夕食は海らしくバーベキューとなった。
ただし、
「……俺、こんなバーベキューは初めてだよ」
「わ、私も……」
ちょっとお金持ちっぽいバーベキューである。
「あら。お肉や野菜や魚介類を焼いてみなさんで一緒に食べる……立派なバーベキューですよ」
「その具材が高そうなんですよ!」
「はは。言った通り、宿泊費も食事代も取らないからたくさん食べてくれ」
鉄板では厚い牛肉がじゅうじゅうといい音を立て──これもうステーキだろ──、網ではフレッシュなトマトや白いとうもろこし、太いアスパラなどなどが炭火で焼かれている。
また別の網では三角形のおにぎりが醤油や味噌を塗られてこんがりと焼かれ、ついでに一本丸ごとのバゲットが表面をあぶる程度に火を通されている。
飲み物にはスパークリングウォーターや身体に良さそうなウーロン茶などが用意されており……うん、三食入りの焼きそばが豪快に炒められ、安い肉に焼き肉のタレをつけて食するバーベキューとは一線を画する。
一矢たちの感動具合に桜がくすりと笑みをこぼして、
「本場のバーベキューはもっとこだわりが強いと耳にしております。私としましてはこちらの方がお野菜もいただけて口に合いますけれど」
「野菜を摂れるのは重要ですね。焼くとより美味しくなりますし」
「……いや、あの肉を見せられたら野菜を食べてる場合じゃないだろ? 焼きおにぎりでもいいし、あのパンと合わせても絶対美味いぞ」
男の子らしくステーキに視線を吸い寄せられる一矢の肩を、柊也がぽんと叩いて。
「たくさんあるから好きなだけ食べるといいよ。ああ、余ったら明日のカレーに投入されるそうだから安心していい」
「ちょっと待ってください、そのカレーも絶対美味しいやつじゃないですか!」
女子多めとはいえ、お腹を空かせた若者が六人、たっぷり用意された食材がどんどん胃の中に消えていく。……ほんとに美味いなこれ。夜空の下でみんなと食べるせいで余計に美味しく感じる。
「桜さん。結弦さんの訓練はいかがでしたか?」
「ええ、結弦さんはとても筋が良いですね。うちの神社で働いていただきたいくらいです」
「わ、私に巫女さんなんてとても!」
本人は恐縮するものの、きっと似合うだろう。
「本家の見立て通り、結弦さんの『雷』は神の力に近しいものです。触れるものを焼き払う神の雷はそれ自体が浄化の性質を帯びますので、使い方次第でいろいろな役に立つでしょう」
「神ですか……。どちらの神話体系に由来するものなのでしょうね」
「そこまではなんとも。建御雷神か、トールか、あるいはゼウスか。そこまでの有名どころでなくとも、各地には多くの雷神がおりますので」
地球の神どころか異世界の神の可能性もあるか。なにしろヒロインならなんでもありだ。
「あ、あまり褒めないでください……。未だに力をコントロールしきれなくて、使うのがちょっと怖いくらいなんですから」
「使うべき時以外はきちんと抑えられているのですから、後は訓練あるのみですよ」
「ええ、そうですね。雷は威力が期待できる分、制御は難しい傾向にあります。狙った対象以外を撃たないよう、そして、必要な威力に絞れるように励みましょう」
「はいっ、頑張りますっ!」
ちなみに魔法少女である遥も雷を用いられるが、いわく、
「使い方? こう、ちょっと痺れるくらいでびりびりーってしたいなって思えばそれくらいの電気が出る感じ」
イメージと気合いで運用できるせいでまったく参考にならなかった。
◇ ◇ ◇
夜は早めに就寝──かと思ったら、みんな目がさえてしまったのか会話に華が咲いた。
話し声を響かせても家人を起こしてしまう心配も、怒られる懸念もないとくればそうなるのもある意味当然である。
俺より一歳年上の女子高生である桜も楽しそうに会話に加わり、女子らしくとりとめのない話題がえんえんと続き。
