かつて、俺は遥と共に魔法少女としてウィッチと戦った。
その行動には遥=フェニックスの正体を確かめる目的があって。
つまり、俺はフェニックスの正体を知っていたが、遥は俺の正体を知らなかった。
その状態で、あれやこれや遥にも一矢にもしていたわけで。
なんと言ったものか思案していると、その遥が思いきったように、
「あの。あのね? 私も、それが気になってたの。四条さんは……本当にキティちゃん、なの?」
知らぬ存ぜぬで貫き通すことはできなくもないだろう。
けれど、俺の良心が、そうすることを許さなかった。
当時のフェニックス=遥とはそれなりに友好を深めた。
公園でジュース片手に歓談したこともあった。
フェニックスは俺が一矢に特別な想いを頂いていることを察知し、「キスして彼を取り戻す」という儀式に誘ってくれた。
だから。
「……だから、キティちゃんは止めて欲しいと何度も言ったでしょう?」
俺は、話をはぐらかすことができなかった。
どちらかといえば拒絶に近い返答を聞いたにもかかわらず、遥は気色を浮かべて俺を抱きしめた。
「本当に、キティちゃんなんだ……! 嬉しい。もう会えないと思ってたから……っ!」
ぱっぱらー! 特徴的な音を立てて『ヒロインポイント:+3』の通知が来る。
高校生活がスタートしてから通知が頻繁すぎて、最近はあまり意識することもなくなっていたけれど……今回の事件、正確には昨晩の騒動に関しては既に『+3』のヒロインポイントを俺は受け取っている。
主人公を守ってあれだけ頑張ったのだからそれは不思議ではないと思うのだけれど。
「おい、クロ。ヒロインポイントって基本3点までじゃなかったか?」
1つのイベントにつき3点まで、という話なので、今の状況が別のイベント扱いなら話はわかるのだが。
のほほんと状況を見守っていた黒猫はこともなさげにこう答える。
「基本的に3点まで、と言っただろう? 君が『主人公以外の重要人物』からの好感度を得たのであれば、そういうこともあるさ」
その発言を杓子定規にとらえるなら、こういうことになる。
ヒロインからの好感度が上がった場合、+3を超えてヒロインポイントを得ることができる。
もっと言えば「4点以上、ひとつのイベントでヒロインポイントが上がるのは、他のヒロインからの好感度を稼いだ時だけ」。
今回、俺はとっくに+3のヒロインポイントを得ている。
そりゃそうだ。主人公をかばってボスを倒したし、「この子こそ俺の運命の相手だ」と思われてもおかしくはない。
……え? あの? じゃあ、ここで言う好感度って、恋愛的な意味合いじゃない?
だとしたら「百合エンドもありうる」みたいじゃん? いやそこまでは言われてないか。
「キティちゃん。知ってたなら、前みたいにお話してくれれば良かったのに」
「鳳さんはわたしのことを知らないのですから、そんなことはできません。それに……その、モノクローム・キティとしての喋り方はわたしにとって黒歴史ですので」
これに遥は納得してくれたものの、意外にも、結弦が接居的な反応を示した。
「四条さんがモノクローム・キティ……! じゃあ、私が憧れた人は、魔法少女でもあったんですね……!」
藤間結弦が藤間家に引き取られたのが、魔法少女騒動の後であることは俺も知っていた。
つまり、主人公=
今までの情報によれば、結弦は兄の献身と、「同い年にもかかわらずテレビに出るほど活躍した少女=四条莉緒」の存在によって立ち直ったようで。
結弦にとって、両親が亡くなる前のニュースなんて「ふーん?」で終わりだったかもしれないけれど。
両親の死後に憧れ、目指した『同世代の女の子』がその魔法少女だと知ったのであれば、それは憧れるのが当然で。
ぴろん。『ヒロインポイント:₊1』。
先の『+3』と合わせて『+4』になるとしたら……さらに別のヒロインからの好感度上昇がないといけないわけで。
「いえ、その。あの事件で本当に頑張ったのは、遥さん……フェニックスですので」
「そんなことないよ! 四条さん……キティちゃんがいなかったら、私はあんなに頑張れなかったもん!」
嬉しくはあるものの……遥、とりあえず黙っててくれないか?
