オラリオに流れ着いたのは間違いでしか無いだろう   作:Astrad

3 / 6
 実は、元ネタの紫音とこちらの紫音はちょっとだけ細部が異なります。
 シルは紫音よりも確実にコミュ強です。


稽古

 待って? どうやって連れてきたの...? そう思いつつも声をかける。

「え──っと、ベル・クラネル? だったかな。恐らくそこのが連れてきたのだと思うが、稽古をつけて欲しいってことでいいのか?」

 シル(バカ)がどのような手段で連れてきたのかがわからない為、取り敢えず慎重に確認してみる。

「はい!」

「何の為に?」

 私は彼の人柄を知っている。彼の善性から生み出される行動も。しかし、表向きは彼についてほとんど知らないはず。私が知っているのは昨日1日ストーキングしていた部分だけのはず。

「強くなりたいからです!」

「それは何の為に?」

「一目惚れした人がいるんです。だけど、その人は自分よりも遥かに強い。並び立つ為には、もっと強くならなければならないんです!」

 

 視界の隅でシルがorzしているが、それはおいといて。一目惚れした人に並び立ちたいと。その真っ直ぐな思いは私の心を確かに打つ。私が幼い頃。何も目標もなかった時に現れた彼女(早苗)に、私は恋をした。だからこそ、私は彼女を理解する為に共に歩み始め、並び立つ為、そして恩義の為に神奈子様の血を受け入れて人を外れたのだから。

 

「その意気やよし! だが、私は今のところ料理人をやっているし、君は冒険者として糧を稼がねばならない。だから、毎日この時間に来るといい。取り敢えず、今日から始めるか?」

「はい! お願いします!」

 

「よし、それじゃこれを使え」

 自分が昔使っていた双剣の木刀を虚数ポケットから投げ渡す。

「ウオっと…これは…?」

 慌ててキャッチできたものの何故双剣を渡したのか戸惑う彼。

「何、君の体格を見て考えただけだ。君にはどうも片手剣や短槍を使うにも向いていないように見える。私達の体格を考えれば大剣や長槍は向いていないからな。なら、君の小ささを活かして相手の懐に潜り込み、攻撃をかわしながら一撃を入れ続けるというのが最適解だろう。さあ、かかってきなさい」

「は、はい!」

 

 双剣を手に彼は襲い掛かる。体を捻って踊るように切りつけようとする。それを屈んで避け、足払いで転ばす。

「うわっ」

「使い方は悪くない。次」

 そうして彼は襲い掛かるが、そもそも体幹も腕力も足りないから剣筋が安定しない。やっぱりレベル1ではこの程度か。

「よし、大体はわかった。今度は手本、というか君が目指すべき理想形を見せる」

 そう言いながらポケットより巻藁を取り出す。

 

「え? 今どこから取り出しました?」

「私の持つスキルみたいなものと考えれば良い。今の君では攻撃の度に身体が全く安定していないせいで剣筋もぶれぶれだ。それをしっかり改善して剣の道を極めればこのくらい簡単にできる」

 彼から木刀を回収しつつ改善点を指摘する。そして、回収した木刀で巻藁を一閃。そうすれば巻藁は地面へとスライドするかの如く落ちていく。

 

「いやいやいや今のこれ木刀でしたよね?」

 それを見た彼はあり得ないとばかりに突っ込みを入れる。

「まあね。ただ、剣の道を極めればこのくらいは簡単にできる。取り敢えず、今日は初日だ。このくらいにしておこう。そういや、朝飯は食べたのか?」

 そろそろ他の連中も来るだろうしな。どうせシルの飯を渡されているのだろうが早朝って事を考えるとな。

「いえ、まだです」

「そうか。ならこれを持っていって適当な所で食べてから行くといい」

 適当にストックのエナジーバーを渡す。

「いいんですか! ありがとうございます。そう言えば、師匠のお名前聞いても良いですか?」

 あ、そう言えば名乗ってなかったな。何時も名前しか名乗ってないけど、まあ別に良いか。

「紫音。幼く見えるがこう見えても20歳だ。よろしくな!」

 

