「ええと。もうお分かりかと思いますが、藤間くんとお付き合いすることになりました」
「うん。おめでとう、莉緒ちゃん! 式には私も参加させてね!」
「……遥? それは、お祝いに来てくださるっていう意味ですよね?」
「? 私も花嫁にしてくださいって意味だよ?」
窓から一矢の部屋に入ってきた遥は、制服姿に戻りながらきょとんとして言う。
少年は幼馴染の発言に「ほら、これだよ」と頭を抱えた。
「お前、前にも増して暴走してないか?」
「暴走じゃないよ! それは、前だったらカズくんも『一人を選ばないと』ってなったかもしれないけど、何人と結婚してもいいんだから、ぜんぜん問題ないでしょ?」
「いや、世間体とかいろいろあるだろ!」
「どうでしょう。合法化されたのですから、社会もそれを前提に構築されているかもしれません」
「四条さんはどっちの味方なんだ」
「それはもちろん、わたしとしてはわたし一人を愛して欲しいですけれど」
俺が、生涯一人を愛し続けるのは俺個人の問題であって、人にも同じことを押し付けるべきだとは思わない。
「最終的には藤間くんの判断にお任せいたします。わたしは、あなたがきちんとわたしを愛してくだされば構いません」
「よし。ねえカズくん? 私なら莉緒ちゃんがしてくれないようなこともしてあげるよ? 莉緒ちゃんはお嬢様だから、あんまり変なことはできないもんね?」
「残念ながら、わたしは四条の後継ぎ候補ではなくなりましたので実質、一般人です」
早い方がいいだろうと『藤間一矢さんとの交際を始めました。後日、あらためてご挨拶いたします』とスマホで送信しておく。
まあ、それがなくても柊也と桜の結婚は決まっているので、後継者は向こうの夫婦だ。
「近々実家に帰ろうと思いますので、これからは気軽に遊びに来ていただいて構いませんよ」
「あれ? 莉緒ちゃんの実家ってあのお屋敷じゃないんだっけ?」
「前に少しだけお話ししませんでしたか? あれは母の実家であって、わたしの実家は普通のマンションです」
「そんなこと言ってオートロック付きの広いマンションなんでしょ?」
「そうですね」
「そうですね!? 莉緒ちゃんもだんだん私に対してひどくなってない!?」
「だって、遥がわたしと藤間くんの時間を邪魔するんですもの」
頬を膨らませて抗議すれば、少女はうっと言葉を詰まらせた。
「だって。あんまり一人だけ先に進まれちゃったら、私たちが割って入る隙間がなくなっちゃうかもだし」
「なくなっていいんですよ?」
「ひどい! 法律的には問題ないのに!」
「あー。その、四条さんもなかなかいい性格してるな?」
「はい。わたし、けっこう嫉妬深い女なんですよ?」
法的に問題なくなった今世ではあまりとやかくは言わないが、前世で浮気した女たちのことはひどいとも裏切り者だとも思っている。
それにさっきも言った通り、本音を言えば自分だけを見て欲しい。
「ところで、藤間くん。恋人同士になったのですから、名前で呼んでいただけませんか?」
「え」
硬直した一矢を見て、遥が「ずるい」と叫んだ。
「私も呼んでもらってないのに」
「お前はとっくに下の名前呼びだろ!」
「そうだけど、私も彼女として呼ばれたい!」
「無茶を言うな無茶を」
幼馴染をなだめた一矢は俺に向き直って「その、いいのか?」と尋ねてきた。
「もちろんです。むしろ、呼んで欲しいです。……みなさんに、わたしがあなたのものだと伝わるように」
「っ。そんなこと言われたら、我慢できなくなりそうだ」
「ふふっ。わたしは構いませんけれど」
「さすがに人前でえっちなこと始めたら大きな声出されても仕方ないと思う」
一理ある。
「はあ。わかった、それは我慢する。また今度、二人きりでな。……莉緒」
「はい、一矢くん」
俺は別に初めてでもないので、口にするのは簡単だった。恋人同士として言っていると思うとさすがにじゃっかん恥ずかしいが。
だいぶ胸にきたらしい少年はしばらく悶えるような仕草をした後、真面目な顔で遥に、
「なあ。五分くらい二人きりにしてくれないか」
「わかった。このことユズちゃんにも伝えてくるね?」
「待て。そんなことされたらあいつの食事当番の日、俺の分だけ抜きになるだろ」
なお、伝えられた結弦当人は「兄さんの分だけ白米とお味噌汁だけにします」と言っていたので、一矢の予想よりだいぶ優しかった。
◇ ◇ ◇
「よくやった、莉緒。桜との連携も見事である。四条家の後継はそこの不肖の孫が務めるゆえ、お前は藤間一矢をこのままつなぎ止め、藤間と四条の血を引く子を儲けるがよい」
「かしこまりました、お祖父さま」
祖父との約束は完遂、あるいは完勝と言っていいだろう。
不肖の孫扱いされた柊也はややふて腐れた様子ではあるものの、特に文句を言うこともなく座っている。その隣には、正式に「次期当主の婚約者」となった桜がにこにこしながら座っている。
晴れて従兄との婚約は解消、祖父から柊也には、桜以外の妻や愛人を持っても良い、むしろ血族からなら好きなだけ取れとのお言葉があった。
「莉緒。これからはこの家に囚われず、好きに生きるがいい。むろん、どこにいてもお前は私の孫。いつでも甘えて良いからな」
「ありがとうございます、お祖父さま。……母にもそう言っていただければ、もっと仲が良いままでいられたでしょうに」
「む。それは、娘と孫ではどうしてもな」
くすくすと笑っていると、従兄からなにか言いたそうな視線。
「莉緒。やっぱり、家に帰るのかい?」
「はい。週末には帰ると言っておきながら、結局帰れない日も多くありましたので。これからは両親にたっぷりと甘え、弟を甘やかそうかと」
「むう。あの子はなかなかこの家に来てくれぬからな。莉緒、四条の家は良いところだと言い含めてくれ」
「まあ。また母に嫌われますよ?」
祖父からは、近いうちに一矢を連れてくるように言われた。やっぱり交際の段階でも挨拶はいるらしい。実家にも連れていきたいので、一矢は二度も「恋人の家に挨拶に行く」ミッションをこなすことになりそうだ。
「莉緒、雛瀬とひばりはどうする?」
「雛瀬はあちらの部屋もまだそのままですし、このまま世話をして欲しいです。ひばりは、本人の希望次第ですが桜様につかせたほうが良いのでは、と」
「まあ。そうしていただけるととても助かります。気心が知れておりますし、『なにかと』便利ですので」
えっちなことする時に監視兼協力者にしたりとかな。
「この男は周りを女で固めた方が真面目に励むだろう。この際だ、後二、三人ほど見繕っておくか」
うん、頑張れ、お従兄さま。