「そっか……そうだったんだ。四条さんが、キティちゃん!」
降り注ぐ光弾の雨を、前に駆けながらかいくぐる。
「じゃあ、しょうがないよね!? キティちゃんでも、四条さんなんだからっ!!」
「そうよ、フェニックス。その女を排除すれば、彼はあなたのもの」
「黙りなさい、魔女!」
霊力を乗せた掌底を、身をひねってかわすフェニックス。
光弾の接射をかわしながら回り込んで蹴り。
後退、から突き出される杖。
腕を振り上げて払う。
互角。
魔女の力でブーストされたフェニックスと、霊力を併用する俺の戦力は拮抗した。
こうなると。
「ほら、フェニックス。あの少年を狙いなさい。そうすれば──」
「くっ……!?」
離れた場所に寝かせたままの従兄に杖が向けられれば、放たれる光を弾かざるを得ない。
フェニックスは勝機とばかりに光弾を連射。
拳では弾ききれないため、後退して結界を張るが……これでは、削られる一方。
だめか。
まだ、ブレイクスルーが足りない。
あの時もこんな感じだった気がする。
あの時は結局……キスが決め手になったわけだが、まさか、同じ手は通用しない。
「お従兄さま、お借りします……っ!!」
青年の手から霊刀を奪い、魔力と霊力による強化を加えて投擲。
「きゃっ!?」
鋭く飛んだそれをフェニックスは辛くも防御。
僅かな間、攻撃が止んだところで再び距離を詰め、護身用の短刀で連撃。
従兄を背にしたまま戦えば俺の身体が壁になってくれる、後は相手をなるべく遠ざければ──。
「無駄だよ、キティちゃん」
俺の意図を正確に読んだように、光弾が俺を迂回して従兄を狙う。
やはり。
唇を噛みつつ、光を追い越して盾になる。
これでは。
さらにパワーアップするしかないか。
あまりあれこれ設定を付け足すのは望ましくないが──。
「なんだこれ、どうなってるんだ……!?」
「兄さん、あれ! 黒い魔法少女同士が……戦ってる!?」
「えっ!?」
俺が目を見開くと同時、フェニックスの攻撃までもが止まった。
「カズくん……ユズちゃん?」
「その言い方……もしかして、遥姉さんなの!?」
結界はいまだ消えていないにもかかわらず、
思わずなのだろうが、直接呼びかけたせいで認識阻害が弱まり、フェニックスの正体が露見。
「藤間くん、結弦さん、どうやってここに入ったのですか?」
「っ。もしかしてそっちは四条さんなのか? その格好は──」
「今はそんなことを言っている場合ではありません!」
わかるよ? 男子高校生が見たらだいぶエロい格好だよ? いや、なんで魔法少女にって言いたかっただけかもしれないけど。
「あ、ああ。いや、四条さんのお手伝いさんに連れてきてもらったんだ。家に変な化け物が襲ってきて、外に逃げたところでちょうど」
化け物? ウィッチがわざわざ襲撃させたのか? なんのために──。
「四条さん、遥姉さん、どうして戦ってるんですか!?」
「それは、鳳さんが悪しき者に操られているからです。意思を捻じ曲げられた彼女はわたしを殺そうと……」
「……そういうことか。お前、前にも会ったことあるよな? 昔、俺をさらって化け物に変えようとした奴だ」
一矢が睨めばウィッチは笑う。
「その節はどうも。でも、もうあなたに用はないのよ? 代わりにとってもいい子が手に入ったから」
「遥姉さん、目を覚まして! そんなことしちゃだめだよ!」
「……ユズちゃん」
妹と言ってもいい少女の呼びかけにフェニックスがぴくりと反応。
けれど、彼女の瞳は濁ったまま。
「どうして来ちゃうの? こんなところ見られたくなかったのに! 一番見られたくなかったカズくんまで連れてきちゃうの!?」
ここに来て、闇のオーラがさらに膨れ上がる。
「簡単なことじゃない、フェニックス。あれもあなたの敵よ。だってそうでしょう? キティが消えて、あの子も消えれば、もう邪魔する者はいない」
「……あははっ。そっか、そうだよね? ユズちゃんは見逃してあげようと思ってたけど、四条さんみたいに邪魔するかもしれないもんね?」
そこまでか。
ウィッチの洗脳が強力すぎる。心の闇につけこみ、それを増幅、理性や善意を封じ込めて凶行に走らせる。
「やめろ、遥! そんなことをしたってなんにもならない!」
