転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】魔法少女の窮地

 あれから、魔法少女ブロッサム・フェニックスとはたびたび魔物退治で一緒になり。

 最初は少々険悪だったフェニックスは、だんだんと俺に良くしてくれるようになった。

 

 ──俺としても、別に彼女に嫌われたいわけじゃない。

 

 単に、ご両親は心配するだろうなとか、友達と遊びに行けなくなったりしないかとか、ピアノやバレエのレッスンを中座するのは俺としても辛いなとか思っているだけで。

 なので、戦いでは協力するし、終わった後、ジュースで乾杯するくらいなら応じることにした。

 

 ヒロインの情報が増えるのはありがたいし。

 

 と言っても、直接本名を尋ねたりはできない。

 変なことをすると怪しまれかねないし、こっちの個人情報まで明かすことになるとリスクも大きい。

 なので、

 

「ね。キティちゃんってどこに住んでるの? 私はね──」

「あまり、普段の自分の話をしないほうがいいわ、フェニックス」

 

 向こうから明かしてこようとしても断る。

 イチゴオレの缶を手にしゅんとするフェニックスに、俺は「勘違いしないでね」と続けて、

 

「わたしたちは、魔法少女じゃなくなれば会うこともない関係でしょう? それに、たとえ相手が同じ魔法少女でも、正体を明かせばそれだけ他の人に知られる可能性も高くなる」

「……うん。もしバレちゃったら、お父さんやお母さんにやめろって言われるかも」

「わたしだってそうよ。だから、わたしたちはなれ合い過ぎないほうがいい。……もちろん、あなたのことは頼りにしているけれど」

 

 ちなみに俺の選んだ飲み物はココアだ。

 無糖のコーヒーにしたいところだが、四条莉緒の舌にはまだちょっと苦すぎるらしい。前世では苦手だったココアの甘さが逆に心地いい。

 あと、なにげに「自販機でジュースを買う」体験もこれが初めてだった。

 普段は水筒持参が多かったし、小学校への行き来は基本車なので飲み物を買うタイミングがない。

 独特の色合いをした液体をちびちび飲みつつ「言い過ぎたかな?」と様子を窺うと、フェニックスはこっちをじっと見返してきて。

 

「えっと、それって、私のこと友達だと思ってくれてるってこと?」

 

 ……この子、だいぶ人たらしなんじゃないか?

 別に肯定してもいいのだが、連絡先を交換しよう! という話になっても困るので、俺は目を逸らした。

 

「戦友、とでも言ったほうが実情に近いんじゃないかしら」

「つまりお友達ってことだよね!」

 

 明るく無邪気な少女には通用しなかった。

 手を握ってぶんぶん振られた俺は、(きちんと躾られてはいるものの)庶民の子の気軽さ、気さくさに圧倒される。

 ……こういう友達も、いいものだな。

 いやだめだ、こんな戦いは早く終わらせないと。

 

「最近、少しずつ魔物の力が強くなってきているでしょう? なにかの前触れじゃないかしら」

「ん……そうだね。前は私一人でもなんとかできたのに、今はキティちゃんと二人がかりじゃないとやられちゃいそう」

「もしかしたら、魔物を生み出している元凶が現れる日も近いかもね」

 

 作戦変更。

 本人に「こんな戦いは良くない」と言っても効果が薄いので、物語的なクライマックスを無事に迎えさせることにした。

 苦戦の末にボスを倒せば、フェニックスもきっと満足して魔法少女を終わらせてくれる。

 そんな俺の作戦が効いたのか、それとも新魔法少女だけでは刺激が足りなくなってきたのか、それから現れる魔物は着実に強くなっていき。

 

 せいぜい猫や小型犬、カラス程度だった魔物のベースは、大型犬や梟(あいつらあれで猛禽である)などに。

 ここまで来ると巨大化して暴れると普通にやばい。

 果たしてフェニックスはこの状況をコントロールできているのか、それとも無意識の産物なので本人にもどうにもできないのか。

 漠然とした危機感はやがて現実となり、元凶の魔の手はついに「人」に及んだ。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 みゆちゃん、エリカと英語の勉強──字幕映画の鑑賞会をしている最中にそれは起こった。

 今までにない強大な敵の気配。

 よりによってこのタイミングか、と、俺は内心で愚痴る。

 ただでさえ、このところ授業中にトイレに行くことが増えて「莉緒ちゃん、もしかしてお腹の調子悪い……?」と言われてしまっている。

 家の中じゃ「ちょっとトイレ」で誤魔化すこともできないし、しばらく帰ってこなかったら怪しまれること請け合いだ。

 

 どうしたものかと困っていると、みゆちゃんの腕に収まっていたクロが「やれやれ」という顔をして、

 

「ふみゃあ!」

「きゃっ! ど、どうしたのクロちゃん!?」

 

 急に暴れだした彼女は、そのままみゆちゃんの腕を飛び出し廊下へ向かう。

 

「こら、大人しくしなさい!」

 

 慌てて雛瀬さんが追いかけるも、さすがに俊敏さでは猫に分がある。

 さっさと玄関まで到達したクロはぴょんと飛んであっさり錠を解除、ノブにぶら下がるようにしてドアを開けてしまう。

 一瞬だけちらっとこっちを見たのは……そういうことか、ちょっと、というかだいぶ強引だけど。

 

「クロ!」

「莉緒様!」

「わう!」

「雛瀬さんはここにいて、みゆちゃんたちの相手をしてあげて!」

 

 するりと脇をすり抜けてマンションの廊下に飛び出せば、雛瀬さんは「ぐぬぬ」という顔をしながらも、とりあえずバロンやみゆちゃんたちが俺を追いかけないように対応を始める。

 追いかけたいのはやまやまだが、全員散り散りになってしまえば目も当てられないという判断だろう。

 俺のスマホにはGPSがついているし、別に防犯タグも持っているので後からでも追いつける。

 おかげでなんとか一人で外に出ることに成功、マンションの外に飛び出すと即、クロを回収して変身した。

 

「助かった。……でもこれ、後が怖いんだが」

「そこはボクの管轄外だね」

 

 なお、ヒロインポイントは音を立てて加算された。

 魔法少女に変身している間は認識阻害によってGPS等も無効化される。

 みんなに心配されるだろうから早めに戻りたいところだが……今回の敵はかなり手強そうである。

 

「もしかして、やっとボスが出たのかな」

 

 果たして──ふたつ隣の市に現れた敵の正体は、初めての人型、黒マントに露出度高めの格好をした妖艶な美女だった。

 女の子向けの作品って男子の目がないからって逆にノリノリでエロい服装してたりするよな……ってそれはともかく。

 

 美女は、どう見ても普通の人間ではない──ただのコスプレにしては雰囲気が出過ぎている。

 いうなれば「魔女」。

 動物を魔物化させて暴れさせている元凶にぴったりだ。

 彼女は降り立った俺を見て「あら」と唇を歪め、

 

「もう一人の子も来たみたいね。初めまして、私はウィッチ。今日は、私の実験をことごとく潰してくれたあなたたちにお礼をしに来たの」

「キティちゃん! お願い、力を貸して! このままじゃあいつに、カズくんが……っ!」

 

 必死の様相のフェニックスが見やる先は、ウィッチの右手に抱き留められた一人の少年。

 どきりと、胸が揺れた。

 ショッピングモールで出会って以来の再会。あの頃より背が伸び、男の子っぽくなっている。今も必死に拘束から逃れようともがいている彼は、

 

「……一矢くん」

 

 そうか、魔法少女の幼馴染が事件に巻き込まれる──確かに、物語のクライマックスではよくある展開だ。

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