秘密の坑道   作:N22b

2 / 2
話術士ラムザとグレバドスの㊙宝

【ムスタディオ・ブナンザのメモ】

 O-930番坑道の遺物、「グレバドスの秘宝」について回想する前に、O-72番坑道の「アレ」について、ごく簡単なメモとしてのみ書き残す。アレは「歴史の表」に出してはいけない代物だとラムザが判断したからだ。

 いつだったかも忘れたが、長さにして40cm程のソレが掘り出された時、オレは「用途不明の壊れた工作機械」だと判断した。ゴーグの機工士が良く使う「電動ねじ回し機」の様に、中に蓄電池とモーターが仕込まれた棒状のソレは、スイッチを入れると酷く振動した。どうやらモーターから伸びる回転軸がブレてしまっているらしい。棒の先についた大ぶりな半球状の部品も、何に適合させるためのアタッチメントなのかサッパリ分からなかった。大して高度な部材は使っておらず、そこまで高い価値は無いと判断した親父はソレを私物化して「健康器具」として使用していた。壊れた軸のせいで酷く震える棒の先を、酷使した腰や肩に押しつけると随分具合が良いのだと言って。

戦いの後に腰を押さえることが増えたシドさんの事を伝えると、同情して譲ってくれた。

 

 暫くして、ラムザの「転送」事案が起きた。「壁の向こう」から帰ってきたラムザは、シドさんが使うソレを見ると、何かに気付いたような顔をしたが、何も言う事は無かった。その先、ソレが話題に上がることは無かったし、勿論、戦闘に使われる事などなかった。死都ミュロンドは飛空艇の墓場で、「フレーム・アームズ」達が電池切れで動きを止めた、あの時までは・・・。

 あの時、オレは磨き上げた話術で「聖天使」を呼び止めようとしたが、既に「究極魔法」の詠唱に入っていた彼女が意に介することは無かった。このままでは、ラムザ軍団の最重要アセットたる「フレーム・アームズ」分隊を失ってしまう。そんな時にラムザが懐から引っ張り出した「武器」は剣でも銃でもなく、「ソレ」だった。ラムザは、スイッチを入れたソレを、彼女の身体に・・・詳しくは書かない。兎に角、彼女の「詠唱」は中断され、究極魔法が発動されることは無かった。その時だけじゃない。結局、あの後、彼女が魔法の類を発動できる事は無かった。最初の「中断」の後、顔を真っ赤にして怒り狂った彼女が双剣を振るうも、ラムザはこればかりはピカイチの練度を保っていた白羽取りで全ていなし、埒が明かぬと魔法の詠唱に入ればモーターの振動音を振りまく「ソレ」を・・・・・・不気味で殺意に満ちた呪文の詠唱は、段々と鼻息交じりの切なくて艶っぽい声に・・・止めよう。これ以上は彼女の名誉と尊厳にかかわる。彼女は・・・あの「聖天使」は、今はもう敵じゃない。「IPとしての地位向上とブランドの確立」に励むラムザのビジネス・パートナーであり、重要な「商材」でもあるのだから・・・。

 オレ達は、あの戦いの後、ソレを「チャージ・キャンセラー」と名付けた。敵の「適切な箇所」に押しつけるだけで、力の溜めや詠唱が必要な戦技魔法の類を片っ端から中断させてしまうからだ。それが本来の用途なのかは分からない。ただ、ソレを使うと、命と誇りを懸けた戦いの「品位」が著しく下がると言って、記録に残るような戦いでの使用をラムザは禁じた。

 何故、あの「聖天使」との戦いでソレを使おうと思ったのかラムザに問うと、「「壁の向こう側」で、似たような代物が「そういう使われ方」をしていたのを、思い出したんだ。」という、ぼんやりとした答えが帰ってきた。

 

 

 

 

 

【グレバドスの㊙宝】

 

 某日、O-930番坑道。69番坑道と並行してベスロディオ・ブナンザが掘り進めていたその坑道が、広大な空洞にぶち当たる。当初「先客」が空けた穴かとも思われたが、そう解釈するには、余りにも整備された手つかずの空間。調査したところ、驚くべき事にその「人工の部屋」は未だに「生きて」いて、空調機が部屋の温度と湿度を一定に保ち続けていた。強固にコンクリートで養生された壁面に設えられたスイッチを切り替えると部屋には電気の灯りがともされ、その一角には部屋の用途を示すとみられる表札が張り付けられていた。

 

「神聖ユードラ帝国警察 証拠品類永久保管庫」

 

 数日後、69番坑道から掘り出されたばかりの「フレズヴェルク」の検分のために訪れたムスタディオとラムザをベスロディオが呼び付ける。曰く「機工の遺物ではないが、とんでもないものを見つけた」と。引き上げられた30立方メートルほどのコンテナには古代神聖語が刻まれた真鍮製の銘板が嵌め込まれており、そこにはこう記されていた。

「第GH656385-K案件 被告:アジョラ・グレバドス」

 ベスロディオは言う。これが1年前だったら、畏れ多くて中を検分することもなくライオネルの枢機卿に届け出ていただろう、と。だが、教会勢力の陰謀に巻き込まれ、息子と共にその邪な企みと陰ながらに戦う身となった今、先ず伝えるべきはお前とラムザ君だと判断した、とも。

 

 コンテナを開ける。中に入って先ず目についたのは、強く加工された紙製の箱の一群。箱の横面には「帝国検察特捜部」とものものしい字体で印字されている。中には大量の文書・書籍類や、記録用とみられるクリスタル・メモリー類が詰め込まれていた。

