは好みじゃないでしょう?」

 

そう言って、一通りの装着方法を教えると、ムスタディオは部屋の外に出る。

 

10分程して、ドア越しにメリアドールの声が聞こえる。

「言われたとおり、元の服は全て脱いだ・・・その・・・やはり、この縞々模様の下着は、コレでないといけないの?見たところ、本当にただの布切れみたいなのだけれど・・・コレなら、もう少し別のでも・・・」

「それは良くないと思う。」

ムスタディオは言下にメリアドールの提案を拒否する。

「こういう、技術者のこだわりが詰まった「マスター・ピース」って奴は、例外なく、全てが緻密なチューニングの上に成り立っている。大したことないだろうと思って、隅っこのどうでも良さげなパーツをちょっとイジっただけで、絶妙に組み上げられたバランスが崩壊してしまうんだ。その「縞々パンツ」がそういう類のモノなのか、済まないがオレには分からない。作ったのはオレじゃあないからね。ただ、言えるのは、装具の下着なんて何でも良さそうなものなのに、わざわざその「縞々パンツ」が意味有りげに同梱されていた、ということ。そして、もしソコを変えてしまったがために本来ソイツが発揮できるはずの性能を出せなかったとしても、オレには責任が持てない、ということ。」

 

暫しの沈黙の後、「分かったわ」と弱々しくも意を決したかのような返答が返ってくる。

 

暫くして、「具足を付け終わった」というメリアドールの言葉が聞こえた。

 

「じゃあ、点検するよ!」

とムスタディオは一気にドアを開ける。

 

「いや!まだ心の準備がっ・・・ぁ・・・」

 

ムスタディオの眼に「フレームアーム・轟雷」を装着したメリアドールの姿が映る。ムスタディオは心の中で満面の笑みを浮かべながら(うむ・・・)と呟くが、そんな様子はおくびにも出さない。なぜなら、彼は今、「話術士」だからだ。

 装甲が頑丈に見えれば見える程、比例するように激しく主張する縞々模様の下着と素肌の太股に赤面するメリアドールを慮る様に声を掛ける。

「わかるよ。だって、ついさっきまで具足とローブで体の全てを覆っていたわけだから。そりゃ、心許ないだろう。」

そう言って、1枚の古びた「肖像」を手渡す。そこには一人の女性が写っていた。

「これは?」

「1200年から1300年ほど前、概ねアジョラの時代。遥か東方にあった「ダルマスカ王国」の「王女」の肖像だよ。」

「王女?コレが!?」

メリアドールが目を見開くその先には、太股も露わに、スカートと呼ぶには余りに貧相な腰布を纏った妙齢の美人の姿。高貴な身分に相応しく、清楚に体全体の素肌を隠した「オヴェリア王女」とは余りに真逆。

ムスタディオが口を開く。

「貴女の考えている事はわかるよ。神に仕える神殿騎士団に与していた自分が、下着も露わなこんな格好をして問題ではないのか、とね。育った環境、長く居た立場故の羞恥心だ。でも、そんなモノはチャチなバイアスに過ぎない。オレや貴女が「常識」や「良識」だと思っているモノなんて、其の実、薄っぺらな偏見に過ぎないんだ。同じ人間、それも、今よりずっと進んだ文明を持っていた国の、最も高貴な王族が、そんな格好で町中を歩いていたんだ。誰もそれを気に咎めることも無い。世界と歴史に目を向ければ、自分達の視点がいかに凝り固まった、矮小なものなのかを思い知らされる。何も恥ずかしがることなんて無いんだよ。」

 

「そう・・・そうなのね。分かったわ!」

意を決したメリアドールは仁王立ちに立つ。

 

「取り敢えずはソイツで、貴女を苦しめたモンスター達をケチョンケチョンにのしてやろう!魔物相手なら、恥ずかしくもないだろう?」

ムスタディオが笑いながらハッパを掛ける。

 

 

 

【グローグの丘】

 

 丘の頂上で西日を一身に受けながら「轟雷」に身を包むメリアドールの目は、自信に満ちていた。

 その日、敵襲の報を受けて早速「轟雷」を装着して出た彼女の眼前に現れたのはモンクばかりで構成された1個小隊。モンスター相手だと高をくくっていたところに不意をついて現れた「漢津波」に面食らい、抑え込んだはずの羞恥心が再び前面に出た。しかもラムザとムスタディオは「アグリアスと2人だけで行け」と言う。

(敗けたら、一体どうなってしまうのだろう)

とドキドキもしてしまったが、足をすくめている場合ではない。これは「試験」なのだ、と全てを飲み下し、縞々パンツも露わに、履帯を展開した両の足を地面に踏ん張ると、生身であれば1丁でも扱いきれないような長大な銃砲の束を敵に向ける。

 

結果は、圧倒的だった。

ほんの数分前には自らを恐れおののかせた筋肉のうねりは、今や野生の掃除屋(スカベンジャー)達による処理を待つばかりの肉塊と化していた。

初撃で完全に敵の機先を制し、早々に士気を崩壊させた。後は一方的な蹂躙だ。「迅雷」に身を包んだアグリアスが突撃するよりも先に、それをやってのけた。この戦いの殊勲者は、間違いなくメリアドールだった。

