「確かに、私はエクスマキナ……よりわかりやすい言葉で表現するならば『ロボット』です」
昼休み、他に誰もいない生徒会室にて。
生徒会長こと
部屋には都築先輩謹製の情報遮断フィールドが張られている。名前は違うものの、異能者が用いる認識阻害の結界と機能はさほど変わらない模様。
「疑うわけではないのですけれど、証拠を見せていただいても?」
「もちろんです。見ていただいたほうが話が早いでしょうから」
立ち上がった都築先輩は、ブレザーのボタンを淡々と外していく。
ここからの展開を予想した一矢が目を逸らす中、さらにブラウスのボタンも外され──生徒会長は俺たちに背を向けた。
着衣がめくりあげられれば、背中、お尻のすぐ上あたりの位置にプラグ用の穴があるのが見えた。……USB端子だこれ。
ちなみに肌に継ぎ目のようなものは見えず、質感はすべすべかつ柔らかそう。
胸もパッドなどではなく、人間のそれとほぼ変わらないと思われる膨らみが直接胸部から生えていた。
「あ、ありがとうございます、もう十分です」
結弦のおずおずとした言葉にも先輩は動じず頷いて、着衣を直していく。
「このくらいのことでしたらお安い御用です。同性ですし、私にとって肌を晒すことはあまり羞恥に値しません」
「だから、カズくんにも裸を見せたんですか?」
「ええ。……と言っても、私も一般的な社会常識は持ち合わせています。藤間君に肌を晒したのは、彼が特別だからです」
「っ」
なにかと異性から好意を寄せられることの多い少年はぴくっと身を震わせた。
「先輩、それは、どういう……?」
「昼休みはあまり長くはありませんから、話しながらお昼をいただきましょう。みなさんも、どうぞ遠慮なく」
言った都築先輩も小さなお弁当箱を開ける。女子らしい、彩を意識した内容だ。美味しそうである。
「食品を分解してエネルギーに変える機能もありますので、みなさんに交じって食事を摂ることもできます」
これだと人間と見分けがつかない。強いて言えば巨乳美少女が過ぎることだが、それを言うと俺もロボットにされかねないし。
「さて、藤間君を特別視する理由でしたね。それは、彼が『特異点』だからです」
「特異点……?」
「私は創造主より、特異点の調査を行う役目を与えられています。ですので、私は特異点である藤間君を隅々まで調べつくしたい。
生徒会に勧誘したのは、彼が優秀であることも理由ですが……第一に、彼と二人きりになるためなのです」
「隅々まで……って、カズくんをバラバラにするとか……!?」
遥の発想が怖い。が、相手がメカ娘だとやりかねない。
「まさか。解剖など行ってはその後の調査・観察が続行不可能になるでしょう?」
「よかった。じゃあ、兄さんに危険はないんですね?」
都築先輩は無表情のまま「お約束いたします」と請け負ってくれた。
「どうか、みなさんからも藤間君に頼んでいただけないでしょうか。私はただ、藤間君を二十四時間傍に置き、彼に関するあらゆる事項を記録していきたいだけなのです」
言葉の前半までは「そういう事情なら協力もできるかもなー」とのんきに考えていた俺は、後半にさしかかったところで疑問符を浮かべた。二十四時間、あらゆる事項を記録……?
