「答えてくれないだろうけど、一応聞いておく。……主人公とヒロイン以外に、特別なシステムを与えられている存在はいるのか? 例えば悪役とか」
「それくらいなら答えてあげるよ。主人公とヒロイン以外、こちらで用意した配役はない」
「俺以外の転生者はいないんだったな?」
「少なくとも、ボクたちが転生させたのはキミだけだよ」
思ったより誠実に答えてくれたクロだが、これじゃなにもわかっていないも同然──待てよ、なんか妙にもってまわった言い回しだな?
「配役が生えてきたり、転生者が自然発生するのは否定しないってことか?」
「魔法少女だの異能者が現れている現状でなにをいまさら」
「それはそうだけど、そうじゃなくて」
システムの範囲内で異常事態が起こるのとはわけが違う。
前提条件だと思っていた部分にイレギュラーが生じているのだから文句くらい言いたくなるというもので──。
いや、これも認識が違うのか? クロたちの用意したシステムが信用できないんじゃなくて、
「……システムをハックされる可能性が、システム内で想定されている?」
「可能かどうか試してみればいいじゃないか」
俺なら可能だって言いたいのか。言われてしぶしぶ、そういう特典をイメージしてみる。
ヒロインを創造する特典。
考えたこともなかったそれは、求めればしっかりと特典一覧に現れた。必要なヒロインポイントは──100。
いや、100って。さすがにそんな大量のポイント余らせてないぞ。稼ぐのだって馬鹿みたいに大変だ。そもそも取る気はないけど。
「……まあ、可能だっていうのはわかった。実現が怪しいとも思うけど」
つまり、前提となっていた認識が無に帰すことさえありうるのがこの世界だということ。
「悪者が自然発生することまで織り込んだら、周りにいる人間全員が犯人候補だろ」
「うん、これは困ったね。これじゃあ恋愛どころじゃないかもしれない」
「呑気に言ってる場合なのかよ管理者」
「ボクたちは基本的に傍観者だからね」
こいつらとしては、大惨事になったらなったで「今回はなかなか珍しい結果だった」で次に行くだけなのかもしれない。人の人生をなんだと思っているのかと言いたいが、尺度の違う存在になにを言っても無意味だ。
「主人公を攻略しながら黒幕を探す、か。……恋愛だけでもハードだってのに」
「なら、黒幕は放置してもいいんだよ? そっちは別にポイントを減らしてくるわけでもない」
「なら聞くけど、主人公以外の男に穢されたらポイントはどうなる?」
「まあ、一般論で言えば下がるだろうね。-3では済まないと思ってくれていい。実質、ヒロインレースから退場になりかねないかな」
ふざけるな。
ポイントがなくなって消滅するのは許す。ヒロインレースを強いられるのも仕方ない。だけど、なんでヒロインたちがそんな過酷な状況に追い込まれなくちゃいけない?