この部隊に入ってから、いや、神殿騎士団時代も含めて、味わうことのなかった高揚感。自らが戦力の中核なのだという自覚と称賛が生む「誇り」・・・

 

 脇に立ったムスタディオが問う。「これからどうするか」と。

「聞くだけ野暮だわ。」

それが新生メリアドール・ティンジェルの答えだった。

 

 

 

【Case3 レーゼ・デューラー】

 

 某日、ライオネル城下町の酒場。深夜で客もまばらとなった中、カウンター席に並んで座るのはムスタディオ・ブナンザとベイオウーフ・カドモス。

「まったく・・・キミは本当に、やってくれたな・・・」

数杯目のワインの杯を空にして少しばかり頬の赤らんだベイオウーフが呟く。

「レーゼさんのことですか?」

ムスタディオは飄々と返すと、麦酒の杯を乾かす。

「誤解しないで下さいよ?彼女が持ちかけてきたんだ。オレからは何も・・・」

「別に責めちゃいないさ。だが、説明は欲しくてね。彼女・・・俺にも言えない、何かがあったのかな、と・・・」

「分かりました。でも、オレがあなたに話したって、彼女には言わないで下さいよ?」

ベイオウーフは無言で首を縦に振る。

 

 ムスタディオによれば、それは数週間程前のことだった。「轟雷」の一件の後、久方ぶりに顔を出した工房で父親を手伝った後、自宅前で弁当をかきこんでいるところにレーゼが現れた。相談事があるというので家に招き入れて紅茶を出す。どこか憂鬱気な面持ち。温かく甘い紅茶でひと心地ついたレーゼは、おもむろに両の手の甲をムスタディオに差し出す。見れば、端正な顔にそぐわず分厚く角質ばったソレは、まるで手練れの拳闘士のようでもあった。

 

「皆が、私の「力」を頼ってくれるのは嬉しい。それは本当よ。何より、あの人との時間を取り戻してくれたご恩もあるわ。でも、ね・・・」

 

 龍の血を継ぐ人外の膂力で殴り飛ばせば、並の戦士であればクルクルと空中を数回転した挙句に壁か地面にへばり付き、二度と立ち上がることは無い。だが、その力に反して龍の鱗程には硬くない自身の手の皮はその度に傷付く。勿論、治りも人間より数段早いが、その度に艷やかだった素肌は少しずつ荒れ、指の根本は節くれだっていく。折角、人の姿に戻れたというのに、一人の女性としてそれは耐え難いところもあった。ブレスにしてもそうだ。力を付けるため、大好きなニンニクをしっかり効かせた料理を食べた次の日などは、出来ればブレスを吐きたくは無い。でも、皆の生死とイヴァリースの平和がかかった戦い・・・誰もが、平時であれば差し出す必要のない大事なものを犠牲にして戦う中、そんな悩みはとても口に出せるものではない。一途に想う恋人に対しては尚更・・・

 そんな中、アグリアスの「迅雷」とメリアドールの「轟雷」を見せ付けられた。アレを使えば、自分にも新しい戦い方ができるかもしれない。「乙女の柔肌」を傷付ける事なく、戦う前に食べたものを気にする事もなく、それでいて今までと同じか、それ以上に皆に貢献できる戦い方が・・・そう考えて、すがる気持ちで工房に訪れたのだ、と。

 

「輝鎚(かぐつち)・甲」

 

 それが、彼女の願いに対するムスタディオの「答え」だった。

重戦車のような安定感と重装甲。龍の膂力を活かし、装甲を前面に出して突貫するだけで魔物達を「轢き潰す」事が出来た。外装式の大砲を身につければ、アグリアスやメリアドールのそれとは比べ物にならない程に安定した大火力の「砲台」と化した。

 恋人以外には決して見せることのなかった乳房と太股を晒すことに抵抗が無いわけではなかったが、背に腹は代えられない。何より、そのあたりの「羞恥」を「税金のようなものだ」、「ルカヴィの「力」の代償に比べれば安いもの」と割り切って戦場を舞う二人の若き先達の姿がレーゼを勇気付けた。満を持して出陣したバリアスの丘では、大挙して襲いかかってきたドラゴンや三つ首竜、ベヒーモスの軍団に全く力負けすることなく、そして何より乙女の拳を傷付ける事も、前日に食べたニンニクアブラマシマシ大盛りラーメンとシュクメルリの事を気にすることもなく、地上界で最強の化け物達を締め上げ、希少な香水や武具の材料として卸してのけたのだ。

 

 ムスタディオの「説明」を聞いたベイオウーフは口角に笑みを浮かべ、ツマミの枝豆を口に運ぶ。

「成る程、よく分かった・・・実は「アレ」を着るようになってから、彼女、とても機嫌が良くてね。昨日も、俺が贈った指輪を嬉しそうに指に付けて見せてくれて・・・綺麗な手だった。今までの戦い方だったら、俺は無神経だと怒られていたかもしれない。」

ムスタディオはニコリと笑う。

「お役に立てて、何よりです。」

 