「なるほど、な。……じゃあ、『あれ』は本当に遥と四条さんだったのか。あの子たちが、こんな近くにいたなんて思わなかったよ」
「う」
言いづらそうに、それでいて感慨深げに呟く一矢に、遥はぽっと顔を赤くして。
「うううう、ちょっとトイレ行ってくる!」
「あ、遥姉さん!」
慌てて出ていった少女を結弦が追いかける。少し心配ではあるが、まあ、恥ずかしくなっただけだろうし大丈夫だろう。
「ん? 『あれ』? なんのことだろうな……? 魔法少女騒動の時の話か。後で調べてみよう」
「あ」
と、思ったら今度は従兄が首を傾げ始めた。
あああ、まずい、そうだった!
彼に「身体的接触はしてない」とか言いながら、ばっちり一矢にキスをしていたんだった。いや、子供の頃の話だから「高校ではしていない」のは嘘じゃないが。
ちなみに、遥がずっと魔法少女能力を保持していたせいであのキスの動画はネット上にいまも転がっている。
俺は「うああ」という気分になりながら、特典を取得、魔法少女の記憶が主人公とヒロイン以外から薄れ、おまけに映像記録などに残らないようにした。
これで従兄に「従妹が子供の頃、自分以外の男のほっぺへキスしていた」件はバレない。
「藤間くんも、その、あの時のことは忘れてくださいね。……いえ、忘れてください、というのも少し違うのですけれど。あまり思い出されると恥ずかしいので……」
わりと本気で頬を染めつつ言えば、彼は「あ、ああ」と答えて目を逸らした。
それからはっと顔を戻して。
「四条さん、言うのが遅くなって悪い。助けてくれてありがとう。……それから、遥を止めてくれてありがとう」
「どういたしまして。お友達を助けることができてなによりでした」
「本当に。遥も、結弦も、四条さんも無事で良かった。それでさ」
右の拳をぐっと握る。
「俺は、そっちの──四条さんのお兄さんの勧めで、戦うための訓練を受けることにした」
「え……?」
驚いて視線を向ければ、従兄は「彼にも自衛手段くらい必要だろう?」と言ってくる。
それは確かに、霊力の籠もった武器さえあれば一般人でも魔と戦えなくはないし、鍛えておくに越したことはないだろうけれど。
急にどうしたんだろう。
これは俺へのアシストなんだろうか? それとも……。
答えが出ないので、ひとまず一矢に返答する。
「魔との戦いは遊びではありません。下手をすれば怪我をするどころか、命を落とすことになりますよ」
これは恋愛ものなんだし、無理に戦わなくてもいいんじゃないか。
けれど、
「ああ。それでもさ。結弦もあの力を使えるように訓練してもらうらしいし、遥も、また化け物が出たら飛び出して行きそうだし。俺も、なにもしないわけにはいかないだろ」
「っ」
ああ。
今回、彼は戦わなかった。前の魔法少女騒動の時も、ウィッチの洗脳? 改造? に必死に耐えていただけ。
だけど──本人に力がないからこそ、苦難に立ち向かい、乗り越えようとする姿は、とても尊い。
「……そこまで言うのでしたら、仕方ありません。でも、くれぐれも怪我には気をつけてくださいね?」
「ああ。誰だって痛いのは嫌だからな」
でも、そうか。結弦にも家から申し出があったのか。
それはそうだろう。あれだけの力があれば十分に戦力になりうる。
俺が男で、結弦との結婚であれば、案外簡単に了承されるかもしれないな……と、そんなことを思った。