「桜さんは柊也さんのどんなところが好きなんですか?」
「え、ええと、その、あらためて尋ねられると気恥ずかしいのですけれど……そうですね。柊也様はとてもお優しい方なのです。誰にでも気を配ってくださいますし、戦いでは率先して矢面に立たれます。そんなところが、私は大好きなのです」
「わ。なんだか、私までどきどきしてきちゃった」
なかなか人の恋バナって深いところまで聞けないからな。桜としても、普段違う世界にいる人間だからこそ素直に話せる様子。
「お二人は、藤間一矢さんのどのようなところが?」
「そうだなあ……。優しいところとか一生懸命なところもそうだけど、私はカズくんの放っておけないところかな。カズくんなんでもできるのに、なんだかついついお世話したくなっちゃうの」
「私は格好いい兄さんが好きです。兄さんは私たちが困っていると必ず助けてくれます。だから、普段だらしない兄さんを見ても、ああ、なんだか可愛いなって思ってしまうんです」
桜は「なるほど」と深く頷いて。
「では、莉緒さんはいかがですか?」
「わ、わたしですか?」
「はい。莉緒さんと柊也様の婚約が形ばかりのものであることは知っておりましたが、あなたの恋心について深くお伺いしたことはございませんでしたので」
「それは」
あらためて言われると、確かに困る。
俺の事情は、他の少女たちとは大きく異なっているから。
「わたしは。わたしの場合は、藤間くんとの出会いが運命だったんです」
選択肢なんてなく「主人公を落とせ」と突き付けられた。
だから、恋愛対象に選んだ。
「運命だって思ったのが一番最初だったので、そこからは、彼のいいところを見つける日々でした。だから、わたしの場合は彼のここを好きになった、とは言えないのです」
もし仮に、誰かから「本当に彼のこと好きなの?」と問われたら、もしかすると言葉に詰まってしまうかもしれない。好きか嫌いかではなく、彼を狙い続けることが俺にとって当たり前のことだから。
そう考えると、ぎゅっと胸を締め付けられたような気分になる。
桜は、そんな俺の返答にふっと微笑んで。
「では、今は彼のどこを愛していらっしゃるのですか?」
「それは……そうですね。藤間くんの、一生懸命なところでしょうか。きっとわたしは、彼の頑張っている姿が好きなのだと思います」
答えた言葉は、思った以上にしっくりきた。
会えたのは高校に入ってから。クラスも違う。見てきたのは、彼が非日常的なイベントに出くわした時が多かった。
俺が、主人公としての彼に求めているのも──。
◇ ◇ ◇
結局、俺を含めた女性陣が寝ついたのは日付が変わってからのこと。
午前三時半過ぎ。
まだぐっすり眠っている他のメンバーを起こさないようにそっと起き上がった俺は、合宿所の庭を散歩することにした。
夜明けにはもう少し時間がある。
潮の香りのする朝の空気を感じながら歩を進めていると、地面に座ってぼんやり空を眺める一矢に出会った。
「藤間くん」
「……四条さん」
振り返った彼が俺の姿を捉えるのと同時に、ぴろんと音がした。
「もしかして眠れなかった?」
「実を申しますと、わたしは睡眠時間が短い体質でして」
考えてみるとこういうイベントごとや、主人公の前で眠って無防備な姿を晒す、みたいなのとは相性が悪いんだよな。まあ、自分から仕掛ける場合にはいったん特典を外せばいいけれど。
「藤間くんは、どうしてこんな感じ?」
「ああ。お従兄さんとはろくに話もせずに寝ちゃったからさ。これでもけっこう寝たんだよ。だから、単に散歩」
「そうですか」
隣に立ち、一緒に座ろうか考えていると、不意に「なあ、四条さん」と呼びかけられた。
「またそのうち、学校が占拠された時みたいなことが起こるのかな?」