オラリオに流れ着いたのは間違いでしか無いだろう 作:Astrad
そんなこんなで数週間が経過した。毎日料理を作って来た客に振る舞う。私は忙しくも充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、いつも通り閉店後の締め作業をしている時に、ミア母さんから休暇を言い渡された。「おい坊主、明日は休みな。うちで働き始めてからずっと休んでないだろ?」
「おや、よろしいので? 明日はそれなりに予約が入っているので忙しいと思いますが……」
「ああ。馬鹿娘どもは適当にサボったりして息抜きしているのにお前は毎日毎日真面目にやっているからな。1人抜けて死ぬ程忙しくなっても良い薬になるだけだ」
「そういう事でしたら、ありがたく明日は休ませて頂きます」
そうなると、明日はどうしようか。そうだ、ギルドに行って冒険者登録でもしておくか。ああでも、所属ギルドの所はどうしようかな……
そんな事を考えながら厨房を磨き上げていると後ろから声がかかった。
「ふふふ。話は聞きましたよ、紫音さん! つきましてはちょっとお願いをしたいのですが、よろしいですか?」
「内容によりますね」
「実は、一目惚れしちゃった冒険者の子がいまして……多分明日もダンジョンに潜ると思うので、明日1日だけでも良いから見守っておいてもらえませんか? 何か嫌な予感がしちゃって……」
成程ね……あれ、シル殿が一目惚れ? もしや……
「別に良いですけど、問題が一つ。私、冒険者ではないので正規の手段で潜れないんですよね」
「それは問題ありません。こちらをどうぞ」
そう行ってシルは1つの手紙を差し出してくる。
「これは……?」
「開けてみてください、今の紫音さんに必要なものです」
「これは……ギルドの登録証か。しかもフレイヤファミリアのか。もしや、ミア母さんから?」
多分シル(フレイヤ)殿の企みなのだろうが、ダンジョンに入れるようになるのはかなり大きい。
「はい! ミア母さんが現役の幹部の人に話を通して用意してもらったらしいです。なので、しっかり使っても問題ないですよ」
さて、どうするか。ここで冒険者としての身分を手に入れる事が出来ればダンジョンに潜ろうと思った時に随分楽できる。但し、後の騒動においてこの肩書が重くのしかかって来そうなんだよなぁ……まあでも、ヘディン殿みたいに動けばいいか。
「成程、それではこれを対価にして貴方からの依頼を引き受けさせて頂きます。お嬢様」
わざとらしく恭しい態度で礼をする。
「ふふふ。それじゃあお願いしますよ、紫音さん!」
そうして次の日の早朝、同僚達と乱取りをしながら話し合う。
「成程、紫音さんが休むと聞きましたが、シルから依頼を受けてしまったのですね。休息は取れるときに取っておいた方が良いと思いますが」
リューの木刀による攻撃を黒鍵で弾きながら答える。
「まあ別に? もう慣れてきたので、働くのもそれ程苦しくはないし、ワーカーホリックなので何かしら働いていた方が楽なんですよね」
「そう? 私としては休める時に休んだほうが良いと、思うんだけどなぁ!」
ルノアの拳を受け流し投げ飛ばしながら答える。
「休もうと思えば、別に休めなくはないですけれど! 休むと自分が怠け者になった様な気がして嫌なんですよね!」
拳、短剣、短槍、木刀、黒鍵が中庭を駆け回る。毎朝、各々が腕を鈍らせない為に参加する朝稽古。それは毎日30分程行われる。
そして、紫音は。外れの教会の屋根からベルがダンジョンに向かう所を確認する。
さて、未だロキ・ファミリアが戻って来ていないとなるとミノタウロスとの遭遇が何時起きても可笑しくないからなぁ……今日私が尾行している間に起きてくれれば楽なんだがな……
そうこう考えている間にベル・クラネルは移動を開始する。
「よし、それなら行きますか」
李書文の使う圏境に近い、気配を殺して大気と一体化するこの技術を用いてコッソリと尾行する。魔術による気配遮断でも良いのだが、勘の良さを考えると苦手でもこちらの手段の方が安牌だ。
そうやって紫音はベル・クラネルのストーキングを始めた。前日の内に上層部の地図はシルから渡され把握済み、よって大した問題もなくストーキングが行える。
性格は善人、だが戦闘は余り得意ではなさそうだな。体格的にも短槍を使うか双剣で手数を稼いだ方がましに思える。
神奈子様からの教導を受け、代行者としての経験を積み、弟子に稽古を付け、仲間達と競い合った者としてそれなりに才能を見る目はあるはずだ。
そんな事を考えていると、彼方から声が聞こえてくる。ミノタウロスが出たと。次いで耳が蹄の音を捉える。それは段々と近づいて来て彼もそれに気づく。
そして彼は逃走を始めた。彼我の実力差が圧倒的であり、切り札を有しているわけでもなければ逃走こそが最善の道である。だからそれ自体は間違いではない。
彼は驚きながらも必死に逃走を続け、メインルートに辿り着く手前のY字路まで逃げた。良い判断だろう、これなら他の実力を持った冒険者が見つける事も出来るし他の冒険者に押し付ける事もできる。
しかし、彼はその道を選ばずにもう1つの道、袋小路に続く道へと進んでしまったのだ。
何を考えているんだあのバカは! いや、もしや意図的に自己犠牲の道を選んだのか? なら、仕方がない。助けないわけには行かん!
