蹴りに、拳撃。
言ってしまえばそれだけのものだが、身体強化を乗せ、さらにその発生源を超能力でずらしてやれば『見えない打撃』が完成する。
単に飛ばしているわけではないので、例えば都築先輩の正面から蹴ったのに背後に打撃が発生する、なんていうこともできる。
どうやら向こうも、攻撃が発生した瞬間に察知して防ぐことはできるようだけれど、それには相当な集中を要する。
「くっ、厄介な──」
「先輩、攻撃が止まってきてるよ!」
「もう止まってください!」
空気弾が散発的になってきたのを察して、遥と結弦が攻勢を強めた。
俺たちの攻撃全てに対応しようとすると、都築先輩はどんどん手一杯になっていく。その間に、一矢はなにやら、そのへんに転がっている椅子に触れて──足をへし折った!
なんでいきなり生徒会の備品を破壊し始めたのかと思ったら、やっぱり長物が欲しかったらしい。盾を捨て、足を両手で構える。
「そんな棒でなにができると──」
「いや、十分だ。これがあれば……っ!」
急速に、研ぎ澄まされていく力。昔の剣豪もの少年マンガに出てくる有名な技のような構えから、椅子の足と共に霊力が突き出されて。
「──なるほど。これが特異点の力、ということですか」
都築先輩の左肩へと大きく、穴を穿った。
◇ ◇ ◇
「申し訳ありませんでした、みなさん。危害を加えようとしたこと、心よりお詫び申し上げます」
「いえ、まあ、わかってくれたならそれはいいんですが……。肩、大丈夫ですか?」
「ご心配なく。修復機能も備わっていますし、予備のパーツもありますので、家に帰ればどうにでもなります」
相手がメカで良かったというか、肩に穴は開いているものの血どころかオイルすらも漏れていない。本人が平然としているのもあって痛々しさはだいぶ軽減されている。
「えっと、私たちもやりすぎちゃってごめんなさい。でも、もうあんなことはしない……ですよね?」
「はい。お約束します」
真顔で答える彼女だが、いつもその顔なのでいまいち本気度が良くわからない。
「都築先輩。どうして退く気になってくださったのですか? 藤間くん──特異点を調べることがあなたの使命、なのでしょう?」
と、先輩は俺をじっと見返してこう答えた。
「それは、特異点が二つあることに気づいたからです」
「え」
「四条莉緒さん。以前から疑ってはいましたが、どうやら、あなたもまた特異点のようです。先ほどの力はその証明。であれば、藤間君の専有が唯一の道ではないことになります」
「それは……」
特異点として扱われるのは、俺が「システムの存在を理解している」からということか? だとすれば、先輩がわりとあっさり引き下がったのは黒幕の計算外とかではなく、最初から、そちらが目的だったのか?
ヒロインの中で例外的に、黒幕である自分と同じ土俵に入る存在。それを確定させるためだったとすれば──。
「つきましては私と結婚しましょう、莉緒さん」
「女同士では結婚できませんよ!?」
俺が言った直後、世界改変が起こり、日本における同性婚がつい先日可決されたことになった。遥にきょとんとした顔で「莉緒ちゃん、知らないの?」と言われてしまう。
俺たちの会話を遠くから覗いている黒幕、この野郎。
「というわけで問題はありません。ひとまず婚約ということで構いませんので、私のものになってください」
「いえ、わたしには好きな人もいますし、現状で婚約もしていますから!」
「それは残念です」
なおも真顔で言った都築先輩は「では、莉緒さんを寝取るしかありませんね」と言ってくる。エロい作品でもないとそうそう聞かない単語を当然のように口にしやがって……。
「どうやら藤間くんには色仕掛けがあまり有効ではない様子。であれば、莉緒さんのほうが与しやすいと判断しました」
「あ、ちょっとわかるかも。莉緒ちゃんって女の子同士でも大丈夫なのかなってたまに思うんだよね」
「遥、話がややこしくなるので黙っててもらえますか!?」
「というか、四条さんが先輩に口説かれるんじゃ俺的にあんまり話が変わらないんだが」
「兄さん?」
「……カズくん?」
「あ」
しまった、とでも言いたげに口をつぐむ一矢。しかし、今のはさすがに遥たちも聞き逃せない。あれじゃ好きな人を自白したようなものだ。
「……ふむ。なるほど、そういうことですか。ならば、寝取りではなくこう提案するべきですね」
ロボ娘はロボ娘でまたなにか思いついたらしく、
「藤間くん。愛人で構いませんので私も傍に置いてください」
無事な右腕で巨乳を寄せ上げながらの一言。ぎょっとして息を詰まらせる一矢に、幼馴染と妹が悲鳴を上げて。
「ずるい! そういうのありなら私だって立候補したい!」
「兄さん、私だけのけものにしたりしないよね?」
「え、いや、そもそも俺はOKしてないっていうか、なんで二人ともそっちに加勢するんだよ!?」
ああもうめちゃくちゃだよ!