一寸の沈黙の後、ベイオウーフが再び口を開く。

「・・・実は、俺にも「奇妙な変化」があってね・・・」

「変化?」

「君が掘り出したアレら、どれも中々に扇情的だろう?君の説明によれば、特性上、装具以外のモノで肌を覆うことを許さない仕様だとか・・・アグリアスとメリアドールがあの格好で出てきた時は、まあ、愉しませて貰ったさ。皆、口には出さないが、少なくとも男衆にとって、君は「英雄」だ。」

 

 新しく頼んだワインを一口含み、飲み下してベイオウーフは続ける。

「だから、レーゼまでがあの格好で出てきた時は、正直、焦った。あんな姿を他人に見られるなんて・・・俺に相談も無かったし・・・」

「相談されていたら、止めてましたか?」

「恐らくは、ね。ただ、「事情」と「結果」を知った今、それは出来ない。そして・・・」

「そして?」

「戦いの最中、彼女の生身の胸が揺れて今にもこぼれそうになって・・・それを皆の目が追いかける度に、本当なら焦るハズの俺の心の奥に、奇妙な高揚感が湧き上がるんだ。こんな事は今まで無かった。いや、そもそも知らなかった。俺はおかしくなってしまったのかな?」

「そんなことは、ないですよ。」

ムスタディオは優しくそう返して、力強くベイオウーフの肩を叩く。

「ゴーグの機工士は仕事柄、古代文明時代の文献には結構、目を通すんです。探しているのは技術資料だけれど、掘り出された文書が必ずしもそうだとは限らないから、結果的に色々なモノに目を通すことになる。聞かれなかったから話していないけれど、「ゲルモニーク聖典」だって、少なくともシモン殿よりは正確に読めるんです。」

「それは驚いた!」

「掘り出したモノの中には、あの時代の通俗というか、性的な嗜好なんかに関する記載がある文書も少なからずあって・・・今、貴方が言ったような「癖(へき)」も、決して珍しくはないんだ。恋人や伴侶の痴態を不特定多数の他人に見られて興奮してしまうような、ね。勿論、メジャーでは無いけれど、特段、恥じているような感じでもない。」

「・・・・・」

「今、オレたちが生きている世界では、グレバドス教会が定めた「価値観」しか認められない。不自由で、凝り固まった世界だ。見方を広げようともがけば、たちどころに「異端者」だ。オレ達みたいな仕事をしていると、痛いほどそれを感じる。掘り出すモノを通じて、グレバドス教の単一的で禁欲的な教義がイヴァリースを席巻する前の、自由で多様な世界に触れるんだ。古代神聖語では「ダイバーシティ」と言う・・・「多様性」って意味です。性愛の世界だって、例外じゃあない。ベイオウーフ、貴方の「感覚」は、特段おかしなモノでも、恥じ入るべきものでもない。あるがまま、心のままに「愉しんで」いいんですよ!」

 

話術士ムスタディオの「励まし」にベイオウーフの瞳の曇りが晴れる。

「そうか・・・そうなんだな。君の世界は広い。目を開かれたよ・・・ありがとう。これからは、今までより酒を美味く飲めそうだ!」

そう言って、残ったワインを一気に飲み干した。

 

 

【Case4 ラファ・ガルテナーハ】

 

某日、ドーターの酒場

マラーク・ガルテナーハは、酒場の入り口の扉を荒々しく明け放つと、カウンター席の隅で珍しく一人でピーナッツをアテに麦酒をすすっていたムスタディオの胸ぐらを掴む。

「貴様ッ!遂にラファに手を出したなッ!」

ムスタディオは思い当たる節があるのか、特に取り乱すこともない。

「誤解を生むような言い方はよせよ・・・「マガツキ・キャットアーマー」のことか?」

「貴様のオモチャの名前なんぞ知るものかッ!あんな、あんな・・・」

「可愛らしい?」

「畜生!!」

マラークは吐き捨てる。

ムスタディオには悪びれた様子もない。

「勘違いしないでほしいが、声を掛けたのはオレじゃあない。彼女から相談に来たんだ。」

「それを良いように言いくるめたんだろう!でなけりゃ、アイツがあんな破廉恥な格好、するもんか!」

「ふん、随分と言ってくれるじゃあないか。アグリアスさんやレーゼさんの時には、鼻の下を伸ばして悦んでいたクセに・・・」

「なっ・・・そんな事、何を証拠に・・・」

目が泳ぎ出すマラークに、ムスタディオは1枚の「紙」を寄越して見せる。そこには野営地での戦闘準備中に「フレーム・アームズ」を装着する乙女達の「支度部屋」を覗く彼の姿が収められていた。

目を丸くするマラーク。

ムスタディオは自らの胸元をまさぐると掌大の機械を取り出す。

「その紙は「写真」といってね。この「カメラ」というヤツを使って映像を見たままに切り取って「画(え)」にすることが出来る。オレ達がこれまで見つけた機工の技の中で「フレーム・アームズ」が「至高の特上」だとするなら、コイツは「下の中」といったところか・・・」

「・・・脅すのか?」

苦虫を噛み潰したような顔のマラークに、ムスタディオは穏やかな口調で返す。

「まさか!君はオレ達の大事な仲間だ。そんな事するものか。その「紙」だって持って行って良いよ。ただ、君がオレと同じ人種で、御高説を垂れるほどの聖人君子じゃあない、って事を自覚して欲しかっただけなんだ・・・座りなよ。一杯、奢るぜ?」

