オラリオに流れ着いたのは間違いでしか無いだろう 作:Astrad
あの後、目が覚めた私達はガネーシャファミリアの団長、ロキ・ファミリアのリヴェリア、ミア母さんの3名に正座を申し付けられこんこんと説教を受け、罰として奉仕活動が命じられた。
そう言えば、気付いたらベートはベルと和解していたらしい。何があったのか知らないが、謝罪を受け入れるなんてベルは大した奴だ。まあ、彼らが遠征に行くまで、ベートがダンジョンの中でベルの面倒を見てくれているならスパルタはあっても死ぬことは無い、ギリギリの所で止めてくれるだろう。
そして今、今私はフィンと一緒に町中を掃除している。そして今日は下水道を掃除していた。昨日までは地上で掃除を行っていたからフィン目当ての女性が寄ってきて幻惑の魔術を行使し続けながら掃除をしていたが、今日はそんな必要はなく水の魔術で大まかな汚れを落とし、フィンがモップで磨き上げていた。そんな作業の中フィンが呟く。
「それにしても、魔術というのは思った以上に便利そうだ。僕にも使えたりしないかな。」
魔術を羨み、使用することを望むフィンであるが、紫音の回答は無常なものだ。
「無理だと思う。私は自分の世界の法則を持ち込んでいるから使えているが、こちら側の世界での基盤を知らない以上教える事もできない。」
せめて、エルフの口伝魔法を解析できればなぁと否定しつつも方策を考える紫音に、フィンは小さく微笑みながら返す。
「そうか、それは残念」
「にしても、今日の怪物祭は行って見たかったなぁ。地上だったら楽しめたのに、地下に送られると喧騒しか聞こえん。」
そう、今日は原作にも語られた怪物祭が開かれる1日。叶う事なら高所からベルの活躍を眺めたかったのだが残念ながらそれは敵わず、それゆえに紫音は愚痴をこぼす。
「ま、しょうがないさ。ペナルティは甘んじて受けないとね。」
そんなこんな話しながら、二人は地上の喧騒を聞きつつ、仕事を進めていた。
暫く経った後、紫音は下水道の曲がり角で違和感を覚えた。近寄って確認してみる。
「どうした、紫音。何かあったか?」
「いや、この壁の向こう側に空洞がある気がしてな。地図と一致しない。」
フィンも駆け寄って壁を叩いて確認してみる。
「確かに。」
紫音とフィン、どちらも同じ結論に達した。この先に、何かがあると。
「どうする?ぶっ壊して確認するか、そのままに留めるか」
「取り敢えず、今のところは壊さないでおこう。地図に印だけつけて、後日ギルドに問い合わせて見る」
「了解」
フィンに判断をゆだねたが、フィンの回答は一旦放置。まあ、これでただの書き漏らしであったら破壊時に問題になるから当然か。そのまま暫く下水道掃除を進めていた時、事件は起きた。
頭上から聞こえてくる都市の喧騒が、一瞬にして悲鳴へと塗り替わった。それはつまり、非日常の異常事態が起きたという事である。こうなれば、いったん破壊してでも上に上がって事態の収拾に動いた方が被害は少ない。
「フィン!一旦ぶち抜いて地上に出る、捕まれ!」
「ああ!」
天井を最小限ぶち抜き、フィンを抱えて魔力放出によるジェット噴射で地上に上がる。そこに居るのは逃げ惑う人々。フィンを地上に降ろして更に上昇すれば、事態の全容が見える。眼下に広がるのは幾体ものモンスターが脱走し、人々が逃げ惑っている姿。そして、そのモンスターの中に1体奇妙なものがいる。
「どうだ、そっちから何か見えるか!」
「怪物祭のモンスターと思しき奴らが脱走、後それとは別口っぽい奴が一体。取り敢えず、自分はそっちに向かう。後は任せた!」
「了解、こっちは事態の収拾に向かう。」
下にいるフィンに情報を伝達し、簡単に行動を伝え、相手に狙いを定める。アインナッシュの落とし仔にも似たそれに対して、紫音が選ぶのは高所からの狙撃。
