「やあ、久しぶりだねフェニックス。ボクのこと、もう一度呼んでくれて嬉しいよ」
ふわふわした赤い羽毛を持つ、小さな鳥。フォルムはなんとなく丸っこくてぬいぐるみ感がある。
「ぴーちゃん、久しぶり! でも、ちょっと雰囲気変わった?」
「ボクはキミのマスコットだからね。キミの成長とともに変化もするさ」
「そっか、でもまた会えて嬉しい!」
前はあまり話す機会のなかった彼? 彼女? を俺はしげしげと眺めて納得する。
「ぴーちゃんというのはフェニックスのPから来ていたんですね。つまりこの子は不死鳥の雛だと」
「え、私そんなこと考えたことなかった」
「キティの言う通りだよ、フェニックス。キミが知らないのはちょっとどうかと思うけど」
「あれはまだ小学二年生の時でしたからね」
英語の勉強を始めていたみゆちゃんやエリカでさえ、フェニックスの頭文字をFだと思っていたかもしれない。
「可愛い……。私、ペットに憧れがあったんです。こういう子なら家でも飼えるかも」
「式神にはある程度の知性がありますから、日中家を留守にしても大丈夫だと思いますよ」
食事やトイレはそもそもいらない設定にもできるし、普通の病気にはかからない。
「じゃあ、私もチャレンジしてみます!」
意気込みを胸に式神作成に挑戦した結弦。光を纏って部屋の床に誕生したそれは、
「ひっ、蛇!?」
「竜ではないでしょうか。結弦さんの属性を考えると、そうなるかもとは思っていました」
雷は五行でいうと木、四神にあてはめると青竜になる。
青いヘビ──に見えるその子はその通りだとでも言いたげにこくこくと頷く。よく見るとその顔はちょっと竜っぽい。
さっき悲鳴を上げた遥がおそるおそる顔を近づけて、
「この子はお喋りしないのかな?」
「そうみたい。でも、可愛いよ」
「か、可愛いかな……?」
遥はトカゲの類があまり得意ではないのか引き気味、一方、結弦はすりすりと身をすり寄せてくる青竜を嬉しそうに撫でている。
「結弦さん、その子に名前をつけてあげませんか?」
「そうですね。ええと、遥姉さんのマスコットがぴーちゃんだから、この子はしーちゃんとかせーちゃんとか?」
「遥の独特なセンスに合わせなくてもいいんですよ」
「む、莉緒ちゃんそれどういう意味!?」
でもわかりやすいからと、結弦は青竜の名前を「アオ」に決めた。
「莉緒ちゃんはどんな子にするの?」
「わたしの式神はおそらく猫で決まりでしょうね」
予想通り、生まれてきた式神は猫、しなやかな身体と白い毛並みを持った女の子だった。機能を絞ったため、この子も喋る能力はない。
「名前はなににしましょうか。白い子ですからブランシュとか……」
「莉緒、こいつの名前は考えるまでもないだろう?」
思案する俺を意外な(?)者が制止してきた。
「こいつはシロだ。なんで当たり前のようにボクより凝った名前をつけようとしているのかな?」
「だって、お前は勝手にやってきたけど、この子は俺が願って生まれたんだし」
「キミ、あのれいかちゃんとやらの件でボクに借りがあったね? あれを返してもらおうか」
「そんなに根に持ってたのか名前の件……?」
というわけで、二匹目のマスコットは白猫のシロに決定。
なお、偵察ならクロに頼めば、というのは却下である。こいつは毎日甲斐甲斐しく俺のために偵察してくれるほど性格が良くない。
「この子たちに頼めば、こっそり生徒会長たちを見張れるんだよね?」
「ええ。せっかくですから手分けしてライバルを偵察しましょう」
「賛成です!」
相談の結果、遥は友崎沙希を、結弦は生徒会長──都築先輩に式神をつけることになった。
俺はひとまず一矢を追わせておき、他にライバル候補がいたらそっちに切り替えるということで遥たちに了承してもらう。
風紀委員長とかもいるのでまるきり嘘ではないものの、本当のところは他に監視しておきたい対象がいるので自由に動けるようにしておきたかった。
そうして、監視を始めた結果──。
◇ ◇ ◇
『莉緒ちゃん大変! ぴーちゃんが気づかれちゃった!』
式神を作った翌日。
グループチャットにそんなメッセージが入ったのは昼休みの終わりのことだった。
急遽、放課後に合流した俺は遥から詳しい話を聞く。
「あのね。今日、カズくんが会長と一緒に生徒会室に行ったの。詳しい話も聞かずに断るのも悪いからって」
本当に律儀な少年である。しかし、自分から密室で二人きりになろうとするとは。
「さっそくぴーちゃんに追っかけてもらったんだけど……そしたら、生徒会室に着いた途端、ぴーちゃんの隠れているほうに迷わず歩いてきて、捕まえようとしてきて」
「認識阻害はちゃんと機能していたんですよね?」
「うん。他の人たちはぜんぜん気づいてなかったし」
「あの子たちの認識阻害は完璧ではありませんから、ある程度以上の異能者ならば気づけますけれど……」
迷わず捕まえにくるとは、素性を隠す気がないのか。
どうしたものかと考えていると、結弦の部屋のドアがノックされて。
「ちょうど良かった、四条さんも一緒か。遥、昼休みの件で話がある」
「う」
これは怒られるパターンか? 監視をけしかけた身としては少々申し訳ない。
「藤間くん、式神を用いた監視はわたしの発案です。プライベートを丸裸にするつもりはありませんでしたが、礼を失した行いでした。申し訳ありません」
「大丈夫。四条さんたちが『敵』を警戒したのはわかってる。まあ、あんまり品が良くないのは確かだけど……話しておきたかったのは、都築先輩の事なんだ」
「都築先輩の?」
「ああ」
頷いた彼は、結弦の差し出したクッションを受け取って座った。兄妹なので部屋に来たこともあるのだろう、すごく自然な動作だった。
「驚かないで聞いて欲しい。……先輩は、遥のぴーちゃんを捕まえようとした後、俺にこう言ったんだ。『私には各種センサーが内臓されているので、通常の偽装工作は意味を成しません』って」
「カズくん、それって……」
「ああ。都築先輩は人間じゃない。すごく人間そっくりに作られた──ロボットなんだ」
魔法に異能に、今度はSFかよ!?
脳内で思いっきりツッコミを入れつつ、俺は「なるほど」と口にした。
「ならば、生物用の認識阻害が効かないのも当然ですね。透明化も併用していますが、それでも温度感知や超音波探査などは誤魔化せません」
「いえ、あの、ロボットって……。ううん、兄さんを疑うわけじゃないけど、本当なの?」
「ああ。俺もびっくりしたけど、身体に充電用の穴があるのを見せられたら信じるしかなかった」
USB Type-Cを想像してから、俺は「さすがに専用の規格だろ」と思い直した。
「都築先輩の表情が乏しかったのはそういう理由だったんですね」
「生徒会長がすごいスタイルしてるのも、ロボットだからだったんだ……」
「ああ。ただ、先輩はみんなにこのことを隠しててさ。俺だからって教えてくれたから、他の人には言わないで欲し──」
「ね、カズくん? その穴ってどこにあったの?」
「え」
硬直し、ゆっくりと視線をそらす一矢。やましいものを感じた俺は「藤間くん?」と尋ねる。
少年は「お、俺が無理やり見たんじゃないんだ」と言い訳しつつ、
「……お尻の上あたり」
都築真希奈、恐るべし。