そう言って隣の席を顎で指す。

 完全に勢いを殺されたマラークは、鼻で溜め息をつくと、椅子を引いて腰掛ける。ムスタディオの注文で直ぐさま麦酒が運ばれた。

「何はともあれ、オレ達は「戦友」だ。互いに背中を預けられる、な。」

そう言ってムスタディオは杯を差し出し、マラークも渋々ながら応える。現状、自分と妹にとってラムザの小隊の他に頼るべき先など無いのは厳然たる事実だった。そしてムスタディオは、ラムザの一の親友だ。

「しかし、君は聞かないんだな・・・」

ムスタディオが切り出す。

「?」

「なぜ、ラファがオレの所に相談に来たのか、をさ。」

そう言われて初めて、マラークは、ハッとした顔をする。

ムスタディオはやれやれといった顔で小さく首を横に振る。

「そんなだから、一度は彼女に愛想を尽かされたんだ。いいか、彼女は開口一番オレに訴えた。「二度と兄さんを失いたくない」ってね。彼女を庇って、君は一度死んだ。どれだけ彼女が悲嘆に暮れたか知らないだろう?彼女は、受け継ぎ、鍛えたはずの力が一番大事なものを守るための役に立たなかったことをずっと気に掛けていた。何よりもまず、「君のため」なんだよ・・・先ずは、それを肝に銘じておいてほしい。」

「う・・・・」

マラークは何も言えずにうつむく。

ムスタディオは続ける。

「その上で、君たちの「技」だ。真言に裏真言、それぞれ一子相伝の秘術・・・それ故、殺された側は「誰に」「どうやって」やられたのか、皆目見当もつかない・・・分かるだろう?「暗殺」でこその強みだ。今のように白昼、敵味方の分隊が四つに組んで戦う中でじゃあ、持ち味を活かせない・・・ただの使い勝手の悪い魔法だ。だが、今から他の道を進もうにも、アルマを攫われたラムザが「力」を求めているのは「今、この時」だ。彼女は自身と、君を救ってくれたラムザに恩を返したいと思っている。俺が「マガツキ・キャットアーマー」を見せて、初めてラファがソレを装着した時、彼女が何の反応も示さなかったと思うか?そりゃあ、顔を赤らめて恥ずかしがったさ。でも、それは彼女の望みに比べればてんで大したことじゃあなかった。今日、アレを着て戦うラファの勇姿を見たろう?恥じらっているように見えたか?オレにはそうは見えなかった。全てを吹っ切って、華麗に舞っていたよ。軽装にしたのは、彼女の戦い方や体格を考慮してのことだ。アグリアスさんやメリアドール、レーゼさんのようなメスゴリラ、メスドラゴンと同じような重装備には出来ない。しなやかで素早い彼女の良さを活かすためには、アレが一番良かったんだ・・・どうだい?君はそれでも、彼女の覚悟を無下にするのかい?」

 一気に畳み掛けられたマラークに返す言葉はなかった。誰が聞いても、正しいのはムスタディオだろうと悟ったからだ。

 完全なる勝利。だが、ムスタディオは更に詰め寄る。

「ついでだから言っておこう。君は、ラファがあの姿を皆に晒すことを本気で嫌がってはいない。」

「な、何を言う!?」

マラークは目を丸くして首を横に振る。だが、その瞳に先程のような怒りはない。

ムスタディオは続ける。

「彼女がバリンテン大公に「何か」をされていた時、君は何をしていた?なぜ、それを「知っている」?大公よりも君との友情を大切にする誰かがご注進でもしてくれたか?そんなことはない・・・君は「見ていた」んだ。ラファもそれを分かっていた。そして君は、その時、出ることをしなかった。何故?「見ていたい」という欲望に勝てなかったからさ・・・オレは今、完全に憶測で話しているんだが、どうだ?・・・違うか?」

「やめろ・・・やめてくれ」

マラークはほとんど泣きそうな顔を見せる。

だが、話術士ムスタディオは逃さない。

「恥じることは無い。それでも間違いなくラファは君のことを慕っている。それはさっきも言ったとおりだ。安心して良い。それに、怒りに震える演技も必要ないよ。そんな「倫理」が幅をきかせるのは、オレ達が住む、この小さくて窮屈なイヴァリースやガルテナーハ族の集落の上だけでの話だ。世界は広い。君の「癖(へき)」が受け入れられる国や時代なんて、いくらもあるさ。確か、古代の極東の島国では何と言ったか・・・そう、「NTR」だ。何かの略語らしいんだが、そこはまだ解明出来ていないんだけれどね・・・そうだ。今度、ベイオウーフとサシで飲んでみるといい。きっと、良い友達になれるぞ!」

「そう・・・なのか?」

マラークが問う。その心は完全にムスタディオに屈服していた。

「ああ、保証するよ。彼は君の概ね「同好の士」だ。君が思っているよりも、世界はずっと広く、そしてずっと狭い・・・ハハッ!大事なのは、周りを気にして自らを見失わないことだ。自分の心に、正直に生きるんだ・・・マラーク、オレはいつだって、お前の味方だぜ?」

