転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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決着の後で

 ギャル先輩(?)はトイレの前でスマホをいじっていた。

 

「風紀委員長、ですね?」

「……ああ、ばれちゃったか」

 

 風貌とは裏腹な、落ち着いた口調で言った彼女はスマホの画面をこちらに向ける。

 残り時間『00:18:23』のタイマー。

 

「おめでとうございます、あなたの勝ちです。あなたたちの関係を不純異性交遊と呼んだことについて謝罪を。今後、同じ指摘はしません。……より過激な行為が認められない限りは」

 

 一矢が遥を押し倒したりとかしたらアウトだと。

 

「ところで、どこで私の変装に気づかれましたか?」

「自分ならどうするか考えただけです。でも、四条さんが協力してくれなければきっとここまで辿りつけなかった」

「なるほど。お友達に恵まれたようですね」

 

 ちらりと、こっちを見てくる視線は「まだ相手がいたか」と言っているようだった。

 

「風紀委員長。どうして、俺たちが『そういう関係』だなんて言ったんですか?」

 

 少年の問いかけに、彼女はくすりと笑って答える。

 

「私にはそう見えたからですが……そうですね、少し、羨ましかったのかもしれません」

「羨ましい?」

「私は見た目も性格も華やかなほうではありませんから」

 

 彼女が真面目な人なのは会ったばかりの俺にもわかる。

 だから風紀委員になったのだろうが、そんな仕事をこなしていれば余計に男子は寄り付かない。

 そんな現状に、少々他人への目が厳しくなってしまったのか。

 

 とはいえ。

 短い時間で着替えにメイクをこなし、髪形まで変えた今の姿で言われても……。

 そう思ったのは俺だけではなかったらしく、一矢は笑って、

 

「先輩は、すごく綺麗な人だと俺は思います」

「~~~っ!?」

 

 風紀委員長の顔がみるみるうちに真っ赤になった。

 もしかしたら、生まれて初めて言われたのかもしれない。

 

 ……うん。

 

 変にぎすぎすするよりはいいし、同感ではあるのだが。

 そうやってほいほい女子に良い顔するから疑われるんじゃないか……?

 俺は「この女たらし」という言葉をぐっと飲みこみ、笑顔を保った。

 

 

 

 

「兄さん!」

「カズくん!」

 

 風紀委員長と別れたあたりで、遥と結弦が慌ててやってきた。

 

「決闘を申し込まれたって聞いて……大丈夫? 怪我してない?」

「もう、呼び出してくれれば私も手伝ったんですよ……!?」

 

 騒ぎはもっと早く察知していたものの、部活中だったので抜けるに抜けられなかったらしい。

 それに、もし急いできていてもスタートに間に合わなければかくれんぼには参加できなかった。

 

「大丈夫だって。ちゃんと勝ったし。まあ、四条さんのおかげだけどな」

「四条さんが兄さん助けてくれたんですね……!」

 

 目をきらきらさせる結弦に「大したことはできませんでしたけれど」と俺は微笑む。

 

藤間(とうま)くんならきっと、一人でも勝ちました。ですので、わたしにできたのは応援することくらいです」

 

 実際、彼の考察は素晴らしかったし、いざとなればヒロインポイントならぬヒーローポイントとかで答えを引き寄せたに違いない。

 

「ううん、そんなことないよ! ありがとう、四条さん!」

 

 それでも、遥は俺の手を握って感謝してくれた。

 

「とんでもありません。お友達同士、助け合うのは当たり前のことでしょう?」

「お友達……うんっ、そうだねっ」

 

 友達、という言葉に遥の笑顔がさらに強くなった。

 

「じゃあ、今度一緒に遊んだりしよっ? 友達なんだし」

「それはとても楽しそうですね」

 

 こうして、風紀委員長との決闘騒ぎは幕を閉じ。

 藤間一矢は「三年生に勝った一年生」としてより注目されるようになった。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

「お邪魔いたします」

「どうぞどうぞ! 四条さんのお家に比べたら狭いと思いますけど」

「いいえ、とても素敵なお家です」

 

 庭付き一戸建ての二階建て住宅。

 時代を考えれば十分にお金持ちの部類だ。というか我が家のマンションより確実に広い。

 ある平日の放課後。

 美術部は出席自由なのをいいことに、俺は藤間家を訪れていた。

 両親に代わって俺を招き入れた藤間結弦の隣では、遥が「勝手知ったる」といった感じでにこにこしている。

 