ついに転んでしまい逃げる事さえできなくなる彼。ミノタウロスが咆哮を上げ、斧を手に彼の命を奪わんとする。もはや彼はおびえる事しかできない。
紫音もこれまでと思い、黒鍵の投擲体制に入った。
しかし、そんな時であった。今まさに襲い掛かろうとしたミノタウロスの頭に銀色の刃が生えた。そして、銀色の剣閃間が経過した。毎日料理を作って来た客に振る舞う。私は忙しくも充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、いつも通り閉店後の締め作業をしている時に、ミア母さんから休暇を言い渡された。「おい坊主、明日は休みな。うちで働き始めてからずっと休んでないだろ?」
「おや、よろしいので? 明日はそれなりに予約が入っているので忙しいと思いますが……」
「ああ。馬鹿娘どもは適当にサボったりして息抜きしているのにお前は毎日毎日真面目にやっているからな。1人抜けて死ぬ程忙しくなっても良い薬になるだけだ」
「そういう事でしたら、ありがたく明日は休ませて頂きます」
そうなると、明日はどうしようか。そうだ、ギルドに行って冒険者登録でもしておくか。ああでも、所属ギルドの所はどうしようかな……
そんな事を考えながら厨房を磨き上げていると後ろから声がかかった。
「ふふふ。話は聞きましたよ、紫音さん! つきましてはちょっとお願いをしたいのですが、よろしいですか?」
「内容によりますね」
「実は、一目惚れしちゃった冒険者の子がいまして……多分明日もダンジョンに潜ると思うので、明日1日だけでも良いから見守っておいてもらえませんか? 何か嫌な予感がしちゃって……」
成程ね……あれ、シル殿が一目惚れ? もしや……
「別に良いですけど、問題が一つ。私、冒険者ではないので正規の手段で潜れないんですよね」
「それは問題ありません。こちらをどうぞ」
そう行ってシルは1つの手紙を差し出してくる。
「これは……?」
「開けてみてください、今の紫音さんに必要なものです」
「これは……ギルドの登録証か。しかもフレイヤファミリアのか。もしや、ミア母さんから?」
多分シル(フレイヤ)殿の企みなのだろうが、ダンジョンに入れるようになるのはかなり大きい。
「はい! ミア母さんが現役の幹部の人に話を通して用意してもらったらしいです。なので、しっかり使っても問題ないですよ」
さて、どうするか。ここで冒険者としての身分を手に入れる事が出来ればダンジョンに潜ろうと思った時に随分楽できる。但し、後の騒動においてこの肩書が重くのしかかって来そうなんだよなぁ……まあでも、ヘディン殿みたいに動けばいいか。
「成程、それではこれを対価にして貴方からの依頼を引き受けさせて頂きます。お嬢様」
わざとらしく恭しい態度で礼をする。
「ふふふ。それじゃあお願いしますよ、紫音さん!」
そうして次の日の早朝、同僚達と乱取りをしながら話し合う。
「成程、紫音さんが休むと聞きましたが、シルから依頼を受けてしまったのですね。休息は取れるときに取っておいた方が良いと思いますが」
リューの木刀による攻撃を黒鍵で弾きながら答える。
「まあ別に? もう慣れてきたので、働くのもそれ程苦しくはないし、ワーカーホリックなので何かしら働いていた方が楽なんですよね」
「そう? 私としては休める時に休んだほうが良いと、思うんだけどなぁ!」
ルノアの拳を受け流し投げ飛ばしながら答える。
「休もうと思えば、別に休めなくはないですけれど! 休むと自分が怠け者になった様な気がして嫌なんですよね!」
拳、短剣、短槍、木刀、黒鍵が中庭を駆け回る。毎朝、各々が腕を鈍らせない為に参加する朝稽古。それは毎日30分程行われる。