ムスタディオはそう言って、マラークの肩に手を置くと、会計を済ませて酒場を出た。

席に残るマラークの目は、憑き物が落ちたかのように穏やかだった。

 

【Case5 アルマ・ベオルブ】

死都ミュロンド・飛空艇の墓場

ラムザ以下、小隊のメンバーは慌てふためいていた。「謎の力」の介入で、復活したアジョラからアルマを「分離」出来たのは良かったものの、戻ってきたアルマは素っ裸でしゃがみ込んでいる。それはそうだ。身体が二人に分かれるのは、ファンタジー的な何かで説明するとしても、どこをどうしたって「服」が2倍に増えることはない。もしそんな事があるとすれば、それは演出上のご都合主義か何かでしかない。彼女以上に取り乱しているのは、兄であるラムザ・ベオルブ。何か着せるものはないかと問うて回るが、まさかこんな所に片道切符で飛ばされるとは思っていなかったから、被服含めて殆どの補給品はオーボンヌ修道院の外に残置したままだった。「服を返せ!」とアジョラに向かって喚き散らすが、当のアジョラはアッカンベーをしながら逃げ回り「あぁ、胸がキツイ!」などと嫌味を言い放ってラムザを更に激昂させる。

 

(コイツは調整中の予備だったんだがな・・・)

ムスタディオは労働八号に命じて、ここまで背負わせていたコンテナを降ろさせると、ラムザに向かって叫ぶ。

「ラムザ!「フレズヴェルク」なら直ぐに出せる!良いか!?」

ラムザは一寸、逡巡するが直ぐに「頼む!」と返す。

アルマが素っ裸だったために、ユニットは障害もなく速やかに装着された。

「兄さん!コレ、防御が強いんだが弱いんだか分かんない!」

と戸惑うアルマに、ラムザは「いいから下がっていろ!」と令する。古代文明の最先端装具を身に着けたとはいえ、戦闘経験など無きに等しい彼女に対しては、それが最も適切な指示だった。そして何より、妹の肢体を前面に出したくは無かった。ムスタディオが気遣ったのか、他よりは若干、露出が控えめな「フレズヴェルク」ではあったが、つい先程まで厚手の服とマントで隠されていたボディラインが露わになっている。ラムザにとって、アルマだけは「特別な例外」なのだ。

 

 ドタバタ劇の間に、一旦後方で整備を行なっていたアグリアスの「迅雷」、メリアドールの「轟雷」、レーゼの「輝鎚・甲」、ラファの「マガツキ・キャットアーマー」が準備を整えて飛空艇の上甲板に降り立つ。ラムザを茶化していたアジョラが、その姿を目にした途端、顔色を変えた。

「お前達・・・「また」そうやって、私の前に立ちはだかるのか・・・ッ!!」

 

【幕間】

死都ミュロンド・失われた聖域

 

 4人の「フレームアームズ・ガール」が戦闘後の装具の調整を行う。連戦故、いちいち元の服に着替えたりはしない。全ての装甲を外し、素体・・・当時のイヴァリースの基準で言えば「殆ど素っ裸」の状態で装備の点検を進める。焼けた回路があれば基盤ごと差し替え、ヒビの入った装甲をモジュールごと入れ替え、緩んだボルトがあれば締め直す。軽微なメンテナンスは自分達でやるのだ。そうしながら、アグリアスがボソリと呟く。

「大層な恩恵を与えてくれた高性能の装備故、これまで色々と割り切ってはいたが・・・」

3人の目がアグリアスに集まる。

「私は、いまだにこの格好に慣れてはいない。正直、出撃の度に恥ずかしくて顔から火が出そうだ。」

レーゼがたしなめる。

「でも、しょうがないわ。現状復帰が関の山で、その他には弄りようのない古代文明の遺物だから、とムスタディオさんが言うんですもの・・・」

「そこだよ!」

とアグリアス。

「アイツ以上に、ゴーグの遺物に詳しい奴はいない・・・バルフレアもそこはアイツに譲っていた。だからアイツがそうだと言えば、誰も反論なんか出来やしない。アイツはそれを良いことに、私達を謀っているんじゃないか?私の「迅雷」だって、本当は、ちゃんとしたタセット(草摺)や、キュートレット(尻当て)があるのを、隠しているんじゃないのか?」

「神聖ユードラ帝国時代のエンジニアが出した結論としてのデザインだ、ってムスタディオは言っていたけれど・・・」

とメリアドール。

アグリアスはメリアドールを指差す。

「そうだ。そしてここは死都ミュロンドだ。アジョラの時代のユードラ帝国が、そのままに眠っている。だから、私はここに来てから、そういう文明や、価値基準の痕跡は無いものかと確認しながら歩いてきた。だが、ここまで、そんなものには全く出会えなかった!」

「私達に恥ずかしい格好をさせるための、ムスタディオさんの方便だというの?」

とラファ。

「まだ、そうは言わん。だが、全てが終わって、それでもアイツの主張を証明するものを見つけられなければ・・・」

「見つけられなければ?」

「あの素っ首、叩き斬ってやる!」

そう言って、アグリアスは両の手の指を重ねて鳴らした。

 

