転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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おじいちゃんの家(SSR)

 実を言うと、俺の家から四条本家までは、そこまで遠いわけでもない。

 家から学校までと、学校から本家までが同じくらい──そう考えると遠いは遠いのだけれど、頑張れば歩いて行ける距離だし、雛瀬さんが自宅や本家から頻繁に来ていたのも頷ける程度の位置関係である。

 理由はたぶん、俺の通う天音学園が母の母校でもあるから。

 

 俺を同じ学校に通わせようとすると、本家からもそこまで離れられなかった。

 実家の干渉を本気で嫌うのなら他の地域に行ってしまう手もあったわけで、にもかかわらず家に帰ってきてくれないというのは、祖父として寂しいのもわかる。

 そんなわけで。

 学園の敷地を迂回してもなお、一時間くらいで俺たちは四条本家の屋敷へと到着した。

 

「やっぱり、大きいね!」

「古いお屋敷を、改築や増築を行いながら維持しておりますので」

 

 物語に出てくるようなでかい家に、初めてではないのにテンションが上がる。

 厳めしい門を車が抜けて、俺たちが車から降りると、複数名の使用人が恭しくお辞儀をしてくれる。

 雛瀬さんのようなスーツ姿と、それから、なぜかメイド服の女性もいる。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。莉緒様。いらっしゃいませ、旦那様」

 

 ここで言う旦那様は母の配偶者、つまり俺の父のことだ。

 母はなんとも言えない表情で「ええ」と答え、俺と父は使用人たちに挨拶をする。

 

「お久しぶりです。ほんの数日ですが、どうぞよろしくお願いします」

「お世話になります!」

 

 使用人たちは微笑んで「どうぞこちらへ」と案内してくれる。

 さすがに玄関見えてるし迷わないだろ……と言いたいところだが、入ってから迷う可能性があるので、人がいてくれたほうが安心である。

 ちなみに雛瀬さんは駐車場まで車を停めに行った。

 

「莉緒様。数か月ぶりに来られたお屋敷はいかがですか?」

「映画に出てくる建物みたいで楽しい!」

「左様ですか。映画はよくご覧になられるのですか?」

「うん。英語の勉強で見てるから、日本の映画は詳しくないんだけど」

 

 などと話しているうちに玄関に到着し、ひろびろとしたそこで靴を脱ぐ。

 法事なんかの時、会場の玄関が靴でいっぱいになったりするが……あれが自宅でできるくらいには広い。

 靴は端に揃えて、と思ったらその前にさっと揃えてくれた。

 そこで、こちらへ向かってくる足音が複数。

 

「おお、莉緒。よく来たな」

「家族揃って夏に来るのは初めてか? もう少し頻繁に帰ってくればいいものを」

「お久しぶりです、叔母様。やあ、莉緒。僕の事を覚えているかい?」

 

 威厳と威圧感のある顔立ちをした、精気溢れる老紳士。

 理知的な顔立ちではあるものの、少々神経質そうな印象の紳士。

 物語の中なら王子様扱いされそうな、小学校高学年の少年。

 

 俺との間柄で言うと順に祖父、伯父、従兄弟。

 先代当主である母の父に、現当主である母の兄、そして、当主の長男。

 こんなでかい屋敷を我が物顔で使っている(自分ちだから当然だが)男達に、さすがに気後れを覚えつつ、そこは子供ということであえて遠慮せず。

 

「こんにちは、おじいさま。お久しぶりです、おじさま。もちろん、ちゃんと覚えてます、おにいさま」

 

 後から奥さんたちにも会ったものの、古い家であるこの四条家は基本的に男が強い家であるらしい。

 そのせいか、祖父は素だと怖そうに見える顔を、よく見ればわかる程度には笑みの形に崩している。

 一方で、現当主のほうは「面倒なのが来たな」といった雰囲気で。

 

「心配しなくても、ほんの二、三日で帰るわ。なんなら放っておいてくれても構わないのだけれど」

 

 母のつっけんどんな返答を見て──ああ、家が嫌いなのはやっぱり、お兄さんとの確執もあるのかな、と思った俺だった。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 食事の時間など以外は、従兄と遊んでいていいということで。

 雛瀬さんが戻ってきた後、俺は少年と顔をつき合わせた。

 

 ちなみに、従兄にもお世話係がついていて、そちらはメイド服姿の若い女性だった。

 雛瀬さんと同じくらいの年頃だろうか。

 青少年には目の毒な気がする環境である。

 