「あの、先輩。その場合、俺の恋愛とか、結婚とか、人生みたいなのはどうなるんでしょう……?」
「安心してください。生活はすべて私がサポートいたします。私は戸籍上も、肉体機能上も女性ですので、あなたを十分に楽しませて差し上げられるかと」
ぜんっぜん安心できない。
「それ、結局カズくんと結婚したいってことじゃないですか! そんなの絶対だめです! ……それは、まあ、カズくんが生徒会長さんがいいって言うなら仕方ないけど」
「大丈夫だ、遥。俺も都築先輩のお世話になる気はない」
「本当、兄さん? 生徒会長さんはすごく綺麗な人だし、男の子にとってはいいお話かもだけど……」
「いや、先輩に全部世話してもうって、それ要するにヒモだろ」
ヒモというか、もはや飼われてるというか……うん。
「すみませんが、生徒会にも入れません。俺にも俺のやりたい事があるんです。諦めてください、先輩」
「そうですか」
諦めてくれるか……? と、多少の期待を抱いた直後、都築先輩が立ち上がった。
「それは『了承していただけないなら実力行使する』と申し上げても同じでしょうか?」
「っ、みんな、伏せろっ!」
持ち上げられる右腕。五本の指のそれぞれに小さな穴が開いたかと思うと、そこから圧縮された空気の弾丸が放たれる。
一矢の声もあって回避行動を取っていた俺たちは無事に難を逃れたものの、さっきまで和やかだった食卓には複数の穴が開いた。
空気弾。
実弾のように装弾数がネックとならないうえ、質量攻撃であることに変わりはない。ただの空気を放っているため弾が証拠として残ることもない。
「藤間君、あまり動くと危ないですよ。あなたを痛めつけるのは本意ではありません」
「先輩、どうしてそこまでするんですか!」
俺と遥は変身し、俺は一矢の、遥は自分用の装備を形成する。
いつもなら刀なり木刀なりを生み出すところだが──俺は防御優先ということで、大ぶりの盾を少年に手渡した。頑丈なそれは空気弾の第二陣をしっかりと弾く。
「創造主の命令は絶対ですので」
「あなたを生み出したのは誰なのですか、教えてください!」
今度は俺が尋ねた。結弦が、人間でも死なないだろう程度の雷を放つも、都築先輩の外装に当たって弾かれてしまう。銃口にクリーンヒットでもすれば内部に浸透できるかもだが、まだそこまでの命中精度はない。
「残念ですが、答える権限は与えられておりません」
さすがロボ娘、融通がきかない。
跳躍した俺は天井を蹴って先輩に迫るも──彼女の目はしっかりとこちらを追っていた。持ち上げられた左腕が蹴りを受け止め、こちらの身体には重い手ごたえ。体重も人と変わらないはずなのに、これは、内部材質の強靭さから来るものか。
受け止められた足をそのまま掴まれてぶん投げられる。背中から壁に激突し、一瞬息が詰まった。
「莉緒ちゃん!? このっ、いい加減にしてよっ!」
「話に聞く魔法ですか。さすがにそれは防御フィールドを展開させていただきます」
遥が怒ったように魔力弾を連発するも、不可視の防壁が先輩を守った。
お返しとばかりに右手と、同じく指先に穴を開けられた左手から空気弾が放たれ、これは一矢の盾がガード。しかし、その盾を支え続けるのもそこそこの負担だ。
「この人、すごく強い……!?」
結弦の悲鳴。
実際、この前の大ダコと違って小回りがきくうえに隙がない。おまけに知性も人間並かそれ以上だ。……さすが、黒幕が俺たちに対抗させるために生み出した刺客。
「諦めて藤間君をこちらに渡してください。そうすれば、あなた方に危害は加えません」
「そんなこと、できるわけがないでしょう!?」
この際だ、俺は特典を操作して新たな能力を獲得する。
なにもない空中に蹴りを見舞えば──「っ!?」珍しく慌てたように不可視の防壁を展開、先輩は同じく不可視の一撃を防御した。
「なんですか、今のは。エネルギーそのものを飛ばしたのではありませんね? ……蹴りを繰り出した場所から離れたとことに、直接威力が出現した?」
その通り。
「わたしの魔法少女名は、モノクローム・キティ。猫は気まぐれ、そして、モノクロームとは白と黒の世界。わたしは異能も、魔法も、それ以外の能力もすべてわたしの色に染めて、気まぐれに使い分けることができるのです」
つまり、今用いたのは『超能力』。科学めいたオカルトには、科学めいたオカルトで対抗する。
俺が読者ならきっと「無茶苦茶言ってんなこいつ」とツッコミを入れるが。
「あなたのセンサーでこれも対応できますか、都築真希奈」