転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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入学式と不思議なクラスメート

「1年A組のみなさん、ごきげんよう。まずは入学おめでとうございます」

 

 さっきまではきゃあきゃあと騒がしかったのに。

 先生が教室に入ってきて教壇の前に立った途端、さっと静かになる。

 入学初日の小学一年生でこれって……さすが、私立のお嬢様学校。

 

 俺たちの所属する1年A組の先生は、まだ30歳になっていないだろう若い女性だった。

 と言っても、この後入学式に出て、そもそも男の先生自体、年配の方がふたりくらいいるだけなのがわかるのだが。

 

「今日は入学式ですので、勉強はありません。式の前に、まずは簡単な自己紹介をしましょう」

 

 先生がお手本になって自分のことを話してくれて、それから一人ずつその場で立ってみんなに挨拶。

 好きな席に座っていた結果、俺の自己紹介は後のほうで。

 

「四条莉緒です。好きなことは家で飼っている犬と遊ぶこと、得意なことは、英語がちょっと話せます」

 

 拍手をもらって席につきながら、俺はちらっと、あの子を見た。

 人付き合いを避けるように窓側最後尾に座っている、青い瞳の女の子。

 

「エリカ。エリカ・ハナビシ」

 

 彼女は、どこかカタコトっぽい発音でそれだけを告げて席についた。

 俺の後ろの席に座っていたみゆちゃんがそっと耳打ちしてくる。

 

「あの子、もしかして日本語苦手なのかな?」

「そうかも」

 

 これはもしかすると、チャンスかもしれない。

 前世の記憶のおかげで、俺は英語がわりと話せる。が、今世では特に話す相手がいなかった。たまに両親が付き合ってくれたくらいである。

 英語以外ほとんど話せない子なら、ちょうどいい話し相手になってくれるんじゃないか。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 エリカと話をしたい、そう思いつつもチャンスがないまま入学式に。

 広い体育館に集まった大勢の人。保護者合わせても女子率八割越えという脅威の光景は、前世を含めても初めての経験だった。

 それ以外は……うん、それほど変わったところはない。

 校歌がちょっとお洒落な感じだったり、この学校では毎日朝にお祈りの時間があるよ、と説明されたくらい。

 新入生代表挨拶的なイベントもなく、偉い人の話をじっと座って聞いているうちに終わった。

 

 式が終わると、新一年生たちは保護者と合流して流れ解散だ。

 

「莉緒、みゆちゃん、はい笑ってー」

 

 俺はみゆちゃんと一緒に写真を撮ってもらった。

 が、みゆちゃんはちょっと緊張しているようで、うちの母と並んだみゆちゃんのお母さんに「せっかくの記念なのに」とダメ出しを受けてしまう。

 どうしたら緊張が解れるだろうか……そうだ。

 

「みゆちゃん、手握ってもいい?」

「え、う、うんっ」

 

 並んで手を繋ぎ、空いているほうの手でチョキを作る。

 みゆちゃんは、顔がほんのり赤い感じなのは一緒だったものの、笑顔はだいぶ柔らかく、自然なものになった。

 それにしても、周りを見ても大部分の家庭がスマホで写真撮影してるのが若干不思議な感じだ。

 

 前世で小学生だった頃はまだデジカメがけっこう幅を利かせていた気がする。

 ちなみに我が家も、みゆちゃんの家も母親はスマホのカメラだ。

 

「莉緒、みゆちゃん。せっかくだからもっといろんなところで撮らないかい?」

「良いですね。二人とも、きっと将来いい思い出になるよ」

 

 男性陣は揃ってお高そうなデジカメである。

 対して使う機会もないだろうに……と、うちの父は俺と母から揃って小言を言われながらも「そんなことない。これから莉緒の写真をたくさん撮るんだからね」と抗弁していた。

 

 家族写真か。

 

 彼女にフラれまくった挙句、結婚もできずに死んだ俺には、撮る側になった記憶がない。

 ……そう考えるとここにいる男親全員、愛する女性と結ばれたリア充なんだよな。爆発、はされると困るので、妻以外の女性に目移りするたびにタンスの角に小指をぶつけるくらいのひどい目に遭って欲しい。

 

 それはともかく。

 そんな両親の横で、一番気合いが入っていたのが雛瀬さんだった。

 

「一枚でも多くの写真を撮ってくるように、との大旦那様の命ですので」

 

 見るからに重厚感のある一眼レフ。

 金持ちが多いのでカメラ持参の親もそれなりにいるとはいえ、さすがにこのレベルのカメラは珍しいんだが……!?

