転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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悪役令嬢の横暴

 黒猫のぬいぐるみ(in神様の遣い)のクロを幼稚園に持っていったら悪役令嬢(仮)に絡まれた。

 県議の娘、れいかちゃん。

 プライドが高く、なぜか俺(莉緒)によく突っかかってくる。

 とはいえ……これから毎日この調子だとすると気が滅入る。

 ここは少しでも懐柔にかかるべきか。

 

「れいかちゃんは可愛いと思わない? ほら」

 

 にっこりと、笑顔を浮かべてクロを差し出す。

 心なしか彼(?)から「なんてことをするんだ」と念を送られたような気がしたが無視。

 れいかちゃんはバロンのじゃれ跡がほんのり残るぬいぐるみをじっと見つめて、それからぷいっと顔を背けた。

 

「なによ。黒猫なんて不吉じゃない。なにがお守りよ」

 

 彼女と仲の良い、取り巻きみたいな二人の女の子がうんうんと頷きながられいかちゃんの傍に立つ。

 

「真っ黒って不気味」

「可愛くない」

 

 お気に入りを馬鹿にされた俺は思わずむっとする。

 けれど、ここで罵りあいをしてもなんの意味もない。

 するならしっかりと黒猫の名誉を守るべきだ。

 

「不吉じゃないよ。日本では、黒い猫は昔から『縁起の良い猫』って言われてるの」

「嘘。黒猫って言ったら魔女の使い魔でしょ。映画で見たもの」

 

 俺が反論すると、れいかちゃんは明らかにむっとした。

 しまった、自分の意見を否定されたと受け取られたか。

 内心焦りながら笑顔を維持して、

 

「なんていう映画? わたしも見てみようかな」

「ふん。どうして莉緒に教えてあげなきゃいけないの?」

 

 ええ……? なるべくフレンドリーに接したつもりなんだが。

 返答に迷っていると、みゆちゃんに「やめようよ、莉緒ちゃん」と袖を引っ張られる。

 確かに、これ以上会話を続けてもこじれるだけか──と。

 あろうことか、俺に声をかけたせいで、れいかちゃんサイドの子たちの矛先がみゆちゃんに向いてしまった。

 

「みゆちゃんまでれいかちゃんが間違ってるって言いたいの!?」

「ひどい!」

 

 険悪な雰囲気にクラスの雰囲気が冷えていく。

 ああもう、どうしてこうなるのか。

 さすがに友達が攻撃されるのを黙ってみてはいられない。

 

「みゆちゃんまで悪く言うのはやめて。それに、わたしはれいかちゃんが間違ってるって言いたいわけじゃないよ」

 

 きっぱり答えると「言ってたじゃない!」とすぐに返される。

 

「どっちも正解なんだよ。国や時代によって考え方はいろいろだから。一方的にクロを馬鹿にするのはやめて欲しかっただけ」

 

 眉を下げて「気を悪くさせてごめんなさい」と謝ると、れいかちゃんは顔を背けつつも「まあいいわ」と言ってくれた。

 これでなんとか収まるか……? と思ったところで。

 

「じゃあ、莉緒。明日からはそれ、持ってこないでね」

「……どうしてそうなるの?」

 

 不吉とは限らないってことで合意したと思ったのに。それは、正しくない。

 れいかちゃんは髪をくるくるといじりながら「だって」と俺を睨み。

 

「お勉強に必要のないものは幼稚園に持ってきちゃいけないじゃない」

「クロで遊んだりはしないよ。かばんにつけてるだけ。外せないように紐と首輪をつけてるの」

 

 確かに、園には持ち物の規定があるし、その基準の一つは「勉強に必要かどうか」だ。

 けれど、あくまで目安であって厳密なものではない。

 サイズが大きめなのは確かだが、かばんに付けるチャームは他の子だって利用している。

 朝、先生に挨拶した時だって「可愛いですね」と微笑まれただけだ。

 

「……れいかちゃんだってシール帳持ってきてるじゃない」

 

 と、これは、他の女の子からの声。

 するとれいかちゃんは「今、誰が言ったの!?」と目を吊り上げた。びくっとしたみんなは揃って口をつぐむ。

 彼女たちをきっと睨んだあと、ウェーブの髪を揺らめかせながら振り返って。

 

「キャラクターものは持ってきちゃいけないってお母さまが言ってたわ!」

 

