オラリオに流れ着いたのは間違いでしか無いだろう 作:Astrad
次の日、紫音は再びダンジョンへと潜っていた。仕事は疑似人格を組み込んだ家事用人形のスペアに任せているから、今日一日程度なら問題ないだろう。一応遠隔操作もできるし。
目標は51階層、カドモス辺りを狩って泉水を汲んで帰るのが目的だ。原作でも強行軍で1日足らずで到達していた事と私の速度を考えれば余裕で行けるだろう。何故って?それは、鍛冶神ヘファイストスに依頼しに行く為だ。
第七聖典は多様な手札を持った強力な武装ではあるが、如何せんピーキーな物が多い。それに加えて、何とか誤魔化してはいるが大剣は身長的にも扱いづらい。だからこそ、長剣へと鍛ち直してもらう必要がある。
普通の武装なら自分で鍛ち直す選択肢や、そもそもの新しく購入するといった道もあるが相手は千年物の神秘である以上、下手に触るわけにはいかない。そうなれば、ゴブニュ・ヘファイストス等の鍛冶神の側面を持ち、ファミリアとして設備を有している所へ依頼するほかないが、コネがない。唯一、仲介を頼めるのはヘスティア神のみである以上、ヘファイストス神に依頼するほかない。そして、依頼するには大金が必要だ。
という事で、冒険者が多い18階層までは素の能力で駆け、そこからは風を纏って空気抵抗を減らしつつ、音波探知で構造探知、自分が通るだけの隙間を消し飛ばして最短経路を作りつつ進んで行った。
…余談だが、この時24階層を通り過ぎた時に堕落精霊種のコロニーがあったが、紫音が突破する際に余波で3割が消滅、闇派閥の人間も跳ね飛ばされたお陰で大半が死亡し、後にヘルメス·ファミリアやアイズが来た時には半壊状態であったそうな。
閑話休題。
全速力で駆け抜けてきた紫音はあっという間に50階層へと辿り着いた。階層主が出現しているわけでもなければ、特に障害となる物はなかった。深層に入ってからは目に映る敵だけ消し飛ばしつつ影の触手で魔石等ドロップ品は回収しながら降りて来たが。ともあれ、ここからは戦闘になるだろう。そう思った彼は一度足を止め、補給を行ってから51階層に足を踏み入れた。
51階層は、上層と同じように基本的に迷宮の構造である。故に、曲がりくねった道と広間が連結し、死角から襲い掛かってくるモンスターに気を配らねばならないのだが...
「やっぱり音波探知術式は便利だなー、死角からの奇襲をつぶせるっていうだけで価値がある。スヴィンには感謝しなくては」
エコーロケーションを基にした探知術式によって奇襲しようとしてきた敵は発見され、そのまま雷撃が自動的に叩き込まれる事で一瞬で消滅。面白くない処理が続いていた。
やがて紫音は広間に出て、数頭のカドモスを発見する。距離は凡そ数百m程はあるだろうか。今の所、相手には発見されていない。相手に発見されていないのであれば、遠距離攻撃で相手の能力を測るのが最適だろう。紫音は、腰に装備していた双剣の柄頭を重ね合わせた。
その双剣の名は、『終末剣エンキ』。かつて英雄王に授けられたその双剣は弓としても用いることが出来る。双剣の柄頭が噛み合わった時、先端から光の弦が繋がる事で弓として生まれ変わる。そしてそのまま弦を引く。この弓は魔力を矢に変換する為に矢を持ち込む必要がないのが良い点だ。
そして、しっかりと頭部に狙いを定めて矢を放つ。放たれた矢は寸分の狂いもなく脳幹に直撃し、生命を奪った。しかし、奇襲が通じるのは1度まで。1頭目が倒された時点で紫音の存在に気づき、襲い掛かってくる。しかしそこは紫音。彼は弓を双剣に戻し突っ込んでいく。
まずは1頭目、駆けあがるついでに首を切り落として始末する。そして駆け上がった勢いで空中から矢を放ち、2頭目を始末する。そして3頭目、自由落下では殺しきれないと判断した紫音は魔力砲で頭を消し飛ばして始末する。
そして着地。追撃を警戒するもそれはなく。安全と判断した紫音は剣を納め、魔石とドロップ品を回収する。そして、先ほどまでカドモスがいた場所に泉があるのを見つけ、ポリタンクに汲み上げていく。
