スイーツバイキングで思いっきり食べることに決めた俺と遥。
遥から結弦に打診したところすぐに参加OKが出て、より勢いがついた。
「どうせならもう一人くらいいると楽しいよねっ? 莉緒ちゃんのお友達とかどう?」
「そうですね……。では、仲のいいお友達を誘ってみます」
高校でできた友達もそれなりにいるけれど、彼女たちは基本、何人かのグループを作っている。その中から一人だけ誘うのは難しいし、あまり騒がしくなると遥を励ます会っぽくなくなりそうだ。
というわけで、俺はみゆちゃんを誘ってみたのだけれど。
「わ、私はいいよ。その人たちのこと知らないし」
「そうだよね。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
大人しいみゆちゃんはやっぱり良い返事をくれなかった。
忙しい子でもあるし、友達の友達と一緒に遊ぶのってけっこう気を遣うからな……。
であれば俺の情報屋こと烏丸さんを誘うという手もあるが、これはやめておくことにする。言い方がアレだけどうるさそうだし、失恋の愚痴なんて伝えたらあちこちに広まりそうだ。
というわけで、
「……なんで俺が呼ばれたんだ?」
「それはその、なんと申しますか、勢いのようなものでして」
こちらの友達は誘えそうにないと伝えると、遥たちが「じゃあもうカズくん(兄さん)誘っちゃおう」と言い出したのである。
いや、うん、俺は遥が良ければぜんぜん良いんだが。
失恋のうさ晴らしじゃなかったけな? と思うところはなくもない。
フった当人である一矢の「?」はなおさら大きいことだろう。
店に向かう道すがら、一矢はそっと俺に耳打ちしてきた。
「その、さ。四条さんも『あの事』は知ってるんだよな……?」
「
「ちょっ、そんな大きな声で言うなよ!?」
「隠さずとも良いではありませんか。結弦さんが遥から聞いていないわけがありませんし」
「む。そう言われると……まあ、そうだな……?」
今日のメンツは「フられたけどまだまだ攻める気まんまんな子」1名、「慰めるつもりだけど内心チャンスだとも思っている子」2名、「主人公」1名という構成である。
「藤間くんとしても、遥との縁を切りたいわけではありませんよね?」
「それはもちろん。遥は俺にとって、大切な幼馴染だからな」
そういう、何気ないけれど大事なことを当たり前のように口に出せるのは、間違いなく彼の長所だ。
「でしたら堂々と楽しめば良いかと。遥としても藤間くんにアプローチを続けたいようですし」
言うと、少年はなんと表現すればいいかわからない、という感じの表情を浮かべた。
「それなんだけどさ。あれから、遥が前以上に積極的なんだ。これ、俺はどうすればいいと思う……?」
「それはわたしに聞かないでください」
とは言え、遥が攻め攻めモードなのは確からしい。
春からだんだん初夏に移り変わり始めた時期、幼馴染ヒロインのチョイスは肩出しのサマーニットに淡い色合いのフレアスカート。
胸の大きな子の着るニットというのは攻撃力が高く、防御力が低い。ここで言う防御力とは「これ、押したらいい雰囲気にできるんじゃね?」と思わせる能力のことであり、つまり低いほど攻撃力がさらに上がる。
遥の隣で談笑している結弦はというと、ノースリーブの白ブラウスに伸縮素材のパンツというコーデ。
スポーツをやっている子なので「動きやすいから」というチョイスなのだろうが、健康的な無防備さが年頃の男子にはだいぶ刺さる。
「うん……。今日、四条さんがいてくれて良かったよ」
俺は白ベースのワンピース。
生地は薄めなので暑苦しくはないものの、長袖かつ首も隠れるデザインだ。ついでにレースの手袋を嵌め、日傘をさしている。手と手が直接触れ合うことも許さないとばかりのスタイルはまさに鉄壁。
代わりに雛瀬さんによる送迎やボディガードは遠慮してもらったものの……異能を持つ俺の感覚には彼女がこっそり監視してくれているのがわかる。むしろ仕事を増やしてしまったっぽい。
