転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】二人の魔法少女

 モノクローム・キティの得意技は高い身体能力を生かした蹴りだ。

 ビルの壁を蹴って加速を加えた飛び蹴りは見事ハムスターの背中に直撃、彼(?)は「ぐぇっ!?」的な悲鳴を上げて転倒した。

 ぴろん。『ヒロインポイント:+1』。

 

「誰っ!?」

 

 窮地を逃れた魔法少女──ブロッサム・フェニックスは突然現れた何者かに声を上げるも、

 

「話している場合じゃないわ。先に魔物を」

「あっ。う、うん! そうだねっ!!」

 

 こくん、と、頷いた彼女は慌てて杖を構え直すと、

 

「邪なる力に侵されし、憐れなる者よ。聖なる光に清められ、元の姿を取り戻したまえ──!」

 

 ハムスターの身体が優しい光に包まれたかと思うと、みるみるうちに小さく……元のサイズを取り戻していく。

 なるほど、そういう仕組みだったのか。

 浄化によってダメージも消え去ったのか、すっかり小さくなったハムスターは「ここはどこ?」とでもいうようにあたりを見回し、歩道から一人の女性が「ハムスケ!」と声を上げる。

 飼い主とペットの感動の再会。

 フェニックスは「良かったぁ」と息を吐いて笑顔を浮かべているが……これ、魔法少女騒動がなければハムスケも魔物化しなかったんじゃ?

 

 まあ、あの女性とハムスケ自体がこのイベントのために生み出された存在という可能性もあるわけで……あんまり気にすると頭が痛くなりそうだ。

 

「っ! そうだ! ねえ、あなた、あなたは何者なの? 私と同じ魔法少女なんだよね?」

 

 問われた俺は、あらためて自分の格好を自覚する。

 俺こと四条莉緒扮する魔法少女モノクローム・キティは、黒+白をベースとしたドレスを纏っている。

 スカートはフェニックスよりも長め、手には指の部分が空いた手袋をしているものの、体術の邪魔にならないために肩だしだったりと、全体的な露出度はやや高め。

 なお、衣装や魔法少女名はいちから俺が考えたわけではなく、希望をある程度反映しつつも世界? システム? が定めたものだ。

 

 うん、やっぱり、この格好はちょっと恥ずかしい。

 

「そうよ。わたしはあなたと同じ魔法少女、モノクローム・キティ。

 でも、あまり長く話をしている場合じゃないわね」

「え?」

「長時間家を抜けられないし……それに、ここは道路の真ん中だもの」

 

 言って、さっさと跳躍、少女から身を離す俺。

 フェニックスと、どこかからぱたぱた飛んできたピンクの鳥──おそらくマスコットだろう──は呆然とそれを見送って。

 

「モノクローム・キティ。いったい誰なんだろう? でも、悪い子じゃなさそうだよね……?」

 

 ぴろん。『ヒロインポイント:+1』

 翌日のニュースにて、ばっちり姿が世界公開された俺は思わず頭を抱えたくなった。

 

 

 

 

 

「一躍人気者じゃないか。良かったね、モノクローム・キティ?」

「その名前で呼ばないで。みゆちゃんとエリカまでその話をしてて、顔から火が出そうになったんだから」

「自業自得じゃないかなあ」

 

 俺以外には見えない状態でくっついてこれるようになったクロは、家(つまりバロンの傍)にいるよりよほどくつろいだ様子である。

 彼女と話をする分には認識阻害の影響で周りに聞こえないようなので、わりと大っぴらに内緒話もできる。

 

「それにしても、魔法少女の時の口調はなんだい?」

「ああ、あれ。ちょっと変えたほうが正体がバレにくいかなって」

「なるほど。でも、そのせいで『大人っぽい感じが良い』『フェニックスより素直に愛でられる』『踏んで欲しい』とか大人気みたいだよ?」

「……あああ、もう、どうしてこうなったの!?」

 

 そしてこの日からしばらく、モノクローム・キティは魔物退治に昼夜問わず駆り出されるようになった。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 二度目の魔物は平日の午前中に出現し。

 

「すみません、先生。トイレに行かせてください」

「珍しいですね、四条さん。わかりました、行ってきてください」

「ありがとうございます」

 

 やむなく教室から中座し、トイレの窓から飛び立つ。

 

「これ、何度もやってたら成績に影響が出そうだよ!?」

「認識阻害の影響で、離席自体は減点対象にならないんじゃないかな?」

「でも、勉強時間は削られてるじゃない……」

 

 俺はまだ人生二週目だからいいものの、フェニックスの成績が気になるところ。

 できるだけ手早く済ませようと現場に向かえば、とある公園で、バイクくらいの大きさになったペルシャ猫が砂場を荒らしていた。

 悪事の規模が小さい!