この動きを数セット。そうしてドロップ品や魔石をたんまりと収穫した紫音は笑顔で地上へと戻るのであった。
地上へ戻っている時、見たことのある魔物を発見する。そして、それと戦っている者達を。成程、あの魔物はアイズ嬢よりは弱いようだ。いや、lv.6と上がったが故の物か。取り敢えず、奇襲しよう。
あの魔物は気づかずにアイズ嬢に話している。
「『アリア』、59階層へ行け。そこに、お前の知りたいものがあるぞ。お前自身が行けば手間も省けるからな」
成程ね...59階層に何かがあると。それさえわかれば十分だ。
岩盤の雨、崩落によって大空洞の出口は塞がれた。赤髪の魔物はこちらに気づかずにどこかへ歩み去ろうとしているが、十分だ。
「こんにちは、そしてさようなら」
背後から現れ、魔物の頭を掴み、叩きつける。
「主の恵みは深く、慈しみは
あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず
餓え、渇き、魂は衰えていく
渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす
深い闇の中、苦しみと
今、枷を壊し、深い闇から救い出される
罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ
正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を
───
何度か魔物がもがいて脱出を試みようとするが、力で押さえつけて脱出を許さない。何事か喚いていたが、聞くに堪えない罵詈雑言は無視するが鉄則。洗礼詠唱が終われば、魔石と所持品を残して魔物はこの世界を去った。
魔物が遺した魔石と一つの眼球のようなものを手に、目の前にある崩落した大広間を見やる。
「これ、どうしよっかなぁ...」
崩落した大広間から撤退していた一行は、警戒態勢を解くことが出来なかった。岩壁の向こう側からの圧倒的な、暴力的とも呼べる魔力の波動を感じていたからだ。ともすれば深層の階層主に匹敵するほどの圧倒的な気配。そして、岩壁に対する攻撃による衝撃。ロキとヘルメスの混成部隊は新手の出現と考え、迎撃を行おうとしていた。
本来ならば、一目散に撤退するべきなのかもしれない。しかし、残念ながらこの先に迎え撃つのに有利な場所は存在せず、追いつかれ分断されていく可能性を考えればここで迎撃する以外の選択肢はない。それに加えて、彼らの負傷度合いが低かったことも影響しただろう。敵が妙に弱く、数が少なかったおかげで深い傷を負った者はいたが、死に瀕しているものはいないからだ。
遂に、岩壁に穴が開き、そこから何者かが出てくる。そこから出て来たものに見覚えがある者が半分、ない者が半分。その者は少年程の背丈、夜空を写したかの如き黒髪をしていた。どう見てもここにいるような冒険者には見えない。しかし、その気配、腰に下げている業物の双剣が彼が一流の冒険者である事を証明していた。
「おや、怪我人がいるようで」
彼の背後から水が流れ出し、怪我人の患部を覆い、癒している。アスフィ・アル・アンドロメダは困惑していた。間違いなく彼は一級冒険者であるように見える。しかし、彼の武装にも容貌にも見覚えがない。ともすれば闇派閥か。しかし、ロキ・ファミリアの面々は彼を見た瞬間警戒を解いた。
「もし、そこの水色の髪の方」
声をかけられる。
「えっはい、何ですか...?」
内心パニックになりながらも彼女は応答する。すると、彼は一つの魔石を投げ渡してきた。
「君達が先程相手していた魔物の魔石だ。後は好きにするといい。私に興味があるのなら、ロキ・ファミリアの面々にでも聞けばわかる。では。」
そうして彼は去っていった。彼女の心に謎を残して。
レヴィス、ナレ死。紫音の得意分野ど真ん中なので、体感的にはカドモスよりも弱かったとの事。フィルヴィスに関しては執行猶予。誰か襲った時点で死にます。
洗礼詠唱がジャンヌの物なのはきちんと理由があります。