沙希にはいったん帰ってもらって、夜にみんなを集めることにした。
放課後はみゆちゃんと過ごすと決めていたので、意地でもそれを貫きたかったからだ。といっても、雛瀬さんに送ってもらう間、おしゃべりするくらいしかできなかったけれど。
彼女には幸い特に後遺症もなく元気だったのがなによりの救いだ。
というわけで。
一矢たちに集まってもらったのは四条の家だ。
前にもやったように客間に案内して、お茶と簡単なお菓子を出す。
ちなみに夜なので遥は難しいかと思ったけれど……ご家族が寝てから文字通り飛んできてくれた。
「お集まりいただいたのは他でもありません。わたしたちが遭遇してきたいくつもの事件、その裏に潜む黒幕についてです」
単刀直入な言葉に一同は息を呑み。
「それはいいんだけどさ。友崎さんは本当に……なにもしないんだよな?」
「もちろん。そこはちゃんと誓ったから安心していいよ。でも……一矢が望んでくれるなら、すっごく気持ちいいこと、してあげる」
「待ってください。藤間一矢の身柄を望んでいるのはあなただけではありません。私にも彼を誘惑する権利があります」
「あはは、生身の身体もないお人形がボクに勝てるわけないじゃない」
「どうでしょうか。この身体だからこそ、生身ではできない行為もあれこれ可能になりますし、私には技術もインストールされておりますので」
一矢の発言を皮切りに新入り二名が喧嘩を始めた。
「お二人とも、静粛にお願いします。これは、ともすればわたしたち以上に、あなたたちに関わる問題なのですから」
一喝してやると黙ったのでひとまずよしとして。
「あの、莉緒ちゃん? 確認しておきたいんだけど、その黒幕っていうの、本当にいるの? マンガとかドラマみたいで実感がないっていうか……」
「はい。少なくとも、都築先輩を生み出した何者かが存在することは確かです。であれば、その者が他の件にも関わっている可能性は大いにあるかと」
「そうですね。創造主が存在すること自体は、否定するようにインプットされていません」
あからさまに一矢を狙う二名のうち一名がそんな事情なわけなので、
「……ボクも『誰かに作られた生き物』かもしれないっていうのは、十分あり得るわけかぁ」
「ひどい話だな。作られた存在って言ったって、都築先輩も友崎さんも生きてるんだろ? そいつは神様にでもなったつもりなのか」
「それとも、本当に神様だったり……は、しないんですか?」
「おそらくそれはない、と、今の段階では考えています。その人物は、単に黒幕を気取って世界を動かしているだけの、ただの人間です」
なんでもありな世界だけに断言できないのが困りものだ。
「うーん……。その黒幕が先輩たちを作ったなら、どうして自分の言うことに絶対従うようにしておかなかったのかな?」
「その方が面白いと考えたか、あるいは単にできなかったのではないでしょうか。昨今はAIの暴走などという話も耳にします。予想外の動きをしないプログラムというのはそれだけ難しいのでしょう」
実際のところはポイントが足りなかった可能性もある。絶対服従にするとかなりポイントがかさむので、普通は強い忠誠心を持たせるとか使命を与えるとかで代用するはずだ。
雛瀬さんたちだって俺が主として相応しくなくなれば普通に離反するはずだし。
「それで、どうやってそいつを特定するの? ボクはその人のことを知らないし、そっちの先輩は言えないんでしょ?」
「ものすごく強引な手段ですが、方法はあります。このことは完全に部外秘、家のごく限られた主要人物以外には口外しないでいただきたいのですけれど」
俺はそこで一度言葉を切って、それから続けた。
「我らが四条家には、世界の記録に繋がる道があるのです」
◇ ◇ ◇
世界の記録。つまりアカシックレコード。
そこには世界のすべてが記されており、また、その中には「変更履歴」も含まれている。
ある日突然生まれた存在であれば、その記録を確かめればはっきりするというわけだ。
