転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい   作:緑茶わいん

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新たな刺客

『莉緒さんがぐずぐずしていらっしゃるせいで、私に他の殿方とのお話が回ってくるのです』

 

 大和撫子然としたお嬢様である清宮桜──俺や従兄の親戚である彼女も、当然のことながら現代っ子である。

 着物をきっちり着こなした姿でスマホのビデオ通話を平然と用いていてもなにも不思議はない。絵面がなんか面白いけれども。

 それはともかく、情報端末を介した、乙女同士の夜の密談である。

 

「無茶を仰らないでくださいませ。わたしは、藤間くんと本格的に知り合ってまだ数か月なのですよ?」

『莉緒さんに本気でアプローチされて数か月も我慢できる殿方などそうはいないでしょう』

 

 桜から見た俺は恋敵だが、俺に柊也を攻略する気はなく。互いに恋愛さえ自由にならないお嬢様同士とあって俺たちはけっこう気が合うらしい。遠慮のいらない仲なのも幸いし、こうして言いたいことを言いあえる。

 

「残念ながら、藤間くんは並の殿方ではありませんから」

『……それは、確かにそのようですね』

 

 ため息交じりに同意する桜。

 

『海でご一緒させていただいた間でもそれは十分にわかりました。女性としての魅力あふれる方が二人も近くにいるのですから、たとえ莉緒さんといえども一筋縄ではいかないでしょう』

「ええ、ですからもう少し時間を──」

『ここは強引に距離を詰めても良いのではありませんか?』

 

 と、彼女はカメラの前になにやら小さな包みを示してくれる。中に入っているのはなにやら茶葉のようなもの。

 

『よろしければこちらを差し上げます。当家秘伝の香でして、男性に効果てきめんです。代々の清宮の女たちの名にかけて保証いたしましょう』

「桜さん。それは通常、初夜に子宝を望むために用いるものでは?」

『そうですが?』

 

 要するにめちゃくちゃ強力な媚薬である。

 

『既成事実さえ作ってしまえば、あの方は責任を取ってくださるでしょう。邪魔が入らない機会を見計らってたっぷりと嗅がせ、それとなくお誘いすればそれですべて終わります』

「……桜さん、なかなかすごいことを企みますね?」

『人聞きの悪い言い方をなさらないでください。女とて、必要であれば可能な限りの手を打つもの。それが自分の将来に関わることであればなおさら。ただそれだけのことです』

 

 それはまあ、えっちの度合いが強めのラブコメだとけっこう出てくるし。違法の品でないならまあギリセーフかなとは思わなくもないが。

 

「残念ながら、わたしと彼の場合、邪魔の入らない機会を作るのが困難でして」

『自室なりホテルなりにお誘いすれば良いのでは?』

「相当上手く口実を作らない限りはお二人に伝わってしまいます。それに、帰りが遅くなれば心配した魔法少女が乗りこんでくるかもしれません」

『……ああ、先日の洞窟でもそうでしたね』

 

 遠い目になって納得する桜。文字通り飛んで来れるうえに、その気になれば一矢や俺の居場所くらい探知できるのだからかなり手強い。

 

『では先んじてお二人に睡眠薬を盛って』

 

 そこまで行ったらほとんど犯罪だぞおい。

 

「有効な手段であることは承知しておりますが、あまり気は進みません。こちらが強硬手段に出るということは、相手方にルール無用と伝えることになりますので」

『彼女たちにこの香に匹敵する手段があると?』

「心を操る魔法がないとは言えませんし、人体に疑似的な『電気信号』を与えられるとしたら?」

『…………』

 

 ちょっと怖くなったのか、桜は黙った。

 

「むしろ、桜さんがお従兄さまと既成事実を作ってくださいませんか? そうすればわたしは慌てる必要がなくなります」

『まあ、そのようなはしたないこと私にはとても』

「桜さん?」

 

 喧嘩売ってるのかこの女。

 

『冗談です。ですが、四条の直系である柊也様では香の意味にすぐ気づいてしまわれるでしょう。それに、こちらが罠を仕掛けたという物証が残ってしまうのはうまくありません』

「では、ひばりと協力して強引に押し倒してしまえばいかがです? あの子でしたら愛人でも納得するでしょうし」

『……なるほど?』

 

 桜はわりと本気で検討するように、頬に手を当てて思案していた。まあ結局は「まだそこまで慌てなくて良い」ということでお流れになったが。

 おそらく、二学期にはまた波乱が起こることだろう。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 俺の予想は当たった。それも二学期が始まった当日、始業式の日には大きな波乱が巻き起こった。

 最初のイベントはみゆちゃんと一緒に車を降りて校門をくぐった後のことだ。

 俺たちは「おはようございます」という、淡々とした声に呼び止められた。

 振り返った俺は、表情に乏しい端正な美貌と、俺よりも小柄でありながら『俺を上回るバストサイズ』に正面から向き合う。

 

「おはようございます、都築先輩」

「お、おはようございます、生徒会長」

 

 みゆちゃんが若干気後れしながら挨拶した通り、うちの白ブレザーを完膚なきまでに着こなしたこの美少女は都築(つづき)真希奈(まきな)、この学校の生徒会長である。

 すなわち、一学期後半の時点で「俺と一矢を生徒会に入れようと画策していた」人物ということになる。

 

 ただし──その時点での生徒会長はもっと地味な人物だった。

 

 前の生徒会長は正直あまり印象に残っていない。つまり、その時点では本筋に大きく関わってこないはずの人物だった。改変が起こったのは俺たちが車に乗っている最中、今からほんの少し前だ。

 これはまたぶち込んできたな……?

 俺より小柄(ほんの2、3センチだが)なのにサイズで俺より上ってことは、カップサイズで言うとひとつ上でもおかしくない。そもそも俺でも3桁の大台なのに、それより上って。

 こんな人がいたなら球技大会とかでもっと注目されてるだろ! いや、改変で注目されてたことになったけど!

 

 あからさまなヒロインキャラに警戒する俺だが、幸いと言っていいものか、都築先輩の表情から敵意は感じられなかった。というかポーカーフェイスすぎてなにを考えているのかわからないのだけれど。

 ともあれ先輩はずい、と、俺に向かって一歩進み出てきて。

 俺たちが至近で向かい合うと先に胸が接触しそうになる……って、それはともかく。

 

「二学期には生徒会役員選挙があります。生徒会長まで、すべての役職が一年生から立候補可能です。ぜひ生徒会への参加をご検討ください。もちろん、選挙以前からの『お手伝い』も歓迎しております」

「ありがとうございます。あらためて検討させていただきます」

 

 こくり、と、無表情のまま頷いた彼女は「それでは」と一礼して歩いていく。その姿を多くの生徒が見つめており、現生徒会長が学校の名物となっていることを強く教えてくれる。

 

「これはまた、強敵だね」

 

 と、クロの言う通り、都築先輩は一矢に対してもぐいぐい攻めていくことだろう。男はえてしてこういうタイプに弱い。

 そして、波乱はこれだけではなく。

 

「あのね、私たちのクラスに転校生が来たんだよ! すっごく可愛い女の子で、しかもボクっ子!」

「しかもその人、兄さんにいきなり抱きついたんです……!」

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