 

【飛空艇の墓場】

 

「お前達・・・「また」そうやって、私の前に立ちはだかるのか・・・ッ!!」

顔を歪めたアジョラは、手に持つ「ヴァルゴ」を頭上に掲げる。

眩い光が10秒ほど煌めいた後、そこには、究極の力を持つ聖天使「アルテマ」が浮かんでいた。

その肢体を目にした4人の「フレームアームズ・ガール」は一様に納得したような表情を浮かべて頷く。ムスタディオの方を振り返ったアグリアスの表情は、幾分かの申し訳無さが混じった、とても穏やかなものだった。一寸置いて、その口が開く。

「すまなかった、ムスタディオ・・・お前は、誠心誠意やってくれていたのだな。」

「?」

突如、水を向けられたムスタディオは目を丸くして首を捻る。

「告白する。私はお前を、いや、貴公を疑っていた。色に狂って、こんな破廉恥な鎧をでっち上げたのではないか、とな。もしそうだったなら、その首を叩き落とそうと考えていた・・・。だが違った・・・あの「聖天使」を見て判ったよ。イカれていたのはムスタディオ・ブナンザではなく・・・1200年前のアジョラの時代なんだ、とな。」

 

 ムスタディオは、自らの話術が完全に彼女達を調伏し得てはいなかったことを反省しつつも、結果オーライであったことに胸を撫で下ろし、遠目に浮かぶ「聖天使」に心で礼をいう。そうしながら、目には涙を浮かべ、鼻をすすってみせる。

「信じて・・・くれるのかい?」

そう問いかけるムスタディオに、アグリアスは優しく、そして腹からの大きな声で返す。

 

「いまさら疑うものか。私は、お前を信じる!」

 

 そして「聖天使」に向き直ると、腰を落として溜めを作る。最早、眼前の敵と同じく丸出しの尻を恥じ入ることも無い。心身共に一体となった「迅雷」がその意思を感知し、瞬時に追従すると同時に、搭載された人工知能が次の行動を予測する。アグリアスが踏み切る瞬間、チョコボの脚を優に超える力を彼女の足に与えた。

 

 

「僕等は、いつもどおり、見ていようか。」

ラムザの声にムスタディオが振り返れば、そこには「いつもの様に」ゴザが敷かれ、その上にはおにぎりや、サンドイッチが詰められた重箱・・・

そう、古代の装甲を纏った乙女達が戦場を舞う間、他の隊員は、脇でそれを「観覧」するのだ。怠けている訳では無い。戦場に出ても彼女達の移動や射撃、突貫の邪魔になるだけだったのだ。ラムザやクラウド、オルランドゥでさえも。

 そして、この時間は彼らには貴重な休息の時でもあった。高性能な超文明の遺物を維持するためには、相当な資源と金が必要だった。ゴーグで最も精度の高い工作機械の調達に、機工士ギルドが共同使用するクリーン・ルームや精密冶具を優先使用するための資金、貴重な稼働状態のバッテリーやモーター、そして電装系や装甲の修理に必要な半導体や重金属・希少金属の数々・・・それらを調達するために、ラムザも含めた隊員達は、鉱山労働はじめ、ひたすら「儲け話」での労働や探索で必要な資金、物資を稼ぎ出していたのだ。さしもの「雷神シド」も、慣れない倉庫作業ですっかり腰を痛めてしまっていた。

戦場で美しく舞い、他を圧倒する乙女達の勇姿が、そんな彼等への「報酬」なのだ。

 

 気が付けば、ラムザの心配も他所にアルマは「フレズヴェルク」を駆って前面に出ている。どうやら天賦の才があったらしい。早くも、思考に連動して動く光波ブレードを使いこなし「聖天使」が喚び出した「デーモン」の一匹を微塵切りにする。

 死都に浮かぶ飛空艇たちの残骸を足場に、重力すら無視するかのように飛び交い撃ち合い鍔迫り合う「6人の」乙女達をサンドイッチ片手に観ながら、ラムザが隣に座るムスタディオに向けて小声で呟く。

 

「あの「聖天使」・・・「やっぱり」良いな。」

 

ムスタディオがビクリと動き、その目をラムザに向ける。どこかおそろしげに・・・

ラムザが振り向き、目が合った刹那、その口が動いた。

 

「彼女を、モノにしようか・・・ムスタディオ。」

 

「マジかよラムザ・・・お前は一体、何を考えてる・・・本当に・・・「向こう」で、何を見てきたんだ・・・」

眉をひそめるムスタディオの脳裏に「あの日」の出来事が浮かぶ。

 

 

【機工都市ゴーグ】

 あの日・・・ベスロディオが「フレーム・アームズ」を掘り出す1か月ほど前、たまたま立ち寄ったゴーグでクラウドが発作を起こした。「オレは帰らなきゃ!」と頭を抱えていつも以上に喚き散らし、落ち着かせようにも取りつく島もない。このままでは部隊全体の士気にもかかわると、ラムザは彼の「送還」を決断する。まだ「転送機」が鎮座していた工房にクラウドを運び込むと、元の世界に返せる確証も無いままに装置を起動させる。轟音とともに光が部屋を包み、それが収まった時に消えていたのはクラウドではなくラムザだった。ムスタディオは半狂乱で装置を再稼働させる。連続稼働の無理が祟って転送機は損壊したが、幸いにもラムザは「直ぐに」帰還した。髭を蓄え、見たこともない服に身を包み、得体の知れない品々を詰め込んだ背嚢を背負って。

