「なにそれ。……なにそれ!? なんでそんな面倒なことするわけ!? 消せばいいじゃん! 敵なんだからさぁ!」
烏丸さんは、消えていく俺たちの宝石を見ながら激昂した。
「っていうか、あんたたちだってあたしとそんなに違わないじゃん! 強い力で好き放題しておいて、あたしにだけ罰ゲームって、そんなのおかしいんじゃない!?」
勝ったら俺を消すつもりだった奴が良く言う……が。
「確かに、わたしたちも罰を受けるべきです。だから、特典システムは終わらせます。過ぎた力も返還して、二度と使えないようにします」
「言っとくけど、自棄を起こしても無駄だからな。お前は『懸命に生きる』ために、暴れたり騒いだりはできなくなる」
「だから、あたしを消せよ! 消して! 消してくださいお願いします!」
ついには泣き叫んで懇願までしてきたものの──彼女は、俺たちより一足先に現実世界に帰還していく。それに少し遅れて、なんだかものすごく申し訳なさそうな顔の柊也が異空間から転送されていった。
従兄も、黒幕についたのは良くなかったものの、別にそれで誰かを殺したわけじゃない。殺そうとはしたけれど、一矢が許すのなら、後は当人がこれからどうするか。きっと桜が手綱を握ってくれるだろう。
さあ、これで、ようやく黒幕はいなくなった。
「後は、みなさんの願いだけです。どんな願いごとをしても、わたしは恨みません」
俺と一矢、桜の分の願いはあらかじめ話し合って決めていたけれど、他のメンバーの分は自由としていた。
だから、
「特に、遥。あなたには、わたしを恨む権利があります。この世界をリセットして子供時代からやり直しても、いいんですよ」
一人だけシステムを利用していい思いをしていたんだから当然だ。
けれど、遥は首を振った。
「そんなことしないよ。それをしたら、私の今までもぜんぶ無駄になっちゃう。だから、私は願いをこう使う」
遥が願ったのは、
「日本を『複数の人と結婚できる国』にしてください」
「え。あ。あああ、ありですか、それ!?」
逆にこう、正攻法というかチートというかな方法だったので、俺はつい叫んでしまった。逆に遥はふふん、といった表情で。
「これで、カズくんが一人にこだわる必要はなくなるよね?」
「すごい、遥姉さん。じゃあ、私にもまだチャンスが……」
「ふむ。藤間一矢と四条莉緒の間に挟まれば、私としては万々歳ですね」
「じゃ、じゃあ、私も柊也様のお嫁さんになれるかも……?」
ついでにひばりまで恩恵を受けている。いや、しかし、これで日本は同性婚可能かつ重婚可能な国になっちゃったぞ。すごいな?
「うーん、なんかもう願いごとするまでもなくなってきちゃったかも。ねえ、藤間君? ボクたちの能力ってどこまで残るわけ?」
「え? ええっと、魔法少女とか霊力とかいちおう使えるけど、まあ、チンピラ叩きのめせるくらいの力しかなくなる感じで考えてたな。だから、友崎さんも一応サキュバスのままなんじゃないか?」
「じゃあ余計に願うことない……あ、じゃあ『ボク以外のサキュバスもいる世界にして』!」
社会にサキュバスまで潜んでる世界になってしまった。まあ、たまーにめちゃくちゃえっちな女の子がいる、くらいの話か。
「ユズちゃん、お父さんとお母さんを生き返らせてもいいんだよ?」
「ううん。遥姉さんと同じだよ。それをしちゃったら、兄さんや姉さんたちとの思い出も消えちゃうかもしれないし、私は今の私じゃなくなっちゃう。だから……『みんなが健康でいられますように』」
みんなが世界中の人だとすると、まあ、うっすら長生きできるようになるくらいの効果だろうけれど、これが一番やさしくて、世界のためになる願いかもしれない。
「では、私も、『メイドロボ実用化』を願っておきましょうか」
そうか、都築先輩は特にヤバい機能は持ってないロボ娘になるのか。他の願いと合わせると日本の出生率がやばそうな気もする。
そうして、最後に残ったのは雛瀬さん。
みんなの視線が集まる中、彼女はふっと笑って、
「私には、特別な願いはありません。ただ、そうですね──『莉緒様が、これからは自由に過ごされますように』」
すべての宝石が消え、とうとう異空間自体が閉じていく。
現実世界に戻ると、学園祭はもう始まっていた。
◇ ◇ ◇
「でも、良かったのか? 学園祭放り出して、俺の部屋に来たいなんて」
「はい。特進コースの生徒は本日、出席の義務はありませんし。学園祭には明日の一般開放日もありますので」
「はは。普通科は出欠取られるんだけど、まあいいか」
願いによって、俺たちから馬鹿みたいな強さは失われた。世界の記録なんてものは四条家に存在しないし、ヤバい刀もない。世界の命運をかけた戦いがあったことを記憶しているのは、もう当事者だった俺たちだけだ。
それでもちょっとだけ常人より特別な俺たちは、こっそり学園祭を抜け出して、藤間家まで歩いた。
「藤間くんの部屋に来るのは初めてですね」
「そりゃ、女友達ならともかく、女の子が男の部屋に来るのはな。それに、特に面白いものもないぞ」
「そんなことありませんよ。ここには、ありのままの藤間くんがありますから」
彼のにおいがする、って言うと変態っぽいか。
いかにも男の部屋って感じの殺風景さが懐かしい。訓練用の木刀があったり、ところどころに彼っぽさが見え隠れするのに微笑みつつ──俺は、期待していた『もの』を見つけた。
小さめのガラス瓶に入れられた、リボン。
手に取ると、彼は「ああ、それは」と苦笑した。
「小さい頃、人からもらったんだ。なんか、捨てるに捨てられなくてさ。お守りみたいになってた」
「ええ、よく覚えています」
「え?」
「あの時、わたしは、なにかあなたに渡せるものがないか必死に探したんです。それで、わたしのことを覚えていて欲しいって、服についていたリボンを渡しました」
微笑んで言えば、彼は、ぽかんとした表情。
「まさか」
「嘘じゃありませんよ。藤間くんは、たしかご両親に連れられて、レストランでカツカレーが食べたかったって言っていましたよね。わたしは、オムライスを食べたよって自慢しました」
「……まさか」
同じまさかでも、意味が違っている。
「バロンのことも話したんですけど、さすがに忘れちゃってたみたいですね。あれからだいぶ経ちましたから、無理もありませんけれど」
「本当に、君が、あの時の女の子なのか?」
「はい。ちゃんと名乗りましたし、わたしは、ちゃんと覚えていましたよ。藤間、一矢くん」
「っ」
表情を歪ませた少年は「……そうか」と呟くように言って、それから、笑った。
「俺たちは、前に二回も会ってたんだな。だったら、この気持ちはぜんぜん、突然なんかじゃない」
早ければもう今頃、桜と柊也が婚約宣言をしているはずで。祖父も俺の味方についてくれているのだから、もうなにも障害はない。
「好きだ。俺と付き合ってくれ、四条さん」
「はい。喜んでお受け致します、藤間くん」
こうして、俺と彼は恋人同士になった。
まあ、そこで良い雰囲気のまま、顔を近づけてキスをしようとしたら、窓がこんこんとノックされて、魔法少女がにっこり微笑んでいたけれど。
……くそ、また魔法少女か。