「
祖父──四条家の前当主は当然のように俺にそう告げた。
藤間。討魔か。
言葉遊びと言うなかれ。言霊の力を借りるのはこの手のオカルトにはよくある話だ。
それにしても、またしても初耳である。
「お祖父さま。いつから、それをご存じだったのですか?」
最初はごく普通の家庭って話だっただろ。
「探偵に調べさせた時点では知らぬ話だった。追って深く調べた際にようやく、あ奴らが隠した『子供』の存在に行き当たった」
「あ奴らというのは……」
「各地を転々としつつ、退魔を請け負うペアの討魔師。藤間一矢の両親だ」
主人公の両親が留守がちなのはよくある話。
実は特殊組織のメンバーだったり、海外で軍人やってたりもわりとあるあるだが……改変の結果、退魔師にされてしまったか。
「藤間は我ら四条とは異なり、小規模かつ秘密主義の一族だ。子が異能に目覚めなければ何も知らせずに育て、目覚めても戦いを望まなければ訓練を施すことはない。……それでいて、個としての腕前は我らをも凌駕する」
「そして此度、結弦さんは異能に目覚めた。……両親に代わって異能の手ほどきを行おうと?」
「なに。悪いのは子供を放っておく両親のほうだ」
それはまあ、その通り。
これからまた変なのに襲われない保証もないのだから、自衛手段を与えるのは悪くない。なにより本人が望んでいるらしい。
「兄妹の鍛錬はあれに一任する。お前は今まで通りの生活を続けるがいい」
「ありがとうございます。ですが、結弦さんへの手ほどきまでお従兄さまに任せるのですか?」
本当は一矢の訓練を手伝いたいところではあるものの。
男同士、女同士で分かれたほうがやりやすいのではないか──と。
「お前と藤間一矢が婚姻を結ぶのであれば、あれにはまた別の相手が必要ではないか」
ああ、あわよくば結弦と従兄がくっついてくれないかなー、っていう作戦か。
あくまで本人たちの自主性に任せてくれるのでそこは助かるが、相変わらずあれこれと策を巡らせる人である。
◇ ◇ ◇
とまあ、そんなわけで。
異能に目覚めてしまったりいろいろあったものの、復活したウィッチの引き起こした騒ぎはなんとか一週間以内に収束。
俺たちは月曜日からはまた普通に学校生活を送れるようになった。
一矢と結弦は週に何度か身体と異能を鍛えることになるようなので、完全に元通りとはいかないものの。
悪堕ちして逆にすっきりしたのもあってか、遥と俺の関係は元通り……というか、
「えへへっ。四条さん、はいっ。これも食べてみて?」
「では、いただきます。……ああ、これはいいお味ですね。味付けにはなにを?」
「えっとねぇ……」
小さめのレジャーシートにお互いの弁当箱を並べて。
満面の笑顔の遥が俺にぴったりくっつくようにして、あれこれとおかずを「あーん」してくる。
おかげで結弦は兄とベンチで隣同士になれているものの……遥の上機嫌っぷりに「???」と若干戸惑った表情。
「ね。ところで……四条さん? 莉緒ちゃん、って、呼んじゃだめ、かなあ?」
上目遣い気味。かつ、同性相手故に持ち前の巨乳も無防備なままの懇願に俺は一瞬息を詰まらせ。
「それはもちろん構いませんけれど……急にどうなさったのですか?」
「うん。ほら、キティちゃんとは友達だったけど、あんまりお話できなかったから。今度はなんでもお話できるんだって思ったら嬉しくて」
キティちゃん言うな。
「莉緒ちゃん。莉緒ちゃん……えへへ、莉緒ちゃんっ」
「ええと、なんだか少し照れくさいですね……。ああ、では、わたしも『遥さん』とお呼びしても?」
若干甘ささえ感じる声で名前を連呼されるとなんだか頬が熱くなる。
それを誤魔化すように尋ねれば、にこやかな笑顔のままで、
「えー、だめー」
なんでだよ!?
「さんとかいらないから『遥』って呼んで欲しいなあ……?」
と思ったらこれである。こんなの並の男子が喰らったら即死だ。
俺は小さく息を吐き「遥」と呼んでから、囁くように告げる。
「そういうことは好きな人に言うべきではありませんか?」
「っ!!」
急に顔を真っ赤にした少女は、もごもごと口を動かしながら頷いて。
「言うよ、ちゃんと。……あんなことがあったんだもん。カズくんにもちゃんと伝えないと」
「……そう、ですか。それはいいことです」
ライバルに告白されるのはヒロインとしては困る。困るが、友人の恋が進展するのは素直に嬉しい。
「ん? 俺がなんだって?」
「ふふっ。カズくんには内緒だよっ。ね、莉緒ちゃん?」
「ふふっ。ええ、そうですね。藤間くんには内緒です」
笑いあってのけ者にしたものの、特にヒロインポイントが下がるようなことはなく。
「そういえば、従兄との訓練はどのようになさるのです?」
「ああ。結弦は週に2回くらい四条さんの家に通って、異能を制御する訓練を受けることになった。俺のほうはとりあえず身体を動かすだけだから、時間ある時はあの人こっちに来てくれるってさ」
「なるほど」
兄と妹でメニューがぜんぜん違うから一緒に受けることはあまりなさそうだ。
「頑張ってくださいね。陰ながら応援しています」
「ああ」
にっと笑って意気込みを見せる一矢。うん、男の子って感じでいいな。
一矢の訓練は今日から始まるらしい。
従兄にぼこぼこにされないように祈っておこう……と、思っていたら。
ブブーッ!『ヒロインポイント:-1』
放課後。美術部での活動中。一矢とは『会ってもいない最中に』嫌な音を立ててポイントが下がった。
俺はすかさず、頭の上の黒猫を掴まえて尋ねる。
「おい、なんだこれは。俺、なにもしてないよな?」
クロはいつものように飄々とした様子でこれに答えた。
「そうだね。だから、これは他の人物からの働きかけの結果、キミのヒロインとしての地位が脅かされたということだ」
「他の人物って……他のヒロインがなにかしたなら、普通はそいつのポイントが増えるだろ?」
なんでこっちのポイントが下がるのか。
「簡単な話だよ。誰かとのやり取りの結果、キミの株が下がったんだ。これはもちろんヒロイン以外の行動も含まれる。
要は相手の加点要素ではなくキミの減点要素が浮上したってことだね」
「そういうことか。でも、そんなことそうは起こらないよな? 一矢はあることないこと吹き込まれて簡単に信じるタイプじゃない」
そんなことをされたら言った側の好感度が下がりそうだ。
「そうだね。でも、キミにはちょうどいい減点要素があるじゃないか」
「減点要素……って、まさか」
恋の障害となるのはなにもヒロインだけとは限らない。れいかちゃんやウィッチみたいな悪役が現れることもあるし、家の事情なんかも恋を阻んでくることはある。
それから、ヒロイン側の当て馬キャラ。
「今頃彼は訓練中だろう? その合間に『四条莉緒は僕の婚約者だ』とか言われたら、どうなるかな?」
「な」
ちょっとお従兄さま、なに余計なことしてくれてやがりますか?