オラリオに流れ着いたのは間違いでしか無いだろう 作:Astrad
結論からして、私は奴を殺す事に失敗した。あのモンスターに対処している間に奴はまんまと逃げ去ってしまった。きっと、情報を抜き出そうとせずそのまま殺しておけばよかったのだろう。その上、途中から意識外に置いていたから気づかれなかったが私の戦闘はフィン達にも診られていたようだ。
まあ、それ自体は大した問題ではない。別にフィンにはある程度事情は話しているし、冒険者は切り札を隠しておくのが定石である以上、特に追及はされなかった。
その後は負傷者達を護衛して一度地上まで戻り、ギルドの取り調べを受けてあの堕落精霊種の魔石は全て強制買取された。まあ、虚数空間にサンプルとして幾つか隠しておいたから意味はなかったが。
そして、この小遠征を終えた後、フィンの案内でロキ・ファミリアに連れて来られたのが今となる。フィンがドアを3度叩き、来訪を告げる。
「ロキ、入るよ。彼を連れてきた」
「おーフィン、入りー」
フィンの先導で神室に入る。そこには少女と呼ぶべき身長、赤髪の女神と、どことなくギリシアを思わせる貴公子然とした男神が座っていた。
「サンキューなフィン。んで、紫音だったか?ジブンにも話を聞きたいから呼んできてもらったわ。先に紹介するなー、こっちはディオニュソス。」
「どうもよろしく、と言いたいところだが…君、何処かで私と会ったことがあるかい?」
紫音の顔を見るなり、何かを思い出す様な素振りを見せながら、彼はそんな事を問いかけてきた。
「いえ、全く。ただ、貴方が真にディオニュソス神であるのならば心当たりがあります」
「というと?」
「私の神友がザグレウスでして…」
そう言えば彼は手を顔面に当て、納得したかの如き様子を見せた。
「ちょっと待ってくれへんか?ザグレウスって、まだ降りて来てない所か、天界に上って来ておらんゆう話だったけど…って、もしかしてジブン、あっち側から来たんか!?」
私の言葉に納得した彼と違い、ロキは混乱している様子を見せた。
「おや、フィン。私の来歴、話していなかったのかい?」
てっきりロキはフィンから来歴を知らされていると思っていたが、知らなかったようだ。
「特に言う必要がなかったからね」
「せめて言っておいてくれ…」
無駄な時間を使ってしまったではないか、そう言いたげな態度の紫音に対し、ロキは話を戻そうと試みる。
「ま、取り敢えずジブンがあっち側から来たっちゅう話は置いておいて、18階層で遭遇したヤツについて聞きたいんやけど、教えてくれへんか?」
「ええ、良いでしょう」
そして、私達はこのダンジョンを絡めた一連の騒動について、情報を交換し合った。ロキが言うには、私とフィンが怪物祭の時に見つけた空洞に、食人花の痕跡があったようだ。現在、この問題に対処しているのは基本的にディオニュソス・ロキの2ファミリアのみ。後は個人的に私が知っているといった所か。
「それでは、この問題に関しては私とロキ・ファミリア、ディオニュソス・ファミリアで協同で事に当たる、ということでよろしいでしょうか、皆様方」
「ああ。構わないさ」
「ウチもそれでええわ。今の状況で無暗に騒ぎ立てるわけにもいかんからな。ただ、紫音。ジブンにちょっと聞きたいことがあるんやけど、ええか?」
会議を締めようとした所に、ロキが新たな質問を投げ掛けようとしていた。
「おや、何を?」
「ジブン、あっち側から来たっていうとるけど、恩恵を刻むつもりはないんか?幾ら元の肉体が頑強だからといっても使えるモンは使ったほうがいいんやないのか?」
それはきっと、入団の誘いなのだろう。まあ当然だ、ここで勧誘出来れば強力な手札を手元に抱える事が出来る。
「それは無理かと。私の肉体には2柱の神の血が宿っている上で、それとは別に1体分宿しているので。流石にこれ以上盛りようがないでしょう」
その誘いにはNoと返す。そもそも恩恵を刻めないだろうし、ここにいる2柱共私の好みではない。というか、狂気と策謀の神が下界の問題を解決しようとしているとか正気か?もし私が恩恵を刻めるとしても、ギリシアの神々ならハデスやヘスティア、ヘファイストス辺りか北欧系統ならバルドルなりトールなりの方がましだ。オーディン?あいつはこっちがルーン使う戦士だからってよく電波飛ばしてくるから論外だ。
「ハァ!?流石にアリエナイやろ。幾らあっち側のルールでやったとはいえ多すぎんか?」
「ロキ、そんなにおかしい事なのかい?」