「電波」を飛ばす通信機器や暗号変換器とみられる機械類に、今でも使われている乱数表も見受けられた。よく見れば、機械や文書類の一部には、破壊や焼却を試みた跡が残っている。こまごましたものでは、皿やコップ、被服類といった生活雑貨の数々・・・既に「ゲルモニーク聖典」に目を通していたラムザ達には、直ぐに判った。それらは、アジョラの「本拠」にユードラ帝国の捜査当局が突入し、押収した「証拠品類」に違いなかった。恐らくは、奇襲に慌てて機器・文書類を破棄しようとしたアジョラを捕らえ、そのままの足で部屋にあった全てを根こそぎ持ち出したのだ。空調の効いた保管庫内にあって、腐食することもなく残された品々から、当時の情景が生々しく想起される。「聖典」に記された断片的なシモン師の注釈文を読んで想像するのと、こうして当時の「現物」を垣間見るのとでは、理解に天地の差があった。もしコレを教会が見つけていたら、たちどころに歴史の闇に葬られていたことだろう。ラムザはベスロディオに深謝すると共に、当時のユードラ検察宜しく、「捜査」に入る。教会や神殿騎士団の思惑、アルマの行き先、聖石にルカヴィ・・・何かに繋がる情報は無いか、目を皿にしてそれらの遺留品を漁る。歴史的にはもれなく凄いものなのだろうが、残念ながらラムザの求める情報に繋がるものは見つからないまま、コンテナ最奥部に安置された木箱に辿り着く。その箱にだけは、「内容物開封に至らず」と記された張り紙が残されていた。中を覗けば、鋼鉄製とみられる金庫が一つ。大人二人がかりでやっとこ運べるくらいの大きさで、ムスタディオとラムザで木箱から引き出してみれば、その扉は荒々しく溶接されていた。余程慌てていたのか・・・だが、溶接が破られていないということは即ち、箱に記されたとおりにこの金庫の中身だけは正真正銘の手付かずなのだ。二人は色めき立って、金庫を工房に持ち帰る。溶接のみならず封印魔法までが掛かっていて、その場では開けられなかったからだ。工房で調べたところ、相当に強力な封印を何重にもかけていたことが判った。ただ、1000年以上が経過して、流石にその効力は半減期を数度に渡って迎えており、工房の解呪キットでも解くことが出来た。

金庫の上面には、

「開けたら殺す!!!  アジョラ」

と大書されている。捜査当局宛では無い・・・恐らくは、使徒達・・・身内に宛てての注意書き。全ての押収物の中で最も強固に防護された、仲間にすら見せられない秘密・・・一体、中身は何なのか、想像を掻き立てずにはいられない。逸る気持ちを抑えて、溶接と蝶番を慎重にトーチで焼き切り、扉を開ける。

上から覗き込むと、数十冊はあるであろう文書らしき冊子類が見て取れた。一冊あたりは何れも薄く背表紙も無い。しかも、無理やり押し込んだのか庫内に縦向きにミッチリと詰まっているために、外から眺めただけでは表題も分からない。

記録文書か、報告文書か・・・はたまた聖石やルカヴィの真実に迫る魔導書の類か・・・ラムザは心臓を高鳴らせながら、その内の一冊に指を掛けて引っ張り出し、開く。その目が、丸くなった。

「文書じゃない・・・絵だ。」

「何?・・・絵!?」

眉間にシワを寄せたムスタディオが冊子を覗き込む。

ラムザはページをめくる。

「このページだけ・・・じゃあない。全てのページが、コマ割りされた・・・人物の絵と、吹き出しの中に文言・・・これは・・・絵物語だ。もしかして、文面だけで記録・伝達するのが困難な情報を絵にして記した、とか?」

他の冊子も開いてみる。どれもが、似たような構成の「絵物語」だった。取り敢えず全て引っ張り出し、パラパラと流し見たところでは、8割がたの冊子は絵柄もまちまちで、複数人数の手が入っているように見受けられた。残りの2割ほどは、同じ絵柄・・・

 改めて、内容の吟味に入る。食事を差し入れに来たアグリアスが珍しく興味を持ったのか、冊子の一部を手に取り、開いた。

 

「これは・・・」

 

 

 その日の晩、バルフレアはムスタディオの部屋に呼び出しを受けた。入ってみればランプの薄暗い明かりの中、ラムザ、ムスタディオにアグリアスの3名がなんとも言えない視線を投げかけてくる。

「なんだい?どうにも穏やかじゃあないねぇ・・・サプライズ・パーティーってワケでも無さそうだ。」

そう言って肩をすくめるバルフレアに、ラムザは席につくよう促すが、警戒されたのか体よく断られる。背を壁に腕を組むバルフレアに、「そのままで良い、幾つか聞きたいことがあります。」と伝えると、バルフレアはもう一度肩をすくめて促した。

 

「初めて会った時、貴方は「グレバドスの秘宝」って言ってましたよね・・・本当に、アジョラの事は知らない?」

バルフレアは鼻息を吹く。

「しつこいな。始めに言ったろう。そんな奴は知らん。会ったことも、聞いたこともない。」

アグリアスが割って入る。

「どうやら、向こうは貴公の事を知っていたようだが?」

「・・・どういう事だ?」

「詳しくは言えん。それを示唆するような情報を得た、とだけ言っておこう。」

バルフレアは腕組みをしたまま考え込む素振りをみせる。一寸して、口を開いた。

「この街から出てくる遺物の数々・・・出てくる当時の国名、そしてこれまでのお前さん達とのやり取り・・・確証は得ていないが、かなりの確率で、ここは俺にとっての「未来の世界」だ・・・つまりは、繋がっている。オレは「アッチ」ではそこそこ顔も名前も売れた空賊でね。手前味噌だが、世界中飛び回っちゃあ、ファンを増やしてきた、って自負はあるぜ?まあ、「敵」もだけどな・・・。当然、向こうは俺に首ったけだろうが、俺の方は、いちいち全員に構っちゃいられない・・・わかるよな?そのアジョラってのも、そんな奴らの一人だったのかも・・・」

「では、ヴァンという青年の事はどうか?」

唐突にアグリアスの口から出た予想外の名前に、それまで余裕を演じていたバルフレアの目が丸くなる。

「その顔だと、知ってるみたいだな。」

と、ムスタディオ。

「なんだ?そのアジョラって奴は、ヴァンの事も知ってる、ってのかい?」

逆に問いかけながらバルフレアは考える。

(アイツも、いっぱしの空賊・・・というかアレは冒険家か・・・そうなって、まあ俺ほどじゃあなくても、こんな所にまで名前を売るようになった、ってことか・・・それとも、まさかアイツまで、コッチに・・・?)