 

「どこに行ってた?クラウドの世界か!?」

ムスタディオは、膝を付き虚ろな目のラムザの頬を軽く叩く。

 いつの間にか正気を取り戻していたクラウドが自分の世界のことを2つ3つ問いただすが、ラムザは首を横に振る。

「1年・・・1年いたんだ」

「だから!何処に!?」

耳元で叫ぶように問うムスタディオに、やっとでラムザが目を合わせる。

「向こう、だ・・・「壁」の向こう側・・・」

 

ムスタディオはクラウドの胸ぐらを掴む。

「お前のせいだぞ!このキ印め!お前がトチ狂ったせいで・・・!」

「やめろッ!」

ラムザの叫び声。座り込んだままに伸ばしたその手は、クラウドを捩じ上げるムスタディオの腕を掴んでいた。

「クラウドを・・・クラウド「さん」を、そんな風に言うな・・・彼は、凄い人なんだ。」

そう言って、ゆっくり立ち上がると、目を丸くするムスタディオに謝りながら掴んだ腕を離し、その手で自らの「ジーンズ」の膝に付いた土埃を払った。

 

「僕は・・・僕等は、弱い・・・彼・・・いや、彼等に比べて、余りにも。」

 

 それから1週間、ラムザは部隊の指揮をオルランドゥに委ねて宿の自室に引き篭もった。ムスタディオは、今度はラムザがクラウドの様になってしまったのかと悲嘆に暮れたが、それは杞憂だった。部屋から出てきたラムザは髭も剃り、その目は爛々と生気に満ちていた。ただし、曇りなき正義というよりは、荒々しい野心に満ちた輝きとともに。

 

 蘇ったラムザはムスタディオを自室に呼ぶ。他のメンバーも集めようとしたムスタディオを「君だけで」と留めた。意気に感じながら部屋に入った彼に、ラムザは、開口一番、こう言い放った。

 

「思うに、僕等は「IP」として押しが弱いんだ。」

 

 頭が完全に「?」になったムスタディオにラムザは、この「1年」で見てきたものをかいつまんで説明する。それはひと言で言えば「神の視座」からのもので、半ばには信じがたいものだった。ラムザは熱弁を振るう。

「勿論、アルマは助ける。僕が「向こう」を見てきたからといって、アルマが僕の大事な妹であることも、選択を間違えればゲームオーバーなのも、変わりはないからね。でも、それだけじゃあ、ダメだ。 今は、一つの「IP」を使い捨てず、どれだけ永く盛り立てて稼いでいけるかが問われている。僕らも、決して悪くはないのだけれど、「クラウドさん達」に比べれば、てんで大したことはない。桁が違うんだよ・・・同じ「1997年組」だっていうのに・・・」

 ムスタディオは眉間にシワを寄せながら目頭を押さえる。

「お前が言ってること、半分はチンプンカンプンだ、済まない・・・でも、要するに「もっと人気が欲しい」ってこと、で良いのか?」

恐る恐る問いただすムスタディオに、ラムザはニコリと笑いかける。

「流石だね。親友!」

そして、笑顔を解いて続ける。

「とは言ったところで、文字通り「言うは易し」だ。どうすれば良いのか・・・取り敢えずは手のつけられる所から付けていくのしか無いのだろうと、この一週間、色々考えていた。」

「で、何か答えは出たのかい?」

ムスタディオの問いに、ラムザは目を一段大きく開いて答える。

「当然、課題は幾つもある。課題だと気付いてすらいない問題点だってあるだろう。でも、まず一つ、断言出来ることがある・・・」

勿体ぶるように一呼吸置いて続ける。

 

「ウチの女子は、露出が少ない。」

 

そう言って、背嚢から数枚のカードを取り出して寄越す。何れも、一人の女性の肖像。

「へえ!凄えカワイイ娘じゃん!しかも何てワガママ・ボディなんだ・・・で、彼女がどうしたんだい?」

「彼女は、クラウドさんの幼馴染で、ほぼ恋人みたいな人だ。」

「げ、マジかよ!あんな奴にこんな!?なんてこった・・・凄え敗北感だ・・・本当に「クラウドさん」じゃあないか・・・」

「彼女は、「壁の向こう」でも、それは凄い人気でね。僕は小耳に挟んだだけなのだけれど、イタリアという「壁の向こうの」主要国で開かれた格式の高い会議で彼女の映像が少し流れただけで、大層な騒ぎになったそうだ。どんな映像かは分からなかったけれど、とにかく凄い影響力だ。」

「まあ、いいカラダしてるもんな。それを惜しげもなく披露してさ。衣装もこんなに・・・確かに、ウチの女子ーズにこんなのは居ない・・・」

ムスタディオは腕を組んで一寸考えるが、すぐに首を横に振った。

「いや、無理だろ。例えばアグリアスさんにこんな格好してくれって言ったら、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。首から上が無くなるよ。「踊り子」をお願いした時だって、あの鎧のまま押し通したんだぞ?レーゼさんだって、ベイオウーフが黙っちゃいない。メリアドールに至っては聖職者だ・・・」

