『で? バグが今ので終わりだと思った?』
「こちらの戦力が今ので終わりだと思いましたか?」
さらに湧いて出てくるバグを、いくつかの大きな生き物が迎え撃った。
巨大化した白猫、青ヘビ、そして、見事に不死鳥へと成長した赤い鳥。彼らは白虎、青竜、朱雀に相当する力を持ち──つまり、ある種の神だ。
そんな戦いをよそに、柊也は柊也で動き出す。
無造作なようでいて、あまりにも洗練された剣捌き。それを受け止めたのは、一矢が手にした刀だ。
「へえ。木刀ではなく真剣か。しかも、その刀は──」
剣神ティールの太刀筋を、ことごとく弾く美麗な刃。
ほんのりと輝いて見えるその刀は、超業物であると同時に、ものすごい霊力の込められた霊刀でもある。
「ああ。これは四条の前当主から借りたんだ」
「やはり、『四条の刀』か」
よく見れば、受けとめ切れていないはずの斬撃までもが「見えない斬撃」によって受け止められている。四条家に伝わる至宝は、その名の通り、一度振るえば四つの軌跡を残す。
『仔細、あいわかった。……ならば、お前達の勝利のため、可能な限りの支援を行おう』
『よろしいのですか、お爺様?』
『人でなくなった化け物なぞに好きにされてたまるものか。……それに、我らに直接できる事はそうないだろうからな』
祖父を含めた者たちは設定上の存在であって、俺がポイントを払って得た恩恵以上は与えてくれない。それ以上に、今回は主人公やヒロインでなければ戦いに参加さえできない。戦いの前に倒してしまおうにも、居場所をつかむ糸口さえない。
だから、祖父にできるのは協力を約束することくらいだったのだ。
ただしそれは無駄ではない。四条家が全面協力してくれるということは、かの家にできること──というか『できそうなこと』ならこじつけて引っ張ってこられる。ポイント割引で、だ。
結果がこの、神器レベルの一振りであり、歴史上最高レベルの式神使いとなった桜だ。
一矢も半年の修行で藤間の血を覚醒させ、かなりのレベルに到達している。
その斬撃が四倍になれば、いかに凄腕でも受け止めきれないはずなのだが──柊也は、そのことごとくを弾いていく。
「藤間の至宝。振るわれているところを見るのは僕も初めてだ。でも、だからどうした」
神の剣は、単純な計算などというものを凌駕している。互角どころか、徐々に一矢の太刀筋を見極めて押し返しつつある。
しかも、
「忘れてはいないだろうね? そもそも刃を、肉体に沿わせる必要さえないことを」
大きく『後退して』空振りする刀。それは距離の壁を超えて一矢の肉体を切り裂くことができる──が。
「それが斬撃である以上、刀で防げないわけがない」
一矢もまた、異能の剣を習得している。魔法や超能力さえも理屈を無視して斬る力。『渡る斬撃』もまた例外ではなく、空振りに空振りを返しただけで無効化した。
柊也は舌打ちして何度か繰りかえすも、結果は同じ。
ならばと、従兄が選択したのは突き。線が点になる分、防御は難しくなるものの──その程度で防御を誤る一矢ではない。
はた目から見るとなにやってるのかわからないのが難点だが、つまり、並の人間では彼らの戦いにはついていけないということ。
と、そんな時、校舎のほうから走ってくる人物がひとり。
「兄さん! 四条さん! 大丈夫ですか!」
駆け寄ってくる結弦は、兄と柊也の戦いを邪魔しないように俺に近づいてきて──。
「ちっ」
俺が有無を言わさず蹴りを繰り出したのを見て、飛びのいてそれをかわした。
「なんでわかったの、四条さん?」
烏丸さんの姿に変わっていく彼女を見ながら、俺は答えた。
「仲間の位置はすべて、お互いに把握できるようになっています。結弦さんの位置は大きく動いていませんので、ここに現れた結弦さんは偽物ということです」