そして、紫音は。外れの教会の屋根からベルがダンジョンに向かう所を確認する。
さて、未だロキ・ファミリアが戻って来ていないとなるとミノタウロスとの遭遇が何時起きても可笑しくないからなぁ……今日私が尾行している間に起きてくれれば楽なんだがな……
そうこう考えている間にベル・クラネルは移動を開始する。
「よし、それなら行きますか」
李書文の使う圏境に近い、気配を殺して大気と一体化するこの技術を用いてコッソリと尾行する。魔術による気配遮断でも良いのだが、勘の良さを考えると苦手でもこちらの手段の方が安牌だ。
そうやって紫音はベル・クラネルのストーキングを始めた。前日の内に上層部の地図はシルから渡され把握済み、よって大した問題もなくストーキングが行える。
性格は善人、だが戦闘は余り得意ではなさそうだな。体格的にも短槍を使うか双剣で手数を稼いだ方がましに思える。
神奈子様からの教導を受け、代行者としての経験を積み、弟子に稽古を付け、仲間達と競い合った者としてそれなりに才能を見る目はあるはずだ。
そんな事を考えていると、彼方から声が聞こえてくる。ミノタウロスが出たと。次いで耳が蹄の音を捉える。それは段々と近づいて来て彼もそれに気づく。
そして彼は逃走を始めた。彼我の実力差が圧倒的であり、切り札を有しているわけでもなければ逃走こそが最善の道である。だからそれ自体は間違いではない。
彼は驚きながらも必死に逃走を続け、メインルートに辿り着く手前のY字路まで逃げた。良い判断だろう、これなら他の実力を持った冒険者が見つける事も出来るし他の冒険者に押し付ける事もできる。
しかし、彼はその道を選ばずにもう1つの道、袋小路に続く道へと進んでしまったのだ。
何を考えているんだあのバカは! いや、もしや意図的に自己犠牲の道を選んだのか? なら、仕方がない。助けないわけには行かん!
ついに転んでしまい逃げる事さえできなくなる彼。ミノタウロスが咆哮を上げ、斧を手に彼の命を奪わんとする。もはや彼はおびえる事しかできない。
紫音もこれまでと思い、黒鍵の投擲体制に入った。
しかし、そんな時であった。今まさに襲い掛かろうとしたミノタウロスの頭に銀色の刃が生えた。そして、銀色の剣閃がミノタウロスの身体を駆けた。
後のこと言うまでもないだろう。彼は彼女に恋をした。
「ま、そんな事がありましてシル殿が一目惚れした彼は見事にロキの所の子に一目惚れしましたとさ」
「そ、そんなぁ……」
夜。私は客として豊穣の女主人を訪れていた。どうせこの時間で空いているのは酒場ぐらい。だったら閉店まで居座って片付けして寝るのが最適解だろうととってつけた理由を片手に店に戻った私はシルと話しながら今後の動きを話し合っていたのでした。
「というか、何であの子が危険な目にあっているんですか? 私、ちゃんと見守ってって頼みましたよね!」
一瞬撃沈したシルは再起動しベルが危険に晒されたことに苦情をつけながらポカポカと殴ってくる。
「まあ、本当に死にそうになったら助けるつもりでしたし。実際、間に合わんかったら助けるつもりだったしって、叩かんでよシル殿〜?」
殴ってくるシル殿だが、実際大した力はないので全くと言っていいほどダメージにはならない。だが、次の一言が恐ろしかった。
「あ! 良いこと思いついちゃいました!明日は少し、早く起きてもらえますか?」
「一体何を……?」
翌日、シルに早く起きる様に頼まれた私は
「ど、どうも、初めましてベル・クラネルといいます!」
え? どうやって連れてきたの……?
紫音の得意料理:特になし、というか大体何でも作れる。強いて言うなら煮物が得意。
紫音は、自分が嘘をついても神々がわからない事を気づいていません。