友達と長電話した経験は、あまり多くない。
お嬢様学校の友達は「会って話す派」が多かったのだ。お互い忙しいのでプレイベートの時間が限られていたというのもある。
高校に入ってからはたまにエリカがあれこれ電話で話してくれたりする。
とはいえ、遥の用件はいつもよりとても深刻で。
「遥。大丈夫ですか? 今からそちらに行きましょうか? ……それとも、ファミリーレストランかなにかで落ちあいましょうか? 雛瀬に車を出してもらえば時間はそれほどかかりませんよ」
尋ねれば、電話越しに鼻をすするような音。
ぴろん。
『もう。……どうして、そんなに優しくしてくれるの』
「大切なお友達だからです。そういう時は誰かがそばにいたほうが安心できるでしょう?」
『……ふふっ。莉緒ちゃんだって恋愛経験私と変わらないはずなのに』
確かに、今世ではこれが初めての恋愛だが。
前世では通算五回もフラれてるからな! 男女の差こそあれ、失恋の痛みは良く知っている。
『大丈夫。っていうか、そんなに出たり入ったりしてたらさすがに怒られちゃう』
ああ、一矢との話を外でしていたわけか。
自室に招くのも両親の目が気になるし、藤間家には結弦がいるので話しづらい。
「気持ちは、きちんと伝えられましたか?」
『うん。私の気持ち、ぜんぶ伝えたよ。小さい頃からずっと好きだったことも』
俺が知っている限りでも、小三の時点でキスするくらい好きだったわけで。
思ってきた期間は相当に長い。
純粋で世話好きな幼馴染の巨乳美少女……なんて、明らかにメインヒロインの貫禄。いらないならくれ、と言う男子は掃いて捨てるほどいるというのに。
「藤間くんは、遥のどこが不満だったんでしょうね」
『え、えっと。莉緒ちゃん? 私たちライバルだったよね?』
ぴろん。
「それとこれとは話が別です。もちろん、わたしたちの決着が持ち越しになってほっとする気持ちもありますよ」
『……うん』
「あまり落ち込まないでください。……というのも難しいでしょうけれど、藤間くんも、遥のことを嫌っているわけではないのでしょう?」
『うん。カズくん、私の話をちゃんと聞いてくれた。それから、ありがとう、って言ってくれた』
そのうえで、はっきりと断り文句を口にした。
『ごめん。今の俺じゃ、遥の気持ちに応えられない。遥一人を真っすぐ愛せるほど、俺の気持ちは固まってないんだ』
恋愛ものの主人公は、外野から見れば羨ましいくらいにモテまくるものだが。
モテている当人が善人であればあるほど、女の子たちの中から「一人を選ばないといけない」というプレッシャーで自縄自縛になる。
甲乙つけがたいくらいの美少女が勢ぞろいなうえ、フった相手を傷つけることになるのだから、当然だ。
『もっと早く告白してればよかったのかな。それとも、私の気持ちが足りなかったのかな』
「それは……わかりません。きっと神様にだってわからないと思います」
俺のベッドの上で丸くなっている自称・神様の遣いを見ながら俺は答えた。
結果のわかっているレースなら、神様もここまであれこれ回りくどいことはしないだろう。
『そうだね。そうだよね。後悔しても、やり直せるわけじゃないもんね』
うん。まあ、たぶんヒロインポイント使えばタイムリープくらいできるけれども。
『私、後悔しない。カズくんを好きになったことも、カズくんに告白したことも』
「ええ。後悔する必要なんてありません。……そのうえで、気晴らしが必要ならお付き合いさせてくださいね。やけ食いでも、カラオケでも、お料理でも」
『……以外と、莉緒ちゃんのまわりに失恋した子多いのかな?』
お嬢様学校ではあまり多くなかったものの、失恋した年頃女子の気晴らし方法なんてあまり変わらないものである。
ちなみに前世の自己経験だと一定年齢からは「飲んで忘れる」一択だった。
『いいなあ。ケーキバイキングとか行きたいなあ。でもお小遣いもけっこう厳しいんだよね』
物語の登場人物ってそんなこと言いながらお小遣いぜんぜん尽きないこと多いよな。
「よろしければ多少融通できますよ。もちろんただではありませんが」
『う。それは魅力的かも』
例えば四条家の家業で人手が必要な際に手伝ってもらい、アルバイト代を俺の私費から出すとか。これなら一方的な施しにはならない。
『うん。じゃあ、ユズちゃんも誘ってぱーっと食べちゃおっか。それで、もう一回一から頑張るの』
「一から、ですか?」
それはおそらく、別の恋を探すという話ではなく。
『うんっ。一回でだめなら何回でも告白して、カズくんに振り向いてもらうのっ!』
「……ふふっ。それでこそ、遥です」
魔法少女モードであろうとなかろうと、彼女は不屈の精神の持ち主であるらしい。
◇ ◇ ◇
いつ、どこにやけ食いしに行こうかという話をとりとめもなく交わして。
詳細は結弦も交えて決めようということで電話を終えた。
さっきまで興味なさそうにしていたくせに、クロは話が終わったこのタイミングで俺の懐に収まってきて。
「莉緒。キミは告白が一回きりだとか言ってなかったかい?」
「言ったよ。言ったけど、一回で終わらせないといけない決まりがあるわけじゃないだろ」
断られたら、OKしてもらえるまで何度でも告白すればいい。
諦めなければ負けじゃないから、勝つまで告白する。
これはある意味、恋愛における真理だ。
積極的に愛情を見せていくタイプの女の子は、強い。
自分のことを大好きな女の子が嫌いな男子なんてそうそういない。
「じゃあ、キミもさっさと告白すればいいじゃないか」
「だめだって。諦めなければ何回でもチャンスはあるけど『一回目の告白が一番大事』なんだ」
諦めずアプローチし続けて最後に勝つヒロインというのは確かに存在する。
しかし、俺の体感だとそれはたいてい「当初は有力視されていなかったヒロイン」だ。
遥みたいにメインヒロインです、ってタイプがやるとたいてい負けルート。
「何度も告白するとなあなあになりやすい。結局、十分に好きになってもらってから一発で決めるのが一番だと俺は思う」
「なるほどね。キミに考えがあるのならボクは別に構わないけれど」
それで足元をすくわれる可能性ももちろんある。
告白を先延ばしにしすぎてもやっぱり負けヒロインムーブなわけで、タイミングの見極めが肝心。
考えても考えてもベストの回答を出せた気がしない。
遥が言っていた通り、恋愛は手探りでなんとか進んでいくしかないのだ。
「それにしても……ヒロインが三人、というのは少し数が控えめな気がするんだよな。お前、そのへんなにか知らないのか?」
黒猫が言うには高校入学からが本番らしいが、こいつは当事者が何人とまでは言っていない。
俺が認識していないヒロインが一人や二人、五人や十人いてもおかしくないわけだが……いつもの通り、クロの回答は飄々としていて。
「さあ。特にボクから言えることはないかな」
だった。