なので、一矢が「目のやり場に困らなくて済む」と喜ぶのはわかるものの。
「もう、藤間くん。そんなことを言うと、わたし、勘違いしてしまいますよ?」
上目遣いに抗議すれば……例のポイント加算音が聞こえてきたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
俺たちが選んだのは有名なスイーツバイキングのチェーン店。
有名なだけあってあちこちにあるし、学生でも入りやすい。
コースは複数あり、お手頃なコースならだいぶお財布に優しいものの……焼肉食べ放題なんかと同様、高いコースを選べばそれだけいろいろなものが食べられるようになる。
今回はお高いケーキ等や高めのアイスなどが追加される、上から2番目に高いコースを選んだ。
「思い切って高いコースにしたんだから、いっぱい食べるよ、ユズちゃん!」
「うんっ! カロリーのことは後で考えようね、遥姉さん!」
こんなコースそうそう選べないとばかりに遥たちが燃えている。
その様子に俺はくすりと笑って、
「藤間くんは、甘いものはお好きですか?」
「それなりに好きだけど、まあ人並みってとこかな。遥たちを見てるのに『好きだ』って断言するのは難しい」
「ああ。甘いもの好きの男性は意外と多いですけれど、そういう方もコーヒー片手でないとだめだったりしますよね」
前世の俺である。コーヒーではなく紅茶でもいいが、飲み物まで甘いジュースを選ぶなんてギャルみたいな真似は無理だった。
なお、そんなことを言いつつスイーツのほうは自作までしていた。
「ま、けっこうフードメニューも充実してるし、せっかくだから堪能するよ」
「ええ、是非そうしてください」
実際フードメニューも多い。というか品数で言ったらそんなにスイーツと変わらないんじゃないか? カレーにパスタにポテトに塩むすびまである。
これだけ充実してるならついでにシンプルな汁もの……中華スープかわかめスープがあったら良かったな、って、男子目線に戻っている場合ではなく。
「では、わたしも甘味を取ってまいりますね」
「あ、四条さんもわりと気合い入ってるんだ」
「もちろんです。女の子には、甘いものをひたすら好む権利があるのです」
四条の家にいるとけっこうお菓子も出るが、あんなお屋敷を使ってるくらいなので和菓子がけっこう多い。なにより、好きな菓子を好きなだけ食べられるのは、バイキング形式ならではである。
ケーキにケーキにケーキ、あと合間にしょっぱいものが欲しいのでフライドポテト。飲み物は……ドリンクバー形式だったので紅茶よりもコーヒーをチョイス。
初手からカレーを食べる一矢を尻目に、俺を含む女子たちはここぞとばかりに甘いものを堪能する。
さすがにちゃんとした洋菓子店と比べるのは色んな意味で間違っているが、これはこれでちゃんと美味しい。なんというか安心する味である。
思わず笑みをこぼしていると、遥がこっちを見てにこにこした。
「莉緒ちゃんも楽しんでくれてるんだ、良かった」
「ええ。お菓子も美味しいですが、お友達と一緒だと余計に美味しく感じますね」
「でも、四条さんならもっと高級なところで食べられるんじゃないですか?」
「そういう機会がないとは言いませんけれど、わたしもそんなに経験が多いわけではありませんよ。それに、ホテルのアフタヌーンティーくらいならそこまで値は張りません」
「いや、十分高いだろ」
一矢のツッコミにうんうんと頷く少女たちだったが、
「今回のバイキングを3回我慢すれば体験できる程度ですよ。そう考えるとなんとかなりそうではありませんか?」
「そう言われると……ううん、やっぱり高いよ莉緒ちゃん!」
「近所のケーキ屋さんで甘いものを買うのを20~30回我慢すれば……うん、ちょっと無理があると思います」
俺もそれなりに庶民感覚でいたつもりだが、小学校の昼食後のおやつタイムに菓子折り持って行ってた時点でやっぱり庶民ではなかった。