余っているポイントはまだけっこうある。
運動能力と知能、音感に1ポイントずつ振り分けて、全面的にパワーアップ。
あと、この際、雛瀬さんにしっかりうちへ居ついて欲しい。
そのためには、我が家の財政状況をさらに良くしなくては。
2ポイント使って、父と母両方の収入をアップ。
……特典の効果だが、前にクロと話した時に「胸のサイズは必要になってから追加しても問題ない」という話だった。
つまり、それは、成長過程そのものが改変されるということ。
収入アップについても同じで、基礎収入額が上がるとその分、過去の収入についても改変される。
結果、なにが起こったかと言うと、うちの貯金がぐっと増えた。
「我が家はこんなにお金持ちだったかしら……?」
母が通帳を見て首を傾げ、父が「僕も君もそれくらいには稼いでいるじゃないか」と応じる。
「そうね。でも、これだけ余裕があるなら、莉緒の習い事ももっと増やせるし、お父様の援助なんて受けなくても平気だったような」
「お父様の厚意をあまり無下にしてはいけないよ。もし気になるなら、君ではなく莉緒への援助だと思えばいいじゃないか」
「そうね。……お父様は莉緒が可愛くて仕方がないみたいだもの」
母としてはこれも複雑な気持ちのようだが、俺はよくわかっていないふりをして「わたしはおじいさま好きだよ?」と微笑む。
「雛瀬さんに会わせてくれたのもおじいさまだもん。仲良くなったから、ずっと一緒にいて欲しいくらい」
「そう」
にっこり笑った母は、「少し、雛瀬と相談してみるわ」と言ってくれた。
それから、俺の同席していない場で相談が行われたらしく、しばらくしてから晴れて、
「莉緒様。今後、私は基本的に、こちらの家に常駐させていただくことになりました」
「本当!?」
ぱっと表情を輝かせて尋ねれば、雛瀬さんも笑顔で「ええ」と答える。
「寝泊まりのために、空いているお部屋を使わせていただきます。少々手狭になるかもしれませんが……」
「大丈夫だよ。あ、でも、夜中にバロンが潜り込んでくるかも」
「それは……これからの季節には少々暑苦しそうですね」
季節はそろそろ夏である。
雛瀬さんの雇用に関しては、四条本家が三分の一、祖父からの俺のお小遣いから出しているという名目分が三分の一、そしてあとの三分の一を俺の両親が出す形となったらしい。
だいたい我が家と四条本家に半分ずつ雇用されているような立場ということになる。
比重がより我が家に寄った分、雛瀬さんはより密接に関わってくれるようになった。
例えば、両親が仕事で遅くなる時に一緒に風呂に入ってくれたりとか。
例えば、日中にバロンの散歩をしてくれたりとか。
例えば、俺の忘れ物を届けに来てくれたりとか。
それにしても。
手で俺の身体を洗ってくれる(一人でできると言ったのだが、駄目だと言って聞いてくれなかった)雛瀬さんの、服の上からだとわからなかったなかなかのプロポーションを振り返って。
「雛瀬さんみたいな綺麗な若い女の人が一緒なんて、パパに悪いことしたかなあ」
「ふふっ。……心配には及びません。私にその気はありませんし、あの方はお嬢様一筋ですから」
実際、そういうの──雛瀬さんが父と不倫を始めるとか、うちの金を横領するとかはありえるのかとクロに尋ねてみると。
「ありえないと思っていいよ。彼女は君に仕えることが特典によって定められている。つまり、雇用関係と最低限の忠誠は基本的に維持される」
「もし、万が一のことが起こったら?」
「消費したポイントは返ってくるから安心していい」
それは本当に大丈夫なのか……?
と、不安になったものの、雛瀬さんもこのあたりは懸念していたのか、うちに常駐するようになって数か月が経ったあたりで我が家から近い賃貸アパートを借り、そこで寝泊まりするようになった。
以前は本家に近いところに部屋を借りていたが、そちらを解約したそうだ。
そこまでしてくれた理由はというと、
「莉緒様に弟か妹ができた際、使われるお部屋を占領してはいけませんので」
とのこと。
言われてみると……父がなびいたりはしないにしても、二人目の子供を作るためのきっかけが、雛瀬さんがいるとなかなか作りにくいかもしれない。
そんな献身の甲斐あってか、翌年、我が家には第二子となる弟が誕生した。
◇ ◇ ◇
先の話に触れてしまったが、話を小学二年生の一学期に戻して。
七月頭の休日、俺は雛瀬さんが見守る中、リビングのテーブルに大きめの紙を広げた。
いつもと違う行動にバロンもやってきて「なんだなんだ?」と興味津々。
「莉緒様、なにをなさるのですか?」
「うん、夏休みの計画表を作るんだよ!」
「なるほど」
計画表が必要なほど予定があるのか? と問われれば、答えはイエスだ。
前世の俺の夏休みなんて家でゲームをするか友達と遊びに行くかがほとんど、一回ずつくらい帰省と旅行が挟まるか程度だったが、四条莉緒は違う。
「習い事のある日とか、学校のイベントがある日とかを書き込んでおくの。スマホにも入れておくけど、お部屋にこれを貼っておいたほうが忘れないから」
ピアノとバレエのレッスンは夏休みでもしっかりある、というか、これ幸いといつもより多めになる。
小学校でも、教会のミサに参加しようみたいな催しや不用品のバザーなんかが行われる。
両親とも日帰りで買い物に行ったり遊園地に行ったり、美術館に行ったりする予定。
みゆちゃんやエリカと遊びに行く予定もある。
後は、
「今年は帰省のご予定もありましたね」
「うん」
これまで、俺がついていく帰省は年末か年始の一回だった。
お盆には両親がさっと行ってその日のうちに帰ってきていたのだが、今年は祖父が連れてこいとうるさかったため、母が根負けして了承した。
「予定がいっぱいだからちょっと書くのが大変かも」
紙の内容は、ネットでダウンロードしたフリーのカレンダーである。
その7月分と8月分をコンビニのコピー機で印刷した。
そこに一つ一つ予定を書き込んでいくと、なにも予定のない日が……おや? ほとんどない?
「これ、夏休みの宿題、がんばらないと終わらないかも」
「あの手のものは量がありますからね」
「うん。うちの学校は、量が少なめなほうらしいんだけど……」
予定の多い子に配慮したと言いつつ、量がそれほどでもない代わりに質が高い。
問題集の類は一般的な小学校の3、4年生レベルの内容だし、日記や課外活動のレポートなど、思考や表現を要求するものも多い。
単に問題を解くだけなら余裕だが、こまめにやらないと終わらないやつや、時間を取ってしっかり取り組まないといけないやつは厄介だ。
「夏休みだというのに、気が休まる暇がありませんね……」
「あれ、雛瀬さん。四条の血族であるからにはたゆまぬ研鑽が、みたいなこと言わないの?」
このくらいの軽口はできるようになった我が家のお手伝いさんは、少し眉を下げて苦笑した。
「莉緒様の心身の健康も大事ですので」
「ありがとう。でもわたしは大丈夫だよ。夏休み、とっても楽しみ」
いろいろある夏休みの中でも、メインイベントはやっぱり帰省。
小学校に入って以来、頼る機会がぐっと増えた以上、ここらで祖父や従兄弟との対峙は必要不可欠。
そうして、過密なスケジュールを一つ一つ消化していくうちに、それはあっという間にやってきた。