転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】お嬢様とスケート

「ここがスケートリンク……!」

 

 とある休日。

 俺は、みゆちゃんやエリカと一緒にスケートをしに来た。

 保護者役は俺&エリカの母、それと雛瀬さんだ。みゆちゃんの家は病院経営なので、休日はお客さんが多く忙しいらしい。

 俺たちの家から一番近くにあるスケートリンクは、休みの日だけあって多くの人で賑わっている。

 近年のスケート人気も後押ししているかもしれない。

 

 ……むう、もしスケートを習う場合、最低でもここへ頻繁に通うことになるわけか。

 

 そうするにはちょっと遠い。

 雛瀬さんがいなかったら確実に、送り迎えで両親がひーひー言う。

 と、俺がそんなことを考えていると、

 

「ふふん。二人とも、困ったことがあったらアタシに聞いてくれていいデスよ」

 

 エリカが自慢げに言ってくる。

 

「エリカちゃん、それもう三回くらい聞いたよ……?」

「あはは、わたしたちが初めてだからって張り切ってるんだよね?」

「だって、スケートなら莉緒に勝てそうデスから」

 

 英語でマウントを取られたのをまだ気にしているのか、エリカは俺を妙にライバル視してくる。

 テストの点とか体育の成績を比べられては「悔しい!」と闘志を燃やしていて、

 

「でも、莉緒ちゃんもこういうの得意だよね?」

 

 みゆちゃんは、どういうわけかたまにこうやって無自覚にエリカを煽る。

 

「なら勝負デス、莉緒!」

「受けて立つよ! でも、エリカちゃん、危ないのはだめだからね」

「莉緒はアタシのお母さんデスか!?」

 

 そういう小言はいらないとばかりの顔になるエリカに、雛瀬さんが真顔で視線を向けて。

 

「いえ、とても大事なことです。スケートは氷の上で、刃のついた靴を用いるスポーツ。一歩間違えば大きな事故に繋がりかねません。くれぐれもお気を付けを」

「……莉緒はこういうの毎日聞いてるんデスよね?」

「あはは。でも、必要なことだからね」

 

 受付と、それからシューズ等類の貸し出し手続き。

 ちなみに今日は運動するのがわかっていたのでみんなショートパンツにタイツである。

 

「莉緒ちゃんはお休みの日だとショートパンツ、けっこう穿いてるよね?」

「うん。バレエの日はスカートあんまり穿かないから、多めに持ってるの」

 

 なお、経験者だけあってエリカのショートパンツ姿も様になっていた。

 

「……スケートクラブからスカウトが来たらどうしようかしら」

「エリカちゃん、素。素が出てる」

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 前世では子供の頃に一回やったような、やらなかったような。

 今世ではこれが間違いなく初めてのスケートである。

 

「わ、やっぱり普通の靴とぜんぜん違うね」

「そんなの当たり前じゃないデスか」

 

 リンクの端に捕まりつつ言う俺に、二本の足で立ったエリカが得意げに答える。

 みゆちゃんは俺と同じようにつかまり立ちをしながら、がくがく足を震わせていて、

 

「わ、私、やっぱりこういうの無理だよう」

「みゆ、いくらなんでもギブアップが早すぎデス」

 

 みゆちゃんは運動能力自体は悪くないものの、その才能は主に徒競走等のシンプルな運動に向けられている。

 バランス感覚が重要になるダンスや鉄棒なんかは鬼門、スケートは残念ながらその系統の親玉みたいな種目だ。

 

「大丈夫だよ、みゆちゃん。まずは一緒に立つところから挑戦しよ?」

「う、うん、ありがとう莉緒ちゃん」

 

 ちなみに母親二人はリンクの外から「頑張れ~」と応援してくれている。

 うちの母は昔やったことがあるらしいのだが「体型も変わってるし、怪我したくないから」と辞退。

 代わりに雛瀬さんがサポート役としてリンクに立ってくれている。

 ……というか、平然とスケート靴履いて立ってるけど、この人、できないこととかあるんだろうか?

