また、あのテロ事件のようなことが起きるか。
答え方はいろいろあるけれど。
「はい。また、近いうちに起こると思います」
俺は、はっきりとそう答えた。
「そう、か」
少年は、どこかほっとしているような、そんな表情で頷いた。
遠い目で空を見つめたまま、彼は。
「やっぱり起こるのか。……平和なのが一番なんだけどな」
「どうしてそう言えるのか、と、お尋ねにならないのですか?」
「四条さんなら少なくとも嘘は言わないからさ」
笑った一矢がこちらを見上げる。
「なら、俺はもっともっと鍛えないと。じゃないとみんなを守れない」
さすがは主人公、と思うと同時に、俺はなぜか反対のことも思った。
「どうして、そこまでして強くなろうとするのですか? 男だから誰かを守らないといけない、という時代ではないと思います」
専業主夫がいたっていい、男よりも強い女がいてなにが悪い。
けれど、
「違う。俺が、みんなを守りたいんだ。俺にだってできると思うし、そうしないといられない。要するに我が儘だよ」
「どうして、そこまで?」
思わず、同じ言葉を繰り返してしまった。
少年はそれでも戸惑うことはなく「そうだな……」と考えるようにして、
ぴろん。
「もしかしたら血筋なのかもしれない。それか、そういう星の下に生まれたから」
正しい。が、個人としてそこまで考えられるのはすごい。あるいは、どこかが行き過ぎている。
「昔からそういうところはあったと思うけど、大きかったのはあれかな。小二と小三あたりでいろいろあって、そこで子供なりにいろいろ考えたんだよ」
「結弦さんと出会った件、ですか?」
「うん。それから、魔法少女に命を助けてもらった件」
あ、と言いそうになった。
……考えてみれば、正義の味方に命を救われたらそりゃ影響受けるよな。
「あと、まあ、これは大した事件じゃないけど、迷子の女の子を案内した……っていうか、一緒に迷子になったこともあったな。あれで、俺じゃ助けにはなれないかもだけど、一緒に困ることくらいはできるって思えた」
「え」
「え?」
「い、いえ、なんでも」
それも俺のせいなんだが?
でも、そうか。小さな人助けをして、人に命を助けられて。今度は一生懸命に『妹』を守って。彼もそうやって、ひとつひとつ今の彼になってきたのか。
なぜだか口に笑みが浮かんでしまう。
俺がその女の子だと言ってしまおうかと考えて、やめた。
「……その子とは、その後は?」
「いや、それっきりなんだ。そりゃ学校も違うし、いいところのお嬢様っぽかったからそうそう会えるわけないんだけど」
ぴろん。
遠い目になった一矢は「そういや犬を飼ってるとか言ってた気がするな。なんて言ったっけ……」と首を傾げている。
「藤間くん」
「ん?」
振り返った彼に、俺に浮かべられる最高の笑顔で、告げた。
「あなたはきっと強くなれます。わたしが保証しますし、お手伝いもします。でも、だから、無理だけはしないでくださいね」
ぴろん。
「ああ。怪我とかしたら、もう戦えなくなるからな」
俺たちはしばらく、そのままとりとめのない話をした。そうしているうちに夜明けの時間が来て、かと思ったらぶぶー、とポイントの低下音。
「二人とも、早起きすぎるのは感心しないな。睡眠はきちんと取らないと身体も強くならないよ」
一矢の抜け駆けに気づいて慌てて来たのか、あるいは朝稽古のためか、木刀を手にした従兄が俺たちをジト目で見つめた。
◇ ◇ ◇
夜明けこそ気持ち良かったものの、天候は時が経つにつれだんだんと悪化していった。
朝食に、昨夜の残りの野菜が化けたグラタンを平らげた時点で空には雲が見えており、予報によると午後までには雨がなる可能性が高いという。
「昨日の予報では晴れだったのですけれど……」
「今日思いっきり泳ぐつもりだったのに!」
悲鳴を上げた遥がばっ、と、こっちを見て、