 別に放っておいてもいいのでは? という気分になりつつも「そこまでよ」と砂場近くの地面に降り立つ俺。

 フェニックスはまだ来ていない。

 

「なー!」

 

 鳴き声と共にこちらへ向かってくるペルシャをひょいと回避。

 バレエ経験が身体の柔軟さとして活きている。

 殴り合いの喧嘩なんてもちろん今世ではこれと前回が初めてだが、身体強化のおかげで思うように身体が動く。

 

「はっ!」

 

 綺麗な回し蹴りを猫の腹部に決め、砂場に向けて吹っ飛ばすと、

 

「だめー!!」

 

 飛来したフェニックスが、どういうわけかペルシャをキャッチ。

 

「キティちゃん! そんな戦い方じゃ猫さんがかわいそうだよ!」

「……ええ? でも、魔物は倒さないといけないし。それとその『キティちゃん』という呼び方は」

「いい、キティちゃん! 私たちはケンカしに来てるんじゃなくて、魔物になっちゃった動物を止めに来てるの! あんまりいじめちゃだめなんだからね!」

「……はい、ごめんなさい」

 

 頭に乗ったクロが「弱っ!」と声を上げるも……じゃあ俺にどうしろと言うのか。

 れいかちゃんみたいに理不尽ならまだ反論のしようもあるが、彼女の言っているのはある意味で正論である。

 

「じゃあ、わたしが注意を引き付けるから、あなたが浄化してくれるかしら」

「わかった!」

 

 俺たちは協力してペルシャを浄化、小さくなった猫が家に逃げ帰っていくのを見てほっとひと息。

 ……そして、そんな俺たちを、またどこかから駆けつけてきたマスコミがカメラで追う。

 

「それじゃあ、わたしはこれで」

「待って」

 

 インタビューとか求められる前に逃げようと思ったら、フェニックスに袖を掴まれてにっこり。

 

「今日は時間、あるよね?」

 

 いや、早く学校に戻ったほうがいいんじゃないか。

 

「フェニックス、あなたに忠告しておくわ。……魔法少女なんて早く終わらせたほうがいい、日常生活のほうがずっと大事なんだから」

「え……っ!?」

 

 驚いたように手を離す少女。

 俺は、ぴろん、という、ヒロインポイント加算の音を聞きながら宙に舞い上がった。

 

「また会いましょう」

 

 フェニックスは、追ってこなかった。

 少し悪いことをしてしまったような気もするものの、言ったことは本心だ。

 荒事の経験なんてそんなに役に立たない。

 ちゃんと学校の授業を受けてテストに備えるほうがずっといい。

 

「でも、けっこうヒロインポイントが入るね。やっぱり非日常だからかな?」

「そうだね。まあ、それは向こう(フェニックス)も同じだろうけど」

 

 ヒロインレース的には無意味でもないし、二人目の魔法少女登場で向こうのポイント加算にも貢献してしまっているところがあるわけか。

 ヒロインをやるっていうのもなかなか難しい。

 

「とりあえず、あの子が飽きるまでは付き合うしかないか」

「そうだね。そうすれば魔物の出現も自然に止まるだろう」

 

 けれど、フェニックスはあの時のやり取りでむしろヒートアップしてしまったのか、次の戦いで出会い頭にこんなことを言ってきた。

 

「キティちゃん! 私、魔法少女が役に立たないなんて思わない! だって、みんなのために頑張ることが悪いことのはずないもん!」

 

 それは、確かにそうかもしれない。

 少女の真っすぐな気持ちに、俺の胸の中で揺れ動くものを感じる。

 ……まったく、魔法少女じゃなくて恋愛が本編だっていうのに。

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