 通用口から去っていく彼を見送る。取り敢えず暫くは剣を振るう事を教え込んだほうが良いが、一応あいつはファミリアを率いる男になる筈だし、追々は戦闘指揮中心に座学も詰め込まないとなぁ。

 

 そんな事を考えながら仕込みを始めるべく後ろを振り返るとそこには他の従業員の仲間が笑顔で待ち構えていた。

「おや皆さんもしや眺めていたのですか?」

 成程、木立の陰に隠れているシルが元凶という事か。

「いやあ、私たちに隠れて弟子を取るとか、隅に置けないねぇ」

「ルノア殿。別に私の方から取ったわけではないですよ。そこに隠れているシルに頼まれましてね」

「へー、弟子に取った事は認めるんだ」

「ええ。彼の願いは純粋で嘘偽りがなかった。だから私は彼を弟子にすることにしました」

 成程、と感心したルノアに代わってリューが出てくる。

「紫音さんはどのように、彼を育てるつもりなのですか? よろしければ、私も」

 リュー殿が手伝いを申し出てくれるのか、多分シルに頼まれたのだろうか。

「それは追々頼みます。取り敢えず彼は基礎を仕込んで次に座学と応用。ダンジョンに関しては余り詳しくないのでリュー殿にはそちらの方面からの助力をお願いしたく」

「成程、わかりました」

 取り敢えず他に聞かれることはなさそうなので着替えを取りに寮へ戻り、着替えてから仕込みを始める。

「そーいや原作通りなら多分今日の夜来るんだろうな。ベルの分はしっかり栄養取れるようにしておくか」

 

 

 

 そして、夜。ベルは目論見通り豊穣の女主人にやって来た。私は厨房で相も変わらず鍋をふるっていた。流石に今日はロキ・ファミリアからの予約もあるので私とミア母さんの2人で全力で稼働している。

「ミア母さん、朝話した弟子にしたやつが来たから料理持ってくついでにちょっと話していていいですか?」

「予約が来るまでなら構わないさ! どうせ、大体は準備できているだろう?」

「はい!」

 昼間のうちに適当に考えておいた献立をもとに作成した一汁三菜の夕飯を持っていく。まあ予算オーバーかもしれないがそこは後で勝手に補填しておくから問題なし。

「おっし、ベル! お前さんの夕飯だ」

「こんばんは師匠、って僕まだ何も頼んでませんよ! というか、どう見ても高そうなんですけど!」

 ベルがしっかりと用意された夕飯を見て目を剥く。こんな高いの払えないと。

「安心しな、弟子の面倒を見るのは師匠の役目だからな。つまり、お前さんが健康に強くするのは私の義務だ!」

 暗に、支払いは気にしなくていいと伝えれば安心して食べ始める彼。最初は負い目からか食べる速度が遅いものの次第に美味しさに魅了されたか食べる速度が上がっていく。それをシルと一緒に見ているが本当にウサギみたいだな、という感情を抱く。

 

「紫音! もうすぐ来るから厨房に戻りな!」

 しばらくベルを眺めているとそんな声が聞こえてくる。そっか、もうそんな時間か。

「すまんな、ベル。仕事に戻らんといかんから後はシルと話してくれ。明日も今日の朝と同じくらいに中庭に集合な!」

 そう言って厨房に戻り、またしばらく料理を作るのに集中する。幸い宴会のメニューは大体固定化されているので作ることだけに集中できる。一段落した頃、ミア母さんから声を掛けられる。

「紫音、今日はもう上がりな」

「わかりました!」

 上がりを言い渡されたのでベルの様子を見に行くも、そこに彼の姿はなかった。成程ね、ミア母さんが上がれと言ったのはこれが理由か。

「あーシル。ベル、どこに行った?」

 事情を知らない体を装わなければならないのに、声が冷たくなってしまう。

「それがですね」

 シルが申し訳なさそうに一部始終を話してくる。成程ねー。簀巻きになっているのは知らないが都合がよい。

 