 

「コツは怖がらないことデスよ。そうすると余計バランスが崩れて立てなくなるデス」

「なるほど。そういうことかあ」

 

 自慢じゃないが、バランス感覚には自信がある。

 習い事のバレエを意識しつつ挑戦してみると──さすがに一回目で成功するのは無理だったが、転ぶ時は思い切って綺麗に転んでしまえばそんなに危なくない。

 要は変な体勢になってブレードに触れてしまったり、他の人を巻き込まなければいいのだ。

 

「うん、なんか慣れてきたかも」

 

 30分もしないうちに安定して立てるようになってきた俺を見て、エリカが「ありえないデス」と口をあんぐり開けた。

 

「莉緒、なんかずるしてないデスか?」

「してないよ。ほら、足の開き方とかバレエにちょっと似てるかなって」

「けっ。これだからお嬢様は」

 

 口が悪い!? っていうかエリカだってお嬢様学校通ってるくせに。

 

「ほら、やっぱり莉緒ちゃんはすごいんだから」

 

 そしてみゆちゃんはなぜそんなに自慢げなのか。

 

「莉緒、ちょっとあっちでジュースでも飲んできたらどうデスか? 一時間くらい」

「それあんまりスケートできなくなっちゃうよ!?」

 

 立てるようになる練習を続けるみゆちゃんは雛瀬さんが見ていてくれるというので、俺は少しずつ滑る練習をした。

 ゆっくり滑るくらいならコツを掴めば難しくない。

 移動する、普通に歩いたり跳んだりせずにスピードが出るっていうのはバレエにはないことで、周りには他の利用者もいるのがむしろ神経を使う。

 これ、広いリンクを気兼ねなく使えたら気持ちいいかも。

 

「あれ、やってみたいなあ。ジャンプするやつ」

 

 なにげなく言ったら、エリカに「またこいつはそういうこと言う」という顔をされた。

 

「簡単に跳ばれたら全国のスケート女子が泣きマス」

「でもわたし、地上なら跳べるよ?」

「……もしかしてバレエって万能なんデスか?」

 

 そんなことはないと思うが……姿勢が重要になるという意味で、それを気にする癖がついているのは大きいかもしれない。

 とりあえず、回らずにその場で跳ねるだけを試してみたら意外といけた。

 

「やっぱり着地が難しいね。普通の靴を履いてるんじゃないの忘れちゃいそう」

「ぐぬぬ。なんか、ほんとにあんたに抜かれそうだからあたしも本気出してやる」

 

 またしても演技を忘れたエリカがすいすいと滑り出すと、俺は思わずみゆちゃんと一緒におお、と感嘆した。

 

「莉緒ちゃんもだけど、エリカちゃんもすごいよね……?」

「負けん気がすごいからわたしよりスポーツ向いてるんじゃないかなあ……」

 

 とか言ってたら、知らない大人の女性から「あなたたち、スケートの経験はある? ない? だったら、教室に入ってみない?」と話しかけられた。

 彼女が見ているのは俺とエリカ。

 みゆちゃんはむしろ、自分が眼中にないと知ってほっとしていた。そういうの苦手な人からしたら教室なんてむしろ拷問だからな……。

 

「うーん……でも、わたしバレエとピアノを習ってるので、これ以上は難しいです」

「バレエにピアノ!? 表現力とリズム感まであるなんて……ぜひ、ぜひうちのクラブのスケート教室に!」

 

 そう言われると、やってみたかった競技ではあるので悩む。

 現実的に無理だと思いつつも、チラシだけもらってやんわり応対した。

 ちなみに、スカウトがどうとか言ってたエリカはあっさり「興味ないデス」と断っていた。

 

「教室、通ってみたかったんじゃないの?」

「いいえ。気分良くなりたかっただけで、スケートは通訳になるのに役に立ちませんから」

 

 さすがエリカ、ブレない、と、俺はまた感心した。

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