視線を下げて押し黙るバルフレアに、問い詰める3人の中でも特にやきもきしていた様子のアグリアスが痺れを切らす。

「もういい!私はまどろっこしいのは好かん!」

そう叫んで机を叩き、やや驚いた様子のバルフレアに噛み付くように問う。

「単刀直入に聞く!バルフレア、貴公、「衆道」を嗜んでいるのか!?」

「しゅう・・・何?」

「男をかどわかす趣味があるのか、と聞いているッ!」

「はァ!?」

バルフレアが、今度ばかりは驚いた表情も隠さずに壁から背を離す。その胸元に、アグリアスが一冊の冊子を投げつけて寄越した。その頬がやや赤らんでいる。

「アジョラの「記録」だ。・・・なぜか「絵物語」の体だがな!」

バルフレアは眉をひそめながら、その薄手の冊子を手に取る。表紙には彼等には読めないか読みづらい「古代神聖語」。だが、自分には慣れ親しんだ文字で

「空賊㊙航空日誌」

と飾り書体で印刷されている。

ページをめくる。

(何だ・・・「絵物語」なんて分かりづらい表現するから面食らったが、「漫画」じゃないか・・・それにしても、使う文字といい、やはりアジョラって奴は、俺と同じか、近い時代の人間なのか・・・この絵は誰だ?妙に乙女チックに美化された・・・!俺、か!?そして、コッチは・・・ヴァンだ・・・コレも変に美化されてるが・・・)

ページを読み進め、絶句する。

 

『バルフレア、オレ、なれたかな?一人前の、空賊に・・・』

 

『ああ、大したもんだ!だがひとつ、まだ、教えていないことがあった・・・』

 

『え?それって・・・あッ・・・!』

 

そんな吹き出しのセリフと共に、線の細い画風の絵物語は「濡れ場」へと突入していく・・・。

 

「これは・・・「記録」なんかじゃない!」

冊子から目を上げたバルフレアの顔は、何とも形容しがたいモノになっていた。

「あと、オレは「そういう趣味」でもない!居るんだよ、こういう・・・「目を付けた誰でも」くっつけちまう手合いが・・・」

 

アグリアスが眉間のシワを解く。

「・・・これは「創作物」だというのか?事実の記録ではなく?」

ムスタディオが冊子の束を出す。

「コレ、内容は全部「そんな感じ」なんだ。登場人物も絵柄もマチマチだけれど、アンタの事を取り扱ったものだけでも5冊はある・・・「ゲルモニーク聖典」を見たオレ達の理解では、アジョラは「情報員」だ。だから、工作対象や、収集対象の「そういう表に出せない事情」を「絵」で記録したり、させたりしていたのかも、と推測していた。例えば脅迫、取り込みのネタにする為に。だから、最悪、アンタがこんな「癖(へき)」だってことをネタに、オレ達に会う前の段階で教会や神殿騎士団の手の内で強請られてる、って可能性も考えていた・・・いや、自分で言ってても思うぜ?相当に無理のある解釈だってな。でも・・・」

アグリアスが1歩前に出る。

「仮にそれが我々の思い過ごしだとしても、ここに描かれた貴公の嗜好が事実だとしたら、由々しきことなのだ。貴公の時代ではどうか知らんが、今のイヴァリースでは、こういうのは「禁忌」なのでな。士気にもかかわる。」

バルフレアの顔に笑みが戻る。

「ご心配には及ばず・・・だな。繰り返すが、オレはそういうのじゃあないよ。まあ、「異種」なら・・・いや、何でもない。」

ラムザが腕を組む。

「しかし、「記録」じゃないとしたら、コレは何なんだ?作られた目的は?」

バルフレアは呆れたという表情で頭を掻く。

「何って・・・「趣味」だよ!他にあるわけ無いだろう?コイツは、何処から出てきた?そのアジョラって奴のものなのか?」

「・・・恐らく。彼が、他の何よりも厳重に保管し、封印していた。わざわざ「開けたら殺す!!!」と警告まで記してね。」

ムスタディオはそう言って、部屋の隅に置かれた、扉が焼き切られた金庫を親指で差す。

バルフレアの眉が動いた。

「ちょっと待て、今、「彼」って言ったか?」

「ああ。アジョラは、男だ。知らなかった?」

バルフレアは首を横に振りながら、冊子の束をめくり、そして金庫をまさぐる。

「俺の予想じゃ、コレらは、男のものじゃあない。まあ、絶対とは言わんがな・・・へっ、この金庫、やっぱり奥が二重だ。外観に比してどうも奥行きが浅く見えたんだ・・・」

「そうなんですか?全然気付かなかった!」

ラムザが舌を巻く。「空」をどう飛ぶのかは相変わらず分からないが、どうやら一流の「賊」なのは間違いないようだ。

バルフレアが慎重に金庫の奥板を外す。中に隠されていたのは冊子ではなかった。

「コイツは・・・画材?そして・・・描きかけの原稿・・・まさか・・・」

ムスタディオが気付く。

「その絵柄、アレだ。冊子の束の2割くらいのと同じだ!」

バルフレアが伝票のようなものを見つける。

「コイツは、印刷所への注文票だな。小ロットで・・・成る程、「森のくまさん」・・・コレが作者のペンネームか、「サークル」だかだな。」

「サークル?」

「「クラン」みたいなモンだ。「同好の士」ってやつだよ。そして・・・」

一息ついて続ける。

「どうやら、お前さん方が奉る「聖アジョラ」って奴は、神は神でも筋金入りの「腐れ神様」みたいだな。集めるだけじゃなくて、自分でも描いていたとは・・・賭けてもいい。コイツは「女」だよ。しかし、これだけ厳重に隠してたってことは、恥じらいはあったみたいだな・・・まぁ、少なくとも「聖者の趣味」にしちゃあ、不適切に過ぎる。」

 

 ここに来てラムザは思い出す。「壁の向こう」にも、そういう「世界」があったことを。もしアジョラがバルフレアの言うとおりなら・・・

 

