「そのお話、詳しく聞かせていただいても?」
努めて平静を装い尋ねたものの、多少苛立ちが漏れていたかもしれない。
巨乳生徒会長だけでは飽き足らず、主人公のクラスにあざといボクっ子転校生だと……? どこまで事態をかき回す気だ、と、思わずにはいられなかった。
だからか、一矢は和やかなはずの昼食時でありながら若干引いた様子で、
「……まあ、俺もあれは正直困ったな」
と、こぼした。
「
「ショートヘアの可愛い子だったよね」
「少しボーイッシュだけど、男の子には見えなかったよね」
「うん、まあ。明るくして親しみやすそうな感じで、男子からも好評っぽかったんだけど……席に移動する時につまづいたみたいで、俺のところに倒れてきたんだ」
それ、ほんとにつまづいたのか……? と疑問に思うと、遥と結弦が「だよね!?」「ですよね!?」と目だけで訴えてきた。
「兄さん、胸を押し付けられて鼻の下伸ばしてたよね」
「なっ……!? 違うって。いきなり抱きつかれたらどきどきしちゃうのは仕方ないだろ!」
それはそうだ。だから、あまり少年を悪く言うのも違うのだが……なんというか、女子がこういうとき「ふーん、そうなんだ? ふーん……?」となるのも理屈ではないのでなかなか抑えがたい。
「友崎さん、そのあとカズくんに顔を近づけてくんくん匂いを嗅いだの。それで──」
「『キミ、いい匂いがするね。ボクの好みかも』」
「……藤間くん、サークルクラッシャー、という言葉はご存じですか?」
オタサーの姫とかでもいい。遠慮もなにもなしに異性と距離を近づけるため、周囲の人間関係を崩壊させるタイプの女のことだ。
遠回しな「そいつヤバいよ」という指摘に、心や優しい少年は「いや、うん」と頬をかき。
「俺もちょっと戸惑ったけどさ。会ったばかりの子をそこまで警戒するのも気が引けるんだよな」
「そんなこと言ってるから悪い人に付け込まれるんだよカズくん!」
「落ち着いてください遥、その剣幕でまくしたてられては藤間くんが困ってしまいます」
こういう時、男と女では「可愛い女の子からアプローチされた」と「宣戦布告を受けた」で全然状況認識が違う。本人が戸惑いを持ってくれているだけで上出来だ。
なお、悪い人に付け込まれたのはお前だろ、というツッコミはさすがにその場の誰もしなかった。
「ですが、本当に気をつけてください。藤間くんを篭絡するために送り込まれた人員、という可能性もあります」
「篭絡って、俺はただの高校生なんだけど」
「藤間くん、そこはきちんと自覚してください。藤間くんも結弦さんも、もはや普通の高校生は無理があります。あなたの血を狙っている者は確実にいますよ」
うちの家とか。
「……そうか、そうだよな。親父たちは相変わらず帰って来ないけど」
息を吐き、拳をぐっと握る一矢。その身に流れる藤間の血と力を思い、その意味をあらためて感じたのだろう。
「わかった、気をつけるよ。なにかあったらみんなに相談する」
「はい。どうかお願いします。わたしたちも藤間くんのことが心配ですから」
その後、学内の情報屋こと烏丸さんからも話を聞いたところ、一矢たちから聞いたのとほぼ同じ情報が得られた。
「強敵登場だねー? どうする、四条さん?」
にやにや笑う彼女は、本当に楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
それから数日、生徒会長および転校生の攻勢は強まるばかりだった。
生徒会長──都築先輩のほうはまだいい。クラスどころか学年も違うのでそう大きくは動けない。せいぜい一日一回接触してきては毎回、生徒会への勧誘をしてくるくらい。
友崎沙希はもっと直接的だ。顔を合わせるたびに一矢や声をかけ、肩を叩いたり、身体が軽く触れ合うくらい接近したり。また、隙あらばくんくんと匂いを嗅いで嬉しそうな表情を浮かべる。
他の男子相手にも気さくなところはあるものの、彼らには一線を引いており、あからさまに気のある素振りを見せているのは一矢だけ。
そんな噂が、烏丸さん以外の生徒からも入ってきた。
俺も姿を見かけたが、沙希は確かにボーイッシュ、ただし胸は結弦よりも大きい。着やせするタイプなのか一見そこまでのサイズには見えないものの、体育が一緒の生徒によるとかなりの大きさだったとのこと。
そんな女子が男子相手に接近。女子からの沙希の評判は正直あまり良くないが、本人は気にした様子がない。
「なんなのあの子、カズくんにばっかりデレデレして!」
作戦会議も兼ねて放課後のお茶に誘えば、遥は溜まったストレスを吐き出すかのようにそう口にした。手土産のちょっとお高いケーキにさくっとフォークが入り、少女の口に運ばれる。
俺と二人で遥を挟むように座っている結弦は若干困ったような表情を浮かべているものの、遥を止めようとしないあたり意見は同じ模様。
「遥、あまりもやもやすると闇の力が溜まってしまいますよ」
冗談めかして告げると、あの件がトラウマになってるっぽい少女は「うっ」とうめいて俯いた。
「それは、嫌だけど。でも、許せないよ。いきなり転校してきて、あんなことばっかり」
「藤間くんにアプローチするのは誰にでもある権利ですし、彼があの子を選ぶのならそれは仕方ないことです」
「じゃあ、莉緒ちゃんはいいの!? 私は、嫌だよ。絶対嫌」
ぎゅう、と、クッションを抱きしめて呟く遥。
「私、カズくんを取られちゃうなら、莉緒ちゃんかユズちゃんがいい。嫌だけど、それなら納得できるもん。でも、あの子は嫌」
寝てる一矢のベッドに入ったり、校内で抱きついたり。遥も似たようなことはやっているわけだけれど……幼馴染という免罪符がない、どころか、知り合ったばかりの少女が行うのは確かに印象が違う。
「そうですね。最終的に藤間くんがどうするかは藤間くんが決めることだとしても、わたしたちにできることはしておくべきかもしれません」
俺が頷くと、結弦が首を傾げて、
「でも、どうするんですか? あの子と同じことをしようとしても……兄さんは兄さんですし」
「せめて、ライバルの動向くらいは把握しておきましょう。具体的には使い魔を作るんです」
「使い魔って、魔女が使うやつ?」
魔女、と口にした遥は妙に嫌そうな顔をする。
「使い魔でなければ式神、マスコットですね。小動物かなにかの姿で、主人以外には見えない機能を持たせます。藤間くんの動向すべてを監視するのはさすがに申し訳ないので、ライバルの接触だけを報告してもらうようにしましょう」
「でも、そんなことできるかな?」
「できますよ。式神は四条の技にもありますし、遥は小さい頃にやっていたではありませんか。ほら、鳥のマスコットを」
告げると、彼女はあっと声を上げて笑った。
「そっか、ぴーちゃん!」
本人曰く、いつの間にかいなくなっていたらしいその子が、あらためて復活することになった。