空を飛び、ギルドの最上階、すなわち神会が行われる場所に向かい、紫音は聖典を取り出す。
「第七聖典、起動。魔力充填開始!」
紫音の導き出した回答は、相手の感知できない距離からの大火力による狙撃。キロメートル単位で離れているここならば、例え相手が感知できても対処できない。未知の存在を相手取る以上、安全策を取るのが最善手だ。
第七聖典の制御術式、敵強度の測定術式、隠蔽術式等複数の術式を並列して処理する以上、魔術回路は唸りを上げ、空間を振動させる。
「光スペクトルによる脅威度測定良し、弾種はコーノカント反応光、テキストスロットは空白。魔力充填良し。手動照準、切り替え良し」
一個ずつ一個ずつ迅速かつ丁寧に、間違えない様に手順を進める。敵周辺にはロキ・ファミリアの冒険者と思しき戦っている者たちがいる。決してその者達に当たるようなことがあってはならない。当たってしまえばいくら冒険者と言えども蒸発しかねない。故に慎重に、機会を見定める。
「タイミングを...彼女達が離れた瞬間、今!」
破城弩弓から放たれた魔力の矢は寸分違わず敵の弱点、すなわち魔石を打ち抜く。突然飛んできた矢によって眼前の敵が倒された少女達は矢が放たれた方角、すなわち紫音の方を向く。幸か不幸か、紫音が使用している隠蔽術式は、最低限の空間振動を抑制する程度の物でしかなく、一流の冒険者たる彼女たちには彼の姿が見えてしまったのである。
2日後の午前中、日課のベルとの訓練を終えた私は夜に向けて仕込みをしていた時に、来客を迎えた。
「やあ。」
「おや、フィン。どうした、何か用でも?もしや、先日のあの怪物のことで何か?」
奉仕活動は既に終わった以上、わざわざこちらに来る理由はない。それに、奉仕活動の時とは違い、私と彼が決闘した時同様に戦闘用の装束で来ているし、槍を携えている。
「いや、そっちは何も。ただ、ちょっと野暮用でダンジョンに潜る事にしたからついでにどうかと思ってね。ほら、君はダンジョンに殆ど潜った事はないのだろう?」
成程ね。
「わかった。期間はどのくらいを想定している?」
一応、休暇は溜まってはいるだろうが長期間ダンジョンに潜るとベルに悪いし、先日のあれもあるからな。
「多分、長くても1週間程度って所かな。例のあれもあるし、そう長期にはならないさ。」
1週間か…まあ、保存食をここで買って行ってもらえば 利益出るし、許可ももらえるかな。そう考えていた紫音の後ろから返事が聞こえる。
「構わないよ
「はい!」
おっと、いつから聞かれていたのかは知らないが、ありがたい。取り敢えず、こっちも着替えて商品を準備しておかないとな。
紫音をダイニングから追いやり、いつしかそこにはミアとフィンの二人だけになっていた。
「ミア、話が早くて助かるよ。」
「まあな。あのバカ息子はワーカーホリックっていうのか何だか休もうとしないし、この前休みをやっても結局シルの頼みに付き合って一日中働いて、夜に戻って来たかと思えば閉店の片づけを手伝っていたからな。人間息抜きでもしなければ生きていけないって言うのに、あいつは息抜きをしようとしない」
「あはは...」
紫音の仕事中毒さの愚痴を聞いて思わず苦笑いになるフィン脳裏に思い浮かべているのは彼の仕事の光景か。だが、次の一言はフィンの心に深く残る事になる。
「そうだ、一つ忠告しておく。あれはうちのバカ娘の一人に似てるんだが、かなり潔癖な所があるからな、気を付けな。」
「ご忠告どうも。」
紫音が潔癖...?寧ろ真面目ではあっても俗っぽいという印象だが。
そんな彼が奉仕活動の最中に見た印象とは違う彼の話を聞いたフィンは、否定しきる事が出来ずに心に残り続けるのであった。
紫音とフィンは魂の年齢的には年齢が近く、結構馬が合う感じで仲良くなっています。
ちょっといいことを思いついたのでアポロンは恐らく地獄を見る事になるかも...?