ムスタディオに同調するように、ラムザも眉間にシワを寄せて小さく頷く。

「それに、仮にOKだったとしても、ただの二番煎じじゃなぁ・・・」

 

 それから大した名案が浮かぶこともないまま1カ月が経過し、「フレーム・アームズ」が発掘される。

 

 本隊よりひと足先にムスタディオとゴーグを訪れ、その仕様を知ったラムザは歓喜した。この「具足」には、実用性だけではなく、自らの「女子軍団」に求めるモノが全て詰まっていた。

「メカで!強くて!セクシーだ!こんな賜り物を「異端者」に寄越すなんて、ホントに大した神様だよ!」

高笑いするラムザに反して、ムスタディオは暗い顔。

「最初にも言ったが、どうやって彼女達にコレを着せるんだ?装着後をシミュレート(妄想)してみたが、中々にスゴイぞ・・・鉄巨人の次は、アグリアスさんとベイオウーフにオレを殺させるつもりか?」

ラムザはムスタディオの方を見て嘆息する。

「確かに、今のままじゃあ無理だね。」

ゴーグの遺物なだけに、説明その他一切はムスタディオでなければ出来ない。だが、彼自身はラムザから見てもなお「ヘタレ」だ。ちょっと気になるアグリアスに誕生日プレゼント一つ渡すのでさえ、どもりどもりで見ているほうが歯痒くなるくらいだった。

 

「君、「話術」を極めろ。全ては、それからだ。」

 

そして、ムスタディオは血の滲むような努力を経て、今日この時、死都ミュロンドへと至る・・・。

 

 

【飛空艇の墓場】

 

 ムスタディオは双眼鏡を手に「聖天使」に目を移す。確かに「一級品」だ。クラウドの「彼女」にも引けを取らない肢体を惜しげもなく披露してくれている。だが、全力で自分達を殺しにかかってくるアレを倒さずに制し、ましてや取り込む事など出来るのか?思わず生唾を飲み込む。

 

 その時、戦う乙女達の動きが一斉に重くなった。バッテリーの電力切れだ。これまで、余りにも速攻で決着が付いていたために顕在化しなかった盲点、神や悪魔の神通力ならぬ物理科学の定理に依拠する動力故の限界・・・

 さしものラムザも焦る。負けてしまっては人気も売り上げも糞もない。

「アルマ達が危ない!行こう!シドさん!」

そう叫んで振り向くと、果たしてラムザよりも早く異変に気づき、聖剣を手に立ち上がろうとしていた「雷神シド」は、腰に手を当てながらうずくまっていた。「魔女の一撃」・・・慣れない荷物運搬作業が祟ってのギックリ腰だった。こうなっては剣聖も形無しだ。

「クラウドさんは・・・」

視線をクラウドに向けると、この絶妙なタイミングで「発作」を起こしている。ラムザは歯軋りする。

(そうだ・・・「今の」クラウドは、まだダメなんだ・・・)

 他方で、自らがゼロから育て上げた小隊の戦士達は更に悲惨な事になっていた。「フレーム・アームズ」の維持費を稼ぐため、何れにも長く武器には触らせておらず、魔法の詠唱もさせておらず・・・彼等の職能も、士業は士業でも、魔道士でも騎士でもなく、労働単価の高い会計士や行政書士に、探窟に便利な測量士と、おおよそ戦闘の用には供し得ない特技ばかりが前面に出ていた。ブランクまみれの彼等にいきなり「バハムートを喚べ」というのは酷な要求だった。ラムザとムスタディオも今や切った張ったとなると怪しい。絶体絶命の危機・・・だが、ムスタディオが見たラムザの目は、まだ勝負を捨ててはいなかった。

 

「アレを使う!君のお父さんがO-72番坑道で見つけたアレだ。」

 

ムスタディオの脳裏に、ラムザの言う「アレ」の姿が思い浮かぶ。

「冗談だろ!?あんな用途不明の代物、役になんか立つもんか!」

「大丈夫、立たせる!僕の見立てが正しければ、アレでひとまず「聖天使」を無力化出来る!」

 

「他には!?」

 

「O-930坑道の「秘宝」を使う!」

 

「グレバドスの・・・通じるかな!?」

 

目を見開くムスタディオにラムザは笑いかける。

 

「大丈夫。彼女、ああ見えて意外と「話は通じる」んだ。「向こう」で知識としては確認済みだ。あとは実践あるのみ、だ!」

 

二人はひたすらに互いを鼓舞し、勇気を振り絞る。

「白羽取り」はマスターしているから、あの双剣での斬り込みだけはそれで何とか捌ける。

 

(あとは・・・ええい、ままよ!)

 

マトモに動けなくなったアルマ達をまとめて吹き飛ばそうと魔力を溜める「聖天使」に向かって、話術士ムスタディオの叫び声が響く。

 

「そこのお姉さん!ちょっと待って!オレの話を聞いてくれ!」

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