ロキは驚愕と言わんばかりの声を上げ、フィンは今一理解しきれない様子でロキに問う。しかし、それに答えるのは別の者である。
「あっち側の世界、紫音君が生まれた世界とこっちの世界では色々と法則が違うんだ。」
「それは、前に紫音が言っていたテクスチャという物かい?ディオニュソス。」
「それもある。ただ、端的に言うとこちらの世界とあちらの世界では眷属の意味そのものが違うのだよ。そもそも、あんな方法使うなんて普通はしない。万人がいたとしても1人成功すれば奇跡。そもそも加護を与える方が効率的で効果的、しかも眷属が弱ければ本神も弱体化する、やる価値がないのが眷属化なのだよ。」
そう、紫音の世界の眷属化はこちらの世界恩恵のプロトタイプ。失敗の方法、使う事がなかった物。であるからこそ、ルール上の問題は特にない。但し、紫音の強さは問題である。
「ジブン、もしかして権能も持って来ていたりするんか...?」
「ご明察。ただ
そう返せばロキはあちゃー、と言いたげな様子で頭を抱えている。
「ま、まあええわ。取り敢えず、絶対にダンジョンでは使わんでおいてくれ」
「ご心配なく。大体の事は魔術と武術で解決できるほどには強いので」
まあ、こんな感じでロキ・ファミリアでの話し合いは終わった。問題は、ベルの方だ。
遠征から帰った後、豊穣の女主人で私を迎えたのはベルとヘスティアだった。失礼、言い直そう。豊穣の女主人の制服を着たベルとヘスティアだった。
何があったのかと言えば、単純な話である。私が遠征に行っていた間に地上では大雨が降ったようだ。そして彼らの塒は地下にある。そんな事で拠点が水没してしまったベルは訓練の代役を頼んでいたリューに相談、それを聞きつけたシルがミア母さんを説得して夜の営業を手伝う代わりに止めてもらえる事になったようだ。
「さて、ベル。君に魔法が発現したと聞いたが、見せてみなさい」
場所は中庭。朝の訓練での一幕。シルから渡された魔導書によって魔法が発現したとの事なので、育成計画を変更する為にも彼に魔法を見せるよう頼んでみた。
「はい、それでは行きます!【
彼が手にしたのは付与魔法、雷をその身に纏うというものだそうだ。にしても、【ケラウノス】か。ゼウスの血筋というのが関係しているのか?いや、そうであってもおかしい。原作においては炎雷の魔法、【ファイアボルト】が発現していたはずだ。そう思いながら、ベルが突っ込んでくるのを躱す。現在の彼は己の魔法によって速度が急上昇している状態、レベル1の身体能力で制御するのは難しいほどのスピードで攻め掛かってくる。
おかしい、そう紫音は思った。発現した魔法もだが、動きの質が上がっている。遠征に行く前とは大違いだ。自分に教える才が乏しいからか?いや、違う。そもそも、このベル・クラネルは何者だ?きっと彼は一途な思いと憧憬を胸に秘めている事は間違いないだろう。だが、きっとそれ以外の隠された背景が存在する。
彼が確信したその時、ベルは紫音の懐に潜り込んでいた。紫音は思わず地面を全力で踏みしめ、衝撃波を発し、浮かび上がったベルの腕を掴み反射的に投げ飛ばす。運よく紫音が最後の一瞬で我に返った為に全力で地面に叩きつけられる事はなかったが、ベルは投げ飛ばされて気を失う。
「まいったな...取り敢えず回復させるか」
聖水を用いた癒しの秘跡で以てベルを回復させる。程なくして、ベルは目を覚ます。
「すまん、大丈夫か?」
「大丈夫です。これくらい...お義母さんに岩に括り付けられて川に沈められた事や洞窟のモンスターを素手で駆除させられた事に比べれば...」
待って、お母さん?ベルの母親はすでに死んでいたはずでは?いや待て、これがお母さんではなくお義母さんなら可能性はある。直感が最大級の危険信号を出しながらも確認してみる。
「成程、ベルの母上は随分と厳しい方のようで。獅子は子を千尋の谷へ蹴落とすと言いますが、それを実の息子にするとはな」
さて、引っ掛かるかどうか。どっちであっても衝撃ではあるが...
「いや、実は...」
「実は?」
一瞬ここにはいない何かに怯えるような素振りを見せながらも、ベルは話し始めた。
「実は、僕の育ての母はお母さんの姉、伯母にあたる人なんです。」
あ、終わった気がする。
というわけで、アルフィアお義母さんは生きています。現在ベルを捜索中。現在lv.8で病気も完治済み。紫音にとってはかなり相性が悪い。
ちなみに、ベヒーモスの幼生体はアルフィアに、アンタレスは通りがかった紫音に倒されているので一部の鬱展開はキャンセルされました。