始業式の翌日からは通常授業が始まった。
進学校だけあって授業内容はなかなかハイレベルだが、同じくレベルの高い天音にいた俺やみゆちゃんは問題なくついていけている。
クラスに友人もたくさんできた。
初日の時点で大勢話しかけにきてくれたので、交友関係を築くのは正直とても楽だった。お嬢様というのはこういうところでも得をするものか。
そうして一週間ほどが経った頃、俺は再び主人公──
最初のうちから教室を離れて「付き合いが悪い」と思われるのもあれだし、かといって一矢たちのほうをあまり無下にするのも……と悩んだ結果がこのタイミングである。
「あ、四条さん! こっちこっち」
待ち合わせ場所は、以前出会ったのと同じ中庭。
新入生が校内スポットを把握しきっていないうちにここを定位置として確保したらしい。
俺はベンチに座っていた三人に「ごきげんよう」と挨拶。
「春の陽気が心地いい季節ですね」
「うんっ。暑くなってくるまでは外で食べるのが気持ちいいよね」
笑った遥──
「今日はこれを持ってきたんだー。これなら四人でも座れるでしょ?」
「用意がいいのですね。では、場所を移しますか?」
「ううん。これ、小さめのシートだから、ふたりずつがいいかなって」
ベンチ2、シート2か。
となるとどう分かれるかがポイントだが。
「では、藤間くんにはベンチに座っていただきましょう」
「? スカートだと下は座りにくいだろ? 俺がそっち行くよ」
それはなかなかの気づかいだが……。
「いえ、その。見上げられる格好ですと、中が見えてしまう可能性がありますので……」
「あっ」
少年が口を開けると、一矢の義妹、
「兄さん……まさか」
「ち、違うからな!? そんなこと考えてなかったからな!?」
ぴろん。
主人公の好感度、もといヒロインポイントがアップ。
でもこのタイミングで上がると、なんかこう、下着の中を想像されたみたいになるな……?
「わたしはシートのほうに。荷物が少々大きいものでして」
重箱に近い弁当箱に、遥が「ほんと、おっきいお弁当」と目を丸くして。
「じゃあ、私とユズちゃんでじゃんけんだねっ」
「お前ら、そんなに俺の隣は嫌か?」
「いえ、藤間くん。逆ではないかと」
じゃんけんの結果、俺と結弦がシートに座ることに。
「他クラスのお友達とお食事だと伝えたら、家の者が作りすぎてしまいまして……どうぞ、遠慮なくみなさんもつまんでくださいね」
「家の者……って、お母さんとかじゃなくて……」
「我が家の使用人は少々過保護なのです」
美味しい料理ばかりなので太ってしまいそうだが、そこは栄養管理もしっかりされているので問題ない。
あと、ヒロインポイントを特典に割り振って『体型維持』の能力も獲得している。
そうして和やかに始まった昼食会。
話題は、時節柄部活選びの件になった。
「四条さんはどこか部活に入るんですか?」
「そうですね。いくつか体験入部してみて、どこに入るのか決めようかと」
俺こと四条莉緒もまた、小中学校では部活動に所属していなかった。
主な理由は、習い事が忙しかったからだ。
部活動には、比較的安価かつ手軽に文化的活動へ触れられるようにする、といった意味合いもある。
そういう観点から言うと、自分で教室等に通えるのなら無理に所属しなくても良いのである。
が、高校では学校生活をエンジョイするほうを優先することにした。
バレエはやめてしまったし、英会話は独学ですでに十分なレベル、ピアノは週に二度家庭教師を呼んでレッスンする程度。
中学時代も主席を維持していたので、祖父からも了承を得ている。
「だったら、一緒にテニス部に入りませんかっ? 四条さんならきっと活躍できると思います」
「それもいいかもしれませんね」
結弦の提案に俺は微笑んで答えた。
「テニスウェアはデザインが可愛いので、やっていて楽しそうです」
動く範囲が狭めなので比較的、胸が大きくてもプレイしやすそうだし。
「他の候補は吹奏楽部や美術部などでしょうか。……あ、軽音部というのも楽しそうですね」
「四条さんが軽音部かぁ。男の子が殺到しちゃいそう」
「ふふっ。ライブの熱気というのはきっと独特なのでしょう」
自分の話ばかりするのもあれなので、俺は遥に「鳳さんは部活動についてどこかお考えですか?」と尋ねてみる。
「うーん、そうだなあ……。実はね、けっこう迷ってるの。カズくんは部活に入らないって言うし」
主人公って帰宅部多いんだよな。で、そのくせ校内にえんえん残ってたりする。
「藤間くんはいろいろ器用そうですし、運動もお得意なのでは?」
「まあ、不得意ではないかな。でも、家の用事も済ませたいし」
普通の家にお手伝いさんはいないからな。
「兄さんは気にしすぎです。なんなら私が帰ってからやりますから、好きなことをしていいんですよ?」
「なに言ってんだ。俺と違って結弦はテニスの才能があるんだから、それを応援してやらないでどうする」
妹に気を遣わせまいとするとは、なかなかいいお兄さんじゃないか。
「いっそのこと、藤間くんもテニスを始めてはいかがです?」
「いいですね、そうしましょう兄さん! ……あ、でも、男子と女子は活動が分かれていますよね」
「他の競技に比べるとテニスは男女の垣根が低いと思いますよ」
オリンピックには混合ダブルスとかあったはずだし。
「一緒に部活動はできなくても、同じ競技をしていれば、休日に遊びでプレイすることもできますし、兄妹の仲も深まるのでは」
「……いいなあ、私もやろうかな、テニス」
「マネージャーという形で関わることもできますよ。これなら男子テニス部に女性が所属できます」
遥がマネージャーになったらテニス部員が増えそうである。
「マネージャー……いいかも。ね、ね、どうかなカズくんっ」
「い、いやいや、一緒の部に入りたいからってだけじゃ動機が不純だろ」
「えー、立派な動機だよ」
「む、いいなあ遥姉さん。私も女子部じゃなくて男子部のマネージャーになろうかなあ」
俺は現実的に考えて普通科ではなく特進を選んだが、恋する乙女は好きな相手に近づくためなら部活選びも変えるらしい。
なにやら包囲網が敷かれ始めたのを見て、一矢は俺に「なんとかしてくれ」とばかりに視線を送ってくる。
俺は微笑んで頷き、
「では、わたしも一緒に男子テニス部のマネージャーに」
「マネージャー三人もいらないだろ!?」
いや、意外とああいうのは仕事が多いものである。
名門野球部なんかは10人以上女子マネージャーがいたりするんじゃなかったか?
まあ、さすがに冗談だが。冗談だよな……?
◇ ◇ ◇
思えば、主人公の部活選びというのは一つの大きな分岐点だったかもしれない。
ゲームだと、仲良くなるヒロインに応じた部に後から入るパターンもある。
ただ、藤間一矢は結局どこの部にも入る意思を見せなかった。
代わりに(?)、彼があちこちの部から「ぜひうちに」と勧誘される姿をよく見るようになった。
どうやら体育の時間に運動能力を披露した結果らしい。
「どんだけハイスペックなんだよ、主人公」
「君が言えたことかい?」
俺はクロのツッコミから目を逸らした。