転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】お嬢様学校のしきたり

 天音学園初等部のカフェテリアには、特別な席が存在する。

 カフェテリアの奥まった場所──背の低い仕切りで区切られたそこは、ちょっと豪華なテーブル・椅子と、特別な装飾がされた壁で飾られている。

 たぶん、来賓の方とかが利用する時に落ち着けるように用意された場所なのだが──普段は別の用途で利用されている。

 

 生徒会役員をやっている生徒や、成績優秀な子の専用席。

 頑張っている子へのちょっとしたご褒美、という使い方だ。

 

 具体的なメンバーの選定は生徒会長に委ねられている。

 半年くらいの間隔で3~4人が選ばれて、奥の席を使う許可を受ける。

 選ばれるのは四年生以上と決まっており、その関係で、新たに選ばれるのも四年生からが多い。

 ……と、なんでこんなことを説明したかと言えば。

 

「四条莉緒さん、袴田(はかまだ)実結(みゆ)さん、少々お話をよろしいかしら?」

 

 四年生に上がって間もない昼食時、生徒会長から声をかけられたからだ。

 

「あなたたちに、こちらを。卒業の際に返却していただきますので、なくさないようにしてくださいね?」

 

 藤の花を模した形の小さなブローチ。

 生徒会長自身も身に着けているそれは、一部生徒の間で憧れとされているもので。

 いきなりのお声がけに、俺とみゆちゃんは思わず顔を見合わせた。

 

「わ、私たちに、ですか?」

「ええ。これからは自由に奥の席を使ってちょうだい。このブローチは着けなくても構わないけれど、着けていてくれたほうがわかりやすいと思うわ」

 

 冗談を言われているわけではないとわかった俺たちは席を立って丁重にそれを受け取った。

 せっかくなので、お互いの制服に着け合う。

 生徒会長はにっこり笑って「よく似合っているわ」と褒めてくれた。

 

「それじゃあ、また会いましょう?」

 

 優雅に去っていく彼女をしばらく見送って、まだちょっとふわふわした気分のまま席に座り直すと。

 

「……莉緒と実結が揃って『サロン』入りデスか」

 

 向かいに座っていたエリカによる低い呟きが聞こえてきた。

 奥の席は一部でサロンなどと呼ばれ、世代の中心メンバーとお近づきになるチャンスとされているのだ。

 

「みゆちゃんは真面目だし、成績も良いもんね」

 

 体育は少し苦手な彼女だが、手先がとても器用なため家庭科や美術は先生からの覚えもとても良い。

 将来、医者を目指すために勉強も頑張っているので座学の成績もトップクラスだ。

 

「それを言ったら、莉緒ちゃんは私より成績良いもん」

 

 俺たちがお互いに褒め合っていると、エリカがぐぬぬ、と息を吐いて。

 

「どうしてアタシだけ選ばれないんデスか! 実結と成績同じくらいだし、体育は実結より上なのに!」

 

 変なしゃべり方のせいでイメージ下がってるんじゃないかと思う俺だったが、火に油を注ぎそうなので黙っておいた。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 当初は拗ねていたエリカだったが、落ち着くと「なるべくサロンを利用したほうがいいデス」と言ってくれた。

 

「莉緒たちも、ご指名が四年生からなのはなんでかわかりマスよね?」

「たぶん、二学年の差なら中等部でも顔を合わせるから?」

「その通りデス」

 

 現在六年生の先輩──お姉さま方には中等部でもまたお世話になるし、俺たちが六年生の時の四・五年生、つまり今の二・三年生とは中等部でも後輩として付き合いがある。

 成績優秀だったり品行方正なメンバーと友好を深めておけば、これからの学園生活がスムーズになるという狙いもあるわけだ。

 

「四年生の初めにご指名なら、生徒会に誘われる可能性も高いデショウ。上級生と仲良くなっておいて損はないデス」

「確かにそうだね。……エリカちゃんって、そういうのしっかり考えてるんだ」

「実行するかは別として、得をする方法はもちろん考えマスよ」

 