邪神ロキは変装の名人でもある。他人に化けることなど造作もない。警戒しておいて正解だった。
「へーえ。なるほど、ねっ!」
「なるほど、ここに現れたあなたは分身、あるいは影のようなものですか」
自分から向かってくるからなにかと思えば、蹴り飛ばされた拍子に霧のように分解されて消滅してしまった。
『あーもう面倒臭いな。さっさと死んどいてよどうせ死ぬんだからさあ』
またしてもどこかから響いた声。バグはもう打ち止めのようだが、シロたちも疲労困憊といった様子でもう戦えそうにない。そんな中、ものすごい轟音と共に校舎の上に現れたのは──。
「な……っ!?」
校舎よりも明らかに大きな大蛇と、そこまでではないにせよ巨大な狼。
幻獣ミドガルズオルムと、魔狼フェンリルか。ロキの子供とされる化け物を、設定に乗じて生み出したわけだ。
これは、さすがに驚いた。
この空間では、現実世界の事物に干渉できない。よって校舎も破壊不能であり、ミドガルズオルムたちの巨体を乗せても建物が崩れることはない。
『あはは! どう!? バグなんか前座! そっちの使い魔はもう使えないみたいだけど、これはどうするのかな!?』
「そうですね。頑張って倒す、以外に回答はないかと」
ミドガルズオルムに向けて、ばりばりと雷を纏い飛び上がる姿がひとつ。
本物の結弦だ。こちらもまた自らの力に覚醒し、特典によってその方向性を自ら決定づけたことにより、雷神トールの神格を獲得している。
その手には籠手ヤールングレイプルと大槌ミョルニル、その身には力帯メギンギョルズ。サイズ差はものすごいものの、力で言えば決して敵に負けてはいない。
フェンリルに向かってくれたのは、フリフリの衣装を着た魔法少女だ。
彼女がちらりとこちらに視線を向けてくるのに頷き返し、
「そうですね。やりましょう、遥」
俺もまた魔法少女──モノクローム・キティに変身する。お互いの位置がわかる異能の副作用で、離れていてもまるで隣にいるように遥を感じる。離れた場所から、お互いに手のひらを合わせるようにして。
混ざり合った互いの魔力が相乗効果を生み、一気に輝きを迸らせる。
レゾナンスとか、ユニゾンとか、名前はなんでもいいけれど、かつて幼かった頃にラスボス戦でやった、最終フォームだ。
不死鳥の名を冠する魔法少女として、遥は炎の属性を獲得している。同じくシロのおかげで水の属性を得た俺と力を交わらせた今の彼女は、超高音と極低温、矛盾するふたつの力を両立させたまま同時に振るうことが可能。
結果的に単なるビームにしか見えないその力は、触れたものすべてを消滅させる、究極なる浄化の力。強力すぎて使いどころが限られるが、ここならば問題ない。
上のほうで神話級の戦いが、すぐ近くで剣と剣の頂上決戦が繰り広げられる中、地上にも、わらわらと影の戦士が現れ始めた。
シャドウ・アインヘリアルとでも言ったところか──ひとりひとりが十分な力を持っているであろうそいつらには、都築先輩と沙希、それから雛瀬さんとひばりが向かっていく。
機械の神の神格を得た都築先輩はドリルだろうがレーザーだろうがバリアだろうがなんでもありのメカと化しており、サキュバスとしての力を圧倒的に進化させた沙希は空間そのものを魅了し味方につける。
雛瀬さんとひばりにも四条家の宝である装備が貸与されており、彼女たちもまた、火遁水遁分身なんでもありの忍者と化している。
彼女たちが雑魚(雑魚じゃない)を食い止めてくれている間に、
「やっぱりいましたか──ヘル」
ゆらり、と、姿を現した少女と対峙する。その半身は腐っており、もう半分は生きている。ロキの子供は三人。その最後の一人、冥界の女王ヘル。
存在するだけで死を振りまく彼女の相手は、どうやら俺だ。