「ほんと困ってるんだよね。どうしたらいいと思う?」
「休みの日にあたしを呼び出したと思ったら、あんた自慢話がしたかったの?」
とあるハンバーガーショップにて。
向かいの席に座った親友その2──エリカは、バーガーを手にしたまま呆れ顔になった。
ちなみに店はJK御用達の最大手チェーンではなく、オニオンリングやライスバーガーなどが有名な高級志向のところだ。
「みゆがいないのはそういうこと」
「こんな相談、みゆちゃんにはできないもん」
「そりゃそうよね。彼氏とえっちできなくて困ってます、なんて」
「むう」
からかいモードのエリカだが、だいぶ声は抑えてくれている。
「それにしてもようやく付き合い始めたと思ったら、彼氏がライバルに囲まれてキスもろくにできないなんてね。そんなに格好良いんだ、その彼氏」
「もちろん。わたしにとっては世界で一番だよ?」
「だから惚気でしょこれ。……ふーん、そう。でも、そんなに格好いいならあたしとも付き合ってもらおうかしら」
「これ以上ライバルが増えるのは困るんだけど」
親友であっても場合によっては排除しなければならない。
「だって女子校だとなかなか出会いないし。ね、そいつって将来稼げそうなの?」
「それはわからないよ。一矢くんの進路次第だし」
特典による強化は大部分なくなったけれど、それでもプロアスリートになれるくらいは身体能力がある。あと、強い化け物とかはめっきり減ってるけど、それでも退魔師はけっこう儲かる。
でも、危険の大きな仕事を敢えて勧めたいとは思わないし、本人もこれからやりたいことが見つかるかもしれない。
「あーあ。あたしも彼氏欲しいなー。彼女でもいいけど」
「念のために言うけど、わたしは間に合ってるからね」
「えー。お嬢様のヒモになれば将来安泰なのに」
「ちゃんとやりたいことあるくせに」
「まあね」
小さい頃から一つの夢を追っている彼女はふふん、とドヤ顔をして。
「でもまあ、確かにそろそろ焦る時期よね」
「うん。もうすぐクリスマスだからね」
すでに11月の下旬。一か月先には恋人たちにとって最大のイベントとも言える聖夜が待っている。口さがない者には「性夜」なんて呼ばれているその夜である。
「クリスマスなんてなにがどうなるかぜんぜんわからないよ。みんなで彼を押し倒しに来てもおかしくないくらい」
「責任感の強い男ならやっちゃえば彼女になれそうだしね」
「現役お嬢様学校生の言うことじゃないよね」
「共学に移ったからって一人だけ彼氏作ってずるいわよ」
気兼ねなく話せるという意味ではきっとこれからもエリカが一番だ。
「でも、まあ、そんな大変そうならねらい目はクリスマスより前よね」
「やっぱりそう思う?」
「そりゃそうでしょ。みんなクリスマス気にしてガードが薄くなるかもだし」
「だよね。ここは彼女として一歩リードしておきたいし」
となるとやはり猶予はもう残り少ない。どうにかしてライバルたちを彼から引き離し、二人きりの時間を作らなくては。
「でもわたし、そういう恋の駆け引きみたいなのあんまり向いてないんだよね」
物語上のセオリーは前世で鑑賞した作品から摂取しているが、それで恋愛がどうなったかと言えばあのザマなわけで。
「温泉旅行を匿名でプレゼントしてみるとかどうかな」
「怪しすぎ。真っ先にお嬢様のあんたが疑われるでしょそれ。っていうか一緒に行こうって誘われるんじゃないの?」
「逆にライブかなにかに誘ってわたしだけドタキャンするとか」
「あたしなら速攻帰るわね」
「いっそのこと睡眠薬でも盛って」
「ほとんど犯罪じゃないのよ」
やっぱり、なかなかいいアイデアが出ない。
「ライバルって、一人が近所に住んでて一人は一緒に住んでるんだっけ? その二人が一番の強敵よね」
「そうだね。他のライバルは居留守とか使っちゃえばなんとかなるけど」
シチュエーションとしてはベタに彼の部屋がベストなのだが。
やっぱり俺の家に呼ぶほうがまだハードルが低いか? それなら一矢に出てきてもらえばいいわけだし。ただ、両親と弟、できればロインも不在にしてもらわないといけない。
交際を認めてくれている父も自宅でエロいこと始められるのはちょっとこう、見えないところでやって? って気分になるだろうし。
「二人が用事でわたしと彼だけ暇、っていう前提に無理があるんだよ。わたしもその子たちと友達なんだし」
「二人とも暇ってだけで怪しいわよね」
「やっぱり偽装工作をするか、外せない用事を作ってもらうしかないかあ」
「莉緒、あんたってたまに手段を選ばないわよね」
「それは、大事な時はなりふり構っていられないし」
俺は「じゃあ、あたしの時もそうだったってこと……?」とか呟いているエリカをよそに、より策略を巡らす方向性を考え始める。
偶然を装って遥たちに用事を入れさせるのは無理がある。俺が直接誘うのも怪しまれる、となれば。
◇ ◇ ◇
「他でもない莉緒さんの頼みとあらば、協力しないわけにはいきませんね」
「ありがとうございます。こんなことをお願いしてしまって申し訳ありません」
「とんでもありません。莉緒さんには柊也様との仲を取り持っていただいたのですから、今度は私が恩を返す番でしょう」
俺は恋愛において共闘できる立場にある桜に協力を依頼することにした。
「お二方、できれば残りのお二人にもなにかしらのお誘いをかければ良いのでしょう? さらに言えば、できるだけ自宅から離れた場所であるのがベスト」
「なにかいいアイデアはありますか?」
「そうですね。ホテルの温水プールにお誘いするのはいかがでしょう? 水着に着替えてしまえば着替え直さなければ家に帰れませんし、甘味で気を惹くことも可能です。莉緒さんは家の用事で送れると言えば良いでしょう」
ああ、夏に俺もみゆちゃんたちと行ったところか。
「桜さんも招待状をお持ちでしたっけ?」
「私は所持しておりませんが、先の一件のお疲れ様会ということでご招待するのはありかと。ああ、せっかくですので柊也様にも来ていただきましょうか」
「お従兄さまがいらっしゃるのであれば問題なく利用できますね」
「ええ。実のところ、最近少々太り気味でして。ダイエットをしたいと思っていたのでちょうど良いです」
「桜さんはむしろもう少し太ってもいいくらいだと思いますけど」
俺がそう言うと、桜は若干恨みがましい目をこちらに向けて、
「莉緒さんのように、大事なところに栄養が行く体質であれば良かったのですけれど」
これはこれで太って見えないように気を遣ったり大変なんだからな。
ともあれ、これでうまく誘い出せる可能性が出てきた。後は運と成り行き次第である。
次回最終回(予定)