転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】魔法少女の解散

 キスしなさいと。

 言われた少女は反射的に「うん!」と頷くも、それから気づいて「えっ、えええっ!?」と真っ赤になる。

 さらに、手をぶんぶん振って「無理、無理だよぉ!」とか言い始めるのだが……いや、いまそういうこと言ってる場合じゃないから、と、思ってしまうのは俺が元男だからか。

 

「無理じゃないわ。好き、なんでしょう? それに時間がもうない」

 

 俺はあくまでもサブキャラの枠。

 この物語を始めた主人公にいいところは譲ることにしよう。

 若干強引に焚きつけてやると、フェニックスは真っ赤になったままながら「……うん」と頷いて。

 ぐいっと、俺の腕を掴んだ。

 

「じゃあ、キティちゃん! 一緒にしよ!」

「は?」

 

 いやいやいや、俺は関係ないし、どうしてそうなるのかと──。

 

「だって、あんなに必死だったんだもん。……好きなんだよね、カズくんのこと」

 

 囁かれた言葉に真っ赤になる。

 そりゃ、対外的に彼は俺の想い人だが。それは四条莉緒の話であってモノクローム・キティには関係ないし、それに。

 

「キティ。時間がないと言ったのは誰だったかな?」

「っ。ああ、もう、わかった。わかったわよ! すればいいんでしょう!?」

 

 ここぞとばかりに言ってくるクロに言い返して、俺は、フェニックスと共に一矢少年の元に飛んだ。

 少年はもう、ほぼ全身を呑み込まれていて。

 残っているのは顔のみ。ぼんやりとした表情で、それでもかすかに、抵抗の意思を覗かせていて。

 俺たちは顔を見合わせると「せーの!」で──口づけた。

 

 ──少年の、左右のほっぺに。

 

 ぱっぱら~♪『ヒロインポイント:+3』

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 魔法少女騒動はウィッチ打倒をもって収束した。

 魔物化寸前だった一矢少年は、魔法少女二人のキスを受けたことで解放され、何事もなかったように自由を取り戻した。

 無事だった少年に抱きついたフェニックスは「良かったぁ!」と大泣きし──彼女の正体が幼馴染だとは(認識阻害によって)気づいていない少年は、赤面すると共に大いに困惑していた。

 で、比較的冷静っぽいもう一人の魔法少女に視線を向けてきて、

 

「なあ。……結局、なんだったんだ? あのウィッチって奴も、お前らも」

「さあ、知らないわ」

 

 成り行きとはいえキスしてしまった後の俺はなんとなく気まずくて、少年の顔が見られなかった。

 いや、まあ、キスと言ってもほっぺだし、別に気にすることでもない。

 なのになんでこんなに恥ずかしいのか。

 やっぱり箱入りとして育てられているせいだろうか、それとも、心の準備ができていなかったせいだろうか。

 俺は、動揺を咳払いで誤魔化して。

 

「それじゃあ、わたしは行くわ。……たぶん、もう会うこともないでしょう」

「え? もう行っちゃうの?」

 

 ようやく少年から離れたフェニックスが残念そうに呟く。

 

「ええ。言ったでしょう? 戦いが終われば、わたしとあなたは他人に戻るの。……変身していない状態で仲良くして、正体がバレたくはないでしょう?」

「私は……別にバレてもいいかなって思うんだけど」

 

 ちらりと少年のほうを見てそう言う少女にはこう言ってやる。

 

「流れ弾で壊した街の修理代請求されるかも」

「元気でね、キティちゃん! もしまた会えたら、また友達になろうね!」

 

 こういうのも「現金なものだ」でいいんだろうか。

 二人に軽く手を振ってから、地を蹴って空へ。

 少し離れたところで振り返ると、こちらを見上げる一矢少年と目が合った。

 

「また、会おうね」

 

 俺の呟きは、まず間違いなく少年の耳には届かなかっただろう。

 だけど、それでいい。

 飛んで、家の近くまで戻ってきた俺は変身を解除。

 クロを両手でしっかりホールドしながらゆっくり歩いていると、「莉緒様!」と血相を変えた雛瀬さんが走ってきた。

 

「勝手に外を出歩かないでください。……本当に、心配しました」

「ごめんなさい、雛瀬さん」

 

 俺の位置がGPSでわからなくなるわ、少し離れたところで魔法少女と魔女の戦いが繰り広げられているわで雛瀬さんも大変だったようだ。

 両親にも連絡が行ったらしく、普段品行方正な俺にしては珍しく、ガチめに怒られた。

(ちなみにみゆちゃんたちは家に帰されていたので、スマホで謝り、次に会った時にも謝った)

 これもクロとフェニックスのせい──とばかりも言えないか、魔法少女になることを選んだのは俺だし。

 

「でも、戦って良かったよな。俺が参戦してなかったらどうなってたか」

「まあ、キミが参戦したからウィッチが強くなったのかもしれないけどね」

「それを言うなよ」

 

 ゲームのオンラインプレイとかでも、プレイヤー人数で敵が強くなることはある。

 

「なあ。それってさ……俺たちが頑張らなくてもなんとかなったってことか?」

「いや、もちろんそんなことはないさ。これは現実だからね。世界がバランスを巧みに整えてはいても、手を抜けば負けることはある。

 主人公の敗北で終わる物語も、中にはあるだろう?」

「ああ。……ヒロインが途中退場する物語もあるな」

 

 一歩間違えばひどいことになっていたかもしれない。

 そう思うと、さすがにぞくりとする。

 今回は子供の願望が発端だし、魔法少女ものだったからそうそう大失敗はしなかっただろうけど。

 

「じゃ、魔法少女の力は消すか」

「消してしまうのかい?」

「魔物との戦いにしか使えないんだし、持ってても仕方ないだろ」

 

 消すと「戦いがあった事実」も消えてしまう可能性があるが、両親+雛瀬さんから怒られた事実も消えることになるのでそれはそれでいい。

 クロだけは不思議な猫のまま残す。

 

 こうして、俺は日常に戻った。

 

 以後、魔法少女として戦いに駆り出されることはなく──。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 けれど、俺たちが魔法少女として戦った事実は消えなかった。

 転生者である俺の記憶が消えないのは仕様だが、世界の歴史が塗り変わらないのは──この件に関わったもう一人のヒロイン、魔法少女ブロッサム・フェニックスが特典を保持したままにしたからだろう。

 消せないのか、それとも、想い出として取っておくことにしたのか。

 

 記録上は魔法少女と魔物の戦いが世界に残されたものの。

 一般の人の関心は急速に失われていき。

 鮮明に記憶を残したのは、あの少女と、それから主人公である少年くらいしかいなくなった。

 そして、彼女らにしても、四条莉緒とモノクローム・キティをイコールで結ぶことはできない。

 

 莉緒として再会するつもりはあるものの──きっと、俺がモノクローム・キティであったことを明かす日は来ないだろう。

 結果として、大きく変化したのはクロがぬいぐるみから本物の黒猫になったことくらい。

 あの戦いは、俺の中で、幼い頃のちょっとした不思議な体験として残った。

 

 きっと、大人になっても「あの時は大変だったな」「面白かったな」と思い出せるだろう。

 

 ……と、その時の俺は気づいていなかった。

 

 この出来事が、これから起こる数々の騒動のほんの始まりに過ぎないことに。

 考えてみてほしい。

 一人の少女がちょっと憧れただけで魔法少女になれてしまうのだ、同じようなことが今後起こらないはずがあるだろうか? いや、ない。

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