俺たちを追い詰めてほくそ笑んでいるであろう誰かに、本気で怒りが湧く。
「なんとかして黒幕を突き止める。そして、なんとかして止めさせる」
「あまりにも雲をつかむような話だね」
同感。
とはいえ、まったく道筋がないわけでもないはずだ。
◇ ◇ ◇
道筋その1、ヒロインポイントでなんとかする。
システムに干渉できるくらいだ。ポイント次第では黒幕を直接突き止めることも、相手の特典を失わせることもできるだろう。
問題は必要ポイントが馬鹿みたいに多くなること。多少は身を削るにしても元手を稼がないことには実行できない。
道筋その2、怪しい奴を地道に探る。
転生者であり「自覚しているヒロイン」である俺が言うのもなんだが、暗躍している誰かは他の人間とは異なる動きをしている可能性がある。
今まで以上に周りを注意し、変な素振りを見せた奴をマークする。
……つまり、当面は「ヒロインとしての役割を全うしつつ、ポイントを稼ぐ」ことに注力。同時に怪しい奴がいないか注意していく、ということになる。
やることがあまり変わらない? 仕方ないだろ、ガチで暗躍されたら真面目にやってる側が不利に決まってるんだから。
ただまあ、主人公にできるだけくっついておく、くらいはできるか。
ことが起こるなら基本、彼の周りが一番可能性が高いはずだし、一矢の傍には遥や結弦もいるのだから。
となると、当面の懸念は、
「ね。莉緒ちゃんは夏休みってどうするの?」
遥が俺にそう尋ねてきたのは、『平日昼間の』四条家庭園でのことである。
先のテロリスト学校占拠の影響で、我が校は現場検証・破損個所の確認等々のため三日間、授業および部活動の停止を発表した。要するに学校に来るなということである。
降って湧いたこの休み、一矢と結弦は四条家での訓練にあてることにしたようで、今日も朝から精を出している。
遥がこっちに来たのは主に応援のため──と言っても、できるのはお弁当を作ってきたり、スポーツドリンクを用意したりといったことくらいなので、手持無沙汰になった彼女は俺がもてなすことになった。
先の質問はそんな中での雑談である。
「そうですね……。まず、特進クラスは一週間ほど夏期講習がありますので、そちらに通わないといけません」
「うわ、夏休みなのに勉強するんだ」
「はい。それから、退魔師としての訓練も欠かせません。地元の名士でもある四条の人間として、地域のイベントにも顔を出すことになりますし、親戚づきあいも夏休み中は活発になります。部で出品する作品も早めに完成させておきたいですし……」
指折り数えていると、遥の顔がだんだん引きつってきた。
「莉緒ちゃん、ふだんより忙しくない? ちゃんと寝られてる?」
「ご心配なく。少なくとも毎日三時間は眠れますよ」
「人間は三時間睡眠じゃぜんぜん足りないよっ!?」
大丈夫、俺は睡眠効率2.5倍だから、三時間寝れば7.5時間分になる。……こう考えるとショートスリーパーの人ってめちゃくちゃすごいな?
「冗談はともかく」
「ほんとにいまの冗談だった……?」
「冗談はともかく、遊びの予定もないと気が滅入ってしまいますね」
呟く俺の手を遥はがしっと握って「そうだよ!」と言ってくれた。
「遊びに行こう! 海でも山でも、また甘いもの食べに行くのでもいいし!」
「そうですね。できれば、藤間くんと結弦さんもご一緒に」
「む。莉緒ちゃん、カズくんと仲良くなるの狙ってる?」
「それはもちろん。でも、それは遥だって同じでしょう?」
「そ、それは、まあ」
利害は一致しているが、最終的に勝てるのは一人。俺たちもなかなか難儀な関係である。
「ちょうど良い場所があるんです。実は、四条家の所有するプライベートビーチがありまして。近くには合宿所のようなものもありますので、泊りがけで海に行けます」
「うん。今更だけど、やっぱり莉緒ちゃんのおうちってとんでもないお金持ちだよね……」
「正確にはこちらは母の実家ですが。利用させていただける分には、ありがたく利用させていただこうかと」
お泊まり。お泊まりである。これはもう恋愛イベントが進展しないわけがない。
「保護者として雛瀬を連れて行けば体裁も整えられますし、プライベートビーチなら混雑もありませんから、絶好のロケーションでしょう?」
「うんっ。それなら思いっきり遊べそう」
「ただ、問題が一つだけありまして」
声をひそめる俺に、遥は不思議そうな顔をして。
「その合宿所が古いとか?」
「いえ。実を言うと、合宿所と表現したのはそこが『異能修行のための施設』でもあるからでして。利用するのであればある程度、訓練もせよという交換条件になっております」
「……えっと、それ、私場違いじゃないかな?」
魔法少女が実力的に場違いだったら一矢は参加も許されないと思う。
この先ちょうどいいところで区切れそうにないので、ここで章を切って番外編に入ります。