 だめだ。

 都合の悪い指摘をされたから話題を変えたようにしか見えない。

 言い返し続けるのは大人げないかもしれないが、ここで折れたられいかちゃんには負の成功体験が残る。

 なんでもいいから言い負かせば思い通りにできる、なんて、思って欲しくない。

 

「キャラクターものじゃないよ。ただのぬいぐるみ」

 

 首輪じゃなくてリボンだったら有名アニメ作品の黒猫に見えるかもしれないが……タグにも著作権表示はないし、その手のグッズショップで買ったわけでもない。

 とうとうれいかちゃんは涙目になって「うるさいうるさい!」と声を荒げた。

 

「なんなの!? れいかが悪いって言いたいの!? ちょっと『ごめんなさい、もう持ってきません』って言えばいいだけじゃない!」

 

 さらに「先生に言いつけてやる!」と叫ぶと、彼女は走ってクラスから離れていった。

 本当に先生に言いつけに行ったんだろう。

 息を吐いて見送ると、みゆちゃんが少し硬い声で言ってくる。

 

「莉緒ちゃん、れいかちゃんをいじめちゃだめだよ」

「ごめんない。正しくないことを言われるのがどうしても嫌だったの」

 

 一番人間ができているのはたぶんみゆちゃんだ。

 我慢できなかったせいで結局大ごとになってしまった。

 これはいつもの注意だけでは済まないだろう……という予想通り、俺たちには個別で聞き取りが行われることになった。

 

 

 

 

 勉強やレクリエーションはだいたいいつも二人の先生で回している。

 片方の先生がみんなの相手をしている間に、もう一人の先生が俺、れいかちゃん、みゆちゃん、ほか数名を一人ずつ呼び出して聞き取りをした。

 一緒にすると言った言わないが始まるだけだろうから、一人ずつなのはとても上手い。

 

「莉緒さん、なにがあったのか、詳しく教えてもらえますか?」

 

 俺は、あったことを時系列で素直に話した。

 言い過ぎたことを反省しつつも、折れるわけにはいかなかったことも含めて。

 先生は「ありがとうございました」と微笑んで、他の子の聞き取りも行い──あらためて俺とれいかちゃんの二人が呼ばれた。

 

「莉緒さんのぬいぐるみは少し大きめだけれど、お守りとしてかばんにつけるだけなら違反にはならないと思います。でも、けんかになるなら良くありません。莉緒さん、あの子はお家でお留守番させてくれますか?」

「わかりました。ご迷惑をおかけしてすみませんでした、先生」

 

 園において上位者である先生の決定は基本的に絶対である。

 俺は先生に謝り、それかられいかちゃんにも頭を下げた。

 

「怒ってごめんなさい、れいかちゃん」

 

 意地っ張りの少女は、これに「ふん、わかればいいのよ!」と返してきた。

 

「やっぱりれいかが正しかったんじゃない。それなのに言い訳ばっかりして──」

「れいかさん、れいかさんも莉緒さんに謝ってください」

「えっ……!? どうしてれいかが謝らないといけないの!?」

「莉緒さんの言ったことは間違っていないからです。先生は、トラブルにならないように『持ってこないでください』とお願いしただけなんですよ」

 

 先生は大人の対応をしていたと思う。けれど、れいかちゃんは耐えられなかった。

 

「嫌! だって莉緒がいけないんだもの!」

 

 彼女はその日中不機嫌なままで、見かねた先生と居残りで「お話」していた。

 家に帰された俺は両親に今日あったことを話し「よく頑張ったね」と褒められたうえで、むきになってしまったことを諫められた。

 夜に先方の家からも電話があったものの、保護者同士の会話は和やかに進み、

 

「なんとかこれで収まったかな」

「収まったかな、じゃないよ! 結局ボクは留守番じゃないか!」

「あー、うん。悪い。バロンにはあんまりいじめないように言っておくから」

 

 ぶつぶつと「あの子のせいだ」とこぼすクロには申し訳ないが、俺が園に連れていかなければれいかちゃんも少しは落ち着いてくれるだろう。

 そして、翌日。

 

「悪かったわね、昨日は。お詫びにあの黒猫もらってあげるから、持ってきなさいよ!」

 

 俺は園のすみっこに呼び出されて三対一で囲まれた。

 グーで殴ってやろうかと本気で考えた時、ぴろん、と、ヒロインポイントの加算音が耳に届いた。

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