球技大会は基本的に生徒全員参加、最低一人一種目は出場し、各種目同時並行で進行する。
俺の出場種目はテニス。
運動能力自体は自信があるけれど、俺の体型はスポーツ向きじゃない。動き回る範囲の広い種目ほど不利になるので、多少経験があって移動範囲が少なめなものを希望したのだ。
大会中はもちろん運動用の服に着替える。
当日は夏服移行期間が終わっていたものの、体操服の上に指定ジャージを羽織るのは禁止されていない。俺は暑くなったら脱ごうと身に着けるのを選んだし、みゆちゃんも迷うことなくジャージを着た。
「頑張りましょうね、
「ええ。私なりに精一杯」
とはいえうちは特進クラスなのでモチベーションは高くない。
他クラスに勝とうと燃えている生徒はほぼ皆無、自分なりに楽しめればいい派が半分、しょうがないから参加する派が半分といったところ。
と思っていると、クラス委員を務めている女の子が寄ってきて「相談があるんだけど」と俺に告げた。
「実はね、今日お休みの子がいて、その子のぶんを出てもらえないかなって。うちで一番運動ができるのって四条さんだから……」
仮病かどうかはわからないけれど「出ない」という選択肢も一応あったか。
「お休みなら仕方ありませんね。時間が被らないようであれば構いませんが……種目はなんでしょう?」
「えっと……それが、バスケットボールなんだけど」
まじか。
◇ ◇ ◇
一般に、胸を支えている組織は激しい運動などを行うと弱体化したり切れたりして、体型が崩れる原因になると言われている。
これもまた巨乳の女性アスリートが不利と言われる理由の一つだが……これに関しては、俺はヒロインポイントを使って『体型維持』の特典を取得している。いくら運動しても将来胸が垂れることはない。オカルト万歳。
また、テニスにしてもバスケットボールにしても自分の試合時間以外は暇なので掛け持ちはやろうと思えば可能だ。特にバスケは入れ替え等を含めて1試合につき10~15分くらいはかかるし。
「わたしは基本的にテニスのほうにいますので、試合が近づいてきたらスマホで教えてください。それから、念のため予備の方を用意しておいていただけると」
ということでOKを出した。
勝ち進んでいくと時間被りが発生しやすくなるのが難点だが、それに関してうちのバスケメンバーは「そんなに頑張らなくていいよ!」とのことだった。
いや、やるからには全力は尽くすが。
一般クラスには本職が含まれているので確かに厳しいか。
「莉緒ちゃん、ふたつも出場して大丈夫……?」
「大丈夫ですよ。体力にはそれなりに自信がありますので」
球技大会は基本、1~3年生合同。俺は初戦、部活のウェアを着た2年生と対戦して勝利を収めた。さすが、ヒロインポイントをつぎ込んだボディである。
続く二戦目、俺の前に立ちはだかったのは、
「四条さん、でしたね。こんなところでお会いするとは」
「風紀委員長さん」
ジャージ姿の風紀委員長はこんな時でもナチュラルメイクを施し、髪をセットしていた。好きな人に見られた時のためか。涙ぐましい……というか、一回戦を勝ってきたのであれば、この人もかなり上手いのだろう。
俺は気合いを入れて望み──あっさり勝った。
「あの、もしかして、運動はあまり得意ではないのですか?」
「……ええ、お恥ずかしながら。一回戦は辛うじて勝てたのですが」
苦笑いする彼女とは握手をして試合を終えた。
と、思ったら今度はバスケの試合。会場まで小走りで移動した俺は、到着したあたりで「莉緒ちゃん!」と声をかけられた。
「こんにちは、遥。あなたもバスケットボールですか?」
「ううん、私は卓球。一回戦で上手い子と当たって負けちゃった」
えへへ、と笑った遥は「カズ君の応援に来たの」と教えてくれる。