「ムスタディオ、コイツは一式、持っていこう。何かのネタに使えるかも知れない。」

ラムザの指示にムスタディオは頭を抱える。

「マジかよ・・・勘弁だぜ。紙の荷物は重たいんだ・・・」

そう言いながら、冊子を金庫に戻していく。

「アレ?さっきより、なんか隙間が・・・」

ムスタディオが頭を捻る。

「待ちな!嬢ちゃん・・・」

バルフレアが呼び止めたのは、一足先に部屋を出ようとしていたアグリアス。その肩が小さくビクつく。

「オレの目の前でモノをくすねようだなんて、100年早いぜ?」

「な、なんのことだ・・・」

シラを切ろうとしたアグリアスだったが、射抜くようなバルフレアの眼光に観念し、胴巻きの内側に隠した数冊の冊子を取り出す。

先程よりも一段、頬を赤らめつつ曰く、

「わ、私はアジョラの時代の事に余りに無知だ。これから対峙しなければならないかも知れないというのに・・・全てをムスタディオに任せっきりにするのも酷だろうと・・・その・・・見聞を・・・」

 

バルフレアは口角に笑みを作りながら前に出る。

「まあ、それなら、そういう事にしておいてやるよ・・・ただし、コイツは「なし」だ。」

そう言って、アグリアスが置いた冊子のひとつを取り上げる。

部屋を出て、取り上げた冊子に目をやる。

絵のない表紙には、

『シドミド親子のアツい雪融け』

と書かれた飾り文字。

 

「流石に、おイタが過ぎるぜ・・・」

 

歩みを止めて、天井を仰ぐ。

 

「まさか、コイツが「グレバドスの秘宝」ってコトは・・・ない、よな?」

 

 

 

 

 

【Case6アジョラ・グレバドス(聖天使アルテマ)】

 

飛空艇の墓場

 

 上甲板の前列には、ムスタディオと、後に「チャージ・キャンセラー」と名付けられる「用途不明の機器」を手に、肩で息をするラムザ。

彼らと至近で対峙するのは「血塗られた聖天使・アルテマ」。ラムザの執拗な「攻撃」のために、腰が砕けて浮かぶ気力もないのか、地べたにへたり込んで両手を付き、荒い息をしている。だが、ラムザを睨めつけるその眼には、いっそうの殺意が宿っていた。それもそのはず。ラムザの「攻撃」は、彼女のプライドと、「その他の大事なモノ諸々」をこそ相当に抉ったに違いなかったが、決して身体を傷付けたり生命を絶つようなものではない。徐々に息が落ち着くと共に、その顔に不敵な笑みが戻る。

「ドウセ、ソイツモ電動式ダロウ・・・バッテリーガ尽キタ時ガ、オ前ノ死ヌ時ダ!!」

ラムザはうろたえない。あくまで飄々と返す。

「そうだね。でも、僕は君と話がしたかったんだ。そのために、先ずは落ち着いて欲しかった・・・コイツのバッテリーが保つ間に、僕の話を聞いてくれるかな?」

「何ヲ、馬鹿ナ事ヲ・・・!」

「聖天使」は吐き捨てる様に答えるが、ラムザは意に介さない。

「そうかな?君は結構話の通じる人だと僕は踏んでいる。例えば・・・もし、僕がここで割の良い投資話を持ちかけたら、君は乗ってくれるかい?」

暫しの沈黙の後、「聖天使」が口を開く。

 

「内容次第ダ・・・」

 

(・・・乗るんだ)

「聖天使」の回答にムスタディオは耳を疑う。

 

「だろう?それが、君が「他」とは違うところさ。素晴らしいことだと思うよ!」

 

ラムザに褒められ、眼前の「聖天使」は満更でもない表情に・・・ムスタディオは己が目を疑った。

 

「それを踏まえて、少し腰を落ち着けて話を聞いてくれないかな?悪いようにはしないよ?」

 

今度は「説得」するが、反応は良くなかった。

 

「貴様・・・アレダケノ事ヲシテオイテ、都合ノ良イ・・・!」

 

身体の感覚が正常に戻ってきたのか、立ち上がろうとする「聖天使」。ラムザは溜め息を付きながら首を横に振る。

 

「そう・・・残念だよ、「森のくまさん」・・・。」

 

その「名」を聞いた「聖天使」の顔が、みるみる青ざめ、息が荒くなる。

その様子を観ながら、ラムザは口角に笑みを浮かべる。

「君とアジョラは完全に一つなのかな?それとも別々?まあ、いいや、どっちでも・・・その様子だと、ちゃんと「耳に届いている」みたいだからね。」

そして、「森のくまさん」名義で描かれた冊子の表題を一つ一つ、暗唱していく。ひとつ読み上げられる度に「聖天使」の顔は怯えが混じった苦悶に歪む。

(なんてこった・・・ホントに、バルフレアの言ったとおりだったんだ・・・)

ムスタディオは頭を抱える。

 ラムザの「脅し」に、遂には再び地べたにへたり込んだ「聖天使」が、最初の変身の時に比べれば大層弱々しい光を放ち・・・それが収まった時には、人の・・・アジョラの姿に戻っていた。その目には既に涙が浮かんでいる。

「そんな・・・なんで・・・」

ラムザは肩をすくめながら首を傾げてみせる。

「言う必要あるかい?分かってるんだろ・・・僕は「君が描いてた」事も、バッチリ把握済みさ!」

「う、うぅ〜っ!」

顔を真っ赤にして呻くアジョラに、ラムザは優しく語りかける。

「そんな顔しないで。僕は、君を馬鹿にしたりはしない。むしろ「磨けば光る」とさえ踏んでいるんだ。」

「ワケの分からないことを!」

「まぁ、そう邪険にしないでよ。今日は、君に良い知らせを持って来たんだ。」

「・・・?」

呻くのをやめ、首を捻るアジョラにラムザは続ける。

「君の「正体」を知っているのは、まだここにいる僕らだけだ。今、地上で君が何て呼ばれているか、知らないだろう?「神の御子」若しくは「神」そのもの・・・学派によって見解の分かれるところはあるけれど、何れにせよ、この世に「君の上」は存在しない。君は、イヴァリースの「象徴」だ。

