転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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男子高校生の妄想

 六月も下旬にさしかかったある日。

 

 それは、本当に前触れもなく起こった。

 寝耳に水としか言いようがない。

 今までの事件だって同じと言えば同じなのだが──。

 

 二時間目が始まって十数分が経った頃。

 高校の正門と裏口に黒いワゴン車が複数台横付けし、そこから黒ずくめの男たちが多数、飛び出してきた。

 現場近くにいた警備員はまともな対処を行う前に昏倒させられ、男たちはいくつかの班に分かれて校舎に突入、職員室と各クラスをほんの短い時間であっさりと占拠した。

 装備は、防弾とみられるベストに拳銃、サブマシンガン、大ぶりのナイフ。

 生徒たちは初めて生で見る銃器に恐怖し、男たちの命令にそのまま屈するしかできなかった。

 

「いや、おかしいだろ!? なんで学校がテロリストに乗っ取られるんだよ!? 男子高校生の妄想かよ!?」

 

 犯人たちに睨まれる中、俺が声を上げられたのは認識阻害中のクロと会話するという体を取ったからだ。

 認識されていないため自由の身である黒猫(in神様の遣い)は肩をすくめるような仕草をして、

 

「そう言われても、起こってしまったものは仕方ないんじゃないかな?」

「そりゃそうだけどさあ……!!」

 

 言っている間に俺たちは数人ずつ拘束を受けていく。

 口を塞ぎ、両手を縛るのに使われたのはなんの変哲もないガムテープだ。口枷やロープを大量に用意するのは難しかったのだろう。このためにガムテープを箱で購入したのかと思うとちょっと面白いが。

 

 ……これは洒落になってないぞ。

 

 街に魔物が出たり妖魔が出たりするのも十分アレだが、今までのは本職と戦って終わりみたいな案件だった。しかし今回はがっつり一般人が被害に遭っている。

 こんなものを主人公、ヒロインの誰かが願ったとは思いたくない。

 

「へっへっへ。なかなかいい女が揃ってるじゃねえか」

 

 男たちが防弾ゴーグル越しに送ってくる好色な視線に身体がぞくっとする。

 男嫌いなみゆちゃんなどは拘束を受けた段階からもう泣きそうになっており、今はもう全身をがくがく震わせている。

 人質に手を付ける気なのか……!?

 これだけの人数だ、身代金は相当な額を要求できるだろう。しかし、あまり手荒な真似をしてしまえば警察等が強行突入する理由を作ることになりかねない。

 

 人質に俺が含まれている時点で四条家が総力でつぶしに来そうだとはいえ……。

 

「特にこの女なんか最高だろ。なんだよこの乳のデカさ」

「おい、その生徒には手を出すなよ。それはリストにあった『四条莉緒』だ」

「ちっ、商品かよ。まあそりゃそうか、極上の雌だもんなぁ?」

 

 人身売買!? どこまであくどいことを……。やはり、これは改変がらみでけしかけられた悪党で間違いない。

 俺は犯人たちのうち一人に立ち上がらされ、どこかに連行される。みゆちゃんがむーむーと悲鳴を上げるも「うるせえぞ!」と黙らされた。

 

 ……いいかげん、限界だ。

 

 俺の親友を怖い目に遭わせて、おまけに身体まで弄ぼうとは。

 やっていいことと悪いことがある。

 こういう時、そういう生き物として定められたであろう化け物より、まがりなにも人間であるはずの彼らのほうがむしろ、怒りをかき立てる。

 廊下に出てしばらく進み、静かで人気のないあたりに来たところで、俺は霊力を使って腕の戒めを切断する。

 手さえ自由になれば口のほうはべりっと剥がすだけ。じゃっかん痛かったが我慢。

 

「お前、どうやっ……がふぅっ!?」

 

 後ろを歩いていたほうのテロリストを渾身の蹴りで昏倒させると、慌てて振り向いたもう一人の顔面に拳を叩き込む。倒れた二人の股間を思いっきり踏みつけてやると、びくびくと痙攣した後に動かなくなった。

 死にはしない、が、死ぬほど痛いだろう。気持ちはわかるが、悪事に手を染めるほうが悪い。

 

「っていうかこれ……うん、やっぱりエアガンか」

 