……なお、荒れた生徒会室に関しては都築先輩が「猿が窓から侵入して暴れた結果」だと学校側に説明してくれ、生徒会は備品の交換や壁・床の修理が終わるまでの間、別の部屋を使うということで事なきを得たようである。
◇ ◇ ◇
とりあえず、都築先輩はこちら側への攻撃を控えてくれることになった。
代わりになんかエロゲキャラっぽいムーブを次々繰り出してはくるものの、一応味方ということで考えていいと思われる。
特異点どうこうに関しては、彼女がどういう意図で言っているのかなんとか確かめたいところ。主人公クラスの世界干渉能力を持つ、という意味なら従兄も特異点に数えられるかもしれない。
……一回二人を会わせてみて、もし柊也にも興味を持ってくれるようなら、都築先輩をそちらにけしかけてしまってもいいかもしれない。
えっちなことにノリノリの巨乳美少女なんて普通に考えれば役得だし、子供を作る能力がないなら桜が正妻、先輩が愛人ということにもできる。
などということを頭の片隅で考えながら迎えた放課後、このところ遥たちに構ってばかりだったので、みゆちゃん含むクラスメートと談笑してから帰ることにした。
引っ込み思案なみゆちゃんもだんだんクラスに馴染んできて、女子だけでの日常会話くらいならこなせるようになっている。
共学女子というと高確率で話題に恋バナが混じるのが難点だが、
「そういえば、四条さんたちってあれどうなの? 男同士とか女同士でも結婚できるようになったやつ」
「 」
ああ、そうか、あの改変のせいでこういうところにまで変化が出るのか。剛速球すぎてみゆちゃんなんか硬直しちゃってるし。
でもまあ、そうだな。
「わたしは好きな人がいますので、特になにかが変わるわけではないのですが……そうですね、子供は養子をもらうという手段もありますし、良いお相手ならば同性同士も良いものだと思います」
「え」
意外、というふうに呟いたのは、さっきまで硬直していたはずのみゆちゃん。
「莉緒さん。それは、本当ですか?」
「え? ええ、もちろんです。男性でなければ、という偏見はありませんよ。……まあ、家の者の反対をどうするか、という問題はありますが」
「そっか、そうなんだ……」
なにやら納得しているけれど、どうしたのだろう。男が苦手な彼女的には同性婚も選択肢に入るだろうから、背中を押されたような感じなのだろうか──と。
「その話、ボクも興味あるな。もっと聞かせてよ」
いつの間にか、教室の入り口から入ってきていた女子生徒がそんなふうに声をかけてきた。見た目はややボーイッシュなのに、印象としてはどこまでも女の子をしている不思議な少女。
転校生、友崎沙希は意味深な笑みを浮かべて俺を見つめ、
「ね? 四条──莉緒ちゃん?」