「藤間くんもバスケットボールだったんですね」
「うん、どうせなら勝った時のポイントが大きいのに出ろって言われて」
女子の隣で男子の試合が行われている。
各種目で個々人が得た勝ち点は合計してクラスの勝敗を決めるが……特進クラスに勝ち負けを気にしている生徒はほとんどいない。
と、そうだ。
「あの、遥。できればわたしのジャージを預かってもらえませんか? 走ったら汗をかいてしまいまして」
「え? うん、もちろんいいけど」
俺はジャージの上下を脱ぎ、軽く畳んで遥に手渡す。中には体操着を着ているのでみられても問題はない。
「助かりました。テニスと掛け持ちをしていまして……さすがに、信頼のおける方にしかこんなこと頼めませんから」
「莉緒ちゃん、それって私のこと信用してくれてるってこと?」
「遥は昔からのお友達ですからね」
笑顔で「うんっ」と頷いた遥は「ぜったい守るから安心してね!」と言ってくれる。いや、そこまで気合いを入れるものでもないが。
少々汗臭いであろうジャージを快く受け取ってもらえてありがたい。
身軽になった俺はクラスメートと合流、バスケの一回戦に臨み──からくも勝利した。
「あー、勝っちゃった!」
「一回戦でもう疲れちゃったよー!」
勝ったのにチームメイトは微妙な反応だった。でもこの分なら二回戦は難しいだろう。俺はみんなに挨拶をしてからその場を離れ──少しだけ、男子バスケの試合を見学した。
「藤間!」
「おう!」
男子の試合は女子に比べてスピーディかつパワフル。
長身だったりがっしりした選手もいる中、一番目立っているのは均整の取れた身体で、仲間からのパスを受けた少年。
彼は爽やかな汗を散らしながらジャンプすると高く跳躍──見事な3ポイントを決めて、得点をひっくり返した。
「格好良かったですよ、藤間くん」
聞こえていないはずなのに、ぴろん、と、ポイントの加算音がした。
主人公の前であるか否かに関わらずヒロインムーブは続けておくものである……と思いつつ、テニスコートに戻っていると、もう一回ぴろんと加算音。
「おい。なんかこのところどんどん無法になってるぞ、このシステム」
「本番が始まって混沌化していると説明したじゃないか」
なお、この時の2回目の理由は、試合を終えた一矢がタオルと間違って、遥の持っていた俺のジャージを使ってしまったことが原因だった。
……上がるんだそれ。
ちなみに、遥はこの行動についていろんな意味でご立腹だったらしく「使うなら私のを使ってよ!」と謎のキレ方をしたそうである。
話を戻して──俺はその後テニスの3回戦に勝利、バスケコートに戻ってバスケの2回戦に負け、また戻ってテニスの4回戦、
「四条さんと戦えて嬉しいです! 悔いのない勝負にしましょうね!」
「ええ。全力でお相手させていただきます」
アスリートタイプのヒロインである藤間結弦と対戦した。
これは、さすがに分が悪い。俺は万能型なので専門家には劣るし、実力者同士の戦いになると胸のハンディが大きい。
ウェア姿でやる気満々の結弦に、かじった程度の腕でどこまでやれるか──。
それでも、俺は必死に食らいついた。
「うお、あの子、身体柔らかすぎじゃね!?」
「反射神経もすごいって。あのタイミングであれが間に合うのか……!」
結果は、惜敗。
帰って寝たい気分になっている俺に対し、結弦は良い笑顔で「ありがとうございました!」と握手を求めた。
彼女はそのまま勝ち進み、決勝戦で女子テニス部部長を破って優勝。
一部では、俺と結弦の試合が「事実上の決勝戦」と呼ばれた……という与太話を、烏丸さんが後に教えてくれた。
なお、女子の試合は暇を持て余した男子たちが多数応援・観戦に来ており──俺の出たバスケ・テニスの試合は多数撮影されていたそうである。