 さすがに実銃は用意できなかったか。家から仕込まれた護身術がらみで銃器の見分けはできるので、俺にはバレバレだった。

 ただ、エアガンだからって殺傷能力がないわけじゃないし、違法改造ものならなおのこと。

 男子高校生の妄想ほぼそのままになってしまうのであまり気は進まないが……俺は手近なトイレに入ると魔法少女に変身。

 

 これで、いくら暴れても俺だとバレることはない。

 

「さて、こいつらがどこに向かってたのかっていうと……方向からして生徒会室か?」

 

 ある程度広く、人気がない。商品とやらを集めるのにはちょうどいいか……と、そちらに向かうと、2~3人の男に出くわしたので気絶させて。

 生徒会室に到着すると、もう一人の魔法少女が部屋にいたテロリストを(魔法で出した)縄でぐるぐる巻きにし、そこにいた生徒──生徒会長や風紀委員長、結弦を解放したところだった。

 

「あっ、キティちゃんも来てくれたんだ!」

「だからキティちゃんはやめてくださいと……いえ、それよりもフェニックス、ここに彼らのリーダーはいませんでしたか?」

「あ、うん、この人だと思うよ。いろいろ指示を出してたから」

 

 一人の男が示される。見た目じゃわからないのはむしろ頭脳的か?

 

「魔法少女……まさか、本当にいたなんて」

「まだ、犯人たちには仲間がたくさんいるはずです。できればここに鍵をかけて立てこもっていてください」

 

 なにか言いたげな結弦に目くばせをして、生徒会室を出る俺たち。

 

「さて、どうしよう? さすがにぜんぶのクラス回るのは無理だよね?」

「そうですね……では、先に外にいるメンバーを倒してしまいましょう。そうすれば警察が突入しやすくなります」

「うんっ!」

 

 さすがにとっくに誰かが通報したらしくサイレンが聞こえてくる。

 窓から飛び出した俺は、校舎の周りを巡回していた男たちを一人ずつ気絶させ、遥は杖を遠距離モードに変形させて、(体育の授業を受けていた)グラウンドで捕縛されている生徒たちを解放していく。

 いわく、一度こういうのやってみたかったとのこと。知識と想像力が増した分、小学生より高校生のほうが強くなる部分もあるらしい。

 

「これで外はだいたい片付いたね」

「ええ、ただこうなると内側はより強硬に──」

『警察も魔法少女もそれ以上動くな! 余計な真似をすれば人質がどうなるかわからないと思え!』

 

 ほら来た。こうなるとさすがに動けない……と思ったら、一年生の教室のあるあたりの窓からひょいひょいっと、何段かに分けて飛び降りてくる影。誰かと思ったら一矢だ。剣道部の知り合いからでも借りたのか手には竹刀があり、

 

「四条さ……じゃなかった、キティにフェニックス。一年生の教室にいた奴らは全部片づけたから安心していい。みんなも怪我もなにもしてない」

「すご……カズくんいったいどうやったの?」

「どうって、退魔師仕込みの剣術と体術で」

 

 すごいな四条家。と思っていたら二つの影──従兄と雛瀬さんがすごい速さで突入していって、あっという間に二年生と三年生も解放してしまった。二人もある種の認識阻害を使っているため、誰がどうやってテロリストを倒したのかは謎のまま。

 後は警察がやってくれて、俺と遥もこっそりトイレで変身解除、何食わぬ顔で保護されればそれで完了だったが……。

 うん、これで確信した。

 

「クロ、これはもう、ラブコメで済む範囲じゃないだろ」

「そうだね。そもそもマンガだのゲームだのにたとえているのはキミだから、ボクたちが保証したわけではないんだけど」

 

 夏服の件や球技大会の件あたりからおかしいとは思っていた。騒動に、妙に性的なニュアンスが増えているのではないか? と。

 悪意が大きすぎるという意味ではウィッチの復活の件からそうだ。

 それらの違和感がこの件で確信に変わった。

 これじゃラブコメどころじゃなくてエロゲの範疇だ。さすがに青少年の健全な願望程度でこうなるとは思えない。

 

 つまり。

 

 ヒロインたちのレースに邪な目的で介入している「何者か」が存在している。

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