さっき君は言ったよね。「我は神なり」ってさ。もし君がソレを地上で言ったとしても、周りは誰も驚かない。「ああ、そうですよね。存じております。」くらいなものだ。拍子抜けすると思うよ。」

「・・・・・」

「志半ばで斃れたつもりなんだろうけれど、後継が頑張ってくれたのかな・・・君は既に目標を達成しているんだ。少なくとも、君がいた、今ではイヴァリースと呼ばれる国ではね!」

 

アジョラは座り込んだまま、強がるように口角を上げてみせる。

「フン!「聖天使」と一つになった今の私が、国一つで満足するとでも?」

 

凄んでビビらせるつもりで言ったのだろうが、それを聞いたラムザは満面の笑みを浮かべて両手を広げる。

「流石だ!それでこそ僕の「メンバー」に相応しい・・・その意気や良し!・・・ただ、これから先の君の選択次第では、その一国すら失うことになるけどね。」

「どういう事・・・」

アジョラはそう聞きながらも、既にラムザの回答を予想しているようにも見受けられた。ラムザもそれを察する。

「君も、「そういう仕事」についていたのなら分かるだろう?君の「薄い本」達は、僕の手の内にある。勿論、地上では原本に加えて大量に複製済みだ。この先、僕等が地上に戻らなければ、それらは自動的に拡散される。誰が集め、誰が作ったのかの情報も含めてね。「コイツ」の電池が切れた後、僕らを吹き飛ばせば君はさぞかしスッキリするだろう。でも、その足で地上に戻った後、君はもう「神」じゃあなくなる。一度流れた情報は広がるだけ。戻ることはない。密から疎へ・・・神にも逆らえない、宇宙の法則だ。君の名の枕についた「聖」の字が「性」に変わってもいいって言うなら、好きにすればいい。でも、僕の話を聞いてくれるなら、そうはならない。「ルカヴィ」なんて壊すしか能のない、稼げない連中を使うよりも、僕と組んだ方が君の利益になる・・・保証するよ。」

 

アジョラは暫し黙った後、ゆっくり瞬きをひとつする。溜まった涙が一筋こぼれ落ちる。

 

「話を・・・聞くわ。」

 

 ラムザはニコリと笑って前に出ようとするが、アジョラは手を突きだしてそれを遮ると言い放つ。

「でも、組むなら私が上!アンタの下っていうのは気に食わない!プライドさえ捨てれば、アンタ達を殺すのなんてワケないんだから!」

ラムザは、まるでバルフレアがやる様に鼻息を吹きながら片眉を上げる。

「そう言うと思ったよ。まあ、組織だってやる以上、上下ははっきりさせておいた方が良いよね。結論から言えば、君の気に入る、入らないに関わらず、僕が「上」だ。理由はある。ここにいる人間の中で、僕だけが「壁の向こう」を知っていて、本当の「使命」を理解している・・・そして、何より、僕の「売り上げ」が一番高いからだ。」

「「壁の向こう」?「売り上げ」?一体、何の話を・・・」

ムスタディオが割って入る。

「簡単に言えば、君よりもラムザの方が「神」に近い、ってことだよ。彼は、君も含めたオレ達よりも、高い次元を見たんだ。」

 アジョラが言い返さないのを見定めると、ラムザは「壁の向こう」での体験を聞かせた。ムスタディオと同じく半分は理解出来ずに訝る顔の彼女を横目に、ラムザはムスタディオに持ってこさせた背嚢を漁る。

「ま、色々あるけど・・・コレが分かりやすい、か。」

そう言って、書籍の束を取り出し、投げて寄越す。

「何これ・・・「ディシディア・・・」?」

「本当は「遊戯」なんだけれどね。ここじゃあ出来ないから、「ガイドブック」を持ってきた。あくまで僕の解釈だけれど、コレには、僕らが所属する「大きなIP」の中での「ヒエラルキー」が反映されている。大衆に求められる・・・つまりは、売り上げを期待される者が、この「場」に召喚される・・・」

そして後列で頭を抱えるクラウドを振り返り、しみじみと呟く。

「クラウドさん達は、本当に凄い・・・彼の「仲間」、「敵」も含めて、まさに稼ぎ頭だ。でも彼は、ここでは本来の「力」を発揮出来ない・・・」

アジョラは厚手のその本の中の1ページに目を留め、チラとラムザと見比べる。

「見つけたね?そう。僕は「喚ばれた」。その遊戯の趣旨から言えば、通常は「対となる敵」も喚ばれる。だが・・・君はどうかな?」

「そっ、そんなの・・・」

アジョラは何度も紙面をめくり直す。ページに欠けがないかまでを見直すが・・・

 

「バカな、こんなことが・・・」

 

肩を震わせるアジョラを、腕組みしたラムザが見下ろす。

「それが、君の「現状」さ。今、君が開いているページに載ってる「道化師」にも遠く及ばない。それで何?「神」だって?僕の上に立つだって?片腹痛いよ。君も、手下のバルクと同じ「裸の聖女様」なのさ!」

 

「私の・・・何が・・・何が足りないっていうの?」

「ガイドブック」を握りしめてうつむき、大粒の涙をこぼすアジョラに、ラムザは語りかける。今度は膝を付いて同じ目線で、先程とは打って変わって穏やかな声色で・・・

「君は、素晴らしい素養を持っている。僕が思うに、足りないのは「認識」と「努力」だ。」

「認識と・・・努力?」

視線を上げれば、ラムザと視線が会う。その目はどこまでも優しげだ。アジョラの意識は、無自覚のままにその瞳に吸い込まれていく。

「やっと、本当に僕の話を聞いてくれそうだね。」

ラムザはそう言って続ける。

「まずは「認識」・・・こんな「壁の内側」でどれだけ存在を誇示したって何にもならない。「壁の向こう」に名前を売ってこそ、なんだ。信者を作るなら「向こう側」で・・・金を稼ぐなら「ギル」じゃなく「円」で!君の同輩・・・クラウドさんの「敵」は、既にソレをやっている!」