「失礼、ロキ・ファミリアの方々ですね?」

 フィンの方に近づき、声をかける。

「ああ。君は? 見た所ここの店員なようだが…」

 怪訝な顔で応対するフィンそれとは対照的に

「何やミア母ちゃん男いれたんかー!」

 酔った態度でこちら側に絡んでくるロキ。

「ええ。こちらで料理人をやらせて頂いており、そして先程そちらの簀巻きの人に弟子を侮辱された者ですよ」

 身分を開示すればフィンは申し訳なさそうに謝罪してくる。

「そっ、それは、すまない。彼には、後日こちらから詫びに伺いたい。もし良ければだが彼の身元を教えてくれないか?」

「いえ、謝罪する必要はありません。彼には良い焚き付けになったでしょうから」

 その一言に少し安心したような様子を見せるフィン。だが、次の会話で態度が一変する。

 

「だが、それはそれとして侮辱行為に対しては代償を払ってもらいたい。代償として、そこの簀巻きを一日借り受けたい」

「まあそれは構わないが...何をするつもりだい?」

「実力者同士の戦いをうちの弟子に見せるために。こう見えても私はそれなりに経験を積んでいてね、弟子に直接攻撃すると深手を与えかねないのでね」

「成程、見取り稽古という事か。だが、君は大丈夫なのかい? うちのベートはレベル5だ。失礼だが、君のレベルは?」

「存在しない。私は古代の英雄たちのように、神々の恩恵を受けずに戦ってきた」

 

 その一言で再び怪訝な顔、むしろ怪しむ顔を見せるフィン。闇派閥の手先ではないか、都市外派閥からの間諜ではないかと。

「待ってくれ、それは本当なのか.?」

「そこのバカ息子の強さなら本物だよ」

 紫音の強さを怪しむフィンに対して、思わぬところから横やりが入る。

「ミア・グランド…」

「私は初対面でそいつと戦ったが、私の一撃を受け止めた。こいつが戦うつもりじゃなかったからすぐ終わったが、こいつは少なくとも私と同格だ。おまけにクソ真面目で間違っても悪事を働こうだなんて腹じゃないから安心しな」

 思わぬところから身分保障が行われた紫音。フィンは与えられた情報を基に思考を巡らせるために目を閉じ、暫しののちに再び開いた。

「わかった。明日一日うちのベートを好きに使ってくれ」

「感謝を。ではこちらはもらっていきますね」

 

 簀巻きにされ、猿轡を嚙まされているベートをもらい受け、倉庫に押し込んでから急いでダンジョンに向かう。

 

 全速力でダンジョンを駆け抜ける。1階層、2階層、3階層、更に深くへ潜るが見つからない。4階層目、居ない。5階層目、魔石が落ちている。誰かの戦闘痕。そして、6階層目、見つけた!

 

 見つけた彼は深手を負っていないものの、傷だらけ。そして骸骨のようなモンスターに囲まれている。

 黒鍵を取り出し、両手に構えて投げる。それだけで敵は一掃される。

 

「師匠…? すいません、悔しくって...」

 私を見たからか安心して倒れ込むベル。私に抱えられて息も絶え絶え、それでも最初にするのは謝罪であった。

「大丈夫だ。ほら、帰るぞ」

 抱えながら今まで来た道を戻る。帰り道にもモンスターは湧き出て来るがそれは魔術による雷撃で適当に消し飛ばして帰る。

「師匠、僕、強くなれますか……?」

「成れるさ。私が保証する。君は確かに、強くなれると。」

 なんたって、君はかつての最強と最凶の血を引いているのだから。

 そう返すと、彼は安心したのか意識を失った。

 その後、私は彼に治療を施し、多少のいたずら心で既に眠りに落ちているベートと向かい合う様に納屋に置いておく。そうして納屋から出ると。

 

「やあ、ちょっといいかな?」

 勇者がそこに佇んでいた。




紫音がベルに渡した木刀は元々紫音がトレーニング用に使っていた代物です。
 紫音は年下+同性+純粋と三属性そろって尚且つ自分と同じような理由で強さを求めるベルを本気で弟子として見ています。なので、背景情報を知っていても、原作の流れを知っていても激怒の一歩手前でした。

 結局紫音もあれこれ理由をつけていますが、好きな人と並び立つ為に何でもする、という行動によって今の彼が形づくられているんですよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。