 本日は遥たちも部活をお休みである。

 進学校であるため、運動部は「学業に差し支えないように」と活動日に休日を設けることが義務付けられているらしい。

 ……文化部はいいのかって? まあ、知的活動に関しては制限するべきところではない、ということなのだろう。体育会系文化部こと吹奏楽部などを除けば基本、そんなに厳しくないし。

 

「ご両親はご不在なのですね」

「はい。いつもあちこち飛び回っているのでなかなか帰ってこなくて……だから、遠慮なくくつろいでくださいねっ!」

 

 大人がいない割に家は片付いているし掃除も行き届いている。

 

「ありがとうございます。あ、こちらつまらないものですが、どうぞお納めください」

「ありがとうございます。でも、そんな、気を遣っていただかなくても……」

「いいえ。こういったことはきちんとしておかなければ、わたしが祖父に叱られますので」

 

 大人のせいにすると、結弦はくすくす笑って受け入れてくれた。

 

「それじゃあ、せっかくなのでみんなで食べましょう。……って、遥姉さん、これ、あのお店のケーキだよ!? ほら、駅前の!」

「ほんとだ! え、四条さんこれいつ買ったの……? 昨日……?」

「ご心配なく。本日購入したものを、先ほどこっそり受け取りました」

 

 雛瀬さんをこき使いまくっているが、彼女はむしろこういう時に遠慮すると怒る。

 俺が本家に住むようになってから「仕事が減った」と嘆いているくらいだ。

 

「六つありますので、残ったケーキはお好きなように」

 

 リビングに案内されながらそう告げると、二人は「そんなに!」と驚いて。

 

「……カズくんに黙っておけば、一人二個ずつ食べられるね?」

「……そうですね。逃げた兄さんが悪いんです」

 

 そう、この場に主人公、藤間一矢は不在。

 本日俺たちが放課後集まると聞くと「じゃあ女同士でゆっくり」と、男友達との約束を取り付けやがった(失礼)のだ。

 まあ、女子会に男が一人で放り込まれても居心地悪いだけだよな……。

 

 俺は苦笑しつつ「わたしは一つだけいただきます」と告げた。

 

「ですので一つ、藤間くんに残しておいてあげてください」

「わ、四条さん優しい。あ、もしかしてダイエット……?」

「だから、そんなにスタイルがいいんですね……!?」

「そういうわけでは。むしろ、お二人もとてもスタイルが良いと思うのですが」

 

 俺の言葉に顔を見合わせた二人は、むうう、と、頬を膨らませて。

 

「私なんか全然だよ! ほら、けっこうお肉ついちゃってるし」

 

 確かに、魔法少女をやっていた頃と比べると……こう、大きな胸と柔らかそうな太腿をはじめ、女性的な魅力に溢れていて身軽な印象はないが。

 男が見て「エロい」と思う体型を地で行っている。

 

「私も、遥姉さんや四条さんくらい胸が大きければ……」

 

 一般女子に聞かれたら刺されかねない程度には巨乳だし、それ以上肉が付くと運動に差し支えかねない。

 それに、引き締まった体型の女子を好む男というのはそれなりの割合で存在する。

 

「わたしだって悩みはあるのですよ? 交際相手から『胸が大きすぎる』と苦情を言われるかもしれませんし、殿方と並ぶと少々、背が高すぎることがありますので」

 

 俺たちはそれぞれにため息を吐きつつ、ケーキを味わった。

 地域で人気の店だけあって美味である。

 カロリーの塊なのでもちろん、たくさん食べると太るが……そこはそれ、甘味の魔力には勝てない。

 俺は体型維持のヒロイン特典などで太りにくいし、たぶん、遥たちも同じだ。

 物語のヒロインたちが「最近お腹が気になって」とか言いながらぜんぜんダイエットに本気になった感がなかったりする(でも体型は変わらない)のも、こうしたチートのおかげなのかもしれない。

 

 甘くなった口の中をいったん紅茶でさっぱりさせ、はあ、と、息を吐いたところで。

 遥がこちらを見つめて、「ところで」と切り出す。

 

「ね。もしかして四条さん、カズくんのこと、好きなの……?」

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