「莉緒ちゃん、天気をよくする方法とかないかな!?」
「そういった方向性は魔法少女のほうが得意なのでは?」
「その手が!」
しかし、遥が祈ってみても踊ってみても魔法を使ってみても空にはなんの変化もなかった。
遥の割り振っているポイントが足りていないか、あるいは本人が「さすがにそれはズルだ」と心のどこかで考えているからか。
変身を解除してしゅんとする遥に、結弦が。
「でも、遥姉さん。午前中は泳げるんじゃないかな? どうせ海に入るんなら雨に濡れてもそんなに変わらないし」
「そっか! 晴れにはできないけど、雨を避けるくらいならできるかも!」
できた。
四条家の結界に「雨の侵入を防ぐ」効果が追加され、もし降ってきても濡れない仕様に。
「ついでにビーチの中だけ気温を上げておくねっ」
「うわ、なんだかんだ言って魔法ってえげつないな……?」
「でも、これで海で泳げるよ、兄さん」
なんだかんだで結弦もはしゃいでいる様子だし、遥などはにやりと笑って一矢を振り返り、
「カズくんってば、莉緒ちゃんの水着姿楽しみにしてたもんねー?」
ぶぶー。また俺のヒロインポイントが下がった。
◇ ◇ ◇
というわけで、晴れているうちにとさっそく海へやってきた俺たち。
もちろん全員水着である。
海パン姿になった男性陣を見て、遥はほんのり頬を染めて。
「カズくんもお従兄さんも、やっぱり格好いいよねっ」
「ええ、そうですね」
海パンは海パン、材質もデザインもそこまで凝りようがないので大して変わり映えはしないが──と思ったところでぴろんぴろんと連続加算音。ちょっと褒められただけで!?
まあ、海パンはともかく、上半身裸になるとよくわかる引き締まった筋肉は確かに女性にはない美しさに溢れている。
ちなみにそんな話をしている俺たち女性陣はマリンパーカー等を羽織って肌を隠しているのだが。
「どうする? 誰からにする?」
「全員一緒で良いのでは? ……一人だけ先に脱ぐのも、最後まで残されるのも気恥ずかしいと思います」
「桜さんの言う通りだよお姉ちゃん。せーの、で脱ご?」
「わかった。じゃあ、せーのっ」
ぴろんぴろんぴろんぴろん。……また珍しい上がり方したな? なんだ、初見で「うわおっぱいでっか」と思ってから「水着も可愛いな」とでも思ったのか?
でも、それぞれが想い人の好感度を得るために悩んで買った水着だけあって、相応の攻撃力はあると思う。
遥は白のツーピース+パレオ。パレオと、うっすら浮かび上がるカモメの羽のような模様が清楚さを高めていい塩梅にまとめている。
白い水着って透けが怖いのが難点だが、プライベートビーチなら他人には見られないからと思い切ったか。
結弦は意外にも競泳水着。ただし、いかにも競技用というデザインではなく、黒+青のツートーンで可愛さを出している。
競泳用のおかげでメリハリの利いたボディラインがアピールされて、スポーティかつ、健康的な魅力も感じられる。
桜は彼女の名前でもある桜の柄の和風水着だ。ただし、あまり和のデザインが主張するとけばい感じになるのであくまでもワンポイント程度。
ツーピース+パレオにさらにシュシュとチョーカーを装着して「露出している感」を抑えた、全体として清楚な佇まい。
俺は……どうやってもこの胸は主張してくるので、もう開き直る方向にした。
黒のツーピースにチョーカーと、細いリストバンドのようなアームカバー、レッグカバー。それぞれにチタンの装飾があしらわれている。それ以外は本当にシンプルで、だいぶ大人っぽいデザインだ。
好感度を稼いだことは疑いの余地がないものの、敵もさるもの。果たして戦況はどう動いたのか。気になりつつも、本格的に天候が悪くなるまでの短い時間で思いっきり水遊びと海水浴を楽しみ──。
そんな俺たちを、あろうことか新たなイベントが襲った。
海の向こうからタコの化け物がやってきて俺たちに襲い掛かってきたのだ。