そう言って、背嚢から折り畳んだ2枚のポスターを取り出し、広げて渡す。

「何が見える?」

「・・・銀髪のイケメンが、飾り耳付けておうどん食べてる・・・コッチは、お酒飲んで・・・」

「そうだ。彼は君と同じく、自分のために世界を破壊しようとした奴だ。それなのに、「向こう側」の国中の人間が彼が飲み食いする姿を見て、同じモノを買い求める。なぜかって?彼が、「向こう側」でも、スーパースターだからだ。「円」を稼げるタレントなんだよ。彼も、それを「認識」している。だからこんな仕事でも喜んで受けるんだ。そうすれば露出が増える。露出が増えればまた仕事が・・・正のスパイラルだ。君も、彼も、「1997年組」で!髪の色も同じで!物語における社会の「象徴」なのも同じで!最後に待ち受けるのも同じ!それなのに、これだけ差がついた・・・君の「認識」不足が原因の一つだ!」

「ご・・・ごめんなさい。」

尻上がりに調子を上げるラムザの剣幕に押されて何故かアジョラは謝ってしまう。こうなると最早、逆転は不可能だった。ラムザの勢いは止まらない。

「そして「努力」!君は自分の「強み」を全く活かせてない!折角、「ナイス・バディ」だと「公認」されているタレントだと言うのに・・・君が、さっきの「変身」に掛けた時間を言ってみろ!」

「そんなの、数えたことない!」

ラムザはオーバーアクション気味に大溜め息を付きながら首を大仰に横に振ってみせる。

「それがもうダメだというんだ!僕は数えた。概ね15秒!たったの15秒!しかもビカビカ光って騒がしいだけで何がどうなっているかさっぱり分からない!」

「たかが変身でそんなに言わなくたって・・・」

ふてくされ気味に返したアジョラの愚痴に、ラムザの目の色が変わる。

 

「変身を、舐めるなッ!!!」

「ひッ!」

 

上甲板にいる全ての人間が振り向くほどの大音声で叱責され、アジョラの目元に新たな涙が溜まる。

「変身後がエロ可愛ければ良いとでも思ってるのか?そうだとすれば君の怠慢だ!「過程」だよ。変身の「過程」は、タレントの魅力を最大限にアピールする「商機」なんだ。君は・・・この世界では君だけしか持っていない「特技」をドブに捨てている。まさに「努力」の欠如だ!」

ラムザはそう凄むと、背嚢から書籍大の「板」を取り出し「電源」を入れる。

「・・・タブレット?」

その名を言い当てたアジョラに、ラムザは少し目を開く。

「へぇ、流石は古代文明の住人だね。話が早くて助かるよ。ここじゃあ「ネットワーク機能」は無理だけれど、動画・画像の再生機としては使える・・・詰め込めるだけ、詰め込んできたんだ。」

そう言って画面を操作すると、アジョラに手渡した。

 

「何?・・・プリ・・・キュア?」

 

「「壁の向こう」で、絶大な人気と売り上げを誇るコンテンツさ。メインのターゲットは女児だけれど、男児も観るし、大きなお兄さん達も・・・1000人に聞けば1000人ともが知っている。まあ、そのへんの講義は別の機会に。君に見て欲しいのは、彼女達の「変身」だ・・・説明するより観たほうが早い。」

ラムザはアジョラが持つタブレットを肩越しに操作し、「変身シーン」を見せる。

「・・・凄い」

小声で感嘆の声を漏らすアジョラ。

ラムザはこれまた大振りに頷く。

「分かったかい?多少の差異はあるけど、時間にして、一人でも概ね1分近く。彼女達はその時間を余す所なく使って、自身の魅力と、小物に至るまでの衣装、変身に使うアイテム、それら全てを高次元に融合してアピールする。一切の手抜きはない。そして、余程のことがない限り、どんなにピンチでも、この変身が省略される事はない。何故か?それだけ「重要」だからだよ。彼女達が変身している間、子供達はその手に関連商品を持って満面の笑みでその「過程」を見つめ続けるんだ。今の君の変身に、そんな「力」があるか?」

「・・・ない、の?」

そう言ってうなだれるアジョラの肩にラムザは優しく手を乗せる。

「君は素直だな。素直なのは良いことだ。それだけ飲み込みも早いからね。大丈夫。君の未来は明るいよ。」

「・・・本当?」

「本当さ!君には、伸び代しかないんだから!」

そして、再びタブレットを操作して、エンディングのダンス・シーンを見せる。

「とは言っても、一人じゃあ限界がある。だからこそ君にも手下がいたんだろうけれど、彼等は今日限りでお払い箱だ。君は、新しい仲間達・・・彼女等と、コレに勝るとも劣らないダンスを踊る事になる。変身と同じく、最大の「魅せ場」だ。」

そう言ってラムザが顔を上げて後ろを振り返り、指差す先には、アグリアス以下「フレームアームズ・ガール」の面々。アジョラがそこに目を向けると、果たして陽光も差さない死都だというのに、彼女達の後ろから後光が差しているように見えた。思わず目が細くなる。その前に、腰を上げたラムザが仁王立ちに立つ。

「僕が「壁の向こう」に行ったのは、偶然じゃなく、必然だった!」

ラムザは拳を固めて語る。

「殆どの人間は、「壁の内側」で与えられた役割を演ずるしかない。もっとも、演じていることにすら気づいていないけれど・・・

そうやって、IPとしての寿命を迎えた時、「死ぬ」んだ。

僕はそんなの真っ平御免だ。

僕は使い潰されない。

生き残る側に回ってやる。

「ナンバリングタイトルじゃないから」とか言ってきた奴らに、それ相応の償いをさせてやる。」

 

 決意に満ちたその目はアジョラに、人間だった頃の・・・自らを操る国家の意思を超えて自分のために生きようと決断した時に目覚めた「野心」を思い起こさせる。

 

「貴方は何をしようというの?」

 

「僕を信じろ。君に相応しい世界を用意する。

僕が作ってあげよう。

君の第二の人生が光り輝くものになるよう、僕が導いてあげるよ。」

 

そしてラムザは、「壁の向こう」で仕入れた「親友の決め台詞」を吐く。

 

「だから・・・そんな風に泣くのはよすんだ。」

 

「・・・信じていいの?」

 

「僕は君を裏切ったりしない。僕の妹、アルマに誓おう。」

 

かつて、使徒の一人に裏切られた彼女の心が動く。

 

二人のやり取りを見守るアルマが眉間にシワを寄せる。

(なんで私?死んだみたいに言わないでよ!?)