 ほら、学園側に雇われてるカメラマンと比べてもあまり遜色ない高級感だし。

 

「あの、パパ? 雛瀬さん? そんなに撮らなくてもいいんじゃない?」

「いいや。むしろ、今日この時の写真はもう二度と撮れないんだからね。いくら撮っても足りないくらいだよ」

「仰る通りです。さあ、莉緒様。あちらにいいロケーションの場所がありますので」

「もう、みんながんばりすぎ!」

 

 主役は俺たち子供のほうだっていうのに、はしゃぐ大人たちに振り回されてしまう。

 次第に「もういいから帰ろうよ」という気分になってくるのは、なんというか避けては通れない恒例行事なのかもしれない。

 と。

 俺は視界の端に、あの青い瞳を映した。

 エリカ──花菱えりかも両親と一緒だ。お父さんがハーフなのか、茶色の髪に綺麗な青い瞳、色白の肌をしている。

 彼女もばしばし写真を撮られまくっていて、その表情からは「面倒臭い」という雰囲気がはっきりと見て取れた。

 

 そんなエリカと、目が合う。

 

「────」

 

 あ、目を逸らされた。

 警戒されているというか、人とコミュニケーションを取るのが得意でないのかもしれない。

 ここまで見ていた限りでも、他の一年生と仲良くしている様子がない。

 可愛いので話しかけてくれる子はけっこういるのだが、いつも素っ気ない態度でなにかを言って、あとは知らんぷりといった感じ。

 

『こんにちは』

 

 ならば、こちらから話しかけにいくのみだ。

 目立つ容姿、目立つ言動。

 れいかちゃんのごとく、俺の人生に関わってくるかもしれない主要人物候補、あるいは他のヒロインである可能性が高い。

 今のうちから関り、できれば仲良くなっておくのが得策。

 

 父たちから逃げるのにもちょうどいいと、歩み寄って英語で声をかけると、エリカはびくっと身を震わせる。

 代わりに反応したのはご両親。

 特にお父さんのほうは嬉しそうに「えりかのお友達?」と聞いてくる。

 

「はい! これからお友達になりたいと思って!」

 

 笑顔で答えると「そうか」といい笑顔。

 

「是非仲良くしてやってください。この子はどうも気難しいところがあるから──」

「パパ!」

 

 あからさまにむっとした様子で父親を制するエリカ。

 本人としてはマイペースに行きたいのに、親から学校生活についてまで干渉を受ける……いいからほっといて、となる気持ちも正直わかる。

 というか、その手の感情は男子のほうがよくあるやつだろう。

 なんとなく親近感を覚えつつ、俺はエリカにも笑顔を向けて、

 

『ね、わたしも英語、ちょっと話せるの。良かったらお話しない?』

 

 話ができないからみんなから距離を取っているんじゃ──そう思っていた俺はこの後、大きな肩透かしを食らうことになる。

 初対面で英語を口にし、お姫様めいた態度を取っていた花菱えりか、当の本人が、困惑した様子で硬直した。

 彼女は迷うように視線を泳がせ、それからおそるおそる、

 

「あいきゃんとすぴーくじゃぱにーず」

 

 いや、俺は英語で話しかけたんだが。

 なるほど、そういうことか……。

 俺はひとく頷くと、そっと耳打ちするように顔と手を近づけて。

 

「……ね。もしかして、ほんとは英語、喋れないの?」

「!?!?」

 

 大きく目を見開いたエリカは、まるで仇かなにかを見るように俺を涙目で睨んできた。

 なんかわりと恒例になってきたが、またもぴろんとヒロインポイントが加算された。

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