「莉緒、なにかしたいことはある?」

「えっと、おにいさま、わたしの相手してると退屈じゃない?」

「そんなことないよ。年末年始は人が多いから、ゆっくり遊べるのは初めてだし。……莉緒の相手をするってことなら、勉強しなくても許してもらえるんだ」

 

 茶目っ気を入れた返答に、俺はくすりと笑った。

 

「ありがとう。じゃあ、そうだなあ……お屋敷に、面白いところある?」

「面白いところって、どんな?」

「うーん……呪われた蔵とか、底なしの井戸とか、誰もなんの神様をまつってるか知らない祠とか」

「莉緒。もしかしてホラー映画ばっかり見てないかい? ……ああ、そうだ。いいところがあった」

 

 言って、案内されたのは──二面が鏡張りになった広めの部屋だった。

 さらにそこには、でん、と、黒塗りの鍵盤楽器が置かれており。

 

「え、これ、もしかしてレッスンルーム!? グランドピアノまであるよ!?」

「驚いただろ? もちろん、このピアノはちゃんと弾けるよ」

 

 従兄はぽん、と、グランドピアノに触れて「僕は弾けないけど」と笑った。

 

「おにいさまがピアノやってるんじゃないの? じゃあ、どうして?」

「叔母様……莉緒のお母さんが昔使っていたやつだよ。知らなかった?」

「うん。そっか、そうだよね。ママもピアノやってたんなら、あってもおかしくないよね」

 

 我が家にはキーボードもなかった。

 俺がピアノを始めてから練習用に購入し、母も昔取った杵柄で少し弾いてみせてくれたが、あまり執着はなさそうだった。

 そうか、こんな良いピアノがあったのか。

 

「ちなみにこの部屋は莉緒のために改造されたんだよ」

「わたしのため!?」

 

 と、思っていたら俺のほうに爆弾が直撃した。

 

「莉緒はバレエをやってるんだろ? この家で練習する事があってもいいようにって、お祖父様が改造したんだ。まあ、僕もヴァイオリンの練習に使ってるけど」

 

 おじいさま、やることのスケールが違いすぎる。

 そりゃ、孫にぽんとお小遣いくらいくれるよ。というか、受け取ってくれないからこっちに使ったのか……?

 

「おにいさまはヴァイオリン弾けるんだ。聞かせてくれる?」

「そうだね、莉緒が合奏してくれるならいいよ」

 

 ピアノ教室以外ではグランドピアノなんて触れないので、俺はその条件を快諾した。

 

「でもわたし、始めてまだ一年半も経ってないからそんなに上手くないよ?」

「五年習ってる割に大したことない、って言われずにすみそうで助かるよ」

 

 子供同士の合奏は、だいぶ拙いところが多かったものの──正直、思ったよりはずっと、様になった。

 聴き役は雛瀬さんと従兄のメイドさんの二人だけ。

 あんまり人に聴かれていると恥ずかしいのでちょうど良かった。

 

 調子に乗って弾いている間に昼食の時間になり、

 

「うーん、バレエシューズも持ってくればよかったかも」

「さすがにそれは用意がないな。手持ちがあったら、バレエも見せてくれた?」

「そっちはピアノより自信ないから、恥ずかしいかも」

 

 昼食の後は別のことをしようということで、屋敷の書庫に連れていってもらった。

 本を置くための部屋が単独で存在しているとは、なんという贅沢。

 

「すごい、植物図鑑がある! おにいさま、わたしこれ見てていい?」

「いいけど、莉緒は花も好きなのかい?」

「うん、けっこう好きだよ!」

 

 前世の俺が初めて付き合った女の子は花好きだった。

 彼女の好きなものなら、と、俺も頑張って覚えているうちにけっこう詳しくなって、別れてからも知らない花を目にすると調べる癖がついた。

 この図鑑はかなり見ごたえがあるぞ。

 わくわくしながら目を通しているうちに時間が経ち──ふと、従兄がなにをしているか気になって顔を上げると、こっちを観察していた彼と目が合った。

 

 少年は真っ赤になって「ち、違うんだ」と手を振る。

 

「ずいぶん熱心に見てるからちらっと見ただけで」

 

 手元には『細雪』が開かれていたのでその証言に嘘はないと思われたものの、狼狽えぶりが逆に怪しく思えた。

 ぴろん『ヒロインポイント:+1』。

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