 

ラムザは、親友がそうしたように、眼前で泣きながら言外に救いを求める一人の女の前に片膝をつき、その手を優しく置いてダメ押しの一言を投げかける。

 

「・・・だから、もう泣き止むんだ。」

 

一寸して、白銀の長髪がラムザの胸元に埋もれる。

ラムザはそれを抱き留めながら、心の中で親友ディリータに礼をいう。

 

(王女が落ちるなら、聖女も落ちるだろう。)

 

そう踏んだ彼の勝ちだった。

 

ラムザの脇に立つムスタディオは、静かに頭の中で突っ込む。

(泣かせたの、お前だけれどな・・・)

 

 

 

 

 

【ファントム・ペイン】

 

 激闘を制して「聖天使」を落としたラムザに、ムスタディオは問う。

「この展開を、「壁の向こう」の造物主達は認めるだろうか」と。

ラムザの答えは「否」だった。「ゲームオーバー」にならない限り、この物語の筋書きは決まっている。そこには逆らえないのだ、と。そして続ける。

「でも、僕等が商品価値を上げれば、彼等もこの結末を認めざるを得ない。それが資本主義の原則だから。ただ、それには時間が必要だ。「彼女達」を鍛え上げないといけない。だから、「彼等が決めた結末」も別に用意する。」

どうやって?と問うムスタディオにラムザは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そのための「策」はある。「壁の向こう」で学んできたんだ。」

 

 

 

 死都での全てを終え、アジョラを連れて地上に戻ったラムザ小隊は久々に「演習」を企画する。戦技向上のため、戦闘終盤に残敵を無力化した上で味方同士戦う、アレだ。全ての戦いが終わったのに何故、と問う隊員達にはラムザは諭す。

「僕達は「フレーム・アームズ」分隊に頼りすぎた。それが最後の戦いでの反省点だ。「ルカヴィ」の危機は去ったけれど、イヴァリースの情勢・治安が直ぐに良くなるわけじゃあない。僕等が賞金首なのも相変わらずだ。だから今一度、初心に帰って鍛え直そう。」

 最大の効果を得るため、「演習」は何時だって手加減無用だ。勢い余って仮死者の一人や二人が出るのはいつもの事。その日も、演習終了時には男女二人が人事不祥の重体になっていた。ラッドとラヴィアン。ラムザ以下、事情を知らされた一部の幹部メンバーによる「厳正な抽選の結果、選ばれた」二人・・・。いつもならば直ぐ様、魔法か「フェニックスの尾」で蘇生されるところだが、それはなされなかった。意識不明のままに闇医者の病院に運び込まれた後、喚ばれたのは、これまたモグリの整形外科医と催眠術士。二人の顔には刃が入れられ、ベオルブ家の末の兄妹と瓜二つに整えられる。催眠術士によって覚醒一歩手前の眠りが保たれる中、二人の頭に「兄妹」の過ごした日々と、戦いの「記憶」が繰り返しの暗示と共に刷り込まれていく・・・

 

『ラムザ』が目覚める。見回りの看護婦が驚いた様子で医師を呼ぶ。医師は『ラムザ』に落ち着くよう言い置いた後、2年間、眠っていた事を伝えた。理解が及ばず暴れる『ラムザ』に、医師の指示で睡眠の魔法が掛けられる。

 次に目が覚めた時、病院は襲撃のさ中だった。『ラムザ』は朦朧とする意識の中で記憶を手繰り、「思い出す」。自らが異端者として追われていたことを。

(この襲撃は、僕を狙ったものか?)

長らく眠っていたために言う事を聞かない身体を叱咤しつつ逃げるが、追い詰められる。危機に陥った彼に、剣を持って助けに入った女性が叫ぶ。

「兄さん!コッチよ!逃げましょう!」

何とか逃げ切ったラムザに、女性が問いかける。

「兄さん、私よ。『アルマ』よ!判る?」

『ラムザ』の脳裏に、新たな「記憶」がよみがえる。

(そうだ・・・僕は、神殿騎士団に攫われたアルマを追って、死都ミュロンドへ・・・そして、「血塗られた聖天使」を倒した後の、爆発で・・・それからずっと、眠っていたのか?)

聞けば『アルマ』も似たような状況だった。襲撃の暫く前に目が覚め、何とか逃げおおせたのだという。

「皆はどうしたのだろう?」

「分からない。あの病院に居たのは私達だけだったわ・・・」

『ラムザ』は決断する。2人で逃げよう、と。アジョラを倒したって、自分達の異端者としての境遇が変わるわけではない。教会の手の届かない国まで逃げる。そして、そこで語り継ぐのだ。「真実の物語(ブレイブ・ストーリー)」を・・・いつか、誰かが掘り起こしてくれるその日まで・・・

 

 チョコボを駆る2人の視界の隅に、一人の男の姿が入る。男は自分達を呼び止めようとしていたようにも見えたが、彼に見覚えの無かった2人は無視をして通り過ぎた。

 あの日、男(オーラン・デュライ)が襲われたゴルランドの街に、2人は「居なかった」。揃って「儲け話」のひとつに派出されていたのだ。

 彼等が通り過ぎた墓場では、2年に渡る捜索の末、遂に発見に至らなかったアルマ・ベオルブの、遺体のない葬式が営まれたところだった。

 

 

 

【極東の島国】

 

とある街の酒場

ラムザ・ベオルブは、壁際の席で酒をチビチビと舐めるように飲む。「壁の向こう」から戻って来てから、酒場でミルクを頼むのは卒業していた。この地方の地酒にも慣れ、銘柄ごとの味の違いも分かるようになったきた。

「それにしても、エラく遠くまで来たね。何でこんな東の果てまで?」

対面に座ってそう問いかけるのは、すっかり小隊に馴染んだアジョラ。

「大した理由じゃあない。「壁の向こう」の故事に倣ってみたのさ。」

「また「壁の向こう」?」

「ああ、「向こう側」にも昔、君みたいなのが居てね。三十路の大工が「私は神の子だ」って言い出して色々頑張ってたらしいんだけれど、やっぱりというか、弟子の一人に裏切られて捕まってね・・・ただ、彼は君みたいにバカ正直に処刑なんかされなかった。」