そしてそのアカシックレコードへの道が屋敷の敷地内にある。
四条本家がここに居を構え続けているのはそれを守るためでもあるのだ。
──と、いうのはもちろん、俺が新たに作った設定である。
一族の許可がなければ入れない。入っても資格のない者が触れれば即死。資格者は血族の女性のうちごく一部に限られており、資格者であっても閲覧すればするほど肉体と精神に多大な負荷がかかっていく。
そこまでしたうえで、得られる情報はアカシックレコードの「天文学的数字」分の1程度。
などと、あれこれ限定することで、ポイントによる世界改変を知覚可能な状態に変換したのだ。なお、それでもけっこう痛い出費となった。
ちなみに今までやらなかったのは単に思いつかなかったのもあるが、都築先輩が黒幕の存在を裏付けてくれなければみんなに信じてもらえないからだ。
俺たちへの度重なる襲撃を受け、祖父からも許可が出たので、みんなを連れてそこに向かう。
ちなみに道中、一矢たちは目隠し、護衛についてきた雛瀬さんたちも道の途中までしか行く権利を持っていない。
「ゆっくり進んでくださいね。そう、子供の頃にやった電車ごっこのように」
「莉緒ちゃんも電車ごっこなんてやったことあるの?」
「わたしにも幼稚園児時代はありましたからね。そういったお遊戯もやりましたよ」
案内するのが俺一人なので数珠つなぎになるしかなかった。
「なあ、でも、大丈夫なのか? その資格者がどうこうっていうのは」
「はい。わたしには、世界の記録に触れる『巫女』の能力がありますので」
祖父が娘──つまり俺の母に反抗されたことを大いに後悔していた理由、そしてその娘である俺に過剰に執着した理由。それは、四条の血を濃く受け継ぐ女にのみ『巫女』の素質が現れるからだったのだ!
はい、後付け設定ですね。
「着きました」
「な、長かったぁ……歩き始めてから一時間くらい経ってない?」
「途中、迷路のようなところも通りましたので。あ、ここではぐれたら最悪、死ぬまで迷い続けることになりますよ」
「怖すぎだろこの屋敷!?」
道中は省略、ということでたどり着いたその場所には、一言で形容するのが難しい『知識の結晶』があった。
一矢たちには負荷を軽減する専用の眼鏡をつけてもらい──そのうえで見てもらった感想は「見ているだけで頭が痛くなってくる不思議な水晶』だった。
「では、世界の記録から情報を取り出します。……取り出す情報は『都築先輩と友崎さんが生まれた日時』それから『生み出した人物』で良いですね?」
「はい」
「う、うん」
淡々と答える都築先輩、緊張した様子の沙希。
「なあ、大丈夫なんだよな? 資格があっても、負担がすごいんだろ?」
「ご心配なく。こんなことで死ぬつもりはありません。まあ、わたしの能力は母ほどではありませんので、失敗するかもしれませんけれど」
ぐっ、と、一矢が唇を噛み、そんな少年を見て遥と結弦がなにかを悟ったような表情をする。
「絶対に、無茶はしないでくれ。俺は、君をこんなところで失いたくない」
「ありがとうございます。……無茶をしなければどうにもなりませんので、はい、とは申し上げられませんけれど。絶対に、一線は越えません」
そうして、俺はアカシックレコードに触れた。
途端、脳に激痛。母ほどの能力はないとは言ったものの、転生者であることを加味すると、世界改変の事実を認識可能なぶん、負荷は極端に抑えられる。だというのに、インデックスを追っていくだけでこの負担。
目眩、吐き気、その他さまざまな症状が襲う中、目的のデータのみにアクセス。全身に寒気が襲うのを感じながら、情報を紙の形に実体化させる。
「四条さん!」
終了した途端に崩れ落ちた俺は一矢に抱き留められ、なんとかその紙を渡した。
「これを……。この状態であれば、みなさんが見ても大丈夫です」
そこに記されていたのは、今からほんの数日前の日時。そして、先輩と沙希を生み出した人物の名は。
──烏丸理古。