「聞かなくていいわ、フェニックス。あなたが二人を殺したことは、後から忘れてもらえばいいもの。なんなら彼自身の心を書き換えたっていい」
「……うん、そうだねっ。まずは邪魔な四条さんとユズちゃんを!」
「いけないっ。結弦さん、逃げてくださいっ!」
けれど、結弦は逃げなかった。
泣きそうな表情できっ、とフェニックスを見つめたまま立ちつくして。
降り注いだ光弾を──突如として『迸った雷光』が迎撃する。
「なっ……!? なに、それ……!?」
放った少女は「わからない」と首を振る。
「化け物に襲われた時、急にできるようになったの。こんな力いらないと思ったけど、でも、みんなを守ったり、姉さんを止められるなら……っ!」
異能の力。
俺には、それが魔法ではなく霊力に近い性質のものであることがわかった。
ただし、非常に強力。
ひょっとすると神クラスの存在から与えられた、あるいは受け継いだ力かもしれない。
「ふふふっ。思いあう者同士が傷つけあう。こんなに面白い見世物はないわね?」
「いいえ。それは、違います。わたしたちは鳳さんを傷つけるために戦うわけではありません」
俺は、握ったままだった短刀を結弦に差し出す。
「結弦さん。これに雷を込められますか?」
「えっと。たぶんできると思いますけど……どうするんですか?」
「それは霊的な力を持つ品です。あなたが、純粋な気持ちで力を込めれば、浄化の雷が宿るはず」
「浄化の……はいっ、わかりました!」
「藤間くんはお従兄さま……倒れている彼をお願いします」
「ああ。とりあえず、できるだけ遠くに行けばいいよな?」
一矢に担がれる従兄。あの状態ならフェニックスもそうそう狙えない。
これで2対1。
おまけに、勝利への道も見えた。
「っ、やりなさい、フェニックス!」
「っ、やあああああっ!」
降り注ぐ光弾。しかし、いまはもう怖くない。
俺はありったけの強化を注ぐと地面を蹴って、光の弾を一つずつ叩き落としていく。
滞空によって生じる隙は、空間に張った結界を足場に用いて強引に方向転換、疑似的な三次元軌道によってカバー。
仮に多少撃ち落とし損ねたとしても、結弦は短刀にこめるための雷を発生中。あれなら自動的に迎撃される。
「どういうこと……っ!? そんな素人同然の二人がやってきただけで、これほど形勢が……っ!?」
「当然です。魔法少女は想いを力に変えられる存在。鳳さんを想うお二人の気持ちが、この状況を生んだのです」
それに、ウィッチのブーストを受けてなお、今のフェニックスはあの頃の一番強かった状態より弱い。
結局のところ悪堕ち形態では真の勝利は訪れない。
「四条さん、これを!」
「ありがとうございます。後は、わたしが」
結弦が精いっぱいの力を込めた短刀は、清浄なる雷を宿して時折ぱちぱちと音を立てている。
それを受け取った俺は、左右に大きくステップを踏みながら前進。
あっちこっちに視線を振られたフェニックスは結弦にターゲットを向けられない。
俺が動くたびにりんりんと鳴る鈴が儀式的な効果によって短刀の威力をブースト。
「ああ、もうっ! 忌々しい! こうなれば──フェニックス!」
「あっ……!? あっ、あああああっっ!?」
痛みか、苦しみか、絶叫を上げながら闇を膨れ上がらせるフェニックス。
無数の触手の形を取った闇が俺に襲いかかるも──もう、ここまで来てしまえば関係ない。
「悪しき者よ、今度こそ滅びなさいっ!」
投げられた短刀は闇を突き抜け、フェニックス──の頭の横を通過。
「ふっ、どこを狙って……っ!?」
ウィッチは、背後霊のごとく観戦モードだったせいで気づくのが遅れた。
俺は最初から「悪しき者」を狙った。
浄化の力をできるかぎり重ねた理由。それは、精神体である魔女を叩くため。
「そんな、またしても、魔法少女おおおおぉぉぉーーーーっっ!!」
刃が触れると同時に雷がスパーク。
魔女は絶叫を上げながら、実体のない身体を焼かれて──やがて、消滅していく。
同時に、小学校を包んでいた結界も解け、洗脳を解かれた遥は糸が切れたように脱力、変身を解いて地面に倒れた。
「遥姉さんっ!?」
慌てて走っていく結弦。あの調子ならふたりとも大丈夫だろう。
ほっと息を吐いた俺は、校門のほうから雛瀬さんが走ってくるのを横目にしながら、積み重なった疲労に意識を奪われた。