「バカ正直、って・・・」

「言い伝えでは、彼は弟を身代わりに立てて、自分は遥か東の「ムツノクニ」まで逃げおおせたんだ。僕も行ってきたよ。海の幸が美味しいところだった・・・まあ、その真似をしただけだ。お陰で、コッチでも海の幸を楽しめる。」

ラムザはそう言って艷やかな身の岩牡蠣を吸い込むように口に運び、舌鼓を打つ。ミルクを止めた代わりの「海のミルク」というわけだ。それを麦酒で流し込み、上機嫌で話し続ける。

「そう言えば、さっきの稽古での「変身」、素晴らしかったよ。笑顔も、振り付けも完璧だった。この調子で「価値」を高めていければ、「ディシディア」だけじゃない・・・僕やアグリアスさんの様に「立体化」してもらえる日も遠くないだろう。」

「立体化・・・」

アジョラの脳裏にトラウマが蘇る。

 

 地上に戻って暫く経った時、戯れにラムザの「背嚢」を漁った。目に付いたのは、「壁の向こう」で売り出された「関連商品」の一覧をラムザがまとめた目録。その中の「フィギュア」の項目に「聖天使アルテマ」の名を見つけた。しかも単価はラムザ達より高い!

(アイツ、隠してやがった!私だって、ちゃんと売り上げてんじゃん!)

目録を手に、ラムザに前言を撤回させようと勇んで押しかけたが、嘆息するラムザが「タブレット」に表示して見せた商品画像は、自らとは似ても似つかぬ「謎の生物」だった。屈辱と敗北感に打ちひしがれ、その夜ひと晩、枕を涙で濡らしたのを忘れる事は無い。

 

ラムザが問う。

「しかし「キュアアイドル」だっけか?何故、彼女の振り付けにしたんだい?」

「・・・私、コレでも偶像(アイドル)だからね。一応・・・」

そう答えたアジョラに、ラムザは笑って膝を打つ。

「成る程、分かった!良いだろう。当面はそれで行こう。アグリアスさん達にもそれで振り付けを覚えて貰わないとだからね。あのシリーズだと、歌も歌えないといけないから大変だけれど、モノにできれば、クラウドさん達を超える「ブランド価値」も夢じゃあない・・・今度、誰かを吟遊詩人にして歌詞を書かせよう。」

 

 ムスタディオが陽気な掛け声と共に酒場に入ってくる。曰く「仕事」のオファーが来た、とのこと。

「ダンサーの仕事だ!場所は、「フランス座」って所だって。何を踊るかは、向こうに着いてからの指示らしいんだけど・・・どうする?」

「いいね!皆の修行の成果を出せる良い機会だ。」そして、懐かしげに天井を仰ぐ。

「フランス、か・・・「壁の向こう」にも、そんな名前の国があってね。優雅な、芸術と美食の国だと持て囃されていた。きっとその「フランス座」も格式高い、由緒ある所に違いない!是非やろう。」

ラムザは二つ返事で依頼を受ける事を決断する。

「腕がなるね。」とアジョラ。

「ああ。早速、観客達を「キラッキランラン」にしてあげると良い!」

 

 そうハッパをかけるとラムザは席を立ち、別の卓で杯を傾けるアグリアス達を激励して回る。そうしながら、頭の中は「明日」に思いを馳せ、決意を新たにする。

 

(「壁の向こう」から帰る少し前、僕は確かに聞いた。「造物主」が「150万本売れたら続編を考える。」と言ったのを。本数はきっと行くだろう。問題はその後だ。その「続編」に僕等が関わっていけるか、それとも「ただの思い出」になってしまうのか・・・それは、彼女達の仕上がりに掛かっている。「プリキュア」は良いヒントになった。「魔法でも肉弾戦でも戦えて、しかも可愛く踊れるヒロイン達」。まさに、今の彼女達だ。しかも、「フレーム・アームズ」と「聖天使」で、大人向けの露出まで付加した。方向性は間違っていないはずだ・・・ディリータ、僕は見たよ。テレビの画面越しでだけれど、君達の「結末」を。オヴェリア様の事は本当に残念だった・・・そして、あの時、君は僕に問うたよね。「お前は、何を手に入れた?」って。これからだ・・・これから手に入れる。IPとしての「永遠の命」を、だ・・・)

 

「あ、そうだ。」

酒場を出ようとしたムスタディオが振り返る。

「最近、「チャージ・キャンセラー」がよく行方不明になるんだよ。夜の装備点検の時には無くて、朝になると戻ってるんだけれどバッテリーはカラなんだ。困るんだよな。イザって時に使えないのはさ!誰か事情を知ってるかい?」

ほぼ貸切状態の酒場に散らばる小隊の皆が振り返るが、反応は無い。

 ラムザはメンバーを見回す。死都で最初にその餌食になった銀髪を含め三分の一ほどが、ツイと目を逸らすのが判った。ラムザはその中に妹が含まれていない事に取り敢えずは安堵すると、誰に向けるでもなく注意する。

「よく聞いてくれ。「自己鍛錬」に励むのは良いことだけれど、武器の使用後の整備は基本のしつけ事項だ。電動式の装備を使った後は、しっかり「労働八号」に渡してチャージしてもらうように!あ、あとちゃんと洗ってね!」

 

                      おしまい

 




「聖天使アルテマ」攻略方法
初級:ひたすら戦闘を引き伸ばし、肢体を拝む。
中級:秘孔拳。効く、効かないは問題ではない。この指先に全身全霊を込めてツンツンする様を想像する。チャージ中に後ろからやった事のある者は挙手せよ。
上級:おしゃべりする。ネズミ講の入会金を巻き上げてもよし。ナイス・バディを褒めてあげてもよし。一番良いのは脅してビビる様を想像し、加えてブレイブ0状態で涙目ガクブルになりながらも健気に斬りかかってくる様を想像すること。
          異論は認めます。反論は認めません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。