 エリカの言うことももっともだ、ということで、俺とみゆちゃんは週に2~3回はサロンで食事をとることにした。

 本人は「もっと行けばいい」と言うものの、未だに俺たち以外のクラスメートには少し遠慮がある。

 話せる相手はいるだろうけれど気兼ねすると思ったからだ。

 

 

 

 

「ようこそ、二人とも。歓迎するわ」

 

 サロンなんて言っても、食べるものは同じだしカフェテリアの中だから……と思っていたものの、実際に利用してみるとそこは別世界のようだった。

 毎回同じような顔ぶれが並ぶうえ、一般生徒と席が離れているので落ち着いて話をしやすい。

 人数が少ないので五、六年生の先輩とも言葉を交わすことになり──なるほど、これは確かに上層部とも仲良くなれる。

 

 普段は主にみゆちゃん、エリカと食べているので彼女たちの趣味や好みはある程度把握している俺だが、このサロンのように、仲のいい友達以外と話すと毎回新しい発見がある。

 それは自分たちの視野を広げる意味でもとても役に立った。

 

 あと、奥の席にいると高確率でおやつが出る。

 

「家から持ってきたのだけれど、良ければみなさんでどうかしら」

「親戚からのいただきもので、食べるのを手伝っていただけると……」

 

 誰かしらがなにかしらお菓子を持ってきて、みんなに振舞ってくれるのだ。

 しかも、お嬢様学校だけあってお高めのお菓子が多い。

 美味しいのでついつい間食が増えてしまい、若干カロリーが気になってくるくらい。

 あと、お返しというか、もらいっぱなしでは良くないので自分たちもおすそ分けを用意する必要が出て、

 

「……ねえ、莉緒ちゃん。どんなお菓子を持って行ったら喜んでもらえると思う?」

「うーん……。お気に入りのお菓子なら大丈夫だとは思うんだけど」

 

 変なのを薦めて「空気の読めない子」扱いされるのは怖いし、そこまで行かなくても、あまり食べてもらえなかっただけでしばらくトラウマになりそうだ。

 悩む俺たちを見たエリカはしれっと、

 

「別に美味しければなんでもいいじゃないデスか。実結のマミーのクッキーとか、アタシ大好きデスよ」

「うん。わたしも実結ちゃんのママのクッキーは大好きだけど、手作りのお菓子はやめておいた方がいいかも……?」

「なんでデスか。庶民差別デスか」

 

 小さくても病院経営の一家は庶民じゃない。

 

「プロの作ったものじゃないと、なにかあった時に困るからだよ。あとはほら、人の握ったおにぎり食べられない人とかもいるし」

「あー。なんていうか、めんどくさいデスね」

 

 そうだけど、そういうことをあっさりと口にするんじゃない。

 

「じゃあブラウンサンダーとかでいいんじゃないデスか?」

「美味しいけどさすがに安すぎじゃないかなあ……」

 

 悩んだ末、それぞれお気に入りのお菓子屋さんのアソートとかを差し入れるようにしたところ、みんな素直に喜んでくれた。

 余った分は家族や友達に分けるようにしたところ、みんなまでカロリーや糖分を気にするようになったのはまあ、ちょっとした弊害である。

 

 ちなみに、このあとエリカも五年生の後期からサロン入りを許された。

 この時期になって加入するのは珍しいのだが、彼女の場合、五年生から英語の授業が本格化したのをきっかけに、その能力を認められた形だ。

 もともと綺麗な青い目をしていて人目を惹くタイプというのも大きい。

 大きくなるにしたがって外面を作れるようになってくると、ネックだった言動も気にならなくなり、晴れて中枢メンバーの仲間入りを果たした。

 

 というか、まだ先の話にはなるものの……この後、俺とみゆちゃんは別の高校に進学し、エリカだけが古巣に残る形となる。

 その頃にはぶっちゃけエリカが一番、学園の校風に馴染んでおり、完全にお嬢様できるようになっていた。

 まあ、気楽な場で友人だけになると「あれ肩凝るから面倒なのよね」と相変わらずなのだが。

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