なんとか目的達成したはいいものの、帰り道はかなり大変だった。
なにしろ俺は立ち上がる気力もないくらい疲弊していて。
遥の魔法で体力を分けてもらって(あんまりやると今度は遥が危ない)もなお、意識を保ったまま道を指示するのでやっとの有様。
誰かに抱えてもらわないと移動もできなかったので、
「私が運びましょうか? なにしろ人間ではありませんので、体力も筋力も余裕があります」
「いや、俺がやる」
都築先輩の申し出をきっぱり断った一矢が俺を抱き上げて運んでくれた。
いわゆるお姫様抱っこの体勢である。
幸い、途中まで進めば雛瀬さんたちが待機していてくれたので、そこからはバトンタッチすることができて。
「莉緒様!? このような状態になるまでご無理をなされたのですか!?」
「ごめんなさい。でも、問題ないわ。生命に支障をきたすような状態ではないもの」
「そういう問題ではございません! すぐにベッドへお運びいたします!」
雛瀬さんとひばりの二人がかり、可能な限りの速度で屋敷まで帰還。
一緒にダッシュさせられた一矢たちは、人間ができていることに文句ひとつ言わなかった。
自室のベッドに寝かされた俺はそこで体力を使い果たし──そのまま就寝。
起きたら翌日の午後三時過ぎだった。
「……本当に心配いたしました。それに、あれから色々な出来事がありまして。お耳に入れておいたほうがいいことも多数」
「そうね。でも、聞くのは少し後にしてちょうだい。先に藤間くんたちと話をさせて欲しいの」
「かしこまりました。当事者である彼らからもお話があるかもしれませんし、その方が良いかもしれませんね」
部屋に食事を持ってきてもらったり、入浴と身支度をしたりでさらに時間を使い、客間の一矢たちのところに顔を出せたのは午後五時近く。
彼らにはお客様用に常備されている新品の服(!)が提供された模様。なお、都築先輩と遥のサイズは良いのがなかったので俺用の予備を使用。もちろんこれに文句はない。
「四条さん! もう大丈夫なのか!?」
「はい、お話ができる程度には回復しました。……申し訳ありません、ほぼまるまる一日、お待たせしてしまいました。学校も休ませてしまって……」
「そんなの、別に構わない。それより、俺は、君があんな状態になったのが……!」
俺の手を握って必死に訴えてくる少年。よく見れば、彼は顔や手などあちこちに傷を作っており、絆創膏などで応急処置をしている。
「藤間くん、なにかあったのですか? 治療でしたら家の者でも、魔法でも……」
「いや、いいんだ。これは俺が負わないといけない傷だから」
どういうことかと視線を向ければ、遥が、どこか大人びた表情で微笑んで、
「莉緒ちゃんのお従兄さん──柊也さんと喧嘩したんだよ」
「喧嘩って、あれは立ち合いとか、意地の張り合いとか、そういうやつで」
「喧嘩だよ! 兄さんも柊也さんも、最後は殴り合いだったじゃない!」
「うん、あれはなかなか見ごたえあったね。男の喧嘩って感じで」
「とても興味深いものを感じました。四条柊也、彼もまた特異点を保有しているのではないでしょうか」
あ、やっぱり従兄は先輩的にアリなのか。って、そういう話をしている場合ではなく。
「従兄(あに)に怒られたのですか? わたしが無茶をしたのはわたしの責任なのに……」
「違うんだ。……いや、それもあるけど。男同士の意地の張り合いだから、四条さんは気にしないで欲しい」
その返答で、俺はおおよそなにがあったかを察した。雛瀬さんたちからも概要は聞けるだろうし、今は「わかりました」と頷く。
そこでようやく沙希が本題に入り、
「それより! あの紙のこと、詳しく説明してよ! 烏丸って、あの子だよね? あの噂好きの」
「と、言われましても、わたしもそこに記されている以上のことはなにも。むしろ、都築先輩のほうが詳しいのでは?」
「私からはすでに返答しました。イエスとは言えませんがノーではありません、と」
それがギリギリ可能な回答だったというわけだ。しかしそれはイエスと言っているに等しい。
「……本当に、あの子が黒幕なの? あの子、莉緒ちゃんとも仲が良かったよね?」
「そうですね。つまり、逆を言えば『わたしの動向をある程度把握しており』『それを怪しまれることがない』人物ということです」
ここでみんなが黙った。
「これから、どうすればいいんでしょう……? 烏丸さんに『あなたが黒幕なんでしょう?』って問い詰めれば解決するんでしょうか?」
「難しいのではないでしょうか。あの方に『その通りだ』と答える義務はありません。一般的に見れば荒唐無稽な話でもあります」
「おまけに、ボスを倒してはい解決、ってわけにもいかないもんね。ゲームじゃないんだから」
そう、これはゲームじゃない。相手が人間である以上、単に魔王を討伐するのとはわけが違う。
いやまあ、めちゃくちゃ強引に家の力でなんとかできなくもないけども。
せめて向こうから襲ってきてくれるとか、化け物に変身してくれるくらいでないと後味が悪すぎる。
システム的に相手を消す、ということであれば、ポイントを削ってモブに堕とす、という手はあるが。これは実現に問題が──。
「あはは、困ってるみたいだね? なら、あたしが助けてあげよっか?」
そんなとき、客間のドアを勝手に開けて入ってきた人物がいた。
今風の、かつ、やや遊んでる雰囲気のある、いわばギャルっぽいファッション。重たさのない笑顔が相手の警戒心を緩ませ、巧みな話術でいろんなグループの懐に潜り込んではいろいろな情報を得ていく。
学園の事情通こと、
「烏丸、理古……っ!! なんで、ここにっ!?」
立ち上がった沙希が身構える。が、烏丸さんはなにも気負うことなく、
「なんでって、普通に入ってきただけだよ? あたしが『こんにちは』って挨拶したらみんな普通に返してくれたし」
「なに、それ。……もしかして、そういう魔法」
「あー、どっちかっていうと異能のほうが近いかな。スキルとかでもいいけど。『懐柔の魔眼』。あたしの目を見た人間はあたしのことを身内だと思い込むの。まあ──」
にやりと、彼女は笑って、
「あたしを敵だと思ってるうえに、『ヒロインと主人公である』みんなにはほとんど効いてないみたいだけど」
決定的に「自分は普通の